マイト、見知らぬ山小屋に案内される
区切りが悪いので短めです。
『またね~』と手をぶんぶん振りながら満面の笑顔で見送ってくれたメナスさんと別れ、村長に事の次第を問いただすべく村へと向かう。
また……といわれても、俺はまたあの洞窟へ向かうことになるのだろうか?
クレアが生贄になるという話さえなくなれば全く用事のない場所だが……
「マイト、マイトや」
思案しながら森を歩いていると唐突に声をかけられた。
まさかこんな森の中で声をかけられるとは思わず、驚いて周りを見渡す。
すると少し離れた茂みの中から人が出てきた。
少々太り気味で女ざかりを過ぎた中年の女性……
「ミーニャおばさん!? なんでこんなところにいるんですか?」
ミーニャおばさん。
彼女は小さい頃からよくクレアと一緒に面倒を見てもらった隣に住むおばさんで、何を隠そう幼馴染のターニャのお母さんだ。
「なあに、村長にちょっとあんたを呼んでくるよう頼まれてね」
「はい?」
こちらから会いに行くつもりではあったが、なんでさっき会ったばかりの村長が俺に会いたがるんだろうか?
メナスさんの言っていたこととつながっているんだろうけど、それにしても……
「わざわざミーニャおばさんに危険な森に入ってもらってまでさっき会った俺を呼ぶ必要があるんですか?」
実際に森に入ってメナスさんに会った後だとまったくそんな感じはしないが、村では危険で立ち入り禁止の森という認識なのだ。
どう考えてもこんなところまで女性に呼びに来させるのはおかしい。
「私だけじゃないけどね。まあついてきな」
ミーニャおばさんはこちら返事を聞くことなくさっさと歩きだしてしまった。
何が何だかよくわからないが、村長のところに案内してくれるというなら丁度良いので素直についていくことにする。
てっきり村に戻るのかと思えば、森の外周部を村から離れる方向へと歩いていく。
それだけでもよくわからない上、追い打ちをかけるような状況が次々と起こる。
「異常は?」
「異常なし、予定通りで頼む」
ある程度の距離を歩くたびに、村の年寄や女性陣が隠れるように潜んでいて、何かを警戒するようなやり取りを交わしているのだ。
「いったいみんな何をしているんですか?」
気になってミーニャおばさんに尋ねてみたものの、
「村長に会えば教えてくれるよ」
この言葉ばかりで、俺の質問には何も答えてくれなかった。
ミーニャおばさんが何も答えてはくれないとはいえ、普段通りの他愛ない雑談をする空気でもないため自然と黙って森の中を歩く時間が続く。
子供のころから付き合いのあるおばさんだが、これほど一緒にいて居心地が悪いと感じたのは初めてだ。
そしてしばらく歩くと森の中で木々に隠されるように建てられた山小屋らしき建物へと辿り着いた。
「マイトを連れてきました」
「ご苦労様。入って頂戴」
山小屋の入口の前で見張るように立っていたのは村長の奥さんであるノーラ婆さんだった。
ノーラ婆さんに招かれて、山小屋の中に入るとそこには村長にナンシーちゃん、さらに数人の爺さん、婆さんに女性陣がいた。
危険といわれる森の中に山小屋があり、さらにそこにはこれだけの村人が集まっている。
付け加えて村長一家は俺と村で会ってからそれほど時間がたっていない。
つまり俺と会った後すぐここに来ていたことになる。
いったいどういうことなのやらさっぱりわからない。
「すまんのぅ、ミーニャ。そしてマイトよ、色々状況についていけていないことだろう? 説明するから座りなさい」
言われるがまま皆が車座に座っている中、俺のために空けておいてくれたのであろう村長の対面にあたる席に座る。
「さて、マイトよ? 悪魔……いや、メナス殿と話してみて色々疑問に思ったことも多かろう? 今回の件のすべてを委細もらさず説明するから聞きたいことを一つずつ言うてみい。この場はそのためにあつらえた場じゃて」
そういって俺に発言を促してくる村長。
だがそういわれても色々なことが起こりすぎて何から聞けばいいのかわからない。
おまけにいくら顔見知りばかりとはいえ、皆の視線が一斉に集まってるこの状況はつらい。
「ふむ。当たり前のことじゃが混乱しておるようじゃの? では今回の話の経緯について順に説明していこう。疑問に思ったらいつでも聞くのじゃぞ?」
俺の状態を察した村長が気を利かせて自ら口を開いてくれた。
そうして語られた話を聞いて俺は……
「そんな話信じられるわけないでしょう!」
メナスさんと話して以降、すっかり冷めていたはずの怒りが再燃した。
「妹がクレアがすべての原因だなんて……」
そんな信じられるわけがない話を聞いたのだから。