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マイト、幸せに散る?

最終話です。

お付き合い頂きありがとうございます。



「まあメナスさんと村長との約束事もわかりましたし、俺達のことはこれくらいにして……あれからこの村の方はどうなったんですか?」



 語りだすとどんどん気持ちが滅入って来るので話題を変えることにした。

 必要なことは聞けたのでもういいだろう。



「うむうむ。妹のこともあるからおぬしも気になるじゃろうしのう」



 村長も俺の話を聞いて自分が作り出した俺の状況に同情の念を覚えたのだろう。

 俺を気遣うようことのほか明るい声で応じてくれた。



「とはいえこれから言うことは少々おぬしには酷なことかもしれんが……それでも聞くか?」



 たいていのことはずけずけと言う村長がそんな前置きする……ということは相当覚悟がいる話のようだ。



「どうせ遅かれ早かれしばらく村にいれば耳に入ってくることなんですから遠慮せず話してください」



 まあ十中八九、言いづらい話というのはクレアや親父達のことだろう。

 家に帰った時から今までクレアや親父達を見ていない。



「クレア達の意外に何かあったんですか?」



「あったというか、そこからつながる話というか……まあ順番に話していくかのう」



 どうやら言い淀んでいたのはまた違った内容らしい。

 他に何かあっただろうか?



「まずクレア達じゃが……おぬしと別れてすぐにおぬしを追って村を出て行った」



 まあこれは予想の範疇である。

 しかしクレアはともかく、嫁達を放置してアホ親父と兄さんはいったい何を考えているんだろうか? ……ってあの感じだとクレアのことしか考えていないんだろうけど……



「一番近いダカールの町を目指すつもりだったようでの、片道2か月の道のりゆえ村中の食料や金を持って行きおってのぅ……その年の冬は本当に危なかった」



 あらかじめ食料を森に隠しておいてよかったわい、と言葉をつなげていつもの高笑いをあげている。



「村中の食料と金を持って行ったって……3人でそんなに必要ですか?」



 この村は他の村と交流らしい交流がない。

 強いていえば隠れ里に貢物といった形で食料を渡しているだけで、基本的に自給自足で成り立っている。

 そんな村の備蓄を3人でほとんど持って行くなどまず不可能だ。



「3人? いやいや、おぬしの家族以外にも村中のほとんどの男はすべてクレアについていったぞ? 男で残ったのはそれこそ乳飲み子と儂ら年寄りだけじゃて」



「は?」



 耳がおかしくなったのだろうか?



「もう少しは残るかと思うたが……まさか歩き始めたばかりの子供までついていくとは思わなんだ」



 いやいやいやいや……まてまてまてまて……



「お、男は? この村に残っている男は? まさか皆奥さんや子供を捨ててクレアについていったわけじゃないですよね?」



 俺は思わぬ話の内容に四つん這いで村長に詰め寄る。



「いいや? 皆嫁や子供が引き留めるのを足蹴にして喜んでクレアについていったぞ? 残っているのは儂を含めた70を超えた年寄が数人と乳飲み子が2人だけじゃな」



 それを聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。


 相当恨みがあったのだろう。

 この話題に入ったとたん周りの女性達も口々に夫や息子、恋人達に対する恨み言を漏らしだしたが全く耳に入らなった。


 なぜならようやく村長が言いにくい話題だと言っていた理由を理解したからだ。


 同時に周りが女性しかいない……という状況にも納得だ。

 今の俺の状況は非常に危ない。

 色々と絶望的な展望しか見えてこないがまだわからない。まだ希望があるはずだ。



「クレアについていった連中が帰ってくる可能性とかないんですか?」



「ないじゃろうな。何せすでに連中がこの村を立って一年半の間音沙汰なしじゃ。数が数じゃし町には犠牲を出しつつも辿り着いておるじゃろうが、おそらくおぬしが見つかろうが見つかるまいがここに戻ってくることはあるまい。ほとんど強盗のように村の食料や金を持ち逃げしていきおったのだからのう」



 ということは結局あれがクレアや親父、兄さんとの今生の別れということだろう。

 現在進行形で俺や村の女性達に迷惑かけ通しの連中のことなど最早あまり気にならない。


 今は俺の身を守るためにも希望を探そう。



「じゃあ他の村から男を招くとか……いっそ村ごともう少し他の村に近いところに引っ越した方がいいんじゃないですか?」



「おぬしも足掻くのう? 他の村からわざわざ命がけでこんな孤立した村までくる人間などおるまい。行商人はおろか国の人間すら数百年前から来ておらんのじゃぞ? そもそもこの状況を説明する人間を送ることすらできんからのう。 最早女性と年寄しかこの村にはおらんのじゃ。最寄りのダカールの町に行くことすら自殺行為に他ならん」



 どうやら万策尽きたようだ。


 それなら……



「あ~、近況も聞けましたし、レナシーの顔見せも終わったんで隠れ里に帰りますね」



 俺はそういって立ち上がろうとしたその時、とても70を過ぎた爺さんとは思えない力で両肩を押さえつけられた。



「まあそういわずゆっくりしていけ。レナシーちゃんは儂ら年寄やライラに任せてのう」



 もうどうしようと無駄だから諦めろ、村長の表情はそう語っていた。

 慌ててレナシーの方を見るとそこにレナシーはおらず、きょろきょろと周囲を探すと母さんがレナシーを連れて集会所から出ていくのが見えた。



「ゆ~っくりとしてよいぞ。隠れ里におったとき同じように。これだけのハーレムなど都に住む王侯貴族でも持っていないじゃろう。羨ましいやつじゃのう……わしがもっと若ければ代わってもらいたいぐらいじゃ、ほっほっほ」



 そういう村長の声はいつの間にか入口近くから聞こえてくる。

 どうやらレナシーを目で追っている内にいつの間にか村長は俺から離れていたらしい。



「ま、待ってくださいよ村長!」



 俺は慌てて村長を追って立ち上がる。

 しかし集会所の入り口へ向かう道は完全に女性達による肉壁で塞がれていた。


 そこで初めて彼女達と目が合った。

 その瞬間、全身に恐怖が走る。

 彼女達の俺を見る目は村にいた頃とはすっかり変わっていたのだ。

 ここ最近隠れ里の女性達から向けられる視線……つまり捕食者の視線に……


 じりじりと後ろに下がっていくと背中が何か柔らかいものにぶつかった。

 どうやらいつの間にか後ろを囲っていた女性のところまで下がってしまっていたようだ。

 そして、俺が後ろを振り返るより早くそのまま包み込まれるように抱きしめられる。


 突然の事態に驚きもがくように後ろを振り返る。


 そこにいたのは……



「マイトく~ん」



 ウーニャ義姉さんだった。

 義姉さんはそのまま俺の唇を奪い、体重を乗せて俺をうつ伏せに押し倒した。

 そのまま周りにいた他の女性達に全身を拘束される。



「ね、義姉さん。何を!?」



「何? ……ってわかってるよね?」



「いや、俺は義姉さんの義弟だよ? 兄さんがいるでしょう?」



「あの人が私に何をしてくれたっていうの? それに周りを見てみよう?」



 義姉さんに言われて周りを見る。

 最早周りは女体だらけであまり視界が効かないが言いたいことはわかった。

 俺に積極的に絡んできている女性は皆夫を持っていた女性ばかりで中には子供までいる人もいる。

 旦那が自分達をおいて村を出て行ったのに不倫も何もあったものではないのだろう。



「ふふふ。わかってもらえたみたいだね。じゃあ……」



 いただきます。

 その言葉と共に俺の悪夢はまた始まった。







 働き盛りの男手をほぼすべて失ったカフス村にはメナスさんの隠れ里と全く同じ危機に陥ったのだ。


 残された男は赤ん坊が2人。

 この子達が子供を成せるのは少なく見積もって10年後。

 当然の話だがそこまで何も手を打たなければ相当な人口減少と村の衰退は免れない。


 村全体で見なくても、男手のなくなった彼女ら残された女性達の生活はつらく苦しいものになる。


 少しでも早く自分達の生活を元の水準に戻すためにはどうすればいいのか?


 その解決策が俺と子供を作ること。


 今、俺と子供を作れば最短で10年もすれば男の働き手が戻ってくる。

 それまでは村の年寄連中が頑張るとでも言われたのだろう。

 間違いなく村長の入れ知恵だ。最早断言できる。



 その後、生涯俺は男がいなくなってしまったカフス村と羊角族の隠れ里で種馬生活を送ることとなった。


 ナンシーと結ばれたとはいえ、これならクレア達のように村を出た方がましだっただろう。


 たしかに妹のクレアによって人生を翻弄された村の人間は多かった。

 義姉さん等家庭を崩壊させられた人達からしたらクレアはまさに魔性の悪魔である。

 だがそのクレアをどうにかするために村長の計略に付き合って俺の人生は無茶苦茶になった。

 俺から見れば村長こそが悪魔のような存在である。


 今夜も女達に襲い掛かられ、彼女らの嬌声をどこか他人事のように聞きながら、俺は村長を恨むのだった。


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