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マイト、家を飛び出す

初投稿かつ処女作です。

初めての作品ゆえ勝手のわからない部分や完結を目指し過ぎて強引な展開、荒の多い場面等も見受けられるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。



 俺はマイト。


 何とか王国の北の方にあるカフス村の住人だ。

 王国の名前? 知らないね。

 俺を含めて村人はほとんど村から出ないし、みんな知らないんじゃないかな? 村長なら知ってるかもしれないけど、一農民でしかない俺は知らない。


 今年で16歳になるしがない農家の次男坊、それが俺。


 この国では、16歳になると一般的に成人として認められて、長男以外は家を出るのが習わしだ。

 家を出る、といっても村外れの家族や他の村人たちと共同で作った家に移り住むだけなので村を出るわけじゃない。


 中には村から出て、山をいくつも超えた大きな町にいく人間もいるがまずいない。たいていは途中で力尽きたり、盗賊や獣の餌食になるからだ。

 直近では近所に住んでいた一つ年上のアンディ兄さんが村を出て行った。



「俺にはこの村は小さすぎる」



 見送りに行った俺にそんな言葉を残して……


 アンディ兄さんは小さい頃からなんでも器用にこなし、頭もよく、何より男の俺から見てもカッコよかった。

 村一番の優良物件として期待され、同世代の女の子たちはこぞってアンディ兄さんと結婚することを望んでいたほどだ。


 俺の隣の家に住む幼馴染のターニャも密かに憧れていたらしく、アンディ兄ちゃんが村を出た時はこの世の終わりのような顔をしていた。

 まあ、アンディ兄ちゃんが村を出なかったとしても、容姿ほどほど、スタイルもほどほど といった十人並みレベル女の子であるターニャにはチャンスはなかっただろう。

 それほどアンディ兄さんはこの村では突出していた存在なのだ。


 せめて村長の孫のナンシーちゃんか、村一番の美人のミーシャさん。あと何といっても俺の妹のクレアぐらいのレベルじゃないと釣り合わないだろう。

 俺がそんな話をすると皆全力でその話を本人たちにはするなという。どうしてだろうか?


 まあ、アンディ兄さんのような特殊なケースを除いて、男は長男が生まれた家の畑を継ぎ、それ以外は新しい家に移り新しい畑を開墾する。女はそんな男たちと結婚して家事をしたり農業を手伝ったりする。

 これがこの村における一般的人生である。町にでるという選択肢がない以外はこの世界の標準的な村人の人生といってもいいだろう。


 これといって何かに優れているわけでもない俺もその例にもれず、家を出てから畑が形になった頃に嫁をもらって……という普通の人生を送るつもりだ。


 しかしそんな人生に待ったがかかった。



「はあ!? なんでクレアなんだよ!」



 俺は両手を机に叩きつけ、父グレンを睨みつけながら詰問する。



「仕方がないだろう……いや、恨んでくれて構わん。ただし村長をな。くじを引いたのは村長だからな。そうだ、全てあのくそ爺が悪いんじゃーーーーー!!」



 全力で村長に責任転嫁した父は情けなく机に突っ伏して泣き出す。

 いかつい顔の髭面。身体は農作業で鍛えられ筋肉質。

 そんな男の情けない姿を見ても気持ち悪いだけで、さらに怒りが増すばかりだ。



「ふざけてるのかよ、親父!? そんな大切なことをよりにもよってくじ引きなんかで決めやがったのか?」



「儂が決めたんじゃないやい! 村長が決めたんだい!」



「……終わってるな、そんな村長が村長をしているこの村」



 俺のように怒りを爆発させているようには見えないが、内心は俺と同じように腸が煮えくり返っているらしい兄、ライトが俺の横で静かに皮肉る。

 兄さんが言う通り、本当に終わっている。



「どこの家が生贄を差し出すか。そんな重要なことをなんでくじ引きで決めるんだよーー!!」



 何度聞いても信じられない話である。

 事の発端は、この村のすぐ東にある洞窟に何百年も前から住んでいると言われている一体の悪魔から始まる。


 この悪魔はたいそう危険な悪魔で、住み着いた当初は、村人から始まり、山二つ向こうの兵隊、果ては国の騎士様まで退治しようと洞窟に向かったがだれ一人として帰らなかったそうだ。


 辺境ゆえ、すぐに町や国から匙を投げられた当時の村人たちは、なんと悪魔と交渉することを選んだそうで、しかも悪魔は交渉に応じたらしい。

 その結果、数十年に一度ぐらいの頻度で悪魔はこの村に貢物を要求し、村が貢物を差し出す代わりに悪魔はこの村を襲わないという契約が結ばれたそうだ。


 まあ、こんな昔ばなしは村中のそれこそ子供でも知っているような話で、東の洞窟には近づいてはいけないというのが村の習わしだ。


 これまでも俺達普通の村人が知らない間に食料や布地など細々とした物品が納められていたようだが、今回の悪魔の要求は人間の娘……つまり生贄だったというわけだ。


 百年程前には今回のように生贄を要求されたケースもあったらしいがその当時の人間なんて誰も生きてはいない。それゆえに今回の件は衝撃的だったらしい。


 そして当たり前のことだが、どの家も自分の家から生贄を出すことを嫌がり、ああでもない、こうでもないと議論した上いつまでたっても決まらず、酒でも飲まないとやってられるかーーと村長が飲みだしたのを皮切りに大宴会に発展。

 その後、酔った村長がもうくじ引きで決めてしまえといったかと思えば、酔った他の男衆もそれは名案だと結果村長が村娘の名前の書かれたくじをひき……見事あたったのが我が家のクレアということらしい。


 そんな大事なことをくじ引きで選んだ……と言われても納得できるはずがない。

 よくもまあ、それでこの親父はおめおめと家に帰ってきたものだ。

 俺なら徹底的に抗議する……というかそんな大事なことを酒飲んで話すなよと言いたい。



「本当に信じられないことをするわよね、男達は……」



 情けない父の隣で、俺の母であるライラ母さんも呆れ果てている。



「母さん、どうにかならないの?」



 『村長が、村長がーー』と泣きわめくだけで役に立たない親父に詰問したところで無駄でしかないので矛先を母に切り替える。



「話した通りよ。どうにもならないわ」



 嘆息しながらそういう母の反応は父の様子とは正反対で非常に淡泊だ。

 もう諦め、覚悟を決めてしまったのだろうか?



「それじゃあクレアを黙って差し出せっていうのか!?」



 父にしたように今度は母に詰め寄る。たった一人の可愛い妹のクレアのためにもここは引けない。



「…………」



 普段から便りがいがある母だが、その母をもってしても最早どうにもならないらしい。

 苦い表情を浮かべ押し黙ってしまった。



「……っ、……兄さん?!」



「…………」



 俺は最後の頼みの綱、ライト兄さんに助けを求めた。

 温和で優しく、仕事もできる兄さんは普段からすごく頼りがいのある存在だ。

 今回もどうにかしてくれるかもしれない。

 だがしかし、兄さんは唇を噛み締め俺から目をそらすだけだった。


 兄さんでもダメなのか……


 さらに俺は藁にもすがる思いで兄さんの奥さんであり、クレアを後ろから抱きしめ啜り泣いているウーニャ義姉さんにも顔を向けてみたが、ずっと俯いて泣いているだけで視線すら合わなかった。



「マイトお兄ちゃん……」



 義姉さんを見た拍子に、自然と義姉が抱きしめている妹と視線が交わる。

 くりくりとした大きな瞳に涙をいっぱいに溜め、すがるような上目遣いで俺の方を見ている。


 ふわっと波うつ腰当たりまで伸びた薄茶色の髪に、後ろ髪を頭の上の方で短くちょこんと二つのショートポニーでまとめたその容姿は普段は小動物のような愛くるしさを感じさせるものなのだが、今は悲壮感で溢れている。


 俺の一つ違いのこの妹は自慢ではないが可愛い。

 兄のひいき目などではなくこの村一番の美少女だとほとんどの男が思っている。

 年寄りや女性陣には村長のところのナンシーちゃんを推す声も多いが、それでもクレアが可愛いということは間違いのない事実だ。

 

 そんな可愛い妹が普段から『お兄ちゃん大好き』と言ってまとわりついてくるのだ。

 俺も常日頃から可愛いがっている。

 可愛い妹で大事な家族が生贄にされそうになっている。


 この状況で兄である俺がすべきことは一つだ。 



「あ、ちょっと待ちなさいマイト! どこに行くつもりなの?!」



 後ろから母の静止する声が聞こえてきたが無視して俺は家を飛び出した。




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