第八節 石
「バッシャアアアア」
身体のタックルにより、ゾムビーは激しく破裂した。ゾムビーの肉片が飛び散るのを目に移しながら、逃隠はたたずむ。
(良く持ちこたえてくれたな、サケル……良く持ちこたえてくれたな、サケル……良く持ちこたえてくれたな、サケル……)
逃隠の頭に響く身体の声。
(副隊長様からお褒めの言葉ヲ……しかモ、お名前を呼んで頂けタ……)
うっとりとした様子の逃隠。
「ビッ」
腕に付いたゾムビーの肉片を振り払う身体。
「よし、終わりだ」
――数分後、先刻の場所にて。
「ずぼぉ」
身体にぬかるみから引き抜かれる主人公。
「すいません、副隊長。助かりました」
「……気にするな」
会話を交わす主人公と身体。その後ろには、恐らく身体に助けられたであろう隊員が、ぬかるみから脱出して服に着いた泥を払っている。
(ぽわぁあ)
逃隠は未だに夢心地の様子だ。ふと、自分が居た近くに浮いていた人間の手を見つめる主人公。
「あの人や、恐らくゾムビーになった隊員達は助けられなかったなぁ……」
ぼそりとつぶやく。
「……恐ろしい化け物を相手にしているんだ。受け入れがたいが、犠牲はいつか必ず出てしまう」
身体は言う。
「…………」
うつむく主人公。
「?」
と、何かに気が付く。ポケットに何かドロドロの物が入っていた。
「これは?」
「やあやあ皆の衆。何か発見したか?」
木々の奥から爆破が現れた。
「隊長! ご無事で」
身体が話し掛ける。
「? ここは南東に位置するのか? いやぁ、コンパスが途中で壊れてしまったようでな」
あっけらかんと話す爆破。
「……いえ、北東方面です。北東組の連中は、残念ながらこの有り様です」
そう言って指をさす身体。指差した先には隊員の片手がぬかるみから浮かんでいる。
「……そうか、その他は無事だったか?」
真剣な表情になる爆破。
「ハイ、南東の隊は全員無事です。隊長の方は?」
質問に答え、逆に質問を返す身体。
「それは良かった。こちらも何ともない。ただ、こっちの方へ向かう途中、やけにゾムビーが発生していたな。8体ほどだったか? 全て駆除しておいた」
「……流石です」
返ってきた爆破からの言葉に、感心する身体。
「さて、戦果報告を聞こうか?」
「ハッ!」
爆破の申し出に答える身体。
「今回、遭遇したゾムビーは5体、犠牲者は北東に向かった隊員5名。地面のぬかるんだ地形に阻まれ、苦戦を強いられました。が、……」
チラッと逃隠を見る身体。逃隠と目が合う。
「逃隠サケル隊員の活躍もあり、窮地を脱することに成功しました」
(うおおぉおおあああああああア‼‼‼)
両手を握りしめ、顔を上に向ける逃隠。有頂天である。身体の報告は続く。
「5体のうち、3体は私とツトム、隊員がそれぞれ1体ずつ倒し、残りの2体のうち1体は私と隊員で、もう1体は私とサケルで倒しました。最初ここに辿り着いたときには……」
「あの……」
報告中に、主人公が割って入る。
「何だツトム? 戦果報告中だぞ?」
注意する爆破に、遠慮しがちに返す主人公。
「すみません。でも、どうしても気になるコトがあって……さっき、この場所で偶然拾ったのですが……」
何かをゴソゴソと差し出す主人公。
「! これは……?」
――狩人ラボ、会議室。爆破、身体の他に10名程の人物が居る。
「――以上が、この前の沼地調査の報告になりますが、もう一つ話しておきたいことが……」
報告の途中で、ある話を切り出そうとする爆破。
「?」
少しざわつく会議室。
「隊員の内の一人、主人公ツトム隊員が、沼地のぬかるみから、とあるモノを発見しまして……」
「ゴソ……」
懐から何か取り出す爆破。それは紫色の宝石様なモノだった。
「なんだなんだ?」
「宝石か……?」
「そんなものがなぜ沼地に?」
再びざわつく会議室。爆破が口を開く。
「ラボの研究員に調査を依頼したところ、過去に採取した、ゾムビーの肉片と同じ成分が検出されました。」
「なんだって⁉」
「こんな宝石から?」
「……研究員はゾムビーの肉片を、凝縮させた様な物質と言っていました。ゾムビーの発生と、何かしらの関係性は無いか、今後とも調査を進めさせます」
――狩人ラボの廊下。ツカツカと爆破が歩いている。
「スマシさん!」
爆破が顔を上げる。そこには、主人公と逃隠の姿が。
「報告、お疲れ様です。どんな様子でしたか?」
主人公が質問する。
「ああ、皆、あの宝石には驚いていたよ。ゾムビー撲滅への手掛かりとなってくれればいいが……」
爆破が答える。
「まァ、あの宝石を発見できたのモ、俺の活躍があったお陰だがナ!」
自信満々の逃隠。
「ハハ、そうだな。次もよろしく頼む」
「ラジャー!」
笑顔で言う爆破に、そう返事する逃隠。
(見つけたのは僕なのに…………まぁ、いっか。サケル君は前回、すごく頑張ってくれたもんな。しばらく、いい気分にさせてあげよう)
一瞬不満げだったが、気を改める主人公。
「今日はこの後、二人はどうするんだ?」
爆破が問う。
「僕はもう帰ります。(尾坦子さんにも会ったし……)」
主人公は答えた後、少しにやける。
「俺ハ、身体副隊長ト、今後の活動について熱く語り合いまス!」
逃隠は元気よく答えた。
「ハハハ、そうか。サケルは本当に副隊長の事が好きなんだな。私の方はだな、今日の勤務がこれで終わりなんで、趣味のソロツーリングにでも出掛けるよ。そこでゾムビーにでも出くわすかもな」
(……なんて効率の良さと実益を兼ね備えた趣味なんだ……!)
爆破の言葉に驚愕する主人公。
「じゃあな」
「ハイ!」
爆破に敬礼する二人。
――夕日が傾く河川敷。
「ブロォオオオオオオオオ!」
軽快な音を鳴らしながら、一台のバイクが走っている。バイクには黒のライダースーツ姿の女が乗っていた。爆破スマシである。
(……いいものだな。バイクで走るのは。日頃の疲れがスッと飛んでいくようだ……ん?)
ふと、河原に目が行った。そこには見慣れた姿の生物が。宿敵、ゾムビーである。思わずバイクを止める。
(まさか本当に出くわすとは……あれは⁉)
爆破は何かに気付く。ゾムビーの目の前にやたら派手な姿をした男の姿があった。
「ゾ……ゾゾ――――‼」
ゾムビーが男に襲い掛かる。
「まずい! 逃げろ――‼」
爆破が叫ぶ。刹那、男がつぶやく。
「抜刀……一閃……!」
男は刀を左腰から抜く構えをし、右手で横一文字に切り抜く動作をする。
「ゾ?」
「ピシッ……ズズズ」
真っ二つに切られ、やや斜めにずれ落ちていくゾムビーの上半身。
「ドシャアアア」
ゾムビーの体は完全に崩れ落ちた。
「!」
一部始終を見た爆破は驚愕する。男の右手には光り輝く刀の様なモノがあった。
「ふう……終わり!」