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節七節 お前しかいないんだ

ぼ――っと一人、戦地にたたずむ男が一人。逃隠サケルである。


(俺は何の為にここに居るんだろウ……俺に何ができるというのだろウ……)




 迫り来るゾムビー。


(スーツは着ている、顔さえ避け切れれば……)


 身構える身体。


「ゾ……ゾ……」


 体液の射程圏内に入る。




 瞬間、




「タタタタタタタタタタ‼」




 銃弾が、ゾムビーを襲う。下半身から崩れ落ちるゾムビー。振り返る身体。アンバランスな状態、且つ片手の隊員が銃を打ち終えていた。


「私の射的能力を、舐めてもらっちゃあ困る……」


 呟く隊員。


「フッ。流石は……ウチの隊員だ」


「ベシャ‼」


 振りかざした拳で、上半身だけになったゾムビーを上から殴り潰す身体。ゾムビーを倒し、ほっと一息つく。




「うわあああああああああああああああ‼」




「!」


 悲鳴に、振り返る身体。主人公が、ぬかるみに下半身を飲まれた状態でゾムビーに襲われていた。


「ツトム!」


 叫ぶ身体。


「うわあああああああああああああああ!」


(リジェクトを打たないと! でも手を離したらぬかるみに飲まれて、死ぬ‼)


 ふと横を見る主人公。ぬかるみが少しだけ続いており、そこには人の手だけが浮いていた。動かない。主人公を寒気が襲う。


「くっ、何か! おい、銃を使え」


「ダメです、弾切れです。この体勢では補充ができません!」


 身体が隊員に指示をするも、銃器は使えない。


「ゾ……ゾ……」


 主人公に迫るゾムビー。


「こ、殺される……!」


 窮地に立たされる主人公。


「おい! 何か……誰か居ないのか⁉」


 片足をぬかるみに飲まれたまま周囲を見渡す身体。そこには、生気を失った逃隠がたたずんでいた。


「おい! サケル! ツトムを助けろ‼」


 叫ぶ身体。


「ぼ――。身体ィ――――副隊長ゥ――――?」


 生気を失った逃隠に、その声は辛うじて届く程度だった。続けて身体が叫ぶ。




「頼む! 頼れるのはお前しかいないんだ‼」




「⁉」


 その叫びは逃隠の心の奥底まで響いた。




(頼れるのはお前しかいないんだ‼ ……頼れるのはお前しかいないんだ‼ ……頼れるのはお前しかいないんだ‼)




「うおォ――――――‼」




 急に両手を広げ、叫び出す逃隠。顔には生気が漲っている。


「身体副隊長‼ この状況ォ! 私めにお任せあレ‼」


 その表情は自信に満ち溢れている。


「気を付けろ! サケル! 辺り一帯の地面はぬかるんでいて、それにはまると身動きが取れなくなるぞ!」


 身体が注意を促す。


「大丈夫でス。山の中で育った俺なラ、一目で他の地面との違いが分かりまス……ここダ!」


「ダッ」


 そう言うとしっかりとした地面に飛び移る逃隠。


「タンッ……タンッ……タンッ」


 次々と足がつける地面を飛び移り、前へ前へと進む。


「おお」


 感心する身体。


「タンッ」


 遂には主人公を襲っていたゾムビーの前までたどり着く。


「よウ、待たせたナ」


「ゾ?」


 自信に満ちた逃隠。困惑するゾムビー。


「俺ノ、ゾムビー討伐第一号になってもらうゼ! たりゃア!」


 渾身の右ストレートを喰らわす。


「パシュッ!」


 その拳は小さく、身体と比べると威力は大幅に劣る攻撃だが、ゾムビーの腹は拳ほどの穴ができるくらいに貫かれた。


「今の俺には! 副隊長から授かった、こノ! 特殊スーツがあル! 今の俺は無敵だ‼」


 叫びながら殴打を繰り返す。


「パシュッ! パシュッ! パシュッ! パシュッ!」


 穴だらけになっていくゾムビー。


「ゾ? ……ゾ? ……」


 やっとこさ上半身だけでぬかるみに飲み込まれるのを堪えている主人公。逃隠の戦いを見つめている。


「……凄い。特殊スーツの効果があるかも知れないけど、確実に、副隊長との修行の成果も出ている……」


 息を呑む主人公。


「ゾゾ!」


 ゾムビーが口に体液を含む!


「やヤ? しかシ、今の俺には特殊スーツがあル! 顔面以外なら問題無いゼ!」


 動じない逃隠。


「バシュ」


 ゾムビーが体液を吐き出す。


「首避け!」



 首避けとは、回避の術の一種で、最小限の動作で頭部への攻撃を避けるものを言う。



「サッ」


「ベシャア」


 逃隠は首を傾け、刹那で体液をかわした。体液は逃隠の後方で飛び散った。


「ゾゾォ!」


 今度は、殴りかかってくるゾムビー。


「回転避け!」



 回転避けとは、回避の術の一種で、相手の攻撃をいなすため回転しつつ、相手の後ろを取る時などに扱われるものを言う。



「トン、グルッ」


 逃隠はゾムビーの拳を、特殊スーツを着た手で軽く軌道を変えつつ、相手の攻撃の勢いを利用して回転した。更に軽く飛び、ゾムビーの背後に着地した。


「スタッ、ぐにぃ」


 着地した右足に、野生の獣のフンがあり、踏みしめてしまう。


「ハッ‼ ……誤魔化し避け!」



 誤魔化し避けとは、回避の術の一種で、道端で犬のフン等を踏みしめてしまった場合に、神速のスピードで足を蹴り上げ、靴等がフンに侵食されるのを防ぎつつ、サッカーか格闘技の練習を急にし始めたんだと相手を誤魔化す時などに扱われるものを言う。



「バッ」


 蹴り上げられた右足。


「ふわっ」


 右足に少しくっついていた獣のフンは宙に舞い、ゾムビーの目辺りに張り付いた。


「ゾ? ……ゾ? ……」


 困惑するゾムビー。


「スタッ」


 足を地面に下ろし、一息つく逃隠。


「危ないところだったぜェー」


 右足は一部、茶ばんでいた。一部始終をしっかりと見ていた主人公。


(誤魔化せてないし、ちょっとツいてるよ、サケル君)


 涙がこぼれる。


「これで前も見えなくなったロ? オラァ!」


 殴打のラッシュをゾムビーに喰らわす逃隠。


「パシュッ! パシュッ!」


「ゾ……ゾ……」



 攻撃の最中、逃隠は思う。


(クソッ……ダメージは入るガ、決定打ガ……)



 一方で、身体。


(落ち着け。飲まれた足は動かすな。もう片方の足を陸へ着けて……)


 体勢を変える身体。


(両腕で足を、引っこ抜く!)


「ズボォオオ!」


 身体はようやくぬかるみから脱出した。




(クソォ、コイツを確実に葬るにハ……)


 苦戦している逃隠。


「良く持ちこたえてくれたな、サケル」


「!」


 身体の声に、振り返る逃隠。


「副隊長ォ!」


 目が潤む。


「あとは任せろ」


「ダッ」


 走り出す身体。


「むん!」


 ゾムビーに右半身を使ったタックルを喰らわせた! 


「ドゴッ」

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