第五節 共闘
階段を駆け下りる主人公。手には手袋を握りしめている。一方でグラウンドでは、生徒達が異様な光景に息を呑んでいた。グラウンドにはゾムビーの集団が8体、ぞろぞろとうごめいていた。
「ぎゃあああああああああああああああ‼」
逃げ惑う生徒達。校舎に駆け込む者、ゾムビー達と反対側の倉庫、部室側に逃げる者、校門を飛び出して何事もなかったかのように帰る者、様々である。
階段を昇る生徒達とは反対に、主人公は勢いよく下へ下へと駆け下りていく。グラウンドに到着し、ゾムビー達を確認する。
「やっぱり……」
「バッ」
主人公は手袋をはめた両手をゾムビーにかざした。
「リジェクト!」
「ゾ……?」
「ドガァアッ」
ゾムビーの集団のうち、一番右端の1体を吹き飛ばした。
(まだ7体もいる……!)
「狩人ラボはこの学校から遠い! 連絡をしても、到着が遅れてしまう‼」
「ツトムゥ! 狩人への連絡は任せロ!」
校舎の方から声がした。逃隠である。
「サケル君! お願い!(なんでまだ校舎に居るんだろう……?)」
返事をしつつ主人公は疑問に思う。
ゾムビーの方を確認し、ふと気付く主人公。
(ゾムビー達の体液が、体育館裏の方から続いている……この前と同じ、あの排水口から大量発生したのか⁉)
再び手をかざす主人公。
「リジェクト!」
「ドガァアッ」
2体目を吹き飛ばす。
(よし、今日は調子がいい。5秒に1回は撃てる……)
ゾムビーと充分に距離をとりつつ、ゾムビーのうちの1体が射程圏内に入るまで待つ主人公。
(今だ!)
「リジェクトォ!」
「ドッガァアッ」
遂には3体目を吹き飛ばした。
「やった! この調子で……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
安堵した瞬間、叫び声が……。その声の方向に顔を向ける。主人公から見て一番左端のゾムビーが、校舎付近で腰を抜かしていた生徒の一人を襲っていた。
(マズい‼ あと1秒足りない……)
「ゾム……」
「うわぁあああ! 嫌だぁあああ‼」
近寄るゾムビー。泣き叫ぶ生徒。ゾムビーの口から体液が放たれようとする。瞬間、
「ビュン」
「ゾ?」
何かがゾムビーに向かって飛んで行った。
「ドシャァ!」
その物体はゾムビーの顔面に直撃、溜めていた体液はゾムビーの顔面から後方へ飛び散った。
「やった! 体液はあの生徒にかかってない! あれは……」
物体を凝視する主人公。
「ボテ……テーンテーンテテーン」
それはサッカーボールだった。
「サッカー……ボール……?」
「よぉ、手こずってる様だな。ツトム」
主人公が振り返るとそこには友出の姿が。サッカーボールが一杯に入ったカゴに手を掛けている。
「コガレ君!」
「早くぶっ倒せよ、こんなんじゃ奴を怯ませる事しかできないぜ?」
友出は冷静に言う。
「あ……リ、リジェクトォ‼」
「ドシャァ」
4体目を撃破する主人公。
「ひっひぃいいいいいい」
ようやく動けるようになり、走り去る生徒。
「ありがとう! コガレ君!」
礼を言う主人公。
「礼ならいいぜ。それより、囲まれてるぜ?」
「え⁉」
友出の言葉に、冷静になって辺りを見渡す主人公。そこには、ほぼ均等にゾムビー達が主人公と友出を囲って立ち塞がっていた。
「ツトム、背中を合わせろ」
「ガラガラ」
一言言った友出は手を掛けていたカゴを引っくり返し、ボールを足元に散らばらせた。
「う、うん!」
主人公は指示に従い、友出と背中を合わせて立った。
「俺があいつらを怯ませるから、お前は自分の最善の方法で、1体ずつ奴らを倒していけ」
「分かったよ、コガレ君!」
二人は会話を交わす。
「行くぜ!」
「ガッ」
ボールを蹴る友出。
「ドシャァ」
ゾムビーの顔面にヒットする。
「次だ!」
隣のゾムビーに狙いを定める友出。
「リジェクト!」
一方の主人公は自分の正面のゾムビーを攻撃する。
「ドガァアッ」
5体目を撃破した。
「ガッ」
「ドシャァ」
「リジェクト!」
友出が怯ませ、主人公が撃破する。
「コガレ君!」
「何だツトム⁉」
「僕達って最高に強いよね!」
「……ああ!」
ゾムビーは残り1体となった。
「決めろよ、ツトム」
友出は言う。
「うん」
答える主人公。
「バッ」
手を構える。
「リジェクトォオオ!」
「ゾ?」
「ドガァアッ」
跡形もなく吹っ飛ぶゾムビー。グラウンドに現れた全てのゾムビーは一掃された。
――夕日が傾いていた。主人公と友出は熱い握手を交わす。
「ドタドタドタドタ!」
狩人達が爆破、身体と共にグラウンドに登場した。
「大丈夫か? ツトム。今日は部隊の訓練と日程が重なっていてな……これは?」
爆破が何かに気付く。辺りには散らばるゾムビー達の残骸と、幾つかのサッカーボールが。爆破が友出に問う。
「少年、これは君とツトムでやった事なのか?」
「だったら悪いか?」
友出が答える。
「…………」
爆破は友出の言葉を受け、少し考え事をした。
「さて……俺は帰るぜ。この騒ぎだ、どうせ部活は中止だ。じゃあな、ツトム」
友出はそう言うと、その場を立ち去ろうとした。
「コガレ君……」
友出を見つめる主人公。
「……ああ、それと……」
友出が何か言おうとする。
「俺は狩人とか言う連中に加わる気はサラサラ無いからな」
「!」
主人公は友出に言う。
「コガレ君!……今日は、ありがとう!」
それを聞き、振り向かずに右手を上げて軽く振る友出。一方で、身体の元へ逃隠がやってきた。
「副隊長! お勤めご苦労様でス! 今回の連絡は私めが務めさせて頂きましたでございまス!」
「……」
逃隠の言葉に、黙り込む身体。遂に口を開く。
「見たところ、今回もお前は何もしなかったみたいだな。……一般人の中学生も加勢したというのに……お前にはガッカリだ……」
「ガ――――――ン」
(お前にはガッカリだ……お前にはガッカリだ……お前にはガッカリだ……)
身体の言葉が、逃隠の胸に突き刺さる。
「ガク……ペタァ」
膝を地面につき、両手もつく逃隠。哀愁が漂っている。
「ツトム、今回の戦果報告をしてくれ」
爆破が主人公に言う。
「ハイ、まず8体のゾムビー達が体育館裏の排水口の方から現れました。それから……」
話を続ける主人公。
「……で、コガレ君がサッカーボールでゾムビーを怯ませて、隙を作ってくれたので、1体ずつ倒していく事ができました」
「ふむ、報告ご苦労! 友出コガレと言うのか……是非我が狩人へ欲しい人材だが、彼は私たちを少し毛嫌いしている様子だったな」
苦笑いを浮かべる爆破。
「はは、そうですね(今日は、ずっと思っていたこと、皆で協力して戦う事が実践できたぞ! これからも、こうやって戦っていき、ゾムビー達を全滅させないと……!)」
爆破に相槌を打った後、少し考え事をする主人公。
「そうだ、ツトム」
爆破が口を開く。
「今回は、排水口付近からゾムビーが発生したように、ゾムビー達は湿った場所から発生すると言われているんだ。で、だ。次の土曜日には沼地へ行ってゾムビー発見のための調査を行うことにする」
「ぬ……沼地……?」




