第四節 決意
「ツトム……それは……」
父が口を開く。
「それは自分で決めた事なんだな?」
「うん!」
主人公が続けて言う。
「自分で……自分で決めた事なんだ。誰かに言われたんじゃない、僕自身が強くそう思っている事なんだ! 前に、ゾムビーに大切な人を襲われて……だから、もう二度とあんな思いはしたくなくて!」
暫くして、再び父が口を開く。
「そうか……それなら自分で決めた道を進みなさい」
「! お父さん‼」
母が心配そうに言う。すると父は言った。
「母さん、いいんだ。ツトムが自分で皆を守るって決めた事だ。……ツトム、自分で決めた事をやり通すというのはそれがどんな事であれ、とても意味のある事なんだ。よく、自分で決心したな」
「父さん! ありがとう! 頑張るよ‼」
「ああ、頑張れよ」
主人公の力強い言葉に、優しく返す父。
「ふ――、しょうがないわね。分かったわ。母さんも応援するから。でも、無理だけはしない事。それと、何か私達に出来ることがあったら必ず言う事。出来る限りの事はするわ。分かったわね?」
父の様子に見かねた母は主人公の意見を認めた。
「分かったよ。母さん、無理はしないし、何かあったら協力してもらうよ」
主人公は晴れやかな気分でそう答えた。ふと、母は言う。
「あ、そうだ。一応言っておくけど、勉強に支障が出たら、許さないからね」
「はは、気を付けるよ」
主人公は少し硬くなる。
「ふっ、ははは」
父がクスッと笑った。
「ふふふ、あははは」
母もつられて笑う。
「ははは、ふふ」
主人公もまた、笑った。
笑い止んでから、主人公は言う。
「とにかく、そういう事だから、これから頑張るよ! それと、これからも宜しくお願いします。父さん、母さん!」
「ああ」
「ええ」
父と母は笑顔で答えた。
「じゃあ、部屋に戻るよ」
そう言って主人公は二階に上がった。階段を上がりながら、主人公は考える。
(よし! 言えて良かった。もやもやした気持ちが晴れたよ)
「バタン」
自室に入る。
「ボフッ」
ベッドに腰掛けた。少し下を向いて、顔の前で指を組む。
「フ――、よし! 宿題宿題! ラストスパートだ‼」
主人公は机に向かい、宿題を始めた。夕方には全ての夏休みの宿題が終わった。
――翌日、8月31日。主人公の自室にて。朝、主人公がバッグを準備している。
「さて、宿題も昨日終わったし」
階段を下りる主人公。茶の間にいる母に話し掛ける。
「母さん、ちょっと出かけてくるよ。帰るのはお昼過ぎるかも」
「ハーイ、行ってらっしゃーい」
母は返す。
――小一時間後、主人公はとある場所へ辿り着いた。狩人ラボである。
「シュッ……ピピー!」
認証用のカードキーを使う。
「ウィ――ン」
ラボの扉が開いた。
「よしっ」
主人公は足を進める。数分後、主人公は研究室に辿り着いた。
「ウィ――ン」
扉が開く。
「こんにちは! 主人公ツトムです。今日の実験はいつからでしょうか?」
主人公の問いに、パソコンの前で作業をしていた研究員が手を止めて答える。
「お疲れ様、ツトム君。午後3時からだ」
「ハイ! ありがとうございます。尾坦子さんとの面会、大丈夫でしょうか?」
続けて主人公が質問する。
「ああ、被験体Aとの面会を許可するよ」
「ありがとうございます!」
主人公は尾坦子の下へ行く。相変わらず、尾坦子はガラス張りの部屋に閉じ込められていた。
「尾坦子さん! お久しぶりです!」
「あらツトム君、久しぶり」
二人は軽く挨拶を交わす。
「夏休みの宿題も終わって、時間ができたから来ました」
「ふふ、よく来てくれたわね」
主人公は近況報告を軽くした。友出の試合を見に行った事、逃隠家に行った事などを話した。
「コガレ君、ホントかっこよかったんだよ。シュートも決めて」
主人公は楽しそうに話す。
「その子の事が本当に好きなのね。……私とどっちが好きなのかな?」
尾坦子は主人公をからかう。顔を真っ赤にする主人公。
「えっ? えっと……それは……」
「ふふふ、いいわよ。本気で答えなくても」
「…………」
「…………」
主人公は顔を赤らめながら、尾坦子はニヤニヤしながら、二人は少しの間沈黙する。
「それで、ね……」
主人公が口を開く。
「?」
尾坦子はキョトンとする。
「父さんと、母さんに、狩人に入隊したことを話したんだ……」
「まあ」
主人公の言葉に、驚く尾坦子。
「それで?」
続けて質問する。質問に答える主人公。
「うん、母さんは、最初は反対したんだ。僕を危ない目に遭わせられないって。……そしたら、父さんが狩人に入隊したのは、自分で決めた事なのかって聞いてきてね」
「ええ、それで?」
「僕は、この街の皆を守りたいから、自分で決意して狩人に入隊したって答えたんだ。そしたら父さんは認めてくれて、頑張れって言ってくれたんだ。母さんも、最後には納得してくれてね……」
「あら、良かったじゃない。これからも狩人として頑張れるわね!」
主人公に対し、明るく言う尾坦子。
「うん……でも……」
「?」
「コガレ君に、言われて気付いた事なんだけど、自分一人で頑張っていこうっていう気持ちじゃないんだ。サケル君のお父さんに対しても言った事なんだけど、狩人の仲間達と協力し合って一緒に戦っていきたい。狩人の人達だけじゃなくて、何かあったらコガレ君とも協力してもらったり、家族にだって相談して戦いを乗り越えていきたいんだ。僕一人の力では無理な事もあるし、一人で無理して心配かけるよりはずっといいと思う」
伝えたいことを言いきって、少し下を向く主人公。
「……そうね」
尾坦子が口を開く。
「その方が良いわね。相手はとても恐ろしい化け物なんだから、一人で無理したって勝てっこないわよ。私も、出来ることは実験に協力する事くらいだけど、目一杯頑張るから……一緒に、戦っていこうね!」
グッと親指を立てる尾坦子。
「……うん!」
主人公はパァっと明るくなり、答えた。
「ありがとうございました」
研究員に挨拶する主人公。振り向き、尾坦子に手を振る。尾坦子は笑顔で手を振り返している。
「ウィ――ン」
研究室を出て、ラボを後にした。家へと帰る道中、主人公は思う。
(よし! 僕は間違っていない! 尾坦子さんだって協力してくれる。皆で! 一緒に戦うんだ!)
――二学期、教室にて。
「おはよウ! ツトムゥ!」
逃隠が主人公に挨拶した。
「おはよう。サケル君。夏休みの宿題、ちゃんとやってきた?」
主人公が問う。
「おウ! もちろン、やってないゼ‼」
自信満々に答える逃隠。ガクッと呆気に取られる主人公。
「予想はしていたけど……ここまで自信満々とは……」
「キーンコーンカーンコーン」
放課後のチャイムが鳴る。部活生はダッシュで部室に向かう。教室の窓で寄りかかる主人公。外のグラウンドを見ている。
「皆大変だなぁ。僕は帰宅部だから関係ないけど……」
そのままウトウトと居眠りを始める。外では一杯に入ったサッカーボールのカゴを運ぶ生徒や、ゴールを立てる者など、部活に備えている。
「うわあああああああああああああああ‼」
生徒の悲鳴が上がった。
「⁉」
目を覚ます主人公。
「まさか!」
グラウンドを見る!




