第三節 懇願
「サケル君を……助ける……?」
主人公は困惑した。
「……そうだ」
逃隠カイヒが口を開く。
「息子はゾムビーをこの世から全滅させようとしている。だが、あいつにはゾムビーとまともに戦う力は無い。いずれ体液を喰らい、殺されてしまうだろう」
「……なんでサケル君はゾムビーに拘るのでしょうか?」
主人公が問う。
「……あれは今から5年ほど前の事になるな……」
逃隠カイヒが語り始める。
「息子は犬を飼っていた。ダッヂと言うんだ。二人は本当に仲が良かった。遊ぶ時も寝る時も、いつも一緒だった。……ある時、二人が遊んでいると、1体のゾムビーが現れたのだ。すぐにゾムビーは二人を襲ったが、ダッヂは息子をかばい、戦ったという。……そして、私が駆けつけた時にはもう遅かった。ダッヂはゾムビー化してしまっていたのだ。結局、私はゾムビーもろとも、ダッヂの首を刀で落とし殺した。暫く私は息子に嫌われたが、ゾムビーさえいなければダッヂは死ぬことは無かったと理解し、息子はゾムビーを強く憎むようになった。そして、嫌いだった修行も自ら志願して行うようになり、今のあいつがあるのだ」
「……そんな事が」
真相を知り、驚きを隠せない様子の主人公。
「さて……あいつは今、狩人に入隊してしまったそうだな。あいつは、今までは行くなと言ってもゾムビー発生現場に向かい、戦いを挑もうとして来た。これからはもっとゾムビーと接触する機会も増えてくるだろう。そこで、だ。もう一度言う。息子を助けてやってくれ。やめろと言ったとしても聞いてはくれぬ馬鹿息子なのだ、頼む」
頭を下げる逃隠カイヒ。主人公が口を開く。
「ただ助ければいい……のとはちょっと違うと思います」
「⁉」
逃隠カイヒが目を見開く。
「サケル君がゾムビーとまともに戦う力が無いと仰いましたが、それも違います。サケル君は戦地に行っても必ず無傷で帰って来られる力を持ってますし、僕に回避の術を伝授してくれました。身体能力も高いし、最近では狩人の副隊長と特訓をし、更にパワーアップしました。これからもっと活躍してくれるはずです。だから……」
「?」
「サケル君は助けるのではなく、共に……一緒に戦っていく仲間として接して行きたいんです。いえ、そうしていきます!」
主人公は力強くそう言った。
「……そうか。分かった、ならそうしてやってくれ、頼んだぞ」
逃隠カイヒは手を差し伸べた。主人公はコクリと頷き、同様に手を差し伸べる。二人は力強く握手した。
「ガラッ」
応接間の戸が開く。
「親父! もう終わったカ?」
逃隠が現れた。
「ああ」
逃隠カイヒが答える。
「一体、何を二人で話してたんダ?」
「……ああ、何でもない」
逃隠の問いに逃隠カイヒがそっと答えた。
「それならいいんだガ……」
逃隠は少し首を傾げた。ふと、外を見る主人公。夕日が傾いていた。
「⁉ ああ‼ もう夕方になってる! 今からあの道を歩いて帰るのか――――‼」
頭を抱える主人公。
「ん? 何なら送って行くが?」
逃隠カイヒが言う。
「いいんですか⁉ 是非お願いします!」
心の底から感謝する主人公。
――車内、主人公が助手席に座り、逃隠カイヒが運転している。後部座席には逃隠がいる。
(それにしても……車、持ってたんだ……あんな感じの家だったけど……しかも〇産のノー〇)
主人公が口を開く。
「サケル君、毎日こんなに遠い道を歩いて通ってるの? それとも送ってもらってるとか」
逃隠が答える。
「ン? 歩きだガ。俺は毎日、朝4時起きダ。朝修行をしてから飯食っテ、学校に行ってるゾ」
「へぇ……すごいね……(サケル君の家族、皆いかにも忍者一家って感じだったな。車持ってたけど)」
そんな事を考えていると、家に着いた。
「サケル君のお父さん、今日はありがとうございました」
礼を言う主人公。
「ああ」
軽く手を振る逃隠カイヒ。
「サケル君、これからもよろしくね!」
「ン? ああ、よろしくナ!」
主人公の言葉に多少戸惑いながら、答える逃隠。
「じゃあね!」
「おウ!」
別れの挨拶を告げて、車は行く。
(夕飯までには帰れたな。良かった)
安心する主人公。
「ただいま!」
玄関のドアを開けて、家に帰る。
――夜、主人公の自室にて、主人公がベッドで仰向けになり、布団にもぐっている。
(これでいいんだよな、これで……サケル君もちゃんとした戦力なんだし、助け合わないと。問題は……)
ふと、カレンダーを見る主人公。
(もう、夏休み最終日まで時間が無い。父さんと母さんに狩人入隊の事、話さないと……)
目を閉じる主人公。そのまま眠りについた。
――数日後、8月30日。
(まだ一日余裕はあるけど、今日、話そう。父さんも居るし)
決意を固める主人公。階段を下り、リビングに居る母に話し掛ける。
「母さん、ちょっと話したいことがあるんだけど……父さんも一緒に……」
「あら、珍しいわね、かしこまっちゃって。分かったわ。お父さーん!」
母は父を呼びに行った。
「ふ――、緊張するなぁ」
父が現れた。
「ツトム、何の用だ?」
「うん、ちょっと話しておかないといけない事があって」
リビングの机の椅子に座る3人。
暫く下を向いていた主人公が口を開く。
「父さん、母さん。僕、狩人に入隊したんだ!」
「!」
「⁉」
目を見開く父と、ショックを受ける母。
「……それは本当か?」
「狩人って、あのゾムビーと戦う機関の事よね?」
二人の言葉に、返す主人公。
「うん、本当なんだ。病院で襲われた後も、何度かゾムビーに遭遇してて、その度に戦ってきたんだ」
「ケガとかしなかったの?」
母が心配そうに言う。
「うん、大したケガはしてないよ。僕、超能力が使えるようになったんだ。それで戦ってるんだ。今、やって見せるね」
主人公は空いていた椅子に手をかざす。
(最低出力で……)
手が光り出す。
「ガタッ」
椅子は主人公に触れられていないのに20センチほど横に動いた。
「……どうやら、超能力ってのは本当のようね。……でも、母さんは狩人なんて反対よ! ゾムビーと戦うなんて、ツトムをそんな危ない目に遭わせたくない!」
強く言う母。
「……」
父は黙っている。
「母さん! でも僕達にしかできない事なんだ‼ ゾムビーはいつ現れるか分からないし、狩人も人手不足で……狩人の人達と、サケル君達と一緒に! この街の皆を! 母さんや父さんを守りたいんだ‼」
「! …………」
主人公の言葉に、黙り込む母。そして、父が口を開いた。




