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第二節 逃隠邸にて

――主人公自室、主人公がベッドの上に座っている。


「昨日はコガレ君、かっこよかったなー。また見に行きたいよ」


 と、その時




「ピロリロリーン」




 主人公の携帯が鳴る。


「ん? 誰だろう?」


 携帯を見てみる。メールが届いていた。宛名は逃隠サケルからのものだった。


「サケル君からだ。なになに? 久しぶりだな、ツトム。突然だが、書いてある住所へ来い。俺の家だ……! サケル君のうちに行くの⁉」


 メールを読み上げ、驚愕する主人公。


「分かったよ、今から行きます……っと。母さんに伝えて、ひとまず向かわないと」


 慌てて出かける準備をする主人公。




 準備を済ませ、二階から階段を駆け下りる。茶の間でテレビを見ている母にドア越しに話し掛けた。


「母さん、今から友達のうちに行ってくるよ! 夕飯までには帰るから!」


 母から返事が来る。


「はーい、行ってらっしゃーい」


「バタン!」


 玄関のドアを閉める主人公。


「えーと、なになに? S市T町の……え? 近くに電車もバスも通ってない、山奥じゃん。こんなところにサケル君の家が……」


 困惑しつつも歩き出す主人公。道のりは遠くなりそうだ。






 50分ほど歩いて、山道に差し掛かった。


「だいぶ近付いてきたかな?」


 主人公はスマホの地図を頼りに歩き続ける。更に20分後、まだ山道は続く。


「……まだ……かな?」


 そして更に20分後、


「やった……やっとだ……スマホの電波も少なくなってるけど……」


 主人公は遂に逃隠の家を発見した。



 藁葺きの屋根、木や土でできた壁といった、なんとも古風な民家であった。



「お邪魔しまーす……」


 戸が開いていたので、恐る恐る入ってみる。と、その瞬間




「ドタドタドタ」




「ツトムゥ――――‼ 久しぶりだナァ――――‼」




「ズサ――!」




 逃隠が家の奥から走ってきて、立ったまま横にスライドし、目の前で止まった。


「や……やぁ、サケル君、久しぶり。元気だね」


 主人公が話し掛ける。


「会いたかったゼ、ツトム。俺はあれから二日間の厳しい修行を、身体副隊長に行ってもらイ、パワーアップして帰ってきたんだゼ?」


「そうなんだ(パワーアップ? サケル君も本格的に戦ってくれるようになるなら嬉しいんだけど、果たしてどうなんだろう……?)」


 逃隠の言葉を聞き、期待半分、不安半分といった様子の主人公。


「まぁ何はともあレ、上がれヨ。茶でも出すゼ」


「あ、ありがとう」


 逃隠に促されるままに靴を脱ぎ、家の応接間へと向かう主人公。




 応接間に座る。床は畳、戸は障子が張られていて、部屋の真ん中には木製の座卓が置いてあった。


(いかにも和風って感じがして……落ち着く)


 初めて訪れる家にも関わらず、その居心地に落ち着く主人公。と、


「ガラ……」


 戸が開いて一人の女性が現れる。お盆の上に急須と湯呑みを持った女性は口を開く。


「ほっほっほ、初めまして」


 続けて、逃隠が言う。


「俺のかあちゃんダ」


 座卓にお盆を置いて、女性は言う


「逃隠トウコと申します」


 主人公は立ち上がり、言う。


「あ、初めまして。主人公ツトムと言います」


なんとなく握手をと、手を差し伸べる主人公。瞬間、




「ザッ……シュタッ!」




 逃隠トウコは後方へ高くジャンプ、そのまま壁の隅に張り付いた!


「へ⁉」


 驚愕する主人公。壁に張り付いたまま、逃隠トウコは言う。


「ほほほ、手から何か飛び出して来ないかと思い、反射的に避けてしまいました。常に最悪を想定して生きろという、夫の教えを何度も聞かされてきた癖でして……」



「ストン」



 逃隠トウコは壁の隅から軽やかに飛び降り、着地した。


(なにか、とんでもないお母さんだぁ……)


 主人公は困惑する。


「失礼致しました。お茶をお注ぎします」


「じょぼぼぼ」


 茶を注ぐ逃隠トウコ。


「あ、ありがとうございます(お茶もくせものだったりするのかな?)」


「ゴクリ……ズズズズ」


 不安になりながらも、差し出された茶をすする主人公。




「!」




「う、美味い! 芳醇な香り、そしてほど良い苦みと、深い旨みだ!」


 パァッと目を輝かせて言う主人公。


「フッフッフ、ウチの自家製のお茶だからナ!」


 自慢気に腕を組んで言う逃隠。


「それでは私はこれで」


 逃隠トウコは応接間から出て行った。


「ホントに美味いなぁ……おかわり!」


「オイオイ、飲み過ぎるなヨ。それより、今日来てもらった訳を話させてもらうゼ」


 興奮する主人公に対して話を切り出す逃隠。


「?」


 キョトンとする主人公。


「今日は、ツトムを俺の親父に会せようと思ってナ」


「サケル君の……お父さん」


「そうダ。『避け』だけではあるガ、回避の術をマスターした奴がいるとオヤジに言ったところ、是非会いたいと言っていてナ」


(サケル君のお父さん……どんな人なんだろう? ……お母さんがあんな感じだったからひょっとするとお父さんも……)


 不安に思う主人公、すると




「入っていいか? サケル」




 戸の向こう側から男の声がした。


「ああ、いいゼ。親父」


「ガラ……」


 逃隠が答えると、男は戸を開けて現れた。顔には左目の眉毛辺りから鼻を通り、右頬にかけてまでの大きな傷がある。男は口を開いた。


「逃隠カイヒと申す。宜しく」


 逃隠カイヒは軽くお辞儀をした。主人公は立ち上がり、言った。


「主人公ツトムと言います、よろしくお願いします」


 逃隠トウコの時と同様、主人公は手を差し伸べる。逃隠カイヒもまた、手を差し伸べた。




 すると、




 逃隠カイヒの手は、主人公の手のひらを通り過ぎ、手首を掴んだ。




「⁉」




 驚く主人公をよそに、逃隠カイヒは主人公の手首を掴んだまま、ぐわっとその手をひねった。


「いだだだだだ」


 悶え苦しむ主人公。


「ふむ……か細い手首だ……これではあの化け物達とはまともに戦えまい……」


 独り言の様に呟く逃隠カイヒ。




(! あの母親に、この父親。なんて一家なんだ!)




 苦しみながら不信感を募らせる主人公。


「親父、ツトムはリジェクトっていう超能力を使って、ゾムビーを倒すんだゼ」


 逃隠が話し掛ける。


「ふむ……なるほど、な」




「ぱっ」




 逃隠カイヒは手を放した。


「はぁ、はぁ痛かったー。何なんですか、いきなり」


 主人公が問う。


「いや……少々腕っぷしを確かめてみたくて、な」


(なんて人だよ。もっと他にやり方があるでしょ)


 逃隠カイヒへの不信感を更に募らせる主人公。


「ツトム君と言ったな。君はその超能力とやらで化け物を倒せるんだな?」


 逃隠カイヒが問う。


「ええ、一応……」


 不満気に答える主人公。更に逃隠カイヒが問う。


「今まで、一体何体の化け物達を倒してきたんだ?」


 主人公が答える。


「……5体以上は……」


 少し間を置いて、逃隠カイヒが口を開く。




「……そうか。……サケル、少し席を外してくれないか?」


「何か知らないが分かったゼ、親父! ちょっくら外で反復横跳びでもやって来るゼ」


 そう言って逃隠は部屋を出た。


(本当にやるのだろうか……)


 主人公は疑問に思う。逃隠カイヒは座卓を挟んで主人公の正面に座った。


「さて……ツトム君」


「……なんでしょうか?」


 主人公が問う。口を開く逃隠カイヒ。


「……息子を、サケルを助けてやってはくれないだろうか……?」

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