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第十四節 助太刀

ゾムビーの口から体液が吐き出される、正にその時、




「ビュン!」




 何かがゾムビー目掛けて、猛スピードで飛んできた。


 それはゾムビーの口を裂き、背中を貫くように斜め下の地面へ突き刺さった。




「ザクッ」


「な、何だ⁉ あれは!」


 主人公がゾムビーに突き刺さった何かを凝視する。




 それは、一振りの刀だった。




「か……刀?」


 主人公は驚愕した。すると、聞き覚えのある男の声がどこからか聞こえてきた。


「……大丈夫か? サケル……」




「バッ」




 主人公が振り向く。そこには、顔に左目の眉毛辺りから鼻を通り、右頬にかけてまでの大きな傷がある男、逃隠カイヒの姿があった。


「サケル君の……お父さん!」


 主人公は声を上げる。


「今日は変な胸騒ぎがしてな、有休をとっておいて良かった。こんなところでこんな事になっていたとは……」


 逃隠カイヒが言う。




「ジュウウウウ」




 突き刺さり、ゾムビーの動きを止めることに成功していた刀だったが、ゾムビーの体液により、遂には溶け出してしまう。


「ゾ……」


 ゾムビーは逃隠カイヒの方を向く。


「ふむ……やはり体液は強力だな。……先ずは……」


「ダダダッ」


 逃隠カイヒは、ゾムビーの傍で蹲っている逃隠の元へ向かう。


「オ……親父……」


 逃隠は逃隠カイヒを向いて言う。


「何も言うな……サケル……」


 逃隠カイヒはそっと言い、逃隠を担いだ。


「暫く、あの子の近くに居ろ……」


 逃隠カイヒは、逃隠を担いだまま、主人公の元へと向かった。


「よし……」


 主人公の傍に、逃隠を降ろす。


「ツトム君、サケルをよろしく頼む……」


 逃隠カイヒはそう言い残すと、今度はゾムビーの元へ向かった。


「あ……」


 急な展開に、まともに返事する事ができない主人公。逃隠は疲弊しきっている。


「バッ」


 ゾムビーに対峙する逃隠カイヒ。





「……行くぞ」


「ダッ」





 ゾムビーの方へ間合いを詰めて行く逃隠カイヒ。


「体液で刀が溶けてしまうなら!」




「スパッ」




 もう一つの刀で、ゾムビーの胴体を横一文字に切り抜く逃隠カイヒ。


「溶ける前に切り抜いてしまえばいいだけの事……」




「ピッ……ズズ」




 ゾムビーの胴体は切れ目が入り、斜めにずれ落ち始めた。




(すごい! ……でも……)




 感心しつつ不安に思う主人公。


「ゾ――――!」


 ゾムビーは、唸り声を上げる。




「ボコボコボコ」




 直後、ゾムビーの胴体の切れ目から細胞が吹き出始める。


「ボコボコ……」


 ゾムビーの胴体は程なくして、元通りに完治した。


(やっぱり、だめだ!)


 落胆する主人公。


「ほう……普通のヤツらとは、また一味違うという事か……」


 一方で逃隠カイヒは動じない。


「ゾムバァアア」


 ゾムビーが、逃隠カイヒ目掛けて体液を放つ。




「避け」




「サッ……バシャアア」


 必要最低限の動作で、逃隠カイヒはそれを避ける。


「ゾッ!」


 間合いを詰めていたゾムビーは逃隠カイヒの頭部目掛けて殴打を繰り出した。




「……首避け」




「サッ……ブン」


 逃隠カイヒはそれを避け、ゾムビーの拳は空を切る。


「ゾゾゾッ!」


 今度は、蹴りを繰り出すゾムビー。




「飛び避け!」




 逃隠カイヒはそれを大きく横に飛び、避け切った。


「ゾッ!」


 攻撃の手を緩めないゾムビー。


「なんの!」


 それを体にかすらせもせずに避け切る逃隠カイヒ。




「逃げ続けるは、己と他の命を守る為! 避け続けるは、新たな好機を掴み取る為!」




 逃隠カイヒは叫び、攻撃を回避し続ける。主人公は思う。


(そうだ。ゾムビーの攻撃は避け切らないといけない。避けなければ、命は無い! リジェクトは連続して打ち続けられない。避けて避けて避け続けて、力の回復を待たなければならない! ……回避は! サイキッカーにとって大事なんだ!)


二人の攻防は続く。と、逃隠カイヒが口を開く。




「サケル! もう体の方は大丈夫か⁉ 次、仕掛けるぞ!」




逃隠は答える。




「あア……親父……何とかしてやル……!」




「……よし!」




逃隠カイヒは一歩引いて、鞘に収めた刀の柄に手を掛ける。




「はっ!」


「スパッ」




 鞘から刀を抜きつつ、またしてもゾムビーの胴体を切り抜く逃隠カイヒ。ゾムビーに切れ目が入る。




「そこっ!」




 次いで逃隠カイヒはゾムビーの上半身を、履いていたゲタで蹴った。


「ドッ」


 ゾムビーの体は横に真っ二つになっていたため、上半身は下半身を残し、飛ばされた。




「ドシャアアア」




「ゾ!」


 下半身は直立しているが、上半身は地面に横たわっている状態のゾムビー。と、ゾムビーの下半身の切れ目に何か輝くモノが。


「ん? あれは?」


 逃隠カイヒはそれに気付いた。


「ゾ……ゾゾ!」


 ゾムビーは腕だけで上半身を起こし、下半身へ向かいそのまま動き出した。


「サケル! ゾムビーの下半身に何か輝くモノがある! あれを奪うぞ!」


 逃隠カイヒが叫ぶ。


「合点承知の助ぇえええエ‼」


 逃隠はそう言い放ちながら走り出す。




「タンッ」




 ある程度、ゾムビーに接近した時点で、飛ぶ逃隠。サッと輝く何かを奪い取る。


「クルン……スタッ」


 そのまま宙で一回転した逃隠は地面に着地した。


「ツトムゥ! やつの心臓の様なモノを奪った。リジェクトをお見舞いしてやレ! 今なら効くかもしれねエ‼」


 主人公に向かって叫ぶ。


「う、うん! やってみる!」


 主人公は返した。


(頼む……効いてくれ!)


「リジェクトォオオオ‼」


 一抹の不安を抱きつつも、リジェクトを放つ主人公。




「ゾ?」


「バシャアア‼」




 ゾムビーの上半身、下半身は共に吹き飛び、破裂した。


「や……やった……」


「へへ、やりィ」


 安堵の表情を浮かべる主人公と逃隠。


「!」


 と、逃隠がゾムビーから奪ったモノを見て何かに気付く。


「これハ……」






「沼地で見つけたものと……一緒だ……」


 主人公は呟く。


「どうやラ、アイツらはこれを体内に取り込むとパワーアップするみたいだナ」


「うん、強力な敵だった……ヤツらにこれを渡しちゃいけない。ラボに早急に送らないと……」


 逃隠と主人公はそう話し合った。




「……ツトム君」




 逃隠カイヒが口を開く。


「サケル君のお父さん……」


 ハッとする主人公。


「申し訳ありませんでした。以前、一緒に戦っていくとか、格好つけて言った癖に全く敵にかないませんでした! サケル君のお父さんが助けに来てくれなかったら、今頃どうなっていたことか……それと、サケル君を助けてくれと言われてたのに、危ない目に遭わせてしまって……」


 謝る主人公。


「……いや、最後にとどめを刺したのは、君だ。今日は、君がゾムビーと戦えるというのが確認できて良かったよ。それに、今回の敵は強力過ぎた。私一人でも、倒しきれなかっただろう……」


 逃隠カイヒが返す。


「あ、ハイ! ありがとうございます!」


 ホッとする主人公。




「ツトムぅ……」




 逃隠が話し掛ける。


「これから恐怖の戦果報告だナ」


「はっ! そうだった……」


 ゾッとする主人公。

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