第十二節 パトロール
「キーンコーンカーンコーン」
放課後の始まりを告げる、学校のチャイム。平々凡々中学校、主人公の教室にて。
「あー、定期試験が近付いてきたよー」
「中学生にとっテ、避けられない課題だナ」
主人公と逃隠が会話を交わす。
「よし、ツトム。いきなりだガ、今日は途中まで一緒に帰ろうゼ」
逃隠が提案する。
「いいよ。でもどうして急に?」
「まァ、ちょっとナ」
「ふーん。ま、いっか」
主人公の問いに、曖昧に答える逃隠。二人は一緒に学校を出る。
歩きながら主人公、逃隠の二人は話す。
「狩人に入隊したけど、任務としては、ゾムビーが出没した時の対処、現地調査、会議の参加や会議の結果を聞く事、等々で、ラボに常駐せずに済んで助かったよ。学校生活も大体普通に送れてるし……」
「俺は勉強の無い世界で一生暮らしたいかラ、ラボに常駐でも良いがナ」
「ハハ……」
苦笑いの主人公。ふと、十字路で立ち止まる。
「ここから先は、サケル君ちと逆方向になるし、距離も遠くなるから、ここら辺でもう帰りなよ」
主人公が提案する。それに対して逃隠は言う。
「いヤ……」
「?」
キョトンとする主人公。
「今まで言わなかったんだガ、今日一緒に帰ろうと言ったのは理由があル。その理由ハ、今から単独、二人でゾムビーパトロールを行う為だァアア‼」
(え? ……それって単独って言うんだっけ?)
逃隠の言葉に疑問を抱く主人公。すぐハッとなり、言う主人公。
「サ、サケル君! 勝手に二人で行動して、もしもの事があったらどうするの?」
「なぁニ、心配ないサ、ツトム。何かあれバ、たった今ゾムビーを発見しましたって連絡すればいいだけの事ダ」
「ホントに大丈夫かなぁ?」
片や自信満々の逃隠に、不安で一杯の主人公。
「よシ! 決まりだナ! パトロール、出発進行ゥ‼」
(……僕はまだ賛成してないのに)
逃隠の独断で、ゾムビーパトロールなるものが始まった。
排水口、
住宅地の溝、
河川敷と、
水の流れる場所を二人で探索して行く。
「ゾムビーは湿った場所を好むんダ! 次、行くゾ! ツトム‼」
意気揚々と指揮を執る逃隠。
「ハイハイ……」
一方で主人公は乗り気で無い。更に探索は続く。
二人はとある河川敷まで足を進めた。
「見ロ! ツトム! あの高架下、怪しくないカ⁉ 明らかにじめじめしてそうでゾムビーが好みそうダ!」
相変わらずノリノリの逃隠。
「もう1時間半も何も無かったじゃん。今回だって何もないよ、きっと。母さんにちょっと連絡しないと」
そう言って携帯を取り出す主人公。
「今日の帰りは、少し遅くなります、っと」
メールを打ち込む。
「おイ……ツトム……」
逃隠が戦慄の表情を浮かべながら言う。
「はいはい、どうしたの? サケル君……よし、送信完了っと」
顔も合わせずに主人公はメールの送信を確認していた。
「居タ……」
逃隠は言う。
「居たって何が?」
主人公が問う。
「あ……アレ」
逃隠が指をさす。指差した方向を主人公が見る。そこは道路の高架下で、日陰となっており、ゾムビーが3体、存在していた。
(ホントに居た――――‼)
唖然とする主人公。
「イ……行くゾ、ツトム!」
逃隠が言う。
「へ? 行くって?」
主人公は問う。
「ゾムビーを倒しに行くんだヨ! 行くゾォ‼ オラアアアアアアアア‼」
叫びながら突進する逃隠。
「ちょ、連絡は⁉ 無茶だ、サケル君‼」
逃隠を心配し、叫ぶ主人公。
「ダッ‼」
突進する逃隠は物凄いスピードで走って行く。一歩一歩、力強く地面を蹴って行った為、逃隠が走った後には穴の様な足跡がついていた。その様子を見ていた主人公は思う。
(‼ 凄い。スーツの力を使っているんだろうけど、あの日から、サケル君は確実にパワーアップしている。修行の成果と、自分の中での確かな自信が、サケル君にしっかりと身に付いている!)
「ウォオオオオオオオ‼」
両手で、スーツの無い顔の部分をガードしながら、そのまま逃隠はゾムビーに向かって行った。
「ゾ……?」
主人公達から向かって一番左のゾムビーが、逃隠に気付くもむなしく、
「バシャアア‼」
逃隠の体はゾムビーの胴体を貫いた。
「ゾォ……」
崩れ落ちるゾムビー。
(やった! イケる……二人で、二人だけで……ここに居るゾムビー全てを、倒せる!)
主人公は勝ちを確信する。遠くでくるっと振り返った逃隠は言う。
「何やってんダ、ツトム! お前も戦エ‼」
「あ、うん」
主人公は答えて、ゾムビーの方向へ走り出す。リジェクトの射程圏内に入った。
「ハッ」
両手が光る。
「バシャアア‼」
向かって一番右のゾムビーを木端微塵にした。ゾムビーは、始め真ん中に居た1体のみとなった。
「やったナ! ツトム! 最後の1体は俺がもらったゼ‼」
「ダッ」
そう言った逃隠は今度は向こう側からこちらへ、最後のゾムビー目掛けて走り出した。主人公も安心して逃隠の最後であろう戦いを眺めていた。逃隠がゾムビーの体を貫こうとした、寸前
「ガッ‼」
逃隠はゾムビーの体に弾き返された。
「ぐァア」
「ガッ……ゴッ……ズサァ」
地面を転々と跳ね、崩れ落ちる逃隠。
「⁉ 何だ、あのゾムビー……。とてつもなく……硬い……‼」
様子を見ていた主人公も、息をのむ。
「くっそォ……てりゃアアア‼」
弾き返された逃隠は諦めずにゾムビーに向かって行く。
「ガッ!」
右腕を振るう。顔面にヒット。しかし、ゾムビーは無傷である。
「くソ! ああァ‼」
「ガッ! ガッ! ゴッ!」
今度は左腕、続いて再び右腕の殴打、最後に右足の蹴りを加えた。
「ゾ? ……ゾォオオ‼」
再び無傷のゾムビー、今度は反撃に出て、逃隠の腹を殴る。
「ゴッ」
「ぐふゥ」
3メートル近く吹っ飛ぶ逃隠。
「ドシャア」
「ガハッ、ゴホッ」
苦しむ逃隠。
「ジュウ――」
殴られた腹部は、学ランが溶けてスーツが露わとなっている。
「サケル君! くそっ! リジェクトォ‼」
応戦する主人公。
「ドムゥン」
衝撃波は、確かにゾムビーに伝わった。しかし、妙な弾力性によってその衝撃は吸収され、ゾムビーを破壊するには至らない。
「! リジェクトが……効かない……?」