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第十一節 ある日のセツナ

「いらっしゃいませ!」




 元気よく客に挨拶するコンビニ店員が一人。抜刀セツナである。制服をきっちりと着こなしているが、髪型は相変わらずである。9時出社17時退勤で、週5日の勤務体系で働いており、それなりにカツカツの生活を行っている様だ。




「チキンとポテト、売り切れです」


 誰か店員が言う。


「あいよ!」


 抜刀は返事する。


「ジュウウウウ」


 フライヤーで調理を始める抜刀。手際が良い。


(片方終わるまで、3分くらい……か……!)


 ふと、何かに気付く抜刀。


「おい、新人! さっきから、お客さんが出入りしているのに声出てねぇぞ! やる気あんのか?」


 新人は答える


「あ、ええ……まぁ……」


 新人の曖昧な態度に、激怒する抜刀。


「ぁんだその態度は⁉」


 新人に近付く抜刀。




「トントン」




 誰かが抜刀の肩を叩く。振り向く抜刀。コンビニの店長が、そこには居た。


「まぁまぁ、抜刀君。この子、入って2週間経ってないし、ちょっと緊張してるんだよ。これから良くなるはずだから、もう少し抑え目にね」


「店長がそう言うなら……仕方ないッスね……」渋々なだめられる抜刀。




――数時間後。


「店長! 新人がウォークインから帰ってこないんで、見て来ます。もう30分すぎた頃なんで」


 抜刀が店長にそう言ってレジから移動する。


「あー、お願いねー」




 ウォークインとはウォークイン冷蔵庫の事である。前だけではなく、店員しか入れない後ろ側にも商品補充用の扉があるタイプの冷蔵庫である。コンビニで、ジュース等を買う時、ジュースの向こう側で人がゴソゴソ動いていたら、その人はウォークインでの作業を行っているのである。結構寒い。




「バタン」


「いつまでかかってるんだー?」


 ウォークインに入り、抜刀は言う。


「あ、抜刀さん。あと商品一種類くらいでーす」


 新人は答えた。


「そうか、もうちょっと早くできるようになれよ」


「はーい」


 抜刀の言葉に対し、作業をしつつ新人は続ける。


「ていうか、抜刀さん。ここ、結構寒いですね。真夏なら天国なのになー。そろそろ10月だから寒いやー」


「…………」


 新人の言葉になんとなくイラつく抜刀。


(コイツ、肉牛みたいにバラして、冷凍庫に吊るしてやろうか……?)




――さらに数時間後、


「オイ! ちょっと来い新人‼」


 抜刀が激怒する。


「あっはい、なんでしょうか」


 冷や汗をかきながら、新人は抜刀の所へ行く。お弁当コーナーだった。


「……昼の弁当の品出し、お前だったよな?」


「はっはい」


 焦る新人。


「これ! 弁当の賞味期限、何で古いヤツが奥に入ってて、新しいヤツが前に来てるんだ⁉」


「あっ」


「あ、じゃねーよ! 入ったトキに教えてもらったよな? 中坊でも分かるコトだろ⁉」


「すっすみません」




「ちょっとー! レジ、早くしてくんない?」




 客がレジの前に居た。


「はい! 少々お待ちください。次、気を付けろよ?」


 抜刀が新人に一言言って、レジへ急ぐ。


「大変お待たせ致しました」


 見ると客は、強面で坊主頭、髭を蓄えていた。


「ピッ」


 バーコードを通す。


「以上、1点でお買い上げ108円となります」


 手際よく接客を行う抜刀。


「箸、付けて下さい。2膳ね」


 いきなり要求を行ってくる客。抜刀の顔色が変わる。


「……(ガム一つじゃねぇか、何考えてやがんだ? コイツ)……お客様、申し訳ございませんが、お弁当などを購入された方にだけお配りしておりまして、無料ではお配りしておりませんので」


 本心を言わず、作り笑顔で接客する抜刀。


「は? そうなの? サービス悪いな、ここ。じゃあ何も買ってやらねーよ」


「!」


 客の言葉に目の色を変える抜刀。もう作り笑顔もできない。


「ピロリロリローン」


 客が店から出ていく。


「潰れちまえ! こんな店」


「ブチッ」


 客が帰り際に放った心無い一言を、抜刀は聞き逃さなかった。そして、遂に我慢の限界が来る。


「店長……ちょっと体調が悪いんで早退しまーす」


 怒りを抑えながら言う抜刀。


「え? 何を言って……ちょ、ちょっと抜刀君待ちなさい」


 店長の言葉は、もう抜刀の心には届かない。制服をレジ内にあったカゴに入れ、抜刀は店を出る。


「タタタタタ」


 バイクに乗ろうとする先程の客に向かい、走って行く抜刀。




「!」




 客が気付く。

 抜刀が叫ぶ。




「こんのォ! クソ野郎ぉおおおお‼」




――夕暮れ時。家路を辿る抜刀。


「いてて、口が切れたか」


 頬には殴られた跡があり、口からは少量の血が。


「図体がデカいからといっても、俺の拳を3発喰らって立ってやがったのはアイツが初めてだな、へへ」


 ふと、立ち止まり、空を見上げる。


「バイト先、クビになっかもな。そしたら、マジにあのラボで暮らすか……入隊したから手当てとか給料とかでねぇかな……?」


 ふ――っと深いため息をつく。そして再び歩き出す抜刀。




 抜刀セツナのカツカツの生活は、明日も続く。

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