第十節 副隊長の一日
――とある朝、5時過ぎ。舗道を走るのは、身体スグル。
身体の一日は、15kmのランニングから始まる。朝5時起床。着替えを済ませ、狩人ラボの宿舎から毎日のランニングコースへ走り出す。
午前6時に差し掛かる頃、身体は狩人ラボの食堂に行き、朝食を食べる。白米にゆで卵、野菜、味噌汁と、至って一般的な日本食が多いが、納豆、豆腐と植物系のたんぱく質も欠かすことなく摂る。
朝食後、隊長・爆破スマシとのデスクワークが始まる。職務は、各地のゾムビー出没地帯のマップデータ作成、研究員達によるゾムビーに関する研究成果の閲覧、ゾムビーとの戦闘によって生じた死者、被害事例のデータベース作成など、多岐にわたる。
「ふぅー。こんなところか。今日は午後から会議がある。よって今日の分はこれで終わりだ。ご苦労」
「ラジャー」
爆破と身体は会話を交わす。
――昼食、メニューはカレーである。午後の為にエネルギーを摂取する必要があるせいか、身体の昼食は大体がカレーライスとなっている。
(飽きないものだな……)
身体は、ふと考えながら食事をした。
――食後、トレーニングルームにて。部屋にはダンベルやバーベル、各種ウエイトトレーニングに必要な機器が揃っている。
(上半身から始めるか……)
アームカール、コンセントレーションカールと、じっくり上半身のトレーニングを行っていく身体。負荷であるダンベルの重さは、25kgを優に超えている。次はリバースプッシュアップ。自らの体重を負荷とし、上腕三頭筋を鍛えていく。
「ふぅ……よし、次」
次に身体は、リストカール、ハンドグリッパーを用いたトレーニングを行い、握力を強化していく。続いてラットマシン、バタフライマシンと大型のウエイトトレーニング機器にも手を出していく。淡々とトレーニングをこなす身体。
「……次」
身体は、ベンチプレスに腰を掛ける。重量は100kgほど。
「ふんぬ!」
「ガシャン……」
バーベルを持ち上げる身体。1回では終わらない。
「ガッシャン……ガッシャン……」
2回、3回と回数を重ねていく。
「がぁあッ」
「ガシャン!」
遂に4回目を持ち上げる身体。
「ガゴン……」
バーベルをラックに置く。
(……4回、か……今日は調子がいいな)
タオルで汗を拭う。水分を摂り、暫しの間、休憩をとる身体。
「さて、仕上げだ」
何かを見上げる身体。目線の先には懸垂器具があった。
「バッ」
懸垂器具に飛びつく身体。
「よし……やるか」
懸垂が始まった。
「イチ……ニ……」
回数をこなしていく。――数分後、
「ヨンジュウハチ……ヨンジュウク……」
両腕に力が入る。
「ゴジュウ!」
90kgはあろうかと思われるその体重を、身体は50回浮かせ続けた。
「ハァ……ハァ……次は…………下半身!」
バーベルを担いだ状態でフロントランジを行う身体。ウエイトトレーニングはまだまだ続きそうだ。
――夕日が傾いている夕暮れ時。身体が舗道を走っている。あれから下半身、体幹筋とトレーニングを終えた身体は、日課である25kmのランニングを行っている。走りながら、思いを巡らせる身体。
(隊長は言うまでもなく、ツトムも上々の働きをしてくれている……サケルも、ようやく組み手の成果を出してくれた。セツナと言う男も、新たな戦力として加わり、隊の強さも増すだろう)
少し下を向く身体。
(後は、この俺が……)
キッと目つきが鋭くなる。
(この俺が更なる強さを手に入れなくては……一般人はおろか、現場に到着した隊員までもが犠牲になっているこの現状、何としてでも打開し、ゾムビーによる犠牲者をゼロに近付ける……‼)
決意を新たに、走り続ける身体。
――数分後、走る際中身体は思う。
(今日の帰りは街中を走ってみるか。いい気分転換になる)
ランニングコースを変更する身体。更に走り続ける身体。住宅地に差し掛かる。ふと、何かに気付く。
「おや……?」
それは、道端にポツンと置いてある段ボールだった。足を止め、近付く。
「クゥン……」
中には小さな小さな子犬が、少しばかりの布切れとともに捨てられてあった。
「ペロリ」
子犬は身体の目を見つめながら、自分の鼻を舐める。しばらく子犬に目を合わせる身体。下を向く。
「……済まない」
どこかへ走り出す身体。
「クゥン……」
――夕日が空から消えかかり、薄っすら暗くなり始めた頃。段ボールの中の子犬は身を丸くし、眠りについている。と、そこへ何者かの足音が。
「ピクッ」
音に気付き、目を覚ます子犬。顔を上げると、そこにはナイロン袋を手に下げた、身体の姿が。身体はナイロン袋からドッグフードを取り出し、子犬にやった。
「ハッハ……ガツガツガツ」
お腹が空いていたのか、勢いよく食べる子犬。身体が体を低くして口を開く。
「済まない……お前を拾ってやる事はできない……だが、お前を拾ってくれる里親が見つかるまでは、俺が親になる」
子犬の頭をそっと撫でる身体。立ち上がる。
「また……な」
ラボに向かい、走り出す身体。
明日も身体スグルは走り続ける。