第一節 練習試合
――夏休み某日、主人公自室にて。
「宿題も意外と早いペースで片付いてきたな。今日は余裕あるから一日ゆっくりしていようか?」
机の椅子の背もたれに寄りかかる主人公。と、そこへ
「ピンポーン」
「!」
主人公宅のインターフォンが鳴る。
「誰だろう?」
「ガチャ」
自室のドアを開ける。
「母さーん! 僕が出るよ!」
そう母に伝えて階段を下りる主人公。
「ピンポーン」
再びインターフォンが鳴る。
「はいはい。今行きまーす」
主人公が玄関のドアを開ける。
「ガチャ」
そこには、友出の姿があった。
「よぉ、ツトム」
「コガレ君……!」
嬉しそうな表情を浮かべる主人公。
「どうしたの? 急に?」
主人公が問う。友出が答える。
「急にというか何というか、これで5回目だぜ? お前ん家に来るのは」
「へ?」
「ガチャ」
呆気に取られた主人公の後ろで、玄関のドアが開いた。
「あらあら、友出さん家のコガレ君じゃないの、今日も来てくれたのね」
母が出てきた。
「母さん、僕、コガレ君が来てくれてたコト、知らないんだけど……」
ジッと目を細めて母を見る主人公。
「ごめんごめん、言ってなかったわね。コガレ君、夏休みになってから何度かウチに来てくれてたのよ。ツトムは居るかってね」
「もう! そういう事は早く言ってよ」
母の言葉に対し、少し怒り気味に言う主人公。
「許してよぉ、ね?」
舌を出し、主人公をなだめようとする母。
「そうだ、今日はツトムも居る事だし、ゆっくりお茶でも飲んでいかない? 冷えた麦茶があるわよ」
「いいえ、立ち話で終わるんでいいッス」
母の誘いを断る友出。
「あら、そう。お邪魔になるかしら、失礼するわ」手を軽く振り玄関の中へ帰ろうとする母。ペコリとお辞儀をする友出。
「バタン」
母は家の中へ入った。
「ふぅ――。でだ、ツトム。用事っていうのはな」
「うん」
友出の言葉を、目を見開いて聞く主人公。
「俺の、サッカーの練習試合、見に来てくれねぇか?」
「! コガレ君の……試合!」
驚きを隠せない主人公。
(コガレ君が、僕を試合に……。サッカー部でエース争いしているコガレ君が……。帰宅部で体育の成績3の僕を……)
わなわなと一人考え込む主人公。
「……嫌か?」
「嫌じゃない!」
友出の言葉に咄嗟に答える主人公。
「……よ?」
ハッと我に返った主人公。
「っるせーな、ビックリするから大きな声出すなよ」
「……ごめん」
友出に謝る。
「試合の日なんだが、急で悪いが、明日だ。大丈夫か?」
「うん! 大丈夫! 絶対行くよ!」
友出に元気よく答える主人公。
「そうか……良かった良かった。お前、夏休みだってのに全然家に居ねえから、間に合わないかと思ったぜ」
「そっ……それは」
友出の言葉にたじろむ主人公。
「まぁいいや、場所はウチの中学校のグラウンド。時間は昼の3時からだ。じゃあな」
「うん!」
立ち去る友出。主人公は暫く友出を見送った。
「……さて、と」
「ドタドタドタ」
二階へ駆け上がる主人公。
「バタッ」
自室のドアを勢い良く開ける。
「ぴょん……ボフッ」
自分のベッドへ飛び移る。
「! ! ! !」
顔を枕に押し当てている主人公。
(コガレ君が‼ 僕を‼ 試合に‼)
ルンルン気分の主人公。多少パニクっている。
「あー、楽しみだなー」
思わずにやけてしまう。
「! そうだ! 明日予定を入れるから、今日は明日の分宿題をしなくては!」
「ガバッ……シュタッ!」
ベッドから飛び上がり、着地。
「ガッ……スチャ」
すぐさま椅子を引き机に付き、宿題を始める主人公であった。
――翌日、平々凡々中学校グラウンド。主人公が約束の時間の20分程前に姿を現した。味方チーム、敵チーム共にアップを行っている。味方チームの人だかりの中、主人公は友出を見つけた。
「おーい! コガレ君! 来たよー!」
こちらに気付く友出。
「ツトムゥー! 悪りぃなー! もうアップとかしねーといけねーから!」
そう言ってアップに戻る友出。
(……当然だよね。練習試合と言っても試合なんだし。でも、少し寂しいな。試合が終わったら話しよう)
少し残念そうな主人公。試合を見渡せそうな場所を見つけて、座る主人公。暫くして、試合が始まった。
「上がれ上がれ!」
「こっちだ!」
「パスパァス!」
――試合後、夕日がやや傾いた河川敷を主人公と友出が歩く。
「いやぁ、かっこよかったよ! コガレ君! シュート決めるなんてさ」
「でも引き分けだ。勝たねぇとな」
労いの言葉を送る主人公だったが、友出は結果に満足していないようだ。
「……ツトム、ちょっといいか?」
友出が足を止める。
「?」
続けて主人公も足を止める。
「夏休み、ずっと居なかったのは、アレか? 体育館裏の化け物と何か関係があるのか? あの……狩人とか言う奴らの所にも行ったのか?」
「! …………」
友出の問いに答えられないでいる主人公。
「おっと、質問を一遍にし過ぎたか。まぁ、答えられなければ答えなくてもいいぜ」
「……」
暫くして、主人公が口を開く。
「親友の、コガレ君には話すけど、そうだよ」
「!」
目を見開く友出。
「夏休みの間、ずっとあの化け物を倒すために戦ってた。狩人の基地にも行ったよ。そこで泊まりで特訓してたんだ」
主人公はそう続けて話した。
「……フゥ――」
ため息をつく友出。
「そんなこったろうと思ってたさ。……ツトム」
「なに?」
「ケガ……してないか?」
「!」
少し目に涙を浮かべる主人公。
「大丈夫だよ、全然元気だから」
「……そうか」
主人公に、静かに返す友出。ジッと主人公の目を見つめる。
「何か、力になれることがあったら言えよ。俺達、親友なんだからな」
「ブワッ」
堪えていたものが、一気に溢れ出す。主人公は大粒の涙を流した。そして、涙を拭いながら言った。
「うん、親友だからね」
フッと笑う友出。主人公も薄っすらと笑った。
――夜、主人公自宅にて。
(家族を……尾坦子さんを……コガレ君を……ただ守りたいから戦ってきた。でも……)
ベッドで横になっている主人公。
「僕一人が一方的に守り抜くことなんて、不可能なんだ。……一緒に、共に戦っていこう」
その夜、主人公は数年ぶりに日記を書いた。