第七話「身体が勝手に」
リントブルミア王国は首都エストフルト。市街地を離れた場所に位置する王立軍病院のベッドの上で私は寝転がっていた。
エリザから情けなく逃げ出した後、私はラピス副隊長の指揮下に入るべく隊の他の面々に合流したのだが、その私に向けて副隊長はすぐさま軍病院に赴くように命じたのだ。
負傷者である私が隊にいては、かえって仕事の効率が悪くなるらしいとのこと。実際、私は目に見えてフラフラしていたし、左腕も碌に動かない状態だった。
そう言う訳で、私は副隊長の紹介状を手に首都の軍病院を訪れ、軍医から抗生物質の処方を受けた。
私達魔導騎士は、魔導の力で外傷を治すことは出来ても、傷口から体内に侵入する雑菌には対処ができなかった。そのため、手酷い傷を負った後は医師に抗生物質を貰うようにしているのだ。
抗生物質を服用した後は、病院で身体の修復に専念するように軍医に勧められたので、私はボロボロの騎士服を脱ぎ、清潔な衣服に着替えて真っ白なベッドの上に横になった。
途中、私はアメリア隊長から言伝を受け、先の一件の報告書を書かなければいけないことになった。上体を起こし、紙とペンを借りて午前中の出来事を詳細に綴っていく。
カネサダのことはぼかして報告する。要旨はあくまで魔物の出現にあるので、別に構わないだろう。
ところで、カネサダと言えば……彼は私のベッドの横に立て掛けてある。
何故カネサダがここにいるのか?
……うっかり返し忘れてしまったのだ。気が付けば、私はベルトに彼を差した状態のまま病院に来てしまっていた。
報告書を書き終え、再びベッドで横になる私にカネサダの声が響く。
『なあ、ミシェルよお……お前、さっきのあれはねえんじゃねえのか?』
「……」
『何が卑しい卑しいみなしごだよ。卑屈になりすぎだろ』
「……」
『お前も分かってんだろ。あの嬢ちゃん、悪気はこれっぽっちもなかったんだぜ』
カネサダの声に私は答えない。
彼の声はどうやら私以外の人間には聞こえないらしい。なので、その声に応じれば、まるで私が大きな独り言を呟く変人のように周りには映ってしまう。今現在、周りには何人か人がいたので、私はカネサダに返事をすることが出来ないでいた。
『エリザとか言ったっけ……可哀そうだよなあ……わんわん泣いてたぜ』
私は両耳を手で塞ぎ、深いため息を吐いた。
先程から、カネサダはエリザの話ばかりしていた。
勘弁してほしい。あの惨めな場面をもう一度思い出し、気が滅入ってしまう。
エリザの事は忘れたかった。どうせもう会う事もないのだから。
それから夕方になるまで、私はベッドでじっとうずくまっていた。その甲斐あってか、複十字型人工魔導核の身体修復機能は、十全に動き回れるまで私の身体を回復させていた。左肩ももう痛まない。
「もう行かれますか、ミシェルさん?」
「はい、すっかり良くなりましたので」
女性の軍医に挨拶をして、私は軍病院を出ることにする。
「皮膚の修復の方は行われないのですか?」
その際、軍医が私に尋ねる。
軍病院では、頼めば傷跡が目立たないように皮膚の修復手術を行ってもらえるのだ。嫁入り前の少女が軍人などをやっている所為か、そのような要望が多く、病院には専用の機材が揃っている。
「結構です。傷跡が残らない体質なので」
そう言って、私は衣服をずらし、白い綺麗な肌を見せびらかす。そこにあった筈の傷跡は綺麗さっぱり無くなっていた。
驚く軍医を余所に、私は新しい騎士の服を受け取って病院を後にした。
『おい、ミシェル』
「何、カネサダ?」
『身体はもう平気なのか?』
周りに人がいなくなったことで、私はようやくカネサダに口を利く。
『お前、結構ダメージ受けてただろ。魔導の力で修復するにしても半日も経たずして元通りになるのか?』
「私は特別なの」
『特別?』
私は少しだけ冷めた口調で答える。
「私の身体は幼少期の頃から魔法と薬物による女性化の身体改造を受けて来た。その副作用なのか、傷の治りは異常に早いし、傷跡もすぐに綺麗になくなって皮膚は元の肌のままなの」
『女性化の改造だと? ははあ、成るほどな……どうりで身体付き……筋肉の付き方や骨格が女みたいだなと思ったんだ』
それから、カネサダはふざけるようにカラカラと笑いだし、下品な口調で尋ねる。
『ちなみにチンチンは付いたままか?』
「!?」
私は顔を真っ赤にする。
『なあ、どうなんだよ?』
「……はあ」
私は白い目を古びた鞘に向け、軽い拳骨をお見舞いした。
「……ちゃんと付いてるから」
少しだけムキになって言い放つ。
私の言葉に、カネサダは大笑いした。
『しっかり付いてんのか! どれ、確認してやるから見せてみろ!』
「うるさい!」
再度、私はカネサダに拳骨をお見舞いする。
この刀はいちいちデリカシーがない。
その後も色々とカネサダにからかわれたが、私は彼の言葉を無視して足を動かし続けた。
空に赤みが増す頃、私は再び国有倉庫街にやって来ていた。
目的地、荷造りの作業を行っていた倉庫の前で立ち止まり、私はその扉に手を掛ける。
しかし____
「……開かない」
倉庫は既に錠が施された後だった。
溜息を吐く私にカネサダが声を掛ける。
『どうした、ミシェル? ここにまだ用があるのか?』
「……用って」
私はじっとカネサダを見つめる。
「貴方を返しに来たんだけど」
その言葉にカネサダは素っ頓狂な声を発する。
『はあぁ!? お前、何言ってんだよ!』
「え? だから、貴方を……」
『いやいや! 何でだよ!? 何故、わざわざ俺を返す!?』
私は肩をすくめた。
「な、何故って……借りた物はしっかりと返さないと」
私が至極真っ当な意見を述べると、カネサダから大きな溜息が聞こえてくる。
『真面目だねえ、ミシェルの坊や』
「ぼ、坊や?」
『良いじゃねえかよ、このまま借りパクして! この剣は既にお前のもんなんだよ!』
いや、駄目でしょ。それは立派な窃盗だ。
「いつから貴方は私のものになったの?」
『俺がお前を相棒として選んだんだ。じゃあもう俺はお前のもんだ』
「……いや、貴方はリントブルミア王国の国有財産だから」
その後、私とカネサダの応酬は、夜が訪れ丸い月が顔を覗かせるまで続く。
「……はあ、しょうがない」
と、私は夜空を見上げながら疲れた様子でカネサダに告げる。
「どうせ倉庫は閉まってるし……明日、護衛任務の時にこっそり貴方を荷物に紛れ込ませるから。私達はそれまでの付き合いね」
『おいおい! 勝手に話を決めるな!』
「貴方が何を喚こうが、私の好きにさせて貰う」
ぎゃーぎゃーと文句を言うカネサダを無視し、私は倉庫街を出ることにする。
私はこのまま寝床へと帰るつもりだ。副隊長からは、既に兵舎への帰還の許しを貰っている。私は一路、エストフルト第一兵舎へと向かう事にした。
エストフルト第一兵舎では、我がアメリア隊を含め四つの部隊の騎士達が寝起きを共にしている。時刻は既に8時を回っているので、彼女達は皆、既に各々の部屋へと戻っていることだろう。
兵舎に帰還し、中庭を横切る廊下を歩いていると、目の前から三人組の騎士達が現れ、私の進路を塞いだ。
「遅かったわね、“罠係”」
私は思わず顔をしかめる。現れたのはアメリア隊の同期の3人、昼間に一悶着あったゴールドスタイン姉妹とその背後に隠れるように佇むアイリス・シュミットだった。
「アンタの所為で、私達は酷い目に遭ったんだから!」
そう言ってずかずかと私に詰め寄るのは、ゴールドスタイン姉妹の姉のミミ。彼女は私の胸をど突き、両目を吊り上げた。
「アンタを庇ったあのエリザとかいう娘だっけ……何か知らないけど、あの平民に剣を抜いたことを死ぬほど隊長に叱られたんだから」
「私もとばっちりを受けた!」
ミミに続き妹のララも私に詰め寄り、私の膝に挨拶代わりの蹴りを入れる。
「……いたッ……わ、私の所為? じ、自業自得なんじゃ」
蹴られた膝をさすり、私は反論する。
「自業自得? ふざけないで! たかだか、平民に剣を抜いたぐらいで貴族の私が叱られる訳ないでしょ! よく分かんないけど、アンタの所為なのよ!」
「……えぇ」
「アンタの所為に違いない! よく分かんないけど!」
意味不明だ。よく分かんないけどって……要はただの八つ当たりなんじゃ。
それにしても、妙だ。確かにミミの言うように、普段ならば貴族である彼女が平民に剣を向けたところで、それをアメリア隊長に叱られることなどない筈だ。貴族として常に平民を見下しているアメリア自身も、よく市民相手に乱暴を働いている。彼女が騎士団の横暴を咎めるなど考え辛い。
「と言うか、アンタ」
ミミ・ゴールドスタインの視線が私の腰元、古びた鞘へと向けられる。
「その剣は一体どうしたのよ? さっきはよくも私の一振りを」
ミミは目くじらを立て、私のベルトに手を伸ばし、そこに差してあるカネサダの柄を握った。
「あ!」
「……これ、カタナって奴よね……アウレアソル皇国の……どうしてこんな貴重品をアンタが持ってんのよ」
ミミがそのままカネサダを引き抜いたので、私は声を上げた。
「……ちょっと!」
ミミは露わになった白刃をまじまじと見つめていた。彼女は再び私に視線を寄越すと、にやりと笑い横柄に告げる。
「丁度良かった。この剣アンタには勿体ないから、私が貰ってあげる」
「そ、それは」
それは私の所有物ではない。明日、元の場所に返却しなければいけないのだ。
私が口を開きかけたその時だ。
「……ッ!? ギ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「……え?」
カネサダを握る少女の手元。火花が一瞬だけ散ったかと思うと、青白い電流が四方に迸り、ミミに絶叫を上げさせた。
「い、嫌ぁッ!」
「あぶなっ!?」
ミミは勢いに任せてカネサダを私に投げつける。白銀の刃が宙を躍り、私の頬に一文字の傷を与えながら、その後方へと回転運動をしつつ飛んでいった。
背後の地面に乾いた音を響かせて転がったカネサダから、笑い声が聞こえて来る。
『はっはっは! どうだ、小娘! なかなかキツメの電流をお見舞いしてやったぜ! 気持ちよかったか?』
カネサダの声は恐らくミミには聞こえていない。そのミミはと言うと、カネサダを握っていた手の平をじっと見つめ表情を歪めていた。
「わ、私の……手が……!」
ミミの手の平は真っ黒に焦げていた。カネサダの放った電流にやられたのだろう。
「ミミ!」「ミ、ミミちゃん!」
焦げた手の平に顔を青くするミミに、背後のララとアイリスが駆け付ける。
ミミは目に涙を溜め、私をキッと睨んだ。
「ア、アンタ……この……よくも……」
私は頬に付けられた傷を手で触りながら後退る。
私に非難の目を向けるミミ。私は悪くない筈だ。悪いとすればカネサダか、それとも彼女の自業自得だ。
「ララ、押さえるよ!」
「う、うん!」
ミミの一声で、ララは私の左方に、ミミ自身は右方に回り込み、それぞれが私の腕をがっちりと掴んだ。
「……な、何?」
双子の姉妹に両腕を拘束され、私は困惑の表情を浮かべた。
ミミが一人取り残されたアイリスに怒号を発する。
「ほら、アイリス! やっちゃいなさい!」
「……え……う、うん」
ミミに怒鳴られ、気の弱そうな同期の少女、アイリスが躊躇いがちに頷き、持っていた麻袋から何かを取り出す。
「ソイツを思いっきりぶつけちゃいなさい!」
再度、アイリスに叫ぶミミ。アイリスの手元、そこにあるのはピンク色のペイントボールだった。一度ぶつけられれば、数日は色が落ちないという代物だ。
「コイツの顔に、ほら、早く!」
「う、うん」
ミミに急かされ、アイリスが私に近付こうと足を前に出す。
迫る少女に、私は声を上擦らせて____
「ま、待って……待って、アイリス!」
両腕の拘束を解こうともがき、アイリスに制止の声を投げかける私。
「……」
アイリスは困ったような表情を浮かべていた。
「バカッ! 早くしなさいよ!」「この愚図アイリス!」
「……」
ミミとララに物凄い剣幕で怒鳴られたアイリスは、遂に決心したかのようにカラーボールを振りかぶる。
『ははっ! 両手に花とは男冥利に尽きるんじゃねえか、ミシェル!』
背後から呑気なカネサダの声が聞こえて来た。
「ご、ごめん……ミシェルちゃん……」
「……」
アイリスと目が合う。彼女は申し訳なさそうに私を見つめていた。
ミミ、ララ、アイリス。アメリア隊の同期の3人の中で、アイリスだけは私のイジメに消極的だった。元来が優しく、また臆病でもある性格なのだ。
しかし、ゴールドスタイン姉妹との付き合いもあってか、彼女も仕方がなく私のイジメに加担している。
先程から、私が何か言いたげにアイリスを見つめる度に、彼女はびくりと肩を震わせていた。
私は溜息を吐いた。
何だか、アイリスが可哀そうに思えてくる。
好きにすれば____私はアイリスに視線でそう投げかける。
「ご、ごめんね」
呟くようにアイリスは謝る。
その時だ。
「いたぁッ!」
私の左腕をしっかりと固めていたララから叫び声が上がった。
何事かと思いそちらを振り向くと、何という事だろう……いつの間にか、私は左の親指と人差し指で彼女の内股をつねり上げていたのだ。
私に身体の敏感な部分をつねり上げられ、ララは驚いて飛び跳ねた。
その際に左腕の拘束が解け____私は____私の片腕は彼女の背面へと回り込み、左手がその臀部を揉みしだいた。
「ぴぎぃッ!」
お尻を思い切り揉まれ、ララは爬虫類のような悲鳴を上げた。
弾力のあるスカート越しのララの尻を掴み、艶めかしく動く私の左手。
「え……ちょ……アンタ、ララに何してんのよ!」
右方、その様子を見ていたミミが呆然とした表情を浮かべた後、顔を真っ赤にして叫んだ。
私は狼狽し、声を震わせる。
「ち、違う……手が、手が勝手に……!」
私は顔を真っ赤にして弁明する。その間も、左手は忙しなく蠢きララのお尻を揉みしだいていった。
誓って言おう____私はララのお尻など揉んではいない。
確かに私の左手は彼女のお尻を揉みしだいてはいるが、それは私の意思ではない。手が勝手に動いているのだ。
お尻を強く揉まれ、ララは目に涙を浮かべながら恐怖で固まっていた。口がパクパクと動いていたが、怯えからか声が全く出ていない。
私が我が身に起きている異変に困惑していると、カネサダの下品な笑い声が耳に入って来た。
『へへっ! ガキのくせに揉み応えのある良い尻してんじゃねえか! 久しぶりの女のケツだ、楽しませてもらうぜ!』
「カ、カネサダ?」
カネサダのその言葉と様子で私は察する。
今、ララのお尻を揉んでいるのは、私ではない。カネサダなのだ。
どういう訳か、今現在私の身体はカネサダに乗っ取られているらしい。そうとしか思えない。
「カ、カネサダ……こ、これは貴方の仕業なの?」
『ああ、そうだ! 目の前に顔と身体だけは良い女がいるんだ! 黙って見てられねえよ!』
私の推測はどうやら当たっていたらしい。カネサダは私の身体を乗っ取り、ララに淫らな行為を行っているのだ。
「この! 止めさない、“罠係”!」
冷や汗を浮かべ顔を引きつらせる私に、ミミが掴みかかろうとする。その際に私の右腕の拘束も解け、自由になったもう片方の腕がミミへと伸びた。
「ひゃぁあ!?」
ミミへと伸びた私の右腕が彼女の胸部へと迫る。そして、揉みしだく。私の右手が彼女の片側の胸を力強く揉み上げた。
柔らかい感触が右の手の平から伝わると同時に、ミミは悲鳴を上げ、顔を更に赤くさせた。
「ひっ……や、やめ……」
ミミの口から漏れる声には恐怖の色が滲んでいた。いきなりの私の凶行に驚き固まっているようだ。
『はっはっは! やっぱり、女の身体は最高だぜ!』
右手にミミの胸、左手にララの尻。完全に痴漢となり下がった私に、目の前のアイリスが顔を真っ青にさせて廊下にへたり込んでしまう。
「ミ、ミシェル……ちゃん……?」
アイリスの手元からペイントボールが転げ落ちる。彼女の目は見開かれ、口元は恐怖で震えていた。
『ほれほれ! どうだ、この俺のテクは! 小娘共、だんだんと気持ちよくなってきただろ!』
後方、相変わらず愉快そうにカネサダがはしゃいでいた。
私はぎゅっと目を瞑り、肩を震わせ力の限り叫ぶ。
「い、いい加減、止めろッ!」
「「アンタが止めなさいよッ!」」
私の叫びに応じたのはゴールドスタイン姉妹だった。
その後、身体の制御が戻るまで私の痴態は続いた。
カネサダは尻や胸を揉むだけでは飽き足らず、姉妹を押し倒したり、その全身に抱き着いたり、また衣服を破いてあられもない姿にしたりなどの変態行為に及んだ。
ミミとララは泣いていた。
恐怖からか、豹変した私に抗えず、すくみ上った彼女達はただただ泣き叫び続けていた。
「……こ、この……変態……!」「……ぐすっ……な、何なのよ……アンタ……!」
痴漢行為が終わり、双子の姉妹は乱れた服装のまま私を涙目で睨みつける。
侮蔑と恐怖の入り混じった視線を受け、私は口をパクパクとさせていた。
『だはは! そんなこと言って身体の方は悦んでいたぜ、小娘共! また今度相手してやるよ!』
満足げなカネサダの声に、私は険しい表情で後方をちらりと見遣った。
この変態刀は……!
「覚えてなさいよ!」「言いつけてやるんだから!」
ゴールドスタイン姉妹はそんな台詞を残し、逃げるようにこの場を去っていった。
一人逃げ遅れたアイリスと目が合う。
「……ひぃっ!」
私に見つめられ、アイリスが小さな悲鳴を上げる。姉妹に続き、彼女は我に返ったように私の前から消えていった。
「……あー」
と、誰もいなくなった廊下の真ん中で私は頭を抱えてうずくまった。
『どうだ、ミシェル、女の身体ってのは良いもんだろ? 柔らかくていい匂いがして……最高だよな!』
「馬鹿なの、貴方は!」
私はカネサダに詰め寄り、その刀身を踏みつけた。
「何てことしてくれたの! あ、あんな……!」
『まあまあ、落ち着けよ』
何故か得意げなカネサダ。
『お前、いつもあの小娘共に虐められてんだろ……良かったじゃねえか、仕返しが出来て』
「……し、仕返し?」
『むしろ感謝してほしいぐらいだぜ!』
何故だが感謝を要求される私。本当に意味が分からない。
「……決めた」
『ミシェル?』
「今すぐにでも、貴方を倉庫に返しに行く!」
『なっ、ま、待てよ! 待てって!』
「まさか身体を乗っ取られるなんて……もういっそのこと地中にでも埋めて……!」
『わ、悪かったって! だから、待ってくれよ、ミシェル!』
中庭を横切る廊下。
私とカネサダの応酬が再び始まるのだった。