第十八話「エリザとの再会」
「……エリザさん」
目の前に現れた金髪の少女に、露骨な狼狽を見せる私。
「奇遇ですね、こんな所で出会うなんて」
だと言うのに、目の前の少女、エリザは何食わぬ顔で私に話しかける。
嫌な汗が全身から噴き出る。
一週間前、倉庫街から逃げ出したアサルトウルフと街中で対峙していたのが今目の前にいるエリザで、私はその窮地を危機一髪救った経緯があるのだが____別れ際、私は彼女に心無い言葉を投げかけてその前から姿を消した。
なので、とても気まずい。
もう会うことは無いと思っていただけに、氷水を背後から浴びせられた気分だった。
「今日は非番ですか? 私服姿も素敵ですね」
にこにこと笑うエリザ。その様子は私との再会を心底喜んでいるといった具合だった。
私は目を泳がせ、鼓動が早くなる心臓に息を荒くしていた。
「……ミシェル様?」
私がしばらく何も言葉に出来ないでいると、エリザは心配そうにこちらの顔を覗き込んで来た。
さっと、彼女の表情が暗くなる。
「……やはり、許しては貰えないですよね」
「え?」
明るいエリザの表情が一転、今にも泣き出しそうにその目鼻がくしゃりと歪む。
「あの時……私は悪気がなかったとは言え貴方を傷付けてしまった……許されたいと思うのは身勝手な考えでしょうね……」
「……ち、違う!」
私はすぐさまエリザの言葉を否定する。
「あ、謝らなければいけないのは私の方で……!」
私は思わずエリザに掴みかかってしまった。
彼女の目が驚きで見開かれる。
「私こそ、貴方を傷付けてしまった……貴方に心無い言葉を……」
「……ミシェル様」
精一杯の謝罪をしようと試みる。どのように誠意を伝えれば良いのか分からず、私はとにかく言葉を並び立てた。
「貴方は私を庇ってくれたのに……それなのに私は……。こ、この一週間、貴方に会うのがずっと怖かった。本当に酷いことを言ってしまったから……。だから、許しを乞うのは私の方なんです。……あ、あの……あの時は本当に申し訳ありませんでした!」
頭を下げる私。すぐさまエリザは____
「か、顔を上げて下さい、ミシェル様!」
「エリザさん」
「……こう致しましょう」
視線を上げると、優しく笑い掛けるエリザがいた。
「仲直りです」
「……仲直り?」
「そうです。互いに許し合い、それで水に流す。どうでしょうか?」
エリザの提案に私は躊躇いがちに頷いた。
その慈悲深い微笑みに、私は自分が恥ずかしく思えるほどだった。
「では、仲直りの握手です」
そう言って、少女は目の前に自らの手を差し出した。
私はその手をおっかなびっくり握り、エリザをおどおどとした瞳で見つめる。
目が合うと、エリザは明るい笑みを私に向けた。
「さあ、これで喧嘩は終わりです」
悪戯っぽく言い、エリザは私の手を放す。半ば呆然としながら、私は自身の手を引っ込めた。
照れくさそうにはにかみながら、エリザは____
「それにしても、相も変わらずお美しいですね、ミシェル様!」
「は、はあ」
うっとりとした目で私を見つめる少女。私は引きつった笑みを浮かべた。
「今日はどのような用事で街に?」
「……えっと」
私は腰元のカネサダに視線を遣り、古びた鞘をそっと撫でた。
「漆器屋を探していまして」
「……漆器屋ですか? 漆器に興味がおありで?」
「いえ、この鞘の漆の塗り直しをお願いしたくて。でも中々見つからず、こうして広場で休憩していた所です」
私は腰のベルトから鞘を引き抜き、その塗装の剥がれた箇所をエリザに見せつける。
エリザは興味深げに古びた鞘を見つめた。
「これは……アウレアソル皇国の。そう言えば、あの時、ミシェル様はカタナを振り回していらっしゃいましたね」
エリザは何やら考え込むように顎に手を添え、黙り込んだ。
そして____
「ミシェル様、今すぐには無理ですが……もしよろしければ、この私に漆職人の方を手配させては頂けませんか?」
「て、手配?」
「一週間程時間は掛かりますが……それでもよろしければ、一流の職人を紹介させて頂きます」
淡々と言うエリザ。私はカネサダに一瞬だけ視線を与える。
『ありがたい話じゃねえか。修理は今すぐにじゃなくても良いからよ。頼んじまえ』
確かに有難い話だが……それにしても、一体彼女は何者なんだ? 外見では私と同い年程度の街娘にしか見えないのだが。
私はふつふつと湧いてくる疑問を押さえ、エリザの親切に甘えることにする。
「では、お願いできますかね」
私が頼み込むと、エリザはぱあっと表情を明るくさせた。
「はい、喜んで! ……ところで、ミシェル様」
窺うようにエリザは腰をかがめる。
「この後、お時間はよろしいでしょうか?」
「え……あ、はい」
「少しばかり早いですが、お昼など一緒にどうでしょうか?」
エリザの提案に私の挙動が面白おかしいことになる。
「な……そ、それは……え、え、と……食事のお誘いですか?」
「はい、どうでしょう?」
私は助けを求めるようにカネサダを見つめた。
どうしよう。誰かと一緒に食事など何年ぶりのことだろうか。あ、いや……最近はアイリスが私の朝食の隣の席に勝手に座るようになったのだが……あれは、一緒に食事をしているなどとは胸を張って言えない状態だった。
『なーにビビってやがるんだ』
私の怯えた視線を受け、カネサダが呆れた声を漏らす。
「ミシェル様、私とのお食事はお嫌でしょうか?」
畳みかけるように迫り来るエリザ。私はぶんぶんと首を横に振り、必死に彼女の言葉を否定した。
「い、いえ……是非! 是非とも一緒にお食事を!」
焦っていたため語気を強めて私は言い放った。
勢いのまま誘いに応じてしまい____私はさっとエリザに背中を見せ地面に屈みこんでしまう。
「ど……どうしよう、カネサダ……い、一緒に食事だって」
『……』
ヒソヒソとカネサダに話しかける私。無言のカネサダからあきれ返ったような感情が漂って来る。
「ミシェル様、どうなさいました?」
「は、はい! な、何でもありません!」
私は即座にエリザに向き直り、冷や汗を垂らした。
「行きつけのお店が近くにあるのですよ。お食事はそこでいかがですか」
私はこくりと頷いた。
かくして、久しぶりに他人様と食事を共にすることになった私。
エリザに連れられレストランに到着にするまで、私は必死に呼吸を整えていた。
店内に入り、向かい合った二つの席に挟まれたテーブルを確保すると、エリザは椅子に腰を下ろして店員にオニオンスープを注文した。メニューをじっくりと眺める余裕のなかった私も彼女と同じ品を頼む。
「次の休日はいつですか?」
料理を待っている間、エリザが私に尋ねて来た。
「え、えと……」
「漆職人の件、お話しましたように一週間程手配に時間が掛かります。それ以降の日程にどこか空いている日付はございませんか?」
私は騎士団の出勤表の内容を二週間程先まで思い出し、自身の休暇日を告げる。
エリザは懐からメモ帳とペンを取り出し、律義にそれを書き記した。
それから、私達は次の休日に再び英雄広場で落ち合う約束をして、漆職人の手配状況をその時にまた詳しく伝えることをエリザは約束した。
少女は嬉しそうに笑う。
「もう一度、ミシェル様にお会いできるとは……大変光栄です!」
彼女の勢いに鼻白む私。
「あ、あの……エリザさん」
「どうかされましたか?」
「どうして貴方は私にそんなに……何と言うか……好意的なのでしょうか?」
私は恐る恐る尋ねる。
感情の機微に鋭くない私でも分かる。エリザから押し寄せる圧倒的な好意を。
私には彼女を魔物の襲撃から救い上げたという経緯があるのだが、それは騎士としては当然の行いで……特段好かれるような理由にはならないと思う。いや、よく分からないが。
「私、騎士道物語が大好きなのです」
エリザは頬を掻きながら照れくさそうに言う。
「え?」
「颯爽と私の前に現れ、かの魔物に立ち向かう姿……それはまるで物語の騎士の様で、思わず見惚れてしまいました」
うっとりとした口調でエリザは語る。
「銀色の美しい髪を揺らし、白刃を振るうその雄姿は絵画の一場面の様で……そ、その……も、もしも……ですよ」
エリザはそれから顔を真っ赤にさせて思い切ったように言い放つ。
「も、もしもミシェル様が……だ、男性であったのならば……私、勢いで求婚していたところです!」
「……な!?」
突然の告白に、私は頭から湯気を出して卒倒してしまいそうになる。
「あ、ああ……その、勘違いなさらないで……私はミシェル様をお慕いしてはいますが、決してそのような対象としては見ていませんので……あくまで男性だったらと、そう言う仮定の話ですので!」
「え、ええ……承知していますよ」
私は早鐘を打つ胸を押さえ、額の汗を拭った。
……だ、男性だったら、か。男性なんですけどね、自分。
心臓に悪い思いをしていると、目の前に折よく料理が運ばれてきて、話題を変えるきっかけとなった。
「あの、エリザさん……もしかして人工魔導核を今お持ちですか?」
今度は私から話題を振る。
運ばれてきたオニオンスープを口にしつつ、エリザは驚いたような表情をしてみせた。
「……どうして、ですか?」
やや警戒しつつ尋ね返すエリザ。
「あの時……アサルトウルフと対峙していた時には保持していましたよね? 今も持っているのかと」
警戒心を露わにするエリザに、私の声の調子も若干低めになる。
エリザは躊躇うように視線を彷徨わせると、小さく頷いた。
「……はい、今も持っていますが」
彼女はそう言ってスカートのポケットを叩いた。そこに彼女の人工魔導核が存在しているのだろう。
二人の間に緊張が走り始め、私は慌てた調子で____
「その……別に詮索とかしている訳じゃ……た、ただ街中で一般人が人工魔導核を身につけているのは珍しいかなと思っただけで……それに随分と古い人工魔導核をお持ちの様だったので興味がわいて……」
言葉とは裏腹に詮索のようになってしまっている事を自覚し、私はあわあわと落ち着きを失って言葉を並び立てる。
エリザはじっと私を見つめていたが、ふうと息を吐くと、柔らかな表情に戻る。
「そんなに身構えないで下さい。別にやましい事情など私にはありませんから」
「は、はあ」
笑うエリザ。
やましい事情などない?
ならば、何故先程は警戒するような素振りを見せたのだろうか。
場の緊張は既に霧散していたが、私はこっそり彼女をマークすることに決めた。
「ところで、先程“随分と古い人工魔導核をお持ちの様だったので”とミシェル様は仰られましたが、何故そのような事が分かったのですか? 私、ミシェル様には自身の人工魔導核を見せてはいない筈なのですが」
……何か、怪しまれている?
私は努めて落ち着いた口調で告げる。
「魔導波ですよ。あの時、貴方の人工魔導核から感じた魔導波は禍々しくないものだったので」
「禍々しくない?」
「魔物らしくないと言った方が良いかもしれません」
「……良く分からないのですが」
エリザが首を傾げるので、私は人工魔導核の歴史について説明することにした。
魔導学の結晶である人工魔導核____身につけた者に魔導の力を授ける人類の偉大な発明品は、大昔の開発当時、ただの魔導核と呼ばれていた。
それが時代が進み、魔物と呼ばれる存在の中に同様の器官がある事が発見されると、以前は魔導核と呼んでいた魔道具を人工魔導核と呼びなおすようになり、魔物の体内にある天然のそれを単に魔導核と呼ぶようになった。人工魔導核という言葉はレトロニムなのである。
魔導学者たちが次に何を行ったかと言えば、バイオミメティクスであった。魔物の魔導核を観察し、その構造を模倣する。そうすることで、強大な力を持つ人工魔導核の開発に成功した。女性にしか扱えない複十字型人工魔導核もその賜物で、今の世の中に出回っている人工魔導核のほとんどが、魔物の魔導核を元に製造された物だった。
魔物の魔導核をベースにしているためか、現代の人工魔導核の魔導波は魔物のそれに非常に近く、特有の禍々しさを放っていた。
私がエリザの人工魔導核を旧式の物だと見抜いたのは、その魔導波から魔物らしさが感じられなかったためであった。まだ魔導学にバイオミメティクスが導入される以前の産物だと判断したからだ。
私が上記のような説明をすると、エリザは感心したように私を見つめる。
「お詳しいのですね、ミシェル様!」
「ええ、まあ」
「お強い上に博学で……騎士学校時代はさぞ優秀な生徒だったのでしょうね!」
私はぎこちなく頷いた。
まあ、これでも首席で卒業した身なので。
先程までの警戒が嘘のように、エリザは私にキラキラとした瞳を向けていた。
それから私達は当たり障りのない会話をした。
休日はずっと街中をぶらぶらとしている身なので、幸い会話の種には困らなかった。
街の何処にどのようなお店があるのか、各区域での人々や建物の様子など、適当に話をしている内に私達は料理を平らげていた。
「あのミシェル様、少しだけよろしいでしょうか?」
「何ですか、エリザさん?」
紅茶を口に含んでいると、エリザが神妙な面持ちで口を開く。
「何といいますか……私達、それ程歳は離れていませんよね」
「ええ、恐らく。……私は今、15ですが」
「ちなみに私は14です」
「はあ」
それが何か? 私は首を傾げる。
「その……できれば恭しい口調ではなく、今後砕けた口調で私と話をして頂きたいのです」
「砕けた口調でですか?」
「はい……ダメ、でしょうか?」
懇願するようにエリザは私の顔を覗き込む。
その潤んだ瞳で見つめられ、私は思わずたじろいでしまった。
私は少しだけ考える素振りをしてから____
「その……分かったよ、エリザ」
「……! はい!」
彼女の要望に応えることにする。
私が砕けた口調で話しかけると、エリザはこの上なく嬉し気な笑みを浮かべ大きく頷いた。
「あの、エリザ……貴方の事、エリザじゃなくて……エリーって呼んでいいかな?」
頬を赤く染めるエリザに提案する私。この際だから、彼女に対し別の呼び名を使いたかった。エリザという名前は私の義母の名前でもあり、あまり口にしたくはないものだったからだ。
少女の頬が更に赤みを増す。
「……ミ、ミシェル様……い、今何と……」
「その、貴方の事、エリーって呼んでいいかって……」
時間が止まったような一拍があり____
「……ぜ、是非!」
エリザは身を乗り出して私の手を握った。
「その、是非とも私の事はエリーとお呼びください!」
「う、うん」
ぐいぐいと身体を寄せて来るエリザ改めエリーに、私は気後れして身を引く。
「ミシェル様!」
「ど、どうしたの、エリー」
「も、もう一度エリーと!」
「エリー」
「もう一度!」
「……エリー」
エリーは恍惚とした笑みを浮かべている。
それから我に返って、人前で子供のようにはしゃぐ自分を恥じてか、テーブルに顔を真っ赤にさせて伏せた。
彼女の口からか細い声が漏れる。
「……す、すみません……恥ずかしげもなく舞い上がってしまって」
「う、うん」
しゅんとなるエリーを私は微笑まし気に見ていた。
エリーという愛称を気に入って貰えて、私はとても嬉しかった。
「私、初めてです」
「?」
「人生で初めてお友達が出来ました」
私はエリーのその言葉にポカンと口を開けてしまった。
……友達?
「ミシェル様、どうなさいました?」
「あ、いや」
呆然と固まる私に首を傾げるエリー。
私は恐る恐る____
「……今、友達って言ったよね?」
「はい! ……お恥ずかしながら、私今までお友達が出来たことなどなくて……その……ミシェル様が私の初めての……」
「……」
「……ミシェル様?」
不安げなエリーの表情に私ははっとなって、慌てて口を開く。
「え、えと」
「ミシェル様……お嫌ですか……私とお友達など……?」
「い、いや! そんな事はないよ!」
必死に否定する私。
私は今どんな顔をしているだろうか?
エリーに友達だと言われたのは正直とても嬉しい。
だが、それと同時に私は以前の嫌な記憶を呼び起こしてしまっていた。
マリア・ベクスヒル。私をイジメるかつての友人。彼女との思い出が波のように押し寄せ、私は喉元を締め上げられたかのような苦痛を感じていた。
あの時____マリアとの時もそうだった。マリアは“ドンカスターの白銀の薔薇”と呼ばれていた私に尊敬の眼差しを向け、丁度今のエリーのような調子で私と友達になりたいと人懐っこく迫って来た。
エリーとマリア。二人の姿が被り、私は嫌な想像をしてしまう。
エリーもまた、真実を知った途端、私に軽蔑の視線を向けるのではないか?
それは耐え難い苦痛だ。
ごくりと唾を飲み込む。私はエリーを試すことにした。
「エリー……実は私……」
「……?」
「実は……」
真実を話そうと口を開くも、私の言葉はその喉元で引っ掛かり、正常に紡がれることはなかった。
「……」
「……どうかなされましたか?」
「……実は」
私は唇を噛んで____
「実は……私も友達が出来たのはこれが初めてで……」
本来言うべき筈だった真実とは別の言葉を告げる。
「そ、その……私なんかで……良いのかなって……貴方の友達になって」
私はやましさからエリーと目を合わさずに口を動かす。
エリーはというと……
「私がミシェル様の初めての……!」
感激するように少女は口元を両手で押さえていた。
それからやや真剣な口調に切り替えて____
「ミシェル様……勝手な想像ですが……今までミシェル様の身には大変な苦労が降りかかって来たものだと思います。それでミシェル様は必要以上に自らを卑下するようになったものだと。ですが、貴方様はとても素晴らしいお人です。ミシェル様とお友達になれるのならば……これ以上の幸福はございません!」
強く私の手を握るエリーに、私の罪悪感は尚の事強くなった。
真実を____私が男性であるという事実を打ち明かしたいが……それは出来なかった。
騎士団の一員として、一般市民に国際条約違反となる自分の秘密を明らかにするのも勿論不味かったが____それ以上に怖かったのだ。今ここで、全てを告げて……彼女に拒絶されることが。
罪悪感と恐怖で私の手は病魔に冒された時のように震えていた。
エリーがその様子を心配し、「大丈夫ですか?」と声を掛けるが、私は幽霊のように生気の抜けた笑みを辛うじて返すだけだった。
「エリーと友達になれて……貴方が私の初めての友達で……とても嬉しいよ」
「……!」
エリーは言葉にならない歓喜の声を喉元から発した。至上の喜びに浸る彼女は、天使と見紛う程無邪気で、美しかった。
エリーと同様、私もこの上ない幸福の中にいた。彼女と友達になれるのならば、これ以上の幸せは無い様に思えるほどだった。
しかし、その温かい幸せの中、自分の中に潜む明かせない秘密が暗雲のように心の中に立ち込め、拭えない罪悪感で私を押しつぶそうとした。
判然としない心境の中、私達は店を出る。
午後は用事があるとエリーは言うので、彼女とはすぐに別れることになった。
一人きり____いや、カネサダと二人きりになり、私は腰元の鞘に目掛けて声を掛ける。
「……友達ができた」
『おう! 良かったじゃねえか!』
カネサダから祝福の言葉を投げかけられる。
『しかも超美人だったじゃねえか! 将来はもっと美人になるぜ、ありゃ!』
「……うん」
私はカネサダの言葉に同意する。エリーは美しい金髪と人形のように整った顔を持つ少女で、まだ幼さは残るものの将来はその妖艶な美貌で数多の男性を魅了することは必至だった。
『アイリスと言いエリザと言い、モテ期到来ってやつだな!』
「……モテ期? 私が?」
私は反応に困り頬を掻いた。
『なんで、アイリスやエリザがお前にあんなにも好意を寄せているか分かるか?』
カネサダがそのように問うので、私は少しだけ唸ってからその答えを口にする。
「……それは……ピンチを助けてあげたから……じゃないの?」
『それだけじゃねえよ』
ぴしゃりとカネサダが告げる。
『力だ』
「……力?」
『人間ってもんは善悪を問わず強い力に惹かれる。この俺を振るうお前の研ぎ澄まされた力に、奴らは惚れこんでいるんだ』
何とも風情のないことを。
そう思ったが、私の中で何か納得するものがあった。
「私が貴方に惚れた理由と似ているね」
『お、おう……お前、そう言うこと恥ずかしげもなく言うんだな』
カネサダが若干狼狽えてから咳払いを一つして____
『力を示せ、ミカ』
「……」
『お前が強い人間だという事を周囲に示すんだ。それがお前の環境を変える。強者たるお前を虐げる者はいつしかいなくなる』
「……うん」
私は目を瞑り、カネサダの言葉に頷いた。
力を示す____そのことの重要性が、今なら分かる気がする。