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トラップ・アンド・ブレイド~男の娘と復讐の刀~  作者: ラプラシアン蒼井
第四幕 天使の時代
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第七話「獣の主」

 研究施設の牢屋で囚われの身となっていたミーア、ルイス、セイラの元マーサ隊の騎士達三人を解放する。


「……ありがとう」


 疲れ果てた様子のミーアがぼそりと感謝の言葉を呟く。


「というか、結局アンタらは何なのよ。騎士団に背く様な真似をして大丈夫なの?」


 牢屋の暗闇の中で私はミーアに人差し指を立てる。


「一つ約束して。ここから脱出して目的地に到達するまで一切喋らない事。特に私達の名前は絶対に口にしないで」


 私の指示にミーアが静かに頷いた。彼女達が口を滑らせた所為で私達の正体がバレてしまう事態は避けたい。


「行くよ」


 皆を引き連れ、牢屋を抜け出す私。再び、視界に光が戻る。そして____


「……!」


 眼前に鋭い銀の刃が迫る。


「このッ!」


 危機一髪、横薙ぎの一閃をバックステップで躱し、カネサダを抜刀する私。


 立ち並ぶ水槽。多くの魔物達が眠りにつく異様な空間で剣を抜き放ち佇む集団がいた。相変わらずの出会い頭の不意打ち。ラ・ギヨティーヌだ。


「躱されたか」


 私に不意打ちを放った騎士がつまらなそうに呟く。


「気配は完全に消していたのだが」

「……」


 私は額の汗を拭い、騎士に剣を突き付ける。心臓に悪い。私の反射神経を以てしてもギリギリの回避だった。敵ながら称賛に値する。


「貴様達を舐めていた。今度はこちらも万全の態勢で行かせて貰う」


 疾駆し、剣を振るう騎士。隙だらけだ。私は再びその一撃を躱し、反撃の峰打ちを放つ。


「……!」


 目を見開く私。カネサダの峰は騎士の胴体へと吸い込まれていく。いや、違う____それは騎士本人ではなく騎士の幻影に過ぎなかった。


『幻だ!』


 カネサダの声と同時に鋭い刃が私の首筋を裂いた。鮮血が噴き出し、一瞬の怯みを見せる私に第二の斬撃が迫る。


『馬鹿! それも幻だぞ!』


 再びの相棒の叱責。正面から迫る刃は突き出したカネサダの胴をすり抜け、代わりに真横から新たな刃が出現した。


 回避が間に合わない____


「このッ」

「……!」


 身体を反らす私。騎士の剣がその肩口を抉る。しかし、同時に私はその剣身を掌で捉えた。


「捕まえたぞ」


 驚愕で目を見開く騎士の喉元を掴んで締め上げる。首筋と肩口から大量の血潮が噴き出す中、私は彼女の身体を地面へと叩き付けた。


 鈍い音と共に床が砕け、騎士は気絶する。私はすぐさま魔導核(ケントゥルム)に意識を集中し、“超変化”の力で身体を癒した。


 一瞬の内に再生する私の身体にラ・ギヨティーヌがどよめく。


「……幻術か……何ともまあ……ラ・ギヨティーヌらしい」


 そのずば抜けた戦闘能力もさることながら、ラ・ギヨティーヌの真価は搦め手にある。さしもの私もその闇討ちには後手に回らざるを得ない。


 床を汚す自身の血痕を踏みしめ、カネサダを構え直す私。


「怯むな! 掛かれ!」


 掛け声と共にラ・ギヨティーヌが攻勢に出る。私は皆に目配せをして、こちらの戦闘態勢を整えさせた。


 前衛が私とサラ。後衛のアイリス、アリア、ドロテアがその援護に回る。


「もう一度返り討ちにしてやるわ」


 意気込んで敵に疾駆するサラ。ラ・ギヨティーヌは案の定幻術でこちらを翻弄しに掛かるが、種があると分かっている以上対処の余裕がある。


「後衛、色煙を!」


 私の命令と共に後衛のアイリス、アリア、ドロテアが魔法で色煙を発生させ、風の魔法で前方へとそれを送り込んだ。


 迫り来る濃煙を受け、ラ・ギヨティーヌが出現させた幻の姿形が歪む。実体のない影は色煙の干渉に耐え切れなかったようだ。


「口ほどにも無いわね、アンタら!」


 サラが鬼神の如く暴れ回る。公安試作隊のメンバーの中でもずば抜けて戦闘能力が高い彼女の動きにラ・ギヨティーヌは為す術もない。その猛攻に私も加わることで敵は総崩れとなる。


「くそッ……何なんだコイツら……!」


 悪態を吐きながらじりじりと後退するラ・ギヨティーヌ。一人また一人と倒れていく。勝敗は直に決するように思えた。


「全く、何をやっているんだお前たちは」


 その時だ。室内に低い声が響いた。男性のものだ。


「ラ・ギヨティーヌが何てザマだ。最強の暗殺部隊が聞いて呆れる」


 視線を出入り口の方へと向ける。白衣を身に纏い、両手をズボンのポケットに収める若い男性がそこにはいた。その身なりからして恐らくは施設の研究者の一人であろう。


「も、申し訳ございません、ヴィクトル様」


 ラ・ギヨティーヌの一人が頭を下げると、ヴィクトルと呼ばれた男性は大きな溜息を吐き、気だるげな目をこちらに向けた。


「で……何者だ、仮面のお前たちは」

「……」

「研究所を荒らさないで貰えるか。それと、そこのサンプル達(、、、、、)を勝手に持って行かないで欲しい。後少しで研究は完成する所なんだ」


 サンプルとはミーア達の事を指して言っているのだろう。人間をサンプル呼ばわりとは。男の人間性が窺えた。


「“貴方こそ何者だ?”」


 ヨルムンガンディア語でヴィクトルに尋ねる私。男は肩をすくめて____


「何だそのヨルムンガンディア語は? 現地の人間の発音はそんなじゃないぞ。もしかしてヨルムンガンディア人の振りでもしているのか?」

「……」


 下手をしたか。ヴィクトルはヨルムンガンディア語に堪能なようだ。こちらの欺瞞を一瞬で見破ってしまった。


「俺はヴィクトル・ベクスヒル。この研究施設の主任研究員だ」

「……ベクスヒル」

「四大騎士名家が第二席ベクスヒル家の人間さ」


 悠々と自己紹介をするヴィクトルに私は目を細める。ラ・ギヨティーヌを圧倒する謎の集団を前にしても余裕を崩さない飄々とした態度。まるで人間味を感じない。


「んで、お前たちの正体は____って素直に答える訳ないか。そんな仮面着けてるわけだし」


 ヴィクトルは床に倒れている騎士達を眺めながら、腕を組んだ。


「まあ、お前達が何者かなんて関係ない。それを調べるのは俺の仕事じゃないからな。……ただし」


 ヴィクトルの身体から魔導の力が溢れ出る。その異様な魔導波に身構える私。


「俺の研究の邪魔をする奴は誰であろうと排除する」


 その言葉と共に水槽の一つが眩い輝きを放ち、砕け散った。中の液体が周囲に漏れ出し、眠りについていた狼の魔物が雄叫びと共に床の上に躍り出る。


「食い殺せ」


 魔物とヴィクトルとの間には奇妙な魔導の繋がりが存在していた。男の身体には“パック・アルファ”が埋め込まれているのだ。それが眼前の“パック・モンスター”との従属関係を形成しているようだ。


 ヴィクトルの命令を受け、狼の魔物が私の元に疾駆する。見た目は一般的なアサルトウルフ。しかし、“パック・モンスター”である以上何かしら特別な能力が与えられているのだろう。


 私はひらりと魔物の一噛みを回避し、反撃の刃をその身体に放った。


 血飛沫が視界を赤く染める。致命傷を負った筈の魔物は、しかしその動きが止まることは無かった。


 反撃として、憤った爪が私の身に迫る。


「……コイツも不死身か」


 魔物の前脚をカネサダで切断する事でその攻撃を防ぐ。だが、次の瞬間、切り離された魔物の部位が煙のように消滅したかと思うと、本体は身体の欠損を回復させ元の状態に戻っていた。


 先程沼地で出会った個体と同様、不死身の“パック・モンスター”だ。


「ならば」


 対策は既にある。狙いは魔導核(ケントゥルム)だ。そこを破壊すれば、不死身の魔物も息絶える。


 背後に一度跳躍。カネサダを構え直し、その切っ先を魔物へと向ける。そして狙いすました一突きを魔導核(ケントゥルム)に放った。


 魔物は断末魔と共に地に倒れ伏し、そのまま動かなくなる。


「ほお……強いな、お前。素直に驚いたよ」


 腕を組み、ヴィクトルが感心したように私を見つめていた。


「表に配置していた個体を倒したのもお前だな。ラ・ギヨティーヌが苦戦するのも分かる」


 一人納得するように頷くヴィクトルは視線を一つの水槽に向ける。


「まあ、今のはほんの小手調べだ。次はコイツを使わせて貰う」


 再び水槽が砕け散り、中から魔物が出現する。今度は巨大な蛇だ。細長い舌をチラつかせながら、不気味に床上を這いまわっている。


 震える地面。


 黒い大蛇は徐々にその身体を巨大化させていった。切れ長の目がこちらを睨む。私は地を蹴り、黒くて長い胴体に鋭い一閃をお見舞いした。


 両断される大蛇。しかし、予想通りと言うべきか、二つの切断面からは触手が伸びて絡み合い、すぐさま結合して元の状態に回復してしまった。


「そこか」


 回復の瞬間、大きな魔導の力が働く。大蛇から魔導核(ケントゥルム)の場所を探る私。目的の物は魔物の頭部に存在していた。


 攻略方法は同じだ。魔導核(ケントゥルム)を破壊する。それで大蛇は絶命するのだ。


 滑る胴体を蹴り、宙へと跳躍する。白銀の刃を一閃し、魔導核(ケントゥルム)を斬り伏せた。


「……!」


 魔導核(ケントゥルム)は破壊した。それなのに大蛇は再生し、のみならず頭部が二つに分裂してそれぞれが私に襲い掛かる。


 双頭の出現にど肝を抜かれた私は、片方の蛇の頭に噛みつかれ、咄嗟にその顎を振り解いた。


 着地し、大蛇を見上げる。神経を研ぎ澄ませ、魔導の感知能力を上げると、破壊した筈の魔導核(ケントゥルム)が無事である事に気が付いた。


「驚いただろ。魔導核(ケントゥルム)を狙ってもソイツは殺せないぞ。再生するからな」


 自慢げに告げるヴィクトル。私はその言葉に目を見開いた。魔導核(ケントゥルム)を破壊しても絶命しない。それは正真正銘の不死身に他ならなかった。


 再び、双頭の大蛇が迫る。カネサダで両の頭部を切断し、次いで首の又部へと移動していた魔導核(ケントゥルム)にも一撃を加えた。


「……駄目か」


 先程の繰り返しだ。頭部は復活し、魔導核(ケントゥルム)も再生した。


「見事な剣技だ。それと、それはアウレアソル皇国の刀剣だな。流れるような白銀の剣筋。芸術的ですらある」


 鑑賞するようにヴィクトルは呟く。やはりこの男、何処か異質だ。生身の人間に感じる温かみがない。


 その後も大蛇と攻防を繰り広げていた私だが、その身を絶命に至らせることは出来なかった。仲間の遠距離魔法攻撃の援護を受けつつ、何度も何度も魔物に致命傷を与える。しかし、成果は一向に出ない。


 ……やはり、本当に不死身なのか。


「そんな相手……どうすれば」

『おいおい、しっかりしてくれよ、ミカ』


 呆れた声のカネサダ。


『お前ともあろう者が気付いていないのか』

「……?」

『魔導の力の流れをもっとしっかり辿れ』


 カネサダの忠告を聞きつつ、大蛇の魔導核(ケントゥルム)に一撃を加える。その身体の再生が始まる瞬間、私は魔導の力の流れに意識を集中させた。


 魔導核(ケントゥルム)復元の折、異常な量の魔導の力がヴィクトルから大蛇へと供給される。


 私ははっとなり____


「何やってんだよ、私」


 自身を叱責する。どうやら私は視野が狭くなっていたようだ。


 何てことはない。大蛇は不死身などではなかった。魔導核(ケントゥルム)の再生は魔物自身によるものではなく、その操り主であるヴィクトルによって行われていたのだ。


 不死身の大蛇であると言う思い込み。私のポカでもあるが、ヴィクトルの超然とした態度もそれを引き起こした要因であろう。


 何はともあれ種は明らかになった。


 大蛇の魔導核(ケントゥルム)がその操り主によって再生させられているのであれば____


「そこッ!」


 大蛇に突撃する振りをしてヴィクトルの元まで疾駆する。再生の源を叩くために。


「ようやく俺を狙いに来たか。案外愚鈍だなお前は」


 私の突撃はヴィクトルの両脇に控えていた騎士達に止められてしまった。鍔迫り合いを演じている内に、背後から大蛇の双頭が私に迫る。


「……ッ」


 ラ・ギヨティーヌを相手にしていたためか、不意の大蛇の牙を肩口に喰らってしまう。私はカネサダを縦横無尽に振り回して敵を牽制しつつ、跳躍して後退をした。


 大蛇とラ・ギヨティーヌから距離を取った所で眩暈を覚える私。


 毒だ。恐らくは大蛇の牙によるもの。私は魔導核(ケントゥルム)から“超変化”の力を引き出し、状態を回復する。


 ヴィクトルが顎に手を添えて____


「ん? お前、今何をした?」


 興味深そうに私を見つめる男は自身の危険も顧みずじりじりとこちらに歩み寄る。


「コイツの毒牙を二度受けても平気だとは。さっき妙な魔導波を放っていたな。その力は何だ?」


 “固有魔法”の力を感知したらしい。未知の魔導の力にヴィクトルは興味津々の様子だった。


 質問には答えず、私は再度突撃を試みる。


「皆、援護を!」


 大蛇と数人のラ・ギヨティーヌをサラの白兵戦とアイリス、アリア、ドロテアの遠距離魔法攻撃で押さえて貰う。


「邪魔だ!」


 その隙に、行く手を塞ぐ騎士を押し退け、ヴィクトルへと峰打ちを放つ。


「……ッ」


 しかし、私が放った峰打ちはヴィクトルが展開した魔導装甲に阻まれてしまう。刃での一撃ではないにしても、剣撃が男に無効化されたことに私は目を見開いた。


「何驚いてんだ。自衛くらい出来るんだよ。言っておくが、魔導の扱いならそこいらの魔導騎士より俺は上だぞ」


 余裕の表情のヴィクトル。私はカネサダを持ち替え、刃で魔導装甲を破壊しようとして____


「うわあ!?」


 背後から迫り来る無数の蛇の頭の存在に気が付く。それぞれの大きさは親指程度。それらが口を広げて一斉に私の身に殺到していた。あまりに気持ちの悪い光景に悲鳴を上げてしまう。


「ああ、くそっ! 気持ち悪ッ!」


 小蛇達の身体は大蛇の胴体まで続き、そこで繋がっていた。魔物の本体から分裂しているのだ。


 白刃を振り回し、小蛇達を切断する。しかし、本体から切り離されてもしばらくの間は分体にも意識があるらしく、多くの蛇達が私の身体に喰らい付いた。


 激しい眩暈に襲われる。蛇の毒だ。大量の毒に意識が混濁し始める私。危機感と蛇に対する嫌悪感から“超変化”の過剰な力を解放してしまう。


 眩い輝き一つ。胸の内側の魔導核(ケントゥルム)が異常な魔導の力を発した。


 衣服を突き破り、白銀の片翼が私の背中から出現する。翼は巨大化し、羽根の一つ一つが意思を得たかのように伸びて小蛇達に襲い掛かり____それらを自身の一部として取り込んだ。


 翼は歪な変化を為す。先端部分が捻じれて猛獣の様な顎を形成し、大蛇へと走り、その魔導核(ケントゥルム)に喰らい付いた。


「……!? ……な……何だと」


 大蛇を捕食する白銀の翼にヴィクトルが呆然と呟く。


 大蛇の魔導核(ケントゥルム)を取り込んだ所で、私は正気を取り戻し、すぐさま“超変化”の力で元の姿に戻った。


 静寂が空間を支配する。心臓である魔導核(ケントゥルム)を失った大蛇の死骸から大量の血液が溢れ出て床を汚した。


 溜息を吐く私。正体を秘匿するため“超変化”の力は控えていたのだが、毒による思考能力の低下でつい本来の力を解放してしまった。


 しかし、まあ……こうでもしなければ大蛇は倒せなかったのかも知れない。


 大蛇が果てた事で勝敗は決した。敗北を察したラ・ギヨティーヌが撤退を開始する。


 そんな中、ヴィクトルはじっと佇み私に拍手を送った。


「素晴らしい」


 大蛇が息絶え、護衛のラ・ギヨティーヌも消えたと言うのにヴィクトルはたじろがない。どころか、喜びをその顔に浮かべているようであった。


 何かまだ隠し玉があるのか。その異常な様子に警戒し、カネサダを構え直す私。


「余裕の態度だな。もうそっちの敗北じゃないのか?」

「ん、ああ……」


 とぼけた声を漏らすヴィクトル。


「お前達の正体は分からんが、一つだけ判明していることがある。それはお前達が人殺しを行わないってことだ」


 ざっと周囲を見回し、ヴィクトルは説明口調で話す。床に転がる騎士達は誰一人として命を落としていない。ただ気を失っているだけだ。


「任務上の理由かあるいは特別な信条があって殺しはしないんだろ。だったら俺が殺されることもないって訳だ」


 それが余裕の態度の理由か……とも納得しかけたが、やはりこの男、人間味がまるで感じられない。敗北を喫したと言うのに平然としている。


「お前達の目的は研究資料を奪い取って行く事だな。だったら、持ってくもん持ってって早く失せちまえよ」

「……」

「上は不服だろうが俺からしたら機密の保持なんてものはどうでも良い事なんだ。まあ、そこのサンプル共を持ってかれるのはちと勿体無い事だが」


 組織人としての自覚がないのか。興味なさげにヴィクトルは告げる。そして一転、少年の様に瞳を輝かせ____


「それよりも凄いなお前。何だ今のは」

「……!? な、おい……ち、近付くな!」


 全くの無警戒で私の身体に触れようとするヴィクトル。私は驚いて背後に跳躍した。


「生まれて初めてかも知れねえな。人間の事を美しいと思えたのは。上手く言えねえが……何て言うか、お前は俺が考える理想の生物に近い」


 よく分からない称賛を貰う。何なんだ、この男は。


「今日は良いもん見せて貰った。同じ世界に生きてんだ。きっと俺達はまた会える。その時を楽しみにしてるぜ」


 カネサダを振りかぶる私。ヴィクトルはこちらを見つめたままズボンのポケットに手を突っ込んでいた。


 私は生唾を飲んで尋ねる。


「抵抗しないのか?」

「あの切り札がやられた時点でもう終わりだ。まともにやり合って俺が勝てる訳ねえだろ。時間の無駄だ。気絶させるなら早くしろ」


 あっさりとした返答。


 肩をすくめるヴィクトルに私は峰打ちをお見舞いする。呆気なく床に崩れ落ちる男。私は動かぬヴィクトルに嫌悪の目を向けた。


「何なんだ、コイツは」


 変人だった。それもカネサダとは違い人間味がないタイプの。およそ生き物を相手に話をしている気分にはなれなかった。


『良くも悪くも科学者らしい奴だったな』

「……そうだね」


 カネサダの言葉に頷く。マッドサイエンティストの一例なのかも知れない。


 兎にも角にも、脅威を退けた。早い所ミーア達を引き連れて研究所から抜け出したい。


「行くよ、皆」


 仲間達に呼びかけ、移動を再開する。

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