表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラップ・アンド・ブレイド~男の娘と復讐の刀~  作者: ラプラシアン蒼井
第三幕 義母に与える鉄槌
104/154

第九話「仲間を求めて 後編」

 ノルマである5人の公安試作隊員の確保に成功した私であるが、引き続き勧誘活動を続ける。


 今までの私は、その境遇故に他者との積極的な関りを持たなかった。しかし、これからはそうは言っていられない。公安試作隊隊長として他者との繋がりの輪を広げ、人望を獲得しなければ。そうしなければ、隊員もこれ以上増やせない。


 と言う訳で、まずは手始めにエストフルト第一兵舎に新規入舎したラピス隊と八夜隊の騎士達とコミュニケーションを取ることにした。


 任務の合間____


「もうこの兵舎の環境には慣れましたか?」


 私が声を掛けたのは4人で固まって駄弁っていた新規入舎の騎士達だ。貴族や先輩騎士もいるので初めは丁寧な口調を心掛ける。


 突然話を振られ、彼女達は顔を見合わせた。その内の一人が口を開く。


「はい……ぼちぼち、ですね」


 私に声を掛けられたのがそんなにも意外だったのか、困惑気味な返答が返ってくる。


「どうですか、ここの居心地は? 何か困ったこととかありませんか?」


 出来る限り自然な笑みを浮かべ、私は騎士達に言い寄る。普段の私ならば決してしない行動だ。自分から仲良くもない他人に話を振るなど。


 だが、任務だと思えば……ある程度の無理は出来る。柄にもない事だが、友好的に他人に接する事は可能だ。


「困った事ですか……いえ、特にないですね」

「どんなに小さな事でも構いません。相談に乗りますよ。例えば……えーと、ラピス隊長、いつも仏頂面で何か取っ付き辛い感じがしませんか?」

「ラピス隊長? あー……確かに……何か、凄い緊張するんだよね、あの人」


 会話が途切れないように私は必死に話題を提供する。


「あの人、ちょっと怖い感じがする。……チャーストン家の人間だし、怒らせるとヤバそう」

「と言うか、ラピス隊長に限らずこの兵舎には家柄の良い人が大勢いるから、何だから委縮しちゃうかも」

「マリア副隊長ってベクスヒル本家次期当主なんだよね。失礼があったら大変」


 他の騎士達も話に加わる。私は会話に取り残されないように口を挟んだ。


「ラピス隊長にもマリアにも、何か用事があって、でも話し掛け辛い時は私を通してよ。私ならこんなだし気軽に話し掛けられるでしょ」


 私の言葉に一同は顔を見合わせた。


「貴方……ミシェル、さんは……あの“ドンカスターの白銀の薔薇”なんだよね?」

「ラ・ギヨティーヌの一部隊を単独で制圧した鬼神のような人だって……」

「元とは言え……四大騎士名家の人間。八夜隊長にもお姉様って呼ばれてる」


 皆から一斉に畏れの眼差しを向けられる。侮蔑よりはましだが、もっと親しみを得なければならない。


「そんなに身構えなくても良いのに。あ、そうだ。皆、ここに来る前は何処にいたの? 余所の兵舎の話とか聞きたいな」


 兎に角、積極的にコミュニケーションを取りに行く。例え、拒絶されても。


 話し掛けに行くのは辛いし面倒だが____これは“闘い”なのだ。これからは剣を握らない闘いが増えてくる。たった一つの力____暴力で切り拓いたここまでの道。今後もその力に大きく頼ることにはなるだろうが、私の“選択”した未来はそれだけでは罷り通らない。様々な力が私には必要になる。だから、避けては通れないのだ……暴力のぶつかり合い以外の闘いを。


 公安試作隊の勧誘活動開始から数日が経過____


 不格好ながらも私は自分を変えていった。その甲斐あってか、兵舎内で私は徐々に他の騎士達に受け入れられ始めて行く。全員からという訳ではないが、数人から親し気に声を掛けられるようになった。


 やがて休日、即ちエリーとの約束の日が訪れる。


 結果として、5人以外の追加勧誘は行わなかったが、これからの活動の土台は出来た。同じ兵舎に在籍する騎士達の事をこれからじっくり理解していこう。そして、信頼に値する者達を公安試作隊の仲間に加えるのだ。


 私服姿の私が向かう先はフィッツロイ家の別宅屋敷。前日の午後、エリーに手紙で集合場所を指定された。騎士団と、そしてガブリエラと激戦を繰り広げた場所だ。敷地内に足を踏み入れると感慨深さを覚えた。


「お待ちしておりました、ミシェル様」


 執事に案内を受け、私は屋敷の一室を訪れる。エリーが声を弾ませて私を出迎えた。室内を見渡すと、エリー以外にもルカとカエデのフィッツロイ母娘がいる。


「こんにちは、エリー。お久しぶりですカエデさん、ルカ様」


 頭を下げ、私は皆に挨拶をする。そしてエリーに近付き、その耳にこっそりと____


「彼女達は……」

「お二方は既に私達の仲間で、公安部の事情も把握済みです。なので、話し合いの場にこの屋敷を提供して貰いました」


 知らぬ間にエリーはルカとカエデを仲間に引き入れていたらしい。彼女達母娘ならば十分信頼できるので、問題はないが。


「エリザベス殿下____エリザ様の言う通り、私達も公安部の一員となりました。実働部隊には属しませんが、精一杯サポートをさせて頂きます。どうかよろしくお願いいたしますね、ミシェル隊長」


 にこやかな笑顔を浮かべ、ルカが私にお辞儀する。


「今はまだ首都エストフルトでの活動が限界ですが、いずれその範囲を拡大させる時、ルカ様とカエデ様の力が必要になります。彼女達のコネが」


 エリーはそう言って、私と母娘達の握手を促した。二人と手を握り合い、私はその頼もしさを感じる。


「さて早速ですが、勧誘活動の報告をお願いします」


 挨拶も済んだので、公安試作隊の勧誘活動の報告へと移る。


 私はあまり言葉を飾らず淡々と勧誘した仲間達とその時の状況をエリーに伝えた。ちなみに、秀蓮(シュウリエン)の事情も話す。


「勧誘活動お疲れさまでした、ミシェル様」


 報告を終える私。エリーは第一声で私を労った。


「この短期間でよく人員を集めて下さいましたね。秀蓮(シュウリエン)様に関してはお望み通り図らせて頂きます。彼女の事はお任せを」

「集めたって言うか……仲良しグループに声を掛けただけだけどね」


 出来れば追加の隊員を得たかったが、それは叶わなかった。


「エリー、実は“黙示録の四騎士”の事で新しい情報があるんだけど」

「“黙示録の四騎士”の情報ですか?」


 公安試作隊隊長として、報告の義務があるだろう。私はマリアから聞かされた新情報とそれに対する自分の見解を述べた。


「アンドーヴァー家が“剣”。ベクスヒル家が“獣”。チャーストン家が“飢饉”。ドンカスター家が“疫病”。それぞれが各計画の柱となっている____ですか」


 考え込むエリー。そこに口を挟んだのはルカだった。


「四大騎士名家が様々な研究機関に対し莫大な投資や援助を行っているのは、騎士団上層部内では有名な話です。それ故に“黙示録の四騎士”も眉唾な噂話として語られてきました。……まさか、それが真実だとは驚きでしたが」


 ルカは切れの悪い口調になり、言葉を続ける。


「四大騎士名家の研究成果が我々リントブルミア人、そして人類に多大な進歩と利益をもたらしたのは事実です。取り分け、アンドーヴァー家の研究は魔導乙女騎士の心臓とも言える複十字型人工魔導核ダブルクロス・フェクトケントゥルムの誕生に大きく寄与しましたし、ドンカスター家の研究は病原菌と言う存在の発見に繋がり、人類の医学を大きく前進させました。……なので、複雑な心境です。誇りある祖国の研究の背後に、良からぬ企みが潜んでいたなど」


 リントブルミア王国は今や科学先進国の仲間入りを果たしている。ルカの夫の十郎は元はと言えばその知識を学ぶためにこちらにやって来たアウレアソル皇国の留学生だった。


 ルカにとって、四大騎士名家の研究がもたらす人類への貢献と恩恵は祖国の誇りだったのだろう。そこに暗い陰謀の影を見て、少なからずショックを受けているようだ。


「研究そのものは悪ではありません。しかし、その行き着く先に看過できぬ企みが待ち受けているのであれば、これは断固として阻止すべきです」

「その過程に犠牲があるのならば尚更ですね」


 ルカの言葉にエリーが言い添える。


「リッシュランパー地方で発生している食糧不足は“飢饉”の計画の実験によるものだと情報が入っています。既に多くの罪なき者達が飢えに苦しんでいる状態。このような犠牲を強いる“黙示録の四騎士”の研究は決して許されないものです」


 毅然とした態度と口調でエリーは私に告げる。


「リントブルミア魔導乙女騎士団公安部部長エリザベス・リントブルムが次なる任務を言い渡します。公安試作隊隊長ミシェル殿、リッシュランパー地方にて“飢饉”の計画の調査を行って下さい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ