入学式そうそう監視対象に出会った
「おはようございますですの、蓮夜様」
「おはようなの、ロー」
「おはよう、朱莉、シャル」
一週間もすれば、すっかり二人がいる生活に慣れた。というか、いないことが考えられないレベルに慣れた。
「今日の朝飯何?」
ご飯は、毎食朱莉が担当。言い訳はする、俺もシャルも作ったら出来上がるのは物体X、とてもじゃないが、食べられるものが作れない。だから、毎食食事作りは、朱莉担当。
「今日は、洋風にクロワッサンとプレーンオムレツ、春キャベツのサラダとコンソメスープ、ロイヤルミルクティーですの」
いわれてみると、クロワッサンの甘いにおいと、コンソメの食欲をそそる匂いがする。一人で住んでた時は、食パンをトーストしたものか、菓子パンの2択だったから、朝から手の込んだものが出てくるのはうれしい。
「アカリー、早く食べたいなの」
「もうできましたの。あとは配膳するだけですの」
にっこり笑いながら、朱莉は次々と配膳していった。優雅にでも、ハイスピードの配膳は、一種の芸だな、芸。
「「「いただきます (ですの)(なの)」」」
「おいしいな」
クロワッサンは自家製なのにサクサク、コンソメスープは濃厚で、オムレツは半熟でトロトロ、サラダのキャベツはパリパリで、ロイヤルミルクティーはしっかりと良い香りがする。
「おいしいなの」
シャルも、満面の笑みを浮かべながら、クロワッサンをほおばっている。
「ありがとうですの。今日の朝ごはんのクロワッサンは自信作ですの」
シャルにも劣らない満面の笑みを浮かべて、朱莉はそう言った。確かにこのクロワッサンは、絶妙な焼き加減で、ものすごくおいしい。
「ロー、アカリ、今日の仕事について確認するなの」
シャルが、久々にまともそうなことを提案した。驚いて、コンソメスープを吹き出しそうになったのは内緒だ。
「そうですの、蓮夜様のお仕事は?」
「監視対象を見つけて、ある程度仲良くなってみること。それ以外は、特に接触しなくていい。だったよな?」
一応確認。まぁ、昨日の夜何回も確認したから、大丈夫だとは思うけど。
「そうですの。特に深入りする必要はないですの」
俺の仕事はあくまで監視ではなく、ただ監視をしている風に装い、七色の光のメンバーが、なぜ監視をとか、裏切り者の白虎家が何故一応後継者と俺を通わせているのかとか、いろいろ議論させるため、囮だ。
その為に、一見ではわからない、だけど詳しく調べるとぼろが出てくるプロフィールや、カラコンなし髪の色を電気系に多い金に染めるだけという手抜き変装、等々のいろいろ考えが膨らむような形にしている。
「わかってる」
深入りしすぎると、ほかの調査員たちが近寄りにくくなるからな。
「ローは、いろいろ忘れっぽいから注意なの」
こいつ、ちょっと雷浴びせてやろうか?
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「「「ご馳走様 (ですの)(なの)」」」
おいしかった。やっぱり、朱莉の作るものはうまい。
「おいしかった、朱莉」
「おいしかったなの」
「嬉しいですの。
って、蓮夜様、早く歯を磨いて、出たほうがいいですの。遅刻しますの」
え?今何時?割と余裕をもって起きたはずなんだけど……。アッ朝ご飯にかなり時間を割いてたな。
「わっまじか、すぐして出る」
入学式早々、遅刻はない。
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「行ってきまーす」
3分で、支度ができた。こういうところは昔のままにできた。やっぱり、体が覚えている。
「行ってらっしゃいですの」
「行ってらっしゃいなの」
朱莉は、洗い物をしながら、シャルは、だらテレビを見ながらそう言った。おいシャル、お前はもうちょっと朱莉を見習え。
「お前らは、今日何をするんだ?」
一応聞いておく。今日は入学式だから、昼飯事情があるからな。
「私たちは、近場の迷宮に潜りますの」
ここの近くに迷宮なんてあったのか!初めて知った。
「そうなの、ここ松濤だったなの?からすぐ近くの脅威度-B-の迷宮なの」
「松濤出会ってる。そんな脅威度の迷宮なんてあったか?」
脅威度-Bって、めっちゃやばいところだぞ。
「最近できた、宮下悪魔城という迷宮ですの」
「あー、結構前にニュースでやってた、悪魔系魔物が馬鹿みたいにわいてくるか」
ドン引きするくらいの、種類の多さだとか、WSNの掲示板に書かれていた。
「そうですの、パーティーは、活動停止していますが、私も、シャルもハンターとしては活動停止していないのですので、潜ることにしましたの」
「そうなの。WSNも、七色の虹の赤と水色を遊ばせておくつもりはないって言っているなの」
なるほど、確かにそうだな。七色の虹メンバーは、性格はともかく(こいつらも俺の前ではこれだが、外ではすごい性格をしている)、性能はいい。他メンバーが休養を取っていても、動かせるメンバーは、極力動かしたいとおもうのはとうぜんだ。
「なるほど、頑張れ。って、やばいってくる」
返事も聞かずに、そのまま飛び出した。のんびり話し込んでいる暇なかった。
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「ここが、国立関東異能力専門学校か」
俺と同じ、青い軍服風の制服を着た、色とりどりの髪色や目の色している生徒が、桜が舞い散る校門に吸い込まれていく。こんなにたくさんの、同い年の生徒を見るのは初めてだ。ハンター時代、周りはみんな大人ばっかりだったからな。
「でっけぇ」
俺同様に、目を丸くしている黒髪黒目の大して特徴のない顔立ちの少年がいた。こいつ、神澤海斗だ。入学式早々会うことになるとは……。探す手間が省けた。
「お前、ここの中等部上がりじゃないのか?」
知っているが、わざとらしさが無いように聞く。日本の関東圏の異能者は、魔物討伐斡旋会社に入っていない限り、ほとんど小等部や、中等部からこの学校に入る。中学生までは、非異能者と同じ学校ということもあるが、高校から、必ずここに入らなければいけないので、大体は、中等部から入れておく。
「えっ。あぁ、俺は去年能力に目覚めたから、それまで普通の学校に通ってたんだ。そっちこそ通ってななかったの?」
突然話しかけた俺に、驚きながらもちゃんと答えてくれた。こいつ、コミュ力高い奴だな。
「俺は、去年までWSNで、ハンターしてたから、学校に通ってなかったんだ」
12歳のころから、引きこもり始めたけど。
「え、まじ?凄いな。ランク、どうだったの?」
こいつ、コミュ力の化け物か何か?何か普通に、会話で来てるんですけど……。
「ランクは、D。もうちょっとでD+になりそうだったけど、学業試験のほうに落ちたから、ランク試験の前に、結構割がいい魔物倒せたから、活動休止して、学校に入ることにした」
俺の本来のランクは、S。最高ランクだ。間違わずに、ちゃんと言えてよかった。
「へぇー、普通の高校生が、E+くらいなんだろ。その年で、Dってすごいな」
こいつ、よく知ってるな。そいえば、こいつの義妹が、異能者か。
「去年まで、非異能者だったのに、よく知ってるな」
「俺の、義妹と幼馴染が異能者なんだ。それに俺の実家が剣術道場で、門下生からいろいろ聞いてたりしたんだ」
「へぇー、剣術道場なのか、すごいな。俺の家は、京都にあるけど普通の家だぞ」
全く普通じゃない、妻ラブの戦闘狂のおじいさまと、天然ふわふわおばあ様率いる戦闘狂集団出身だ。一応剣術指導はあるけど、剣術道場みたいに緩くはない。
「京都?それなら、関西圏の学校じゃないの?」
「あー、俺は、祖父母と京都に住んでいるのだが、ちょっと家出して関東を拠点にしているから、それで関東の高校に通うことにした。父母が、東京の人だから戸籍は大丈夫だからな。でも、一人暮らしだけど」
この言葉に嘘は一つもない。ただいま家出して、マンション買って一人暮らししてるし、父母が東京の人なのも本当。あったことはないけど……。
「ちゃんと、自立していてすごいな」
「一応な。稼ぎはあるし」
ちなみに、3年前までの年収は、0が9個はあった。だから、3年間散財しまくっても、大丈夫だったわけだ。
「異能者って、儲かるんだなぁ」
確かに、東京都心で一人ぐらし+高校の学費とか色々あるもんな。それを高校に入る前に入る前に稼ぐって、非異能者からするとすごく大変ってことなんだろうな。非異能者は、小学校と中学校は、アルバイトできないし。
「まぁ、Dランクぐらいになると、一人暮らしができるぐらいには稼げるからな。儲かるはもうかるけど、命の危険と隣り合わせだし、パーティーを組んだりすると人間関係が色々大変だ」
特に、俺が所属するパーティーでは、前衛と中衛で毎回喧嘩が勃発していた。自分が戦いたい、と。
「そっかハンターも楽じゃないんだな。楽に稼げる仕事って、ないんのかー」
しみじみといわれた。そうそう、そんな仕事があったら、俺は真っ先に転職する。
「ないない、そんな仕事があったら真っ先に転職してる」
「だよなー、そういえば、名前何?聞いてなかった」
あ、こいつの名前事前に、知ってるから名前伝えるの忘れてた。
「俺は斎藤蓮夜」
ちなみに偽名じゃない、親の苗字だ。俺は、祖父母の家に養子に出てるから、白虎を使ってだけだ。
「俺は神澤海斗、よろしくな」
「よろしく」
早速、仲良くなれた。幸先がいい。