めんどくさそうな仕事を押し付けられた
「どんな仕事だ?」
最初っから、脅威度Aランクの竜を10倒して来いとかだったら、死ぬ自信がある。俺は、引きこもりさして3年前に、ちょっと俺の霊装 妖刀血霧 に頼んで、力の大部分を封印してもらった。今の俺なら、脅威度Cランクに苦戦して勝てる、程度だ。
「潜入調査ですの」
はい?せんにゅうちょうさ?・・・・・・あー、潜入調査。俺と、潜入捜査。うん、真逆の言葉だ。
「いや、朱莉。お前何言ってんの?俺が潜入調査?無理無理無理」
俺の髪は、癖のある猫っ毛で白髪、目は釣り目がちな金、肌は色素がない白。見る人が見れば、白虎家出身と一目でわかる容姿をしている。潜入調査が必要なところには、この特徴を持つ日本人は白虎の家の出身だ、という知識を確実に持っている。だから、絶対に潜入調査には向かない。
「変装すれば、大丈夫なの」
いや、変装で隠せるのは髪と目だけ・・・・。あれ?意外といけるかも。肌の色は、男だからそれほど注目されないだろうし、外国の血が入っているって言ったら割とごまかせそう。
「潜入調査に入るとことは学校ですの。その学校を調査したところ、例外の異能者は買収しましたので、髪を染めて目にカラコンをつければ大丈夫ですの」
ばいしゅう・・・・あー買収。おい、それ犯罪。というか、買収までするなら、潜入調査する必要ある?
「それって、潜入調査するよりも、その買収した奴に見張ってもらったほうがよくないか?俺は、一回も潜入調査とかしたことないから、潜入調査のスキルなんてないぞ」
電気を操る能力は、割とそういうの向きだけど、俺の場合制御が下手すぎてちょっとやばいことになるし、欣莹の意向で、そういった依頼は受けないようにしていたし。
「欣莹曰く、潜入調査スキルがないほうが都合がいいそうですの」
はい?あのロリババァ頭おかしいの?とうとうぼけた?でも、1000年以上生きてるらしいから、ちょとぼけるの遅くない?
「なんで?とうとうぼけやがったか欣莹は」
ボケたのなら、今日はちょっと豪勢な夕食にしよう。今まで、あのロリババァのせいで死にかけたことが全部チャラになりそう。
「そんなわけないなの」
バッサリとシャルに意見を否定された。そんなことわかってる。あいつがぼけるときは、きっと世界の終わりだと思う。それくらい、頭がおかしい奴だ。
「冗談だ。あいつがぼけるときは世界の終わりだと思う」
「そうなの。リーダーがぼけることは永遠になさそうなの」
うんうん、と二人でうなずきあった。って、この話は置いといて。
「それで、なんで潜入調査スキルがないほうが、都合がいいんだ?」
あいつが、無駄なことをするはずがない。
「今回の潜入調査は、様々な魔物討伐斡旋会社の潜入調査員がかかわりますの。それで、WSNの調査員のかく乱のために、引きこもりの蓮夜様を欣莹が抜擢しましたの」
いろんな魔物討伐斡旋会社がかかわってくるって、どんな仕事なんだ?何かやばそうな匂いしかしないんですけど。
「潜入調査ってことはわかった。で、どんな仕事なんだ?」
殺しはあんまりしたくない。あれは死体処理とかいろいろ面倒だし、上から許可をもらっても寝覚めが悪いし。
「ある男子生徒の監視ですの。その方は特別監視対策に訓練を受けたわけでもない普通の方ですの」
そんな奴の監視?それなら簡単そうだな。俺でもできそう。でも待てよ……
「そんな簡単な依頼になんで、俺を借り出したんだ?「七色の虹」の「黄の雷神」を」
まぁ引きこもりだし、力も封印しているとはいえ、七色の虹のメンバーを借り出すほどではないはずだ。
「蓮夜様がそう思いになるのはごもっともですの。しかし、今回の依頼は特別ですの」
「特別?」
どういう意味だ?
「その男子生徒の名前は、神澤海斗。今年で16歳になり、東京都異能者専門学校に入学予定の、剣道道場の跡取りの異能者ですの」
「そこまでは、普通だな」
別に対して珍しいプロフィールじゃない。異能は、両親とも異能者なら90パーセント、片方なら40パーセントの確率で遺伝するから、異能者で、武道道場が、実家という話は珍しくない。
「そうですの。しかし、その異能が目覚めた時期が問題ですの」
「異能が目覚めたって……、異能は生まれつきだぞ。後天的にとかはあり得ない」
異能者の体は、非異能者とは、血液一滴、髪一本から全くと言っていいほど違う。後天的に目覚めたということは、体の細胞一個一個が生まれ変わったという意味だ。と、昔習った気がする。
「そうなんですの。しかし、それが事実ですの。最初はWSNもデマかと思ったらしいのですが、調べてみると事実だとわかって、授かっている異能の問題で、調査員が派遣されることになりましたの」
WSNが調べたのなら、事実なんだろうが、科学的にあり得るのかそんなこと……。それに、魔物討伐斡旋会社たちが、調査員を派遣しまくる異能も気になる。
「どんな異能の持ち主なんだ?」
「キスをした異性の能力を使えるようになり、その異性も彼に対する好感度に応じて、その能力が強くなるという能力ですの」
えっと……、どういうこと?
「えっと……、事実?」
「事実ですの。彼が異能者になったきっかけは、義理の妹が彼に偶然、キスをしたことがきっかけですの。詳細がわかったのは、相手の異能がわかる異能を持っている異能省の人間が、調べたところだそうですの」
どんな偶然があって、義理の妹とキスをする羽目になったのだろうか……。いったんそこは、豪が深そうだから置いておこう。ん?義理のってことは血がつながってないからまだセーフだセーフ。
「でも、その能力が何で監視対象なんだ?」
ちょっと、倫理的な問題がありそうな能力だとは思うけど……。
「この能力には、2点問題がありますの。
一つは、キスをした異性の能力を使うことができる。これは、理論上不可能とされている多重異能を疑似再現ができているということですの。
二つは、相手が彼に寄せる好感度に比例するバフ。彼の顔は、いたって平凡の域で、ものすごくモテるという顔立ちではないことは幸運ですが、精神系能力を掛け合わせると、大量兵器を生み出す可能性のある男ですの」
「なんで?」
というか、いたって平凡の域を出ない顔って評価ひどいな朱莉。
「好感度によって比例する。ということは、人の感情を操れる精神系能力者に、好感度をマックスに挙げてもらえば、どのくつらい強くなるのかは、正直未知数ですの。もしかしたら、私たちみたいな戦略兵器レベルの異能者が、バンバン作り出せるのかもしれませんの」
なるほど……。好感度に比例しての異能力バフ。バフ効果は未知数。確かに危険だ。
「だから、俺が駆り出されたってわけか」
「ご理解いただけて良かったですの。というわけで、頑張ってくださいですの蓮夜様。私も、シャルも、精いっぱいサポートしますの」
にこっと、笑いながら朱莉は言った。でも、朱莉とシャルのサポートってなんだ?
「朱莉と、シャルは何をサポートするんだ?監視対象のが俺の目が届かない範囲で何かをしているのを監視するのか?」
「蓮夜様、蓮夜様のお仕事はあくまでも、ほかの調査員のかく乱ですの。私たちのサポートは「アカリ、シャルが言っていいなの?」
むしゃむしゃのんきに、朝ご飯を食べていたシャルが、急に口をはさんできた。
「いいですの」
ちょっとなんにか企んでいるような顔で、朱莉が言った。朱莉がそんな笑顔を浮かべているときは、たいていろくな目に合わなかった。ということは、何が起きるんだ?
「えっと、アカリとシャルが、このおうちに3人で一緒に住むなの」
………。
「はい?」