第八話 不死なる竜に嫉妬の刀
「はぁ……はぁ………クソッ!一体こいつの体はどうなってやがんだ!!」
ライは三白眼の目つきで竜を睨む。竜を一回KOさせてから三十分の時間が経過した。一向に倒れる気配がない。逆に倒せば倒すほど強くなっている。
「チッ、これじゃあキリがないな。俺の魔力にも限界がある。空になる前に倒せないと負けは確定だぞ!」
「あぁ、わかってる!」
ライはそう言って竜の手を斬り飛ばす。竜は痛みで咆哮するが、数十秒後にはまた生えてくる。さっきから足やら手を斬っているが全く効いていない。次から次へと生えてき無くなることがない。ヴァンは残り魔力の消費を抑えるため手のひらサイズに戻っている。撃てる魔法も残り数発だ。
「ッ!また生えて来やがった」
もちろんライもヴァンも無傷ではない。所々から血が流れて地面に落ちている。だが、向こうはある意味、無傷だ。どれだけ斬られようと破壊されようとまた生えてくるのだから、傷の付けようがない。
ライは地面に降りもう一度走り出す。今度は腕や足ではなく喉元を狙っての攻撃だ。首を落とせば生物は死ぬ。それが世の中の道理で常識だ。
「オラァァァアアアアア!!!」
喉仏の所に剣先を当て、腰と共に全力で振り切る。途中でボキッと音がなり首の骨が折れたのがわかる。そのまま振り切り、浮いた首をもう一度縦に斬る。首は真っ二つに斬られ落ちて行った。切断面から血が盛大に吹き上げ天井にまで真紅に染める。最早この空間は一種の地獄のような光景だった。
「ハァ……ハァ……いい加減くたばりやがれ!この死に損ないが!」
「ッ!小僧!まだだ!まだそいつは生きてる!」
「ッーーーーーーーーーー!!!!!」
少し目を離した隙に首は再生し元の状態に戻る。一体、この目の前の化け物は何でできていると言うのだ。首を斬られても死なない、腕や足を斬られても再生する。チートも大概にしろ。
「なんなのこいつ?もしかしてドラゴンがムシムシの実でも食べたの?モデルプラナリアで?」
「何を言ってるのかわからないが、一先ず奴の作りを調べないと勝てる気がしない」
「ッ!?チッ!クソが!!」
襲いくる竜の爪を刀で防ぎ斬り落とす。が、すぐに再生するので直ぐにその場を離れる。竜は毎回斬られた後は痛みを感じている。だが、直ぐに治るせいでダメージとしては0だ。何か手を打たないとジリ貧で負けてしまう。
ヴァンの魔法は無駄にはできない。威力は最強クラスだが、奴は再生能力付きだ。無駄に連射した所で無駄な足掻きになる。
何か、何かいい手立てはないのか。
ゲームならクエストのどこかでクリアに使える武器やら弱点が知ることができる。なら、ここの洞窟を隅から隅まで探すか?そんな悠長な事をしているとこの竜が何するかわからない。
「何かが置いてある場所………。宝物庫?」
物が置いてある部屋、つまり金銀の財宝が眠っている宝物庫。あそこならモノを置くにはいい場所だ。何せ竜はそこには踏み込もうとしないから壊される心配もない。が、問題がいくつかある。辿り着く、着かないの問題はではない。その武器か何かが何なのかって事だ。金の剣とかは昔から直ぐ壊れる事で有名だ。装飾ばっかに凝っているから、剣の耐久性なんか考えてない。
「剣か弓か斧かはたまたハンマーか。行ってみないとわからないってヤツか」
「小僧、考えは纏まったようだな」
「あぁ。ヴァン、お前は時間稼ぎを頼む。できれば四肢の欠損をしてくれてたら助かる」
「わかった。して、お前はどうする?」
「宝物庫に入って倒せそうなモノを探してくる。入るまでは自分で何とかするから問題ない」
「わかった。時間稼ぎは任せろ!」
俺は一つ頷くと竜の後ろに位置する宝物庫目掛け走り出した。竜は俺に気づくや否や火炎を吹き出し両手の爪で斬り刻みにくる。全て紙一重で躱し竜の後ろに回った瞬間、目の前の土煙の中から尻尾が現れた。
「ふぇ!?」
「ハァァァァァアアア!!!」
振られる尻尾を飛ばされるの覚悟でガードしようとする。が、尻尾は俺に当たる寸前で根元から断ち斬られた。黄色髪の少女が横に降り立つ。
「━━━━無茶しないって言ったでしょ!このバカ!」
「なんでツンデレ?ミールを真似たの?」
「う、うるさい!」
少女もといヘリスは、身の丈以上の大剣を肩に担いでライの横に降り立った。
「来るなって言ったのに。はぁ、まぁいいや。ヘリス、お前は怪我しないでヴァンと一緒に時間稼ぎをしといてくれ。その後はキッチリ決める」
「わかった。頼んだよ、ラー君」
「おう!」
ヘリスはヴァンの所に戻り、竜の注意を引きつけてくれる。あとは、俺だけだ。
俺はもう一度走り出し宝物庫に到着する。中には金銀など高価そうな物ばかりが置いてあり目がクラクラする。
「クソッ!あり過ぎだろ!どれだ?」
パッと見ただけでも剣は十本以上ある。どれも金色で装飾が施されている。俺は適当に一本とり竜に投げ付けた。剣は綺麗に飛んで行き、背中に当たるが鱗に防がれ刃先が折れた。
「全部投げるか?いや、そんな時間ねぇ。何かないのか」
ライは躍起になって宝物庫の中を探し回る。どれも装飾ばかりで剣になっていない物ばかりで竜を殺せるような物はない。財宝の上を土足で歩いていると妙に浮き出ている岩の壁があった。
「これだな!この岩を壊せば、俺の勝ちだな!」
俺はハクロウを取り出して一発を撃ち込んだ。岩は破裂して壊れ奥の隠し部屋が露わになる。
「ビンゴ♪」
俺が中に入るとすぐ目の前に望みのものは地面に突き刺さっていた。剣を持ち上げ軽く一振りする。そして、部屋から出てヘリスやヴァンの元へと走った。
ヴァンは俺が出て来た事に気づき、闇魔法最強の技を放つ。放たれた真っ黒の球は竜に直撃し爆ぜた。竜の両手はそれに持っていかれ、両足はヘリスによって斬られた。まさに注文通りの状態だ。
俺は振動で浮き上がった岩を台にし高く飛び上がった。剣を上段で構え間合いに入った瞬間、一気に振り下ろした。
「ウォォオオオオオオ!!!」
頭から体まで真っ二つに斬り下ろす。大量の鮮血が噴水のように飛び散り壁や地面が真っ赤に染まる。俺は倒れゆく竜を見ながら地面に座り込んだ。
「あぁ、何とか勝てた。一年分ぐらい戦った気分だ。もう戦わない!あとは頼んだ」
「お疲れ様、ラー君」
「あとは、頼んだ、ぞ。ガクり」
「はい、任されました。なら、二人で宿屋に行こっか!」
「なんか知らないけど復活させられたわ。ごめん」
こいつ、コッソリ仕組んで来やがった。シャロと違って恐ろしい。俺は襲わないっての!
「竜の魔力は全損した。もう復活はないだろう。これで依頼達成だ」
「つーか、この剣って一体なん………折れてるし!?」
まさかの自体が発生した。今まで大切に使ってた(五分ほどです)剣が半分ぐらいの所で折れていた。
「絶対特殊スキルあったろこの剣……。可哀想な俺」
「可哀想なのはお前ではなく剣の方だろ」
「違う!なぜかローボ以外の剣を使ったら折れるんだよ!まさか!ローボの嫉妬!?」
「それならハクロウはどうなるのよ?」
「ハクロウは銃だから別?」
つーか、この剣はなんの能力持ちなの?竜殺しの剣なの?アッサリ折れちゃってるけど。その他ならエクスカリバー?いやいや、それもないな。聖剣がこんな簡単に、ねぇ?
「なんの能力だろ、ゾンビ効果無効化的な?アンデットキラーだな」
「まぁ、なんにせよ達成って事で戻ろっか!」
「そうだな。宝はどうする?持って帰るか?」
「持てないから置いて帰るしかないんだが。ヴァンお前、闇魔法の精霊だよな?」
「あ、ああ。そうだが?」
「なら簡単。別次元に収納して戻ってから出すってヤツだ。できるだろ?あと、この剣。これも保管しといてくれ」
いわゆる四次元○ケットだな。闇魔法なら次元の技もあるだろうしできるだろ。できなかったら俺が無理矢理やる。剣は何かキーアイテムっぽいから残しておく。多分、フラグだなこれ。
「そう来たか………わかった。宝は山分けだな」
「いよっしゃ!これで遊んで暮らせれる!」
「ラー君?ラー君は私達の騎士でしょ?」
「いや、なんて言うかその。アレだよ、守ったり守られたり………ね?」
「わけがわかりません。ほら、サッサと戻りますよ!ミール達が待ってます!」
「なら抱っこしてー!………いや、あの冗談です。冗談だから手を離しッ!痛い痛い!!!」
ヘリスに耳を引っ張られながら俺はこの洞窟から出た。ヴァンは全部の宝を掻っ攫ってから俺達の元に戻り、怖くて半泣きのクエリルを泣き止ませながら宿に戻った。




