第六話 主人公がイジメられている件について
グイっと扉を押して中へと入る。
何人かがこっちを見るが、また自分達の自慢話や馬鹿話に戻る。
「こっちはアレだな……面白くないな」
「………ラー君は何を求めてるの?」
「いや、だって前はお前らが恥辱の限りを受けていたから面白かったのに、今回は目もくれない。そんなに鉄板は嫌い……ッアベシ!!」
いきなり腹に一発グーが入り、後頭部を鈍器で殴られる。ライはKOされその場に倒れこむ。
「言っていい事と悪い事があるって習わなかったのかしら」
「ホントね、ミールさん。次ぐらいからは本気で殺りましょう!」
「そうね、それがいいわ」
「………て、テメェら、自分のステータスに文句言う……ガッ!!」
今度はミールに踏まれ、ヘリスに体を蹴られる。クエリルはその状況をホラー映画でも見るような態度でマジマジと見ている。
見てないで助けろよ!!イジメられてんだぞ!くそっ、これだからイジメは消えないんだ……!
「いや、待てよ。このポジ………ッ!?あ………か、だと………!!」
「ッ〜〜!!死ね!この低俗な豚が!!」
「やめ、やめろ!痛い!痛いから!ゴメンって!腹はダメ!蹴り過ぎ!!」
まさかの自体が発覚した。ミールのパンツの色が赤だった……。あの清純派?なミールが燃える赤を履くとは。噂に聞く勝負何とかってヤツか?まさか!この後……いや無いな。
「ふぅ、スッキリした」
「今度また言ったら、腕の一本は失くなると思っといて」
「はい!言いません!………わからんけど」
俺は起き上がり服に付いた土を落とす。顔を上げるとある事に気付いた。それは、周りから大注目されていること。
流石に入ってきた奴が踏まれてたり蹴られてたりしたら変に見える。
「…………この空気どうすんだよ」
「あんたが悪いんじゃないの?」
「ラー君ですね」
「お、俺なのね……」
絶対こいつらだろ。何で俺なの?
ほら、見ろよあの男。ヘリスの胸見てがっかりしてるじゃん。俺じゃないって。
「とりま、これ出しに行こうぜ」
「早く出してきなさいよ。私たちはここで待ってるから」
「見て見て、ヴァン!あれ美味しそうじゃない?」
「そうだな、こっちも美味そうだぞ」
「………………お前ら」
完全に俺だけ置いてかれている。どちらかと言うと忘れられているの方が正しいのかもしれない。酷い話だ。
つーか、俺の怒りがもうすぐで 絶頂にあるのだが。この際はもう吐き出しても文句ないよな?
「あ、あの……その紙貰いますが……」
「あ?」
「そ、そ、その紙貰いますよ?」
「あー、すまねぇ。ありがとさん」
そう言って紙を受付嬢に渡す。受付嬢はそれを持って部屋の奥へ入って行き、ものの数分で帰ってくる。若干目が怯えているが手は通常通り動いている。
「えっと、では任務ご苦労様です。では、まず中級のクエストをクリアされたとの事で初球から中級に昇格する事になりました。おめでとうございます!」
「おぉ、マジかよ。じゃあ次は上級にも挑戦できるんだよな?」
「はい、挑戦は可能です。可能なんですが、上級以上のクエストになるとパーティを作らないといけません。ライさんの所はまだ正式にパーティを発足させていないので………」
「あー、なるほどね。まだ俺らしてなかったのか。なら、メンバーは俺とヘリス、ミールにクエリルで。名前は…………まない、じゃなくて『Cliff 』で」
「えっと……はい、承らせて頂きます。では、少しの間お待ち下さい」
因みにCliff の意味は絶壁だ。ウチのパーティには二人もいるのだから、いい意味で的を得ている。英語だからバレないしな。
俺は受付から離れ掲示板に行く。今度も内容は見ず適当に選ぶ。紙には『危険』、『狩猟』、『ドラゴン』と書かれており当たりを引いたと感じる。受付からパーティの手続きの終了のアナウンスが聞こえたので俺は紙を持って受付に向かう。
「手続き終了です。えっと…、クリフさん?でいいですか?」
「おう、それでいい。そしたら、これをお願いできるかな?」
「えっ、はい。わかりました!この依頼の場所はファルフの街ですね。詳しい説明は向こうで受けてもらう事になります」
「ファルフね、了解。ここからどれくらいかかる?」
「えっと四時間ぐらいですね。けど、山とかを越える事はないので大丈夫です!」
四時間か、しんどいな。
あ、待てよ。ウチにはもう一人いや、もう一匹いるじゃないか!アッシー君が!!
「お前ら!いつまで食ってんだ?!つーか朝飯、爺ちゃんの所で食っただろ!そんなに食っても………早く来い!」
「ん?ラー君何か言いかけた?」
「いや、何でもないです。次の街はファルフって所らしいからサッサと行こうぜ」
あっぶね〜、危うく腕一本失う所だったわ。
失うとか怖すぎだろ、マジで。俺、一応お前らを守る立場なんだけど………。
俺達は冒険者ギルドから出て街道に出る。ここからは一本道らしいが結構遠いらしい。何せ四時間もかかるのだからな。本当はみんな龍だから飛べばすぐ着くのだろうが、俺達は飛べないので仕方なく歩いて行くしかない。
「だが!誰も犬に乗って歩くなとは言ってない!!!ヴァン、話はわかるよな?」
「お、お前!」
「あれれ〜?おかしいなぁ〜?ヴァンって大きくなれるはずだよな?四人ぐらい余裕で乗せれるのはずだよね?それともできないのかな?精霊なのに?そんな事はないよね?」
「この野郎……、仕方ない。だが、大きくなるとそれだけ魔力を使う。もしもの事を考えるとあまり無駄には使えないから、乗せれるのは悪いが三人までだ」
「よーし!俺が一番乗りだな!言い出しっぺだし」
「え?ラー君が歩くんだよね?」
「へ?」
「この中で一番体力あるし、すぐ動ける。これほどいい人材はいないのだけれど?」
「み、ミールさん!?」
「うん、そうだね。僕も一応男だけど、ライさんには敵わないや」
「クエリル、テメェ!!」
結局俺が歩く事になった。
これなら言うんじゃなかったー!ってか、なんで三人までなんだよ!絶対わざとだろ!!
仕方なしに俺はヴァンの横で歩く羽目になった。歩き始めてから一時間くらい経った所で休憩を入れ、また進む。これを繰り返していると当初より早い三時間で到着する事ができた。ヴァンのなけなしの努力のおかげだ。
ーー
「さて、時間も時間だし宿探しに移りますか」
「そうね。よろしく」
「よろしくね、ラー君」
「よろしくお願いします!」
「………いい加減にしやがれよ、畜生が!」
「ぶつくさ言う前にサッサと行きなさいよ」
「このまな板女子め」
「ん?何か言った?」
「はいはい、行きますよ!コンチクショー」
俺はブツブツ言いながら街の中に入る。ファルフはユーンの街よりは人も金も回っている。物価はグレーン大陸と同じくらいで人参一本銅貨一枚だ。
「宿屋〜、あるかなぁ」
「あの……また宿屋をお探しですか?」
「!?こ、この声は……て、て、天使!」
「?」
後ろを向くと高価そうな鎧をフル装備した中くらいの女の子?が立っていた。そう、ユーンの街で会った天使だ。
「あ、ユーンの街にいた」
「覚えてくれてたんですね!うわ〜感激!」
「そら覚えますよ。その目立つ黒髪に黒瞳、誰でも覚えますよ」
「げ、ここでも目立つのか……」
「はい、では宿屋でしたね。確かコッチの道を通って左に行ったらありますよ」
「毎回ゴメンね。ありがと!今回も頼るわ」
「いえいえ、困った時はお互い様です」
マジ天使!
この子ヒロインにしよう!うん、本気で。
そこで俺は天使様と別れてまな板女子の所に戻った。前回と同じように宿屋に向かって(今度は値引きはしてないよ)休んだ。
まさか、次の依頼があそこまで辛いものだとは誰も思っていなかった。




