第二十二話 祭りも最後は華がある
「俺がこの世界で何をしたいかか……。日常を送りたい」
「え?!え??えーー!?」
「なに?そんなに驚く事!?」
「当たり前だよ!日常を送りたいってどんな人生を送って来たんだよ?!」
え、俺の人生?毎日学校行って、時たま黒服の男の人にどっか連れて行れて……それ以外だと家帰ってネトゲする。これを365日繰り返す。僅か五十ちょっとの文字で説明できる人生だ。全く面白味がない。
「まぁ、辛い人生だ。はい、一個目終わり。次の方どうぞー」
「なんで看護師みたいになってんの?じ、じゃあ次は『この世界をどうしたい』のか教えて」
いやいや、俺はどっかの正義のヒーローでも何でもないから。どうしたいって言われても。
「世界征服と世界平和以外になればいいんじゃね?」
「一番大事な二つをあっさり否定!?しかも他人事だし!!」
「世界征服は一々戦ったりしないといけないからパス。俺はバトル漫画の主人公じゃねぇからな。次に世界平和。こっちは単純だな、不可能だから。はい、終わり」
「なっ……」
カロは口をあんぐり開け唖然としている。言葉にならないほど呆れているが、ライは何食わぬ顔でスマホでゲームをしている。
ってか、行きたくて来たわけじゃないし。強制的に来させられたんだから、やりたい事とか無いだろ。
あ、このゲーム全クリだ。
「じ、じゃあ最後の一つ!『この世界から帰る気はあるのか』?」
「無い」
「え?終わり!?終わりなの!?そんだけ?もっと感傷に耽ったりしないの!?」
「なんでそんな事しないといけないんだよ。帰る気は更々無い、ほれ三つ答えたぞ」
「詐欺だこれ!絶対詐欺だ!僕を騙したな!」
「はいはい。なら、訴えますかー?」
はぁ…、なんか期待外れ感がハンパない。こんな質問、聞く意味あったのか?
あ、充電が。
「うぅ、ズルイよー!な、なら答えなくてもいいからこの質問を聞いて!『この世界で結婚とかするのか』。これならどうだ!」
「黙秘」
「黙秘は肯定だよ〜?なるほど、なるほど。結婚はすると。相手は僕?それともイリス?」
「チッ!さぁな。勝手に想像してろ」
結婚ねぇ…正直に言おう。
俺は童貞を卒業できればそれだけでいい。てか、俺を好きになる変わり者なんてこの白髪巨乳ボクっ娘しかいないだろ。よって無理。
「連れないな〜。ほらほら襲ってもいいんだよ〜?こんな美貌を備えた美少女なんて滅多にお目にかかれないよ?」
「あー、美少女は身近に沢山いるからいい。ってか、いつまでここにいるの? 早よ帰れ」
「えぇー!そんな冷たいこと言わないでよ!僕だって結構長旅だったんだからね!」
「知らねぇよ。誰が頼んだっての」
そう言えば今日って何日だ?祭りは終わったのか?
誰か来ないかな。こいつと話すのも疲れた。神よ!我を助けたもうて!
…………こいつが神だった。使えねぇ神。
俺の願いを本当の神様が聞いてくれたのか、はたまた目の前の巨乳ボクっ娘が叶えたのか不明だが、コンコンっとノックの音が聞こえた。
「神様!最&高!!」
「ライ、僕だよ。入ってもいいかい?」
「あー、前言撤回。グレートな駄目神ですよこいつは」
扉を開けて入って来たのはオレンジ色の髪をしたホモだった。
「ライ……と神帝様。イワン・アテア・ヘリオスです」
「長い却下。回れ右して山に引きこもってろ」
「なんでだよ!?僕は君の身を心配してたんだよ?」
「襲うためにな」
「違うよ!!」
え?違うの?嘘だろ?
イワンだぜ?何人の男が犠牲になったと思ってんだ。主に俺だが。
案ずるな、まだ掘られてない!
「で?自称聖神さん。この純情無垢な青少年の俺に何かようかな?」
「君も似たようなものじゃないか。そんな事より、君が寝てる間に丸一日が経過した。だから今日は、クリフォト祭の最終日。今日は夜にパーティーがあるから準備しといてくれよ」
「あー、今なんか社長の気分がわかった気がする。こんなに一気に色々言われたら、そらやる気もなくなるわな」
「悪いね。僕もこれから色々と忙しいから、手短に済まさせてもらうよ。あとは、最後に君の魔法で花火でも打ち上げてくれよ」
え……、今目の前に神帝がいるのに改変をしろと?自殺したのにまた死ねと言ってるんだぜ?これ。世も末だな。
チラッと隣に座っているカロを見ると、花火に興味が湧いたのか目が光輝いている。そんな様子を呆れながら覗いていると、カロがコッチに気づき手でOKサインを出して来た。
「はぁ…、許可も取れたから花火は打ち上げてやるよ。だが!条件がある!」
「条件?なんだい?僕ができる事なら喜んでやるよ」
「言ったな?二言はねぇぜ?条件は『この白髪巨乳ボクっ娘を束縛しておくこと』だ!」
「え!えー!!なんで!僕だって花火見たい!ライの改変見たいのー!」
「黙れ、お前がそれを見てやっぱり危険だから殺そう、的な雰囲気になるのを防ぐためだよ!花火は縛られながら見ていやがれ!」
「大丈夫だって!そんな事はしないからー!お願いー!一緒に行くの!」
俺はカロのごねたセリフを無視し、ベッドから起き上がる。体の容態やダルさを確認し、上着を着て部屋から出て行った。
「…………では、僕はこれで」
「え?縛らないの?」
「僕は僕が可能範囲なら叶える、と言いました。けれど、僕に貴女様を縛るのは無理なのでこれで失礼します。まぁ、縛られたいのならそうしますが?」
「ふん、キザな野郎だな」
一瞬にしてからの態度が豹変する。今とさっきのどちらが本当の彼女なのかはわからない。ただ、一つ言えるのは『こいつは危険だ』と言うことだけである。イワンの全神経がそれを伝えてくる。彼はこの恐怖に打ち勝って彼女の思惑通りに進まない道を選んだ。なら自分にもできるはずだ、と信じ声を絞り出す。
「………忠告ですが神帝様。あんたのその虚の仮面、バレないように頑張って下さい」
「舐めた口を聞くなよ、サル。僕はいつでもこの世界を葬れるんだよ?その辺、わきまえるべきだと思うけど?」
イワンは全力で殺気を出してカロを威圧つする。が、その上を行く威圧で押し返される。
完全なる上位互換。弱者が強者に勝つこともある。だが、この少女だけは…この神帝には一切勝利へのビジョンが見えない。
「………では、僕はこれで」
もう一度同じセリフを吐き、イワンは部屋を出た。彼はそのまま悔しそうな表情で主君の元へと向かった。
ーー
「あ?ダンス?」
「ほら、今日のパーティーはダンスがメインなんですよ!だから〜シャロと踊りましょ?」
「え……俺、社交ダンスは無理だぜ?」
「大丈夫ですよ、シャロがリードしますし」
パーティーに仕方なく出席し、夕食を済ませて次に始まったのは社交ダンス。来るべきではなかったと何度も思う。
「お前と踊ったら他の奴らとも、やらないといけなくなるじゃねぇか」
「それだけ人気って事だよ。ほら、行くよ!」
強引に腕を引っ張られ、みんなが踊ってる集団の中心に連れて行かれる。
曲が変わって行くごとに俺の相手も変わって行き、シャロ、ヘリス、ラシエル、イリス、マリーや第七貴族のユーグ・ロアンって奴とも踊らされ、カロやミールとも踊らされた。
「あぁ………死ぬ。何人だ…?八人?……多過ぎだろ。勘弁してくれ」
会場からバルコニーへ出て柵にへばりつきながら俺は深呼吸する。人が多い上にハードな踊り…勘弁してくれ、こっちは休日自宅警備員だぞ?キツすぎだ。
「バテバテね、あんた。そんなんだからダメなのよ」
「どこがダメなのか詳しく教えてくれませんかねー!」
「性格」
「一番変えられない所来やがったー!!!」
「ほら、変えようとしない………」
俺は後からバルコニーに入って来たイリスとバカみたいな会話をする。
が、イリスの言葉が終わり切る前に「ドーーン!」と大きな音が聞こえて来た。彼女はその方向に振り返るとそこには大きな赤色の花が夜空に咲いていた。
「たーまや〜」
「?どうしたの急に」
「俺らの地元だとこう言うんだよ」
「ふーん。………月が綺麗ですね」
「あぁ、そうだ………え!?今なんて!?」
「だから、月が綺麗って」
「ーーあ!いたいた!ライ君〜!」
イリスからのとんでも発言に俺が唖然としていると、シャロとヘリスが俺らに気づいてやって来た。
「二人とも、今日は月が綺麗よね?」
「そうだね、久しぶりに見たよ。あ、星も綺麗だよ〜!」
「グハッ!」
「明日は晴れるのかな、ラー君?」
「も、もうやめてくれ………」
三連続で思ってもいなかった言葉が飛んでくる。この世界にも漱石さんいたの?と疑ってしまう。ホントにいたらサイン欲しいな。
「あ、あぁ綺麗だと思うよ。うん、ホント…」
そのあと、俺らは自動で打ち上がって行く花火を見て最後の夜を楽しんだ。今回も相変わらず大変な日々だったが、色々と楽しめた。
ーー
「何飲んでるの、ラー君?」
「コーラだ!まさか、異世界でこれが飲めるとは!!思ってもいなかったぜコンチクショー!」
「また言ってる……」
一日が経ち、体の怪我も治って完全復活した俺はヘリスと一緒に帰る前の王都散策を楽しんでいた。目的は一つ、この黒い炭酸の飲み物を飲むためだ。
肝試しの時に手伝いの一人が飲んでいたのを見て、味見させて貰ったらビンゴだった。偶然もここまで来ればまるで必然のように感じてくる。
「美味しいぜ、これ?飲んでみるか?」
「帰ってからみんなと飲むことにします。さっき箱買いしてましたよね?」
「あ、あれは……内緒で……」
「楽しみだなぁ〜」
「わかったから!あげるから!」
俺とヘリスはそんな感じで買い食いとか色々しながら見回って丁度広場に着いた瞬間、
ーーー広場全体が青と黒の魔法陣の中に収まった。
「なっ!?」
俺がハクロウを取り出す寸前で、俺とヘリスは突如として現れた魔法陣の光に吸い込まれた。
第三章「過激なフェスティバル」〜クリフォト祭編〜 fin.




