第十一話 探し者
「失礼します!!!!たった今、西の山越え辺りで魔人を見かけたと言う情報が入りました!!!」
「ッ!?チッ!」
一人の新兵が騎士団長の部屋に大慌てで転がり込んだ。彼の必死の報告を聞きアレスは舌打ちをし、目の前のテーブルに乗っている連絡用の魔法石を手に取る。そして、彼は各隊員達に素早く伝令を行なった。
『西の山越えに魔人が現れたのを確認した。総員、西門に今すぐ集合せよ!!!』
『こちら、イワン。了解です。大会は中止させますか?』
『いや、いい。お前らが出なければいいだけだ。貴族達は他の従者の方々に守ってもらう事にしよう』
『了解』
『こちらシリウス。わかりました。今すぐ向かいます』
各隊員から続々と応答が返ってくる。が、一人の隊員からは応答が返って来ない。その人物は貴族を守る騎士の立場にいながら、問題ばかりを起こしている人物、第四貴族騎士 オオガミ ライだ。
ーー
「んー。しんどいからパス」
「ラー君って夢の中でも休んでるのね」
「そう見たいだね。真面目に頑張れば凄いのに…」
現在の場所は王宮内。ライの部屋の中である。昨日の競技である肝試しの責任者となり人一倍頑張って仕事に当たっていたため、疲れ果て十二時を過ぎた今でもまだ爆睡状態である。彼を起こしに来たヘリスとシャロは彼の幸せそうな寝顔を見て起こす気もなくなった。
「どうする?起こす?それとも寝かしとく?」
「うーん。どうしよ。別に起きても競技は始まってしまってるし…」
「だよねー。まぁ、これならイケそうだけどね」
シャロはそう言いながらライの髪を優しく撫でる。いつもどこかで何か重い物を持っているライが、寝ている時だけ幸せそうな顔をする。これは彼と暮らしていてわかった事だ。
「ダメよシャロ。ラー君から承諾を得てからじゃないと」
「とか、言いつつも狙ってるクセに」
「う、うるさい!」
二人は寝ているライの上でじゃれ合いを始める。ライはそれもお見通しのように優しく笑ったままであった。
「すいません!失礼します!第四貴族騎士のライ殿はいらっしゃいますで・・・・」
バンッ!っと大きな音を立てながら一人の騎士が扉を開ける。そしてライを探そうとするが、行う前に大変な事に気付いてしまった。
それは寝ているライの上に幼気な少女が二人乗っかっている事である。
騎士は思う。なぜ、自分はこんなにも不運なのだろうかと。ライと言う騎士は自分と騎士の立場ではあまり変わらない。が、彼は貴族騎士と言う素晴らしい称号を持っている。なら、自分の欲情を異性の従者にぶつけても問題ではないだろう。それが、この世というものだ。騎士は深く頭を下げ故意ではない事を証明した。
「すみませんでした。私がここに来た理由はアレス団長からの伝言を伝えに来た所存です」
段々と空気が重くなる。早く逃げたろと理性が訴えかけている。だが、何とかソレを押しとどめて内容を伝えた。
「伝言内容は、魔帝の配下である魔人が西の山越えに現れたのでそれを撃退するべくライ殿にも力を貸して欲しい、とのことです。では、失礼しました!」
騎士はそう言って回れ右し走って部屋を後にした。シャロとヘリスはそれを見てクスクスと笑い始めた。
「ハハハ、違うよー!さて、さっきの内容だと結構大変そうだね」
「フフ、そうね。起こさないと」
「「ライ!起きて!」」
二人はまだ何食わぬ顔でグッスリ眠っているライを叩いて起こした。
ーー
「すひません。おふれました。」
「ど、どうした!?何があったんだ?」
「昨日、頑張って作業してた所為で起きるのが遅くて…。ほれで、叩かれて起こされたらこんな状態で…」
アレスが遅れて来たライを見て唖然とした。
今、ライの顔は丸々と太った状態だった。それもそのはず、ライが起きるまで約二十分間彼はひたすら彼女達二人に叩かれていたのだから。
「そ、そうか。それはお気の毒にな。なんで集まっているのかとかは聞いたか?」
「ひゃい。なんか魔人が来たとか来てないとか」
「来てなかったら呼んでない。そうだ、魔人が来ている。各隊は別れて配置についているが、動いたのは魔帝だけじゃない。神帝も動いている。警戒は怠るなよ」
「ウィッス」
俺は敬礼だけしてブラブラと門を出る。顔のマスクを取ってその辺の草むらに捨てて置く。アレスもこれだと驚くんだな。
今回の戦いの最終撤退点はここだ。これ以上中に入れれば俺らは戦いよりも貴族を守る事に専念しなければならない。そうなれば国民も他の騎士も共倒れだろう。何せ主力メンバーが国外へ逃げるのだからな。
俺はまだどこの隊にも入ってない。つまり、遊撃部隊だ。隊長も他のメンバーもいない。なんとも楽な部隊な事だ。暴れるだけ暴れて傷ついたら帰っていい。これ以上楽な部隊は救護班ぐらいだろう。
「ま、回復魔法使えないから救護班も無理なんだけどね。さて、西の山越えか…」
あまり距離があるとは言えない。三十分もあれば向こう側まで行けるだろう。この狭い空間の中で敵の数すらわからない。そんな白兵戦は自殺行為と同じだろう。
PVPのFPSゲームをアホみたいにやり込んでランキング上位まで行った俺だ。それぐらいわかる。場数のみで競えば俺はイワンより多いんじゃないだろうか。
そんなバカな事を考えていると連絡石が光り出した。
『全騎士に告ぐ。今から魔人撃退戦を開始する。各隊、先ずは魔人を袋詰めにしろ!!』
ふむふむ。先ずは囲むのか。なら、誘き出す係が必要だな。
『あー、テステス。どうもライです。魔人達を誘き出す仕事俺がやります。どーぞ』
『了解だ。各隊はライの後に続け!ライ、武運を祈る!』
『アザース。どーぞ』
俺は連絡石をポケットにしまい、林の中へと入って行った。
ーー
「多分、これ以上行けば敵が来るな」
「そうですな。では、我らは特攻隊として『改変者』を見つけ出します」
「頼む。俺達はここに陣を敷いて守りを固めよ!」
「「「御意」」」
真っ赤な三つ目を持った男がそう言うと、周りに集まっていた魔人が一気に散会した。
ーー
俺は木蹴ってターザンのようにして森の中を進んでいた。山を内回りで迂回していると敵の一団と思わしき集団を発見した。敵の数は六。ぱっと見は全員普通の人間だが、頭に付いているツノと背中に生えている二枚の羽で魔人だとわかる。
ここは奇襲をかけるか?
いや、まだ敵の実力がどれほどのものかわからない。下手に手を出せば死ぬ可能性もある。ここはどんなものか見るべきだろ。
すると、一匹の魔人が現れた。その魔人は集団の真ん中に立ちボソボソと話し始めた。
「ここから先は多分少人数では責められないだろう。敵が陣を敷いている。一旦、報告のために帰った方がいいだろう」
「そうか…。なら、お前とお前はここに隠れておけ。敵を発見次第魔法で迎撃してもよい」
「「了解」」
そう言ってリーダー格の男と残りの四人は自陣まで飛んで帰って行った。置いて行かれてた二人はすぐさま近くの草むらに体を隠した。
これは良いタイミングだ。敵の数が減り、しかもいるのは手下。この機を逃すわけはない。俺は二人が隠れたであろう場所に炎の魔法弾を二発撃つ。
「ッ!?な、あぶねぇ!だ、誰だ!」
「チッ!防ぐのミスったな…。右手が…」
一人は防ぎ、もう一人は右手を負傷した。
敵は警戒を一気に高めいつでも反撃可能な態勢を取っている。
これは厄介だな。魔法の察知能力があるのか。これだと次を撃てば俺の居場所はバレるな。なら、まだ奇襲の内に殺っておいた方が身の為だろう。増援が来ればこっちが不利だ。サッサと片付けるに限る。
俺はローボに手を置き、草むらから出る。それに気付いた二人は草むらから出て魔法を発動させようとする。
が、遅い。ローボは二人の魔法陣が完全に完成する前に、右手を負傷している奴の右肩から左肩までを横一線に斬り裂いた。その一瞬で、もう一人の魔人の魔法陣が構築され炎の魔法で作られた槍が飛んで来る。
「我流 縮地」
縮地を使い右へ一瞬で移動する。槍が俺の背中を通り抜けたのを確認し、左手でハクロウを取り出して乱射する。頭や肩、腕などに穴が空いて血が溢れ出る。
緑で溢れていた場所は一瞬の間に血で真っ赤に染まった。肩を斬られた奴はまだ生きているらしく恐慌した目で睨んで来る。
「なぁ、魔人さん。俺と交渉しようぜ?」
「はぁ…な、何と何をだ…」
「そうだな…。お前の命を助ける事と、お前達が何の目的で攻めて来たのかってのでどうだ?win-winだろ?どっちにも利益がある」
「フッ…よく言うぜ。どの道、聞いた所で殺すんだろ?」
「お、なんだ?カッコつけてんのか?誰もいねぇぞ?」
「うるせぇ!ほっとけ!はぁ…はぁ…」
カッコつける理由はわかる、男はカッコつける生き物だ。それは知ってる三十年男やってるからな。まぁ、カッコつけるのは女の前だけにして欲しいな。そっち系の人が誤解する。
「まぁ、いいや。お前は俺がもし魔大陸に行く事になった時の案内役ってことで置いとく」
「は?」
魔人が言っているのは無視して、俺はもしもの為にと持って来た包帯を使って止血する。出血は酷いのは酷いが肺までは届いてない筈だ、安静にしていれば治るのは早いだろう。
「だから、テメェは殺さねぇって言ってんだよ。ほら、言え。何の目的だ?」
「チッ!殺したら一生恨むからな。目的は魔帝様が魔法の改変が行われていると察したからだ」
「ーーあぁ。そっかそれが原因か…」
「何だ急に?しけたツラしやがって」
「なんでもねぇよ。もうすぐ俺の仲間が来るから。テメェは寝てろよ」
俺はそれだけ言ってさっきの敵が向かって行った方向へ走り出した。




