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結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第一章 黒髪黒瞳の憂鬱
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第五話 第10の傀儡 プリヘニト

「フンッ!」



魔法とは便利なものだ。俺が数撃加えて倒す魔獣どもを、一発の雷で肉片にへと変えることができる。その上、壁に明かりをつけるなどの補助もお手の物だ。一体いつになったら俺の魔法能力は覚醒するのだろうか、と言った期待を寄せながら狼型の魔獣を尻尾を掴んで振り回し、壁に数度ぶつけてグシャッという音を鳴らす。




「よくもまぁ、そんな事が無表情でできるわね」


「早くて安心をモットーに殺ってるからな」


「最後、字が違うような……」


「なぁ、イリスってどこまで魔法使えんの?」


「上級魔術師程度っと言った所かしら。何をさせる気?」


「殴んの飽きたから剣が欲しい」


「別にいらないでしょ。倒せてるし」


「殴ったら手が痛いの!剣、剣please!」



殴るのってホント結構痛いんだよ?特に人間以外が相手だったりしたら。ほら、人間なら関節技ってのが使えるから首をゴキッってやったら終わるけど、犬とか猫系の動物には身長差でできないだろ?それに……アレだ、こういう時は剣が一番。何言ってんだ、俺。



「作ることはできるけど、氷の剣になるわよ?それでも構わない?」


「あぁ、それでいい。時間は俺が何とかするハズだから」


「ハズって何!?」



後ろに下がるイリスを横目に見ながら、俺は前に出て魔獣と対峙する。あぁ、メラ撃ちてぇ。なんならホイミでも構わない。特攻型回復役でこの世界を生き残るぜ!まぁ欲を言えばナイツ・オブ・ラウンドとかだな。まさに必殺技、アレに幾度助けてもらったか。


そんなカッコよくて夢見のいい事を考えていると、後ろから盛大なため息が聞こえて来た。どうやら完成したらしい。持ち手から剣先まで約1メートルほどの青白いその剣は、ユラユラと燈る灯りに照らされ清白に輝いていた。



「できた………!もう作りたくない、ホントしんどい」


「マジアザッス、イリスさん!いやぁ、これで調sh……冷たッ!!」


「そら、氷なんだから冷たいでしょ。えっ、もしかしてそんな事も考えてなかったの?」


「ハンカチ!ハンカチ!あ、もう服でいいや」



剣を地面に突き刺し、上着を脱いで剣に巻きつける。一応、この服はイリスの所から借りた物だから丁寧に扱わないといけないのだが、借りる時に「血がついても大丈夫だから〜」ってシャロに言われたから問題ないと判断する。今思えば血が付く前提だったのが恐ろしい。一体誰の血の話しなのだろうか。



「……氷の剣、業物並みの硬さだな。やっぱ魔法ってスゲェ!早く使いてぇ!」



地面に軽く突き刺さる上に歯も鋭い。形は西洋剣で左右に歯があり、中央が分厚くなっている。氷の剣だから時間が経つにつれて溶けていくが、それでもまだ鈍器として戦える力はあるだろう。



「って事で!暴れましょう!」


「もう疲れたんだけど」


「知らん」


「知らんって何?!」


「ええっとね、紫蘭ってのは確か花の名前だった気がする。見たことないけど」


「へぇーそうなの」(棒)


「はい。そうなのです。顔が怖いですから、次に行きましょうか」


「えぇ。そうして貰いたいわ」



The真顔でこっちを見られればもう俺は蛇に睨まれたカエルだ。ジッと見ないで欲しい。ホント、変な意味で照れるから。


そんな人の気も知らず、彼女は一通り睨み終わるとスタスタと奥へと向かって行った。だがすぐに「サッサと来なさい!!」って叱責されて、トボトボと向かう俺であった。











ーー



さっきの場所から、数分ほど歩くと靴の音が反響し始める。目では暗くて見えないが、感覚だけでなら目の前に広がる空間が広いか、狭いかはわかってくる。可能性としてはモンスターハウスも否めないから、明かりをつけて視覚の確保に努めた。



「……広い気がする。念には念をって事で中央に明かりをつけてくれ」


「えぇ。それじゃ………『光は我に闇を払う力を与えし』ほら、これで良いかしら?」


「ありがとさん。……モンスターハウスではない、か。けど、これは困ったなぁ。分かれ道は聞いてねぇ」


「あらほんとね。あっ、上の所に文字が書かれてる。えっとなになに…砂漠の土地に行われた天罰の十番目・・・・・・もう皹が入ってたりするから見れないわ。あっ、けど最後にヘンリーって書いてある」



広場の奥には十にも分かれた道があり。その上の部分にはヘンリーからのメッセージが書かれていた。全部行けば何かわかるかも知れないが、多分正解の道以外は全て罠である危険が高い。ここは大人しく謎解きに専念した方が賢明だ。



「砂漠……砂漠……鯖缶……。腹減って来た。なぁ、魔力感知でなんとかできないの?」


「今は無理。この空間のおかしな歪みと、すぐ横にあんたがいるから。……離れても一緒よ」



元々アテにはしてなかったけど。にしても、全然わかんねぇな。いやまぁ、異世界に来て二日目のヤツが解ける問題じゃないんだろうけどさ。初回なんだからもうちょっと簡単にして欲しいもんだ。



「天罰、天罰……原発。あ、俺もう無理だわ。考えらんねぇ」


「ねぇ、天罰とか言ってるのだから神様が関係あるんじゃないの?」


「つまり、神話って事か?」



神話って言われても俺が知っているのはギリシャ神話とエジプト神話ぐらいしか知らねぇし。そんな神話がこの世界に通じる訳もない。ここは、第四貴族様に頑張ってもらうしかなさそうだ。



「そう。私、一つだけ思い当たるのがあるの。昔、ある傲慢な王が一人いて世界を手中に収めていた。そんな中、その男は神に宣戦布告したそうよ。が、神に勝てるような人間は存在しない。彼は神から十個の罰を受けた。その十番目……だから、家族の虐殺だったような気がする」


「……どこかで聞いた事のある話だな、それ。で?それが宝の部屋に通じるかもしれないと?」


「そう。確信はないけどね」


「いやいや、そう言うのも大事だと思うよ?宝探しには。死んだら死んだ時さ。先に眠ってる人達を盛大に起こしに行こうぜ」


「変な事言わないでよ!そして次はアレ」



そう言うと、イリスは指を分かれ道の正面の地面に向けた。今まではずっと上を見ていたから気づかなかったが、地面にもヒントらしき物が彫られていた。



「何だこれ?多分あの分かれ道と関係はあるのは事実なんだろうけど……」


「うん。多分……この左端は太陽。そして、その隣がカエル?それから小さな点のような傷が2つあって、その次は……これはナイフね。あとは虫と川と大きな丸。最後は一部が少し膨らんだ円?かな」


「みたいだな。そん中で一番、虐殺に向いている或いは関連があるのはナイフだろ。なら、目指す先は……左から五番目。ちょうど中央か」


「んじゃまぁ、行くとする━━━━」


「━━━━━━待って!」



イリスは大声をあげて、俺に命令した。振り向くと、彼女は軽い恐怖に煽られた表情で苦しそうに口を開いた。



「いる………。この洞窟に人がいる……!しかもその五番目の道の先に……」


「まだハロウィンには早いぞ?冗談は……じゃねぇか」



冗談かどうかは彼女の目を見たらわかる。ほんの軽いジョークなら身震いするまで恐怖するわけがない。本来なら誰一人として行き着く事のない場所であり、まず行こうとも思わない場所だ。そこにいる人物を怖がらないわけがない。



「………まぁ、ここまで来たのに引き返すなんてのは往生際が悪いわな」


「そう、ね。私は顔だけ拝んで尻尾巻いて逃げようかしら」


「この洞窟に魔法が使えない俺を置いて行くと!?」


「だって怖いし」


「はぁ……んじゃ、お顔を拝見しに行くか」


「えぇ、そうしましょ」



軽口を交わしながら俺達は五番目の道へと進んだ。さっきの広場からほんの50メートルほど先まで来ると、チラチラと灯りが付いている部屋に辿り着いた。相変わらずの黒っぽい壁に硬い地面、灯りは小さな炎が松明で見え隠れしているだけで明るいとまでは言えない。そんなさっきまでと殆ど変わらない空間でも、一つの『異質』が混じることによって全く違う物と化す。



「はぁ……♡やっと来てくれた、僕の花嫁!!とうとう僕は君と出会うことができたんだ。本当に本当に嬉しいよ!」



俺とイリスに気づくや否や、両手を大きく広げて感謝の意を大いに表す。体格、声色からして男のようだが、フードを深く被りコートも膝ほどまであるので一切合切知る事はできない。



「あー悪いんだけどさ、俺ホモじゃないんだよね。お前の気持ちはよくわかった……よくはわかってねぇけど、とりあえず性的に無理ってのは伝えておく。だからさ、回れ右してそのまま帰ってくんない?」


「は?お前誰だよ?僕が話してるのはイリス・トルエノだ。君みたいな低脳と喋ってる暇はない!!君の方こそ、回れ右して帰ってもらおうか!!」


「……えっ?お、お前頭大丈夫か?!コイツだぞ、ゴリラだぞ?いいの?後悔するよ、ホント。動物園行き確定なんだ……あ、いや、ちょっと口が滑ったと言いますか、噛んだと言いますか………」


「あらそう。えらく長く滑って噛んだのね。あんたが先に死ぬ?」



ほら見ろ、ゴリラじゃねぇか。ゴリラと違う点って言えば魔法が使えるか使えないかの差だけだろ。あ、それならチンパンジーの方がいいのか。



「ねぇ、あんたは一体誰?何しにここに来たの?」


「あぁ、ごめんねイリス・トルエノ。僕はサマエルの第10の傀儡!!プリヘニトだよ」



そう言うと、プリヘニトと名乗る男は被っていたフードを勢いよく外す。そこには黒い髪が首辺りまで伸びていて、目の辺りに一線が入っており盲目だった。俺達はその自己紹介を聞き絶句する。そしてプリヘニトはまた喋り始めた。



「さて、僕の自己紹介も終わったことだしイリス・トルエノ。君は僕の妃にならないか?!」



いきなりのプロポーズに空気は凍りつき、世界の秒針は一斉に止まった。イリスは何とも言えない顔で、ライは必死に笑いを我慢して彼の告白を聞いた。



「沈黙は肯定をしめ……ッ!?」


「━━━━━━てめぇがサマエルの傀儡って奴らか!っざけんなよ!お前らの所為で俺はいきなり奴隷扱いだ!俺のビューティフルな異世界生活を返しやがれ!!!あと、テメェの告白なんか興味ねぇよ!校舎裏でコッソリやれやコラァ!!」



もう我慢の限界だ。コイツがサマエルの傀儡とか言うクソ集団に属していることも、テンプレ過ぎる告白も、空気の読めない告白も、もううんざりだ。俺の蹴りはドヤ顔でヘラヘラしているプリヘニトの顔面を打ち抜く。プリヘニトはそのまま二、三回バウンドして、奥の壁に背中からぶつかった。



「……ッ!よくも僕の顔に蹴りをいれてくれたな!この美貌が見えないのか!イリス・トルエノに嫌われたらどうしてくれるんだ!」


「いや、私元からあなたの事好きじゃないし。それにどこが美貌よ。ちっともカッコよくもないわ!」


「うわースゲー、あっさりキッパリ断ったな。ナルシストにはキツイ一撃だわ、これ」



イリスに完璧ドシャットされ、ライから顔面に蹴りをいれられて、身も心もズタズタにされたプリヘニトは最後の強行手段にでる。



「そうかい、なら僕は君を殺してから愛でることにするよ。さぁ存分に泣け!」


「うわぁ、逆ギレだし。そりゃあフラれるわ。イリス、コイツ倒すけど良いよな?」


「いいわ。ついでに私の怨み分もお願いするわね」


「どけよ、黒髪野郎!!君のその髪と目は僕達との仲間の意味だろ?死にたくないなら、今すぐどきやがれ!!」



プリヘニトが懐から二本のナイフを取り出し、ライに襲いかかる。初撃の短刀は一歩後ろに下がって躱し、二撃目は氷の剣で防ぐ。鍔迫り合いには持ち込まず、すぐに後ろに跳んで距離を取る。俺が離れるのと同時に、頭上に魔法陣が展開され数十本の雷の矢が放たれた。



「チッ!!小賢しい!」



プリヘニトは飛んでくる矢を綺麗によけ、詠唱し四つの炎の球を現界させる。二つは俺へもう二つはイリスへ奇襲させるが、イリスが四つ全てを封殺して爆炎が辺りを包んだ。



「ライ、サッサと決めなさいよ!」


「ほう。この僕に勝とうと言うのですか。来るがいい。返り討ちにしてやろう!!」



一気に距離を詰め、魔法での戦いが困難な近距離戦に持ち込む。左上から降ろされる短剣を二の腕を殴る事で防ぎ、右から刺しに来る短剣は剣で起動を逸らしてギリギリ躱す。剣を右手から左手に持ち替え、プリヘニトの腹部を殴ってからもう一度蹴り飛ばした。



「テメェらが何を考えてテロ組織なんか立ち上げてんのかは興味もねぇ」


「・・・・・・」


「だけどな、そんなクソみたいな事に俺を巻き込むんじゃねぇ!テメェらの罪は俺の異世界ライフを害した事だ。死をもって償うんだな」



壁にもたれるプリヘニトに氷の剣を突き立てる。未だに冷気が溢れ、プリヘニトの頰に白い煙が当たっては消えて行く。俺は心臓の上に剣を当てて、最後の言葉を聞いた。



「そうかい。なら、君がウチの集団に属していればまた何か変わっていたのかもしれないね。そんな世界がないとわかっていても、そう思ってしまうよ。僕がイリス・トルエノを娶る未来も同じようにあったのかもしれない、かな?」


「知るか。パラレルワールドなんて、所詮夢物語。現実見ろ、この腐れ野郎」






氷の剣はプリヘニトの心臓を串刺しにし、彼を昇天させた。後に残った死体はだんだんと冷たくなって行き、最後はこの洞窟の温度と同じになった。














はい!今回は執事のロイテさんです!


名前 ロイテ

年齢 70

誕生日 6月10日

身長 172

トルエノ家に仕えてる年月 60年以上

その他 見た目結構なおじいちゃんだが、運動もよくできる。イリス以上。

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