第一話 旅の支度
「よし、そのまま集中してろよイリス!ヘリスはその上から頼むぜ!」
ーーー亜人戦争から約二ヶ月が経ち人々は戦争の恐怖から少しずつ離れていた。それは亜人も人も同じである。それぞれが待ち望んでいた平和を楽しんでいた。亜人は自らの村で穏やかに過ごし、人々は亜人との交流も忘れず日々成長を遂げている。
そんな中、オオガミ ライは今、真夏の炎天下の中へ日焼けなどを気にしているであろうお年頃の彼女達を連れ出していた。
理由は簡単。彼の実験の為である。
二人は何とか彼の言う事を聞いているが本心を言えば殺意しかない。それでもまだ手は出さない。彼の実験が終わり次第ジェノサイドを始める予定である。この炎天下の中に放り出された乙女の気持ちをわかりやがれ!と太陽より熱い怒りを隠している。
「ヘリス!もう少し弱めてくれ!イリスはもう少し密度を上げてくれ!」
「ほ、炎の密度って何よ!」
「強くするか弱くするかどっちなのよ!」
今、俺は異世界で新たな挑戦をしている。
その名も『魔法で影分身を作ってみよう!』である。
影分身。江戸時代や戦国時代にいたとされる忍者、影分身は彼らが使っていたとされる技で、現代でもマンガやゲームで技の一つとして登場している。
先ずは原理を説明しよう。
この世界の魔法にはいくつか種類がある。
一つは物質を構成して個体の物質を作る魔法、二つ目は炎や水の魔法のように液体や気体を生み出す魔法である。今回使用するのは後者の魔法である。
次にその魔法を発動させ、人間大の大きさまで作る。そして、その魔法にコーティングをするかのように風魔法で腕、足などの細かい部分を表現する。また、風魔法には物理判定があるので剣などで斬ろうとすれば弾かれてしまう。よって、敵からすればこの分身は防具を着た不死身の分身なので、アンチ魔法でも使われない限りゾンビ軍団の完成である。
また動作は術者が操作するのだが、簡単なプログラミングを加える事によって術者が何もしなくても働くようになるので問題無し。まさにター○ネーターである。
「よし!二人とも、今の力でいい。そのままキープしといてくれ!」
二人は魔法を発動させつつもグッタリと座り込んだ。
俺が空中に簡単な膜を張っている為そこまで日焼けなどはしてないと思うが、やっぱり長時間にわたり魔法を発動させるのは疲れるらしい。
因みにこの実験は朝食を終えてから今までやっているので約三時間から四時間ほど行なっている。
「ら、ライ…終わっていい?しんどいんだけど…」
「ん?あぁ悪い少しだけ待ってくれ!」
俺は未使用の魔石を取り出し二人が作った影分身(仮)を吸収する。この世界の魔石を言い換えるとすれば記憶装置のようなものである。しかも超優秀。
魔石に魔法を吸収させるとその吸収された魔法式(魔法陣)が記憶される。そしてその記憶が完了している魔石に魔力を注ぐだけでその魔法を常時発動可能になる。まぁ、普通は割らないと使えないけどな。ハクロウは魔石に魔力を吸収させてから強引に弾の形に放出したものである。よって半永久的に使える事ができる。
「そう言えばその魔石…どうやって手に入れたのよ?」
「ん?あぁ、余り物をコンラートの爺さんに貰った」
「魔石って高いのよ?いくらしたのよ!」
「?無料だけど?」
俺の回答にイリスは唖然としている。それに対し俺は頭に?マークを大量につけている。何か悪いことでもしたのだろうか?魔石は無料でやり取りしたらダメですよ法律でもあるのか?課金ゲームかよ。
「えっ?パクってないからな!ちゃんと向こうの了解も得てから持ち帰ったからな!」
「でしょうね。あんたにそんな勇気ないでしょうしね」
「ごもっともです!」
「認めるんだ。ラー君…」
当たり前である。いくら俺でも万引きや強盗はしていない。もちろん盗みもやっていない。やったとしても、俺を誘拐した暴力団の金庫の中からいくらかお給料を貰っただけである。お給料は向こうからお金をくれる事を言うから盗みではない!
そして貰った魔石は昔々に使われて割れたやつだ。爺さんがその壊れたのを持ってたから、少しだけ拝借させて貰えたのでこうしてリサイクルしている。長い年月のおかげで魔石内に残っていた魔方式は消去され上書きができるようになったというわけである。
魔方式が完全に読み込まれたのを確認して、俺は魔法石をポケットの中へしまう。
そこまでして俺はある事に気付く。そう、それは彼女達二人の視線である。あまりにも殺気立っている視線が俺を指しているので、この後に起こるであろう出来事が完璧に予測できる。
が、舐めて貰っては困る。
俺だって数ヶ月間、無駄にやられていたわけではない。しっかりと彼女達が嫌うものについては理解している。全部とは言っていない。
「わかってるって。お前らは今、『何でこんなクソ暑い日にあんたの実験に巻き込まれなくちゃならないのよ!日焼するの嫌なんですけど!だから、事の張本人をいたぶりましょ!』って思ってんだろ?」
俺の声真似に驚いたのか図星だったから慌ててるのか、どっちかわからないがとにかく彼女達は驚いていた。
「・・・・そうね。全くもってその通りだわ。なら、今から私達にされる事もわかってるでしょ?」
「まぁ一旦落ち着けよ。今、イリス達の肌は日焼けで痛いはずだよな?けど、その痛みはあるか?ないだろ?」
二人はハッとなり腕や顔を触る。そして痛みを感じてない事に気付きコッチを向く。
早く答えを言えってか…。何とも忙しい奴らだな。
「まぁいいや。寛大な俺だから答えを教えてやろう!」
「あ、やっぱいらない」
「何でだよ!?」
俺の賢者モードが発動したのにも関わらず一切を否定された。
…何がいけなかったのかな。ちょっと厨二入ってたから?それとも、上から過ぎた?
「……ラシエルのレーザー魔法の応用でここら辺一帯に赤外線が入らないようにしたんだよ」
「え?ラシエルちゃんの魔法も自分の物にしたの?」
なんだよ『自分の物』って俺はジャ○アンか何かかよ!お前の物は俺の物ってか?そこまで傲慢じゃないっての。
「人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ!俺は何かの為に使えると思ってコピーさせて貰っただけだっての!悪意も善意もありませーん」
「善意もないんだね…ラー君」
「そこ!呆れない!」
「それなら日焼けはしないってこと?」
「んー。どっちかって言うと微弱ながらしてるよ。いくら防いでもキリがないからな」
まぁ、ホントの所はどっちかわからない。防いでるのは防いでるんだろうけど、どのくらいかは知らない。
「ま、まぁ…あんたが私達の為に考えてくれてるのなら別に問題はないわ。……ありがと」
「ん?!今、デレてた!?まさかのイリスがデレてたの!?録音すればよかったー!!」
「やっぱりあんた一回死になさい!」
そう言って無詠唱で雷の球を撃ってくる。
相変わらずの短気さである。まぁ、これはこれでイジりがいがあるってものだ。
それに、やっぱりツンデレをデレさすのは楽しいね!
右、左と躱しているとヘリスが俺に問いかけてきた。彼女は参戦する気は無く、どこか「またかよ」と呆れている様子である。
「それで?ラー君は何で私達にこんな事をさせたのですか?」
「おー!やっと聞いてくれる人がいた!このツンデレお嬢さんはこう言う時の鈍感さはピカイチだから困ったものだよ」
「このクソライー!当たれー!」
「お!数打ちゃ当たる戦法か?」
こんな感じでイジって煽っての繰り返しが常日頃行われている。これの度が過ぎるとイリスがスネ期に入ってしまうので気を付けなければならない。
話を戻そう。
俺がラシエルのレーザー魔法と影分身(仮)の魔法を態々彼女達に実践して貰った説明は三日前まで遡る事になる。
三日前、トルエノ邸に一人の客人が訪れてきた。
「久しぶりだねライにイリス!」
赤茶色の髪の青年が思い人とその助力者の元へとやって来た。




