番外編 ライによるお料理教室
番外編です。本編はもう少ししてからで。
「そういえば、ラー君ってお料理もできたよね?」
ヘリスは唐突に俺に聞いてくる。俺はソファーに寝転んだまま返事をした。
「ん?まぁ、お前らよりは下手だけどな」
「またまたー謙遜しちゃって」
「素直にそう思ってるよ。俺のは地元の料理を真似て作っただけだしな」
「それでも人よりはできるのでしょ?」
「そら、六年間も一人暮らししてたら嫌でもできる。それで?お前にレシピを教えろと?」
「うーん、ちょっと違うかな。私のお願いはラシエルに教えて欲しいのよ」
意外な人の名前が出て来た事に俺は少し驚く。確かにラシエルはまだ掃除はできても料理はできない。けれど、ラシエルは小学生である。普通の小学生の女の子なら包丁を恐怖なしに持てたらいい方である。
「まだ早いんじゃないか?あいつまだ九歳だろ?」
「うん。けど、小さい内から練習してた方が身につくのも早いでしょ?」
「あー、なるほどね。それは一理あるかもな」
俺は前世でも料理はやってたから、やろうと思えば零歳の頃でもできた。ま、自転車にしろ勉強にしろ、料理にしろ小さい頃から始めてたら勝手に上達はするからな。
「わかった。じゃあ何を教えればいい?包丁の持ち方か?それとも料理を作ってみろ?」
「その辺はラー君に任せます。けど、今のラシエルには盛方以外は何も教えてないの。だから初歩の初歩から教えてあげて」
「厨房は何時まで使えるんだ?」
現時刻は俺の体内時計によると午後三時。夕飯の準備も考えるとできても二時間が限界だろう。
「何時でもいいよー。今日の夕食は久しぶりにラー君の料理も食べたいし」
「え…俺なの?今日の夕飯の当番誰だ!」
俺はダッシュで予定表の横に書いてある『一週間お料理当番表♪』を見る。当番はシャロとヘリスとロイテの三人の内誰かが行う事になっていて日替わりで交代である。
今日の当番を見ると『ロイテ』と書かれていた。ここであの爺さんに恨みを覚えても誰も文句は言わないだろう。右手の親指を立ててグッ!っと笑っているロイテの顔が浮かぶ。
「あのジジイー!」
「私が聞いたら喜んでいいよって言ってたよ」
「いいよ!別に!ラシエルと楽しくお料理教室するから!」
そうである。あの天使ロリのラシエルと一緒にお料理である。これは間違いなく天国だ。
なら早速、準備に取り掛かろう。
「いいかラシエル、料理を簡単に言い変えると工作だ。逆に難しく言うと芸術なんだよ。つまりだな、料理は一回一回全く別のができるんだ」
俺は悟りを開いたように物静かな口調で話す。ラシエルはその話を何回も頷いて聞いている。
ラシエルには悪いがこれはただの俺の勝手な想像を喋っているだけである。いわゆるポエムみたいなものだ。
「うん。なんとなくわかった。それで?今日は何作るの?」
「そうだな…、中華は前に作ったから今度は日本料理?いや、それだと賄えない食材が出てくるから………」
ヤバい全く浮かんで来ない。前の中華は麺や皮から作り始めたし、材料もギリギリ賄えたから何とかなったが中華以外だとその料理にあったものじゃないと味の問題とかがキツイ。
「うーん。あ!チキン南蛮でいくか」
「?キチン何番?」
「違う違う、チキン南蛮。それだと、材料は鶏肉と卵と小麦粉、後はソースか…。」
前にラーメンと餃子を作った時に思ったのだが、この世界にはあまりにも調味料が少ない。五大調味料の「さ、し、す、せ、そ」は
あるのだがそれ以外が何もない。あ、因みに五大調味料ってのは「砂糖」、「塩」、「酢」、「醤油」、「味噌」の五つである。なんで醤油が「せ」なのかはグー○ル先生かウィキ○ディア大先生に聞いてくれ。
「よし、ソースは後で考えるにして肉の方からやって行くか!ラシエル出番だ!」
「了解!」
ラシエルはビシッと敬礼のポーズをとってから作業を始めた。
「んじゃ先ずは肉からだ。鶏肉を一口大の大きさに切って、塩で軽く味付けをするんだ」
「うん」
俺はこの後ラシエルがとった行動に絶句した。ラシエルは包丁を持つのではなく右手を前に出し、魔法を詠唱しレーザーカッターで肉を切ろうとした。
「ん?お、おい!ちょっと待て!なんで魔法使ってんの?!ま、まさかあのなんでもカッターでやろうとしてた?」
「え、あれの方が簡単に・・・」
「肉だけじゃなく下の台までスパッと切れちゃうよ…。料理で魔法は使わない。お前の魔法は特にな」
「むー。お兄ちゃんがそう言うなら仕方ない…」
「そう言えばあいつにも同じように料理を教えたっけ…」
ラシエルに教えている最中にふと思い出す。俺の独り言を聞いてラシエルは手を止めた。
「あいつ?」
「ん?あぁ…妹だよ。教えたのはお前より小さかった頃かな…」
前世は一人っ子だったのだが二回目の人生では一人だけ妹がいた。そう、『いた』のだ。
俺は時折ラシエルに妹を重ねて見ることもあった。しかし、それはなんの意味も持たないと知りやめた。
「変な顔すんじゃねぇよ。お前はお前、あいつはあいつ。ラシエルはラシエルらしくいてくれ」
どこか俺を偲ぶような顔をしていたラシエルにポンポンと優しく頭を叩く。すると彼女は嬉しそうに作業に取り掛かった。
「よし、後は盛り付けて完成だな」
「私に任せなさい!ヘリスお姉ちゃんから教えてもらったんだー!」
「オッケー、じゃあよろしく!」
ラシエルには大体の基礎を教えた。後はシャロやヘリスが何とかしてくれるだろう。
俺は基本、他力本願である。
え?今更?とか思った奴…よくわかってるな。
「んじゃ、ラシエルが丹精込めて作ったチキン南蛮だ。おあがりよ!」
「半分以上お兄ちゃんがやったんだけどね」
「しー!それはオフレコで」
まぁ、俺がやったのは焼いただけなんだけど。
みんなが美味しそうに食べていているのでラシエルはとても機嫌がいい。俺は少し離れた場所でのんびりとその風景を眺めていた。
ーーーこの微笑ましい風景は永遠には続く事はなかった。
定期更新にしたのはいいものの、ドンドンストックが溜まってしまう…。
どこかで一気に投稿しようかなと考えてる今日この頃です。




