第二十二話 異世界での生活
「シャロ、お前!俺は何にもしてないだろ!」
「えー?そうでしたっけー?」
「早く吐きなさいよ、あったこと全てをね」
「理不尽だろー!!」
ここはトルエノ家に備わる地下牢獄。本当は一時的に罪人を捕まえておくための場所なのだが、今は拷問部屋へと変貌している。
ま、拷問されてるのは俺なんだけどね。別にバケツの中の水に顔を突っ込まれてるとか言うのではない。ただ両手両足を縄で縛られて空中に吊るされている状況である。
理由は簡単、俺がシャロを襲ったか襲ってないかである。勿論アレはシャロの失敗に終わった。そうだよ、アレは『俺が』じゃなくてシャロじゃねぇか!
イリス達の耳には、ゴラド王国に着く前に一泊した村で夜中に俺がシャロを襲ったって入っている。こんな嘘をついた理由は知らない。どうせ悪戯だろ…これは少しやり過ぎだがな。
ここにいるのは俺とシャロとイリス。ヘリスは仕事があるからいない。ロイテはこの話を聞くと「若いですなー」とか言ってすっぽかし、ラシエルは女性陣が「見ちゃダメ」とか言ってヘリスの手伝いに回した。
つまり、今この状況にはトルエノ家にいる人を代表するツン100%、デレ0%の少女とこちらも煽り、暴力最強の鬼っ子少女である。
うん。俺の人生詰んだな…。あぁ…かれこれ3三十年か…長いようで短かったな。異世界ももう少し堪能したいものだったよ。
イリスが雷の魔法と鉄パイプで作った電流付き警棒が振りかぶられる。後ろからは俺を逃がさんと大鎌を持つ満面の笑みの少女。
俺にはもう考える時間は無い。何とかして命を守らないと!あの警棒を纏ってる電力は半端ない。放電が起きるほどの電力である、何ボルトか考えたくもない。
「な、なぁ。一つ話し合いをしようじゃないか!シャロが嘘をつく理由は後で考えるとして、イリスはなんで怒ってんだよ?あとヘリスも」
「・・・ライがそんな…ケダモノだと思ってなかった、それにその…ーーーー」
全く何を言ってるのかは聞こえないが、勝手にコロコロとイリスの表情が変わって行く。はじめは赤面して怒り、その次は頰を赤くし、今度は膨れたような顔をして、今は泣きそうな顔になっている。
どれが本心なのか全く見当がつかない状況である。チラッとシャロの方を見ると、顔を真っ赤にして笑いを堪えている。
俺はシャロへの仕返しを決定させる。今回のはタダでは済まさせない。勝手に俺の俺を卒業させた事は罪にも等しい。幾ら何でも男としてこれは譲れない。漢として!
「・・・・まぁ、こんな縄簡単に解けるんだけど。さて、シャロ?お前、これからどうなるかわかってるよな?」
俺が何回こうやって拘束されたと思ってる?約二十回だ。そんだけ捕まってたら嫌でも逃れ方ぐらいはわかる。手の縄は少し空間を作って手を逃す。手が抜ければ吊るされてるのからも解放される。あとは足の縄をサッと外すだけ。簡単だろ?
俺はその作業を手慣れた手つきで行って行く。その作業にかけた時間はわずか十五秒。
シャロの顔の色は驚きの一色である。そして、俺は指をポキポキと鳴らしながら赤く輝く髪に両手を当てる。
「え・・?チョット待って!は、反省してるから!ゆ、許して!ぎゃあああああああ!!」
左右からグーで頭をゴリゴリやって行く。シャロは簡単に断末魔をあげ床にパタリと倒れた。残るもう一人はと言うと・・・自分の世界で葛藤していた。
「ーーーいや、それはないとしてーーーこの場合もーーーーー」
コッチはコッチで大変そうなのでそのまま置いておく事に変更した。誤解もお仕置きもできたので俺は地下牢獄曰く拷問部屋から出て行った。この部屋の出入り口は東館一階の一番左の部屋の中の階段を下りたところである。目隠しはされていなかったので覚えている。これからは俺ではなく赤髪の女の子の為に使うであろう場所である。主に俺がお仕置きする為に使用する。
「ったく…俺にはお前らにそんな事する勇気なんて持ってないっつーの」
俺のボヤキは誰にも聞こえないまま消えていき消滅した。
階段を登り部屋から出る。ラシエルとヘリスは仕事中、ロイテは行方不明。シャロは気絶、イリスは夢の国で葛藤中。つまり、俺は今ボッチである。ヘリスの手伝いに行こうかとも思ったがやめにする。なんだかんだ言ってヘリスが女性陣で一番怖いと思う。逆に一番怖くないのはシャロだろう。イリス?あいつは一番手を出してくるが怖いとは思わない。優しい所もあるしな。
それに対してのヘリスは全く手を出して来ない。なら安心だと思うだろ?俺が何年間子供やってたと思う?二回目にもなるとその頃の子供がどんな情緒なのかは理解できる。ヘリスのような子は自分で自分を抑えられなくなるともう誰にも手はつけられない。日頃は穏やかな子は特にそうだ。「え?この子こんなに怒ったら怖いの!?」ってやつだ。
ボッチには要注意人物である。そう言う子の多くはフレンドリーな子だ。つまりボッチにも話しかけてきたりする事が多い。が、そこでコミ症を発動したり変な事言って逆鱗にでも触れたらおしまいだ。因みにソースは俺である。
「何しようかな…手伝いに行くにしてもラシエルの邪魔したら悪いし、どっかで昼寝でもしようかな」
思い立ったら吉日。俺は邸内を通って中庭へ行くが日陰の場所が無かったので場所を変える。今度は庭に出る。端っこの方にいい木陰があったのでそこで昼寝をする事に決めた。
横になり目を瞑っていると色々な事が思い出される。
異世界に来て右も左もわからなかった事も、襲われてたイリスを助けた事も、アホみたいにデカイ恐竜と戦わされた事も、シャロを慰めた事も、亜人族と戦った事も、物理限界を優に超す鬼と戦った事も。勿論イリス達と遊びまわった事やローボやハクロウを作った事も。
今まではクソだと思ってた日常が異常に変わり、驚きと冒険の日々に変わって行っている。本当にいい事だ。この生活なら引き篭もる事もニートになる事にもならないので人生も楽しめる。
勿論、面倒くさい事や危ない目にもあってしまうのは否めない。が、それを差し引いても俺はこの世界に来た事を嬉しく思う。
・・・・あぁ。・・・眠くなって来た。
俺は頭を出っ張ってる木の根に乗せて、辛くない体制に変える。
「ホントいい世界だよ…ここは」
俺の意識はゆっくりと深い泉に沈んで行った。
「ーーー!ーイ!起きて!」
「・・・・・んー。」
「晩御飯の時間だよ」
真っ白に近い銀髪が風に靡き、頭の耳がピクピクと動いている女の子が俺の腹の上にズドンと乗っていた。
あぁ、これは夢か。こんな幸せな起こされ方なんてありえないもんな。これは俺の欲が夢に出てきただけだろう。これが現実だと発狂してる。
「ライお兄ちゃん!起きて!・・・起きないと撃つよ?」
一回は開けてしまったけど次は開けてはいけない。なぜなら、これは夢だ。ここで目を開けてしまえばこの幸せなアラームが終わってしまう。この夢は一度しか見る事ができない。なら!・・・・・ジュッッ!
俺の右耳の少し横で地面が燃えて消滅するような音が聞こえる。それもレーザーで焼いたような音だ。俺はあまりにもの恐怖でパッと目を開けてしまう。やらかした…そう思ったのだが天使は存在した。
「あ、やっと起きた。遅い!私が作ったご飯が冷めちゃうじゃない!早く行くよお兄ちゃん!」
「ゆ、夢じゃなかった!」
「?まだ寝ぼけてるのなら次は当たるよ?」
「はい。すみません。勘弁して下さい」
「うん!じゃあ行こう!」
小学生ぐらいの子に頭を九十度まで下げて謝ってる高校生なんてどこにいるんだよ?
俺とラシエルはそのまま食堂へ向かった。食堂のテーブルにはいつもより豪華な食事が並んでいて、椅子にはイリス、ロイテ、ヘリスが座っていて一席にラシエルが座った。
「おい?これは新手のイジメか?功労者には立って食べろと?」
そう。今回よく頑張った俺とシャロの椅子が無いのである。シャロはもう拗ねて端っこの方でいじけている。
「いやいや、そんな事ないって」
イリスがそう言いながら魔法を使う。すると、俺の頭の上に何かが落ちてきた。パンッっと音が鳴って四方に炸裂する。
そこには四角やリボンのような色紙と一緒に紅い光で『ライ!シャロ!おかえり!」とあ文字で書かれていた。
そして、俺とシャロがそれを見て驚いていると、俺達の椅子が急に出現した。ラシエルがそれを見てえっへん!としている所から彼女の魔法なのだと察しできる。
ホントこいつらはいい奴らである。
「「ただいま」」
二人で声を合わせてそう言った。その後俺やシャロの武勇伝の他、新しくここで暮らすラシエルに手厚い歓迎があった。
そして、夕食も終わりそろそろ洗い物をしようかと言う所でラシエルを除く女性陣が声を合わせてこう言った。
「「「よし!じゃあ続きをしますか!」」」
「?なんのだ?」
俺が不思議に思ってそう聞き返すと、イリスが呆れた顔で俺に言った。
「あんたとの話し合いよ」
「話し合い?」
「そうです。私、まだ何もできてないのでやらなくてはなりませんしね!」
「え…やるって何を?」
「それは、もうわかってるでしょ?」
ん?なんかヤバい空気になって来たぞ。これは逃げるのがいいのか?段々バチバチと空気が震える。
「「「ライ(ラー)(君)への尋問よ♡」」」
やっぱりさっきのは訂正する。確かにここの奴らはいい奴らで、この世界はいい世界である。が、それは彼女達、この世界の機嫌がいい場合のみである。
「やっぱりこの世は信じれねぇー!!!」
ーーーーーーー第二章「亜人と人」〜亜人戦争編〜 Fin.
今頃ですがラシエル・ソロの紹介です
名前 ラシエル・ソロ
性別 女
身長 135
髪、瞳の色 銀、茶色
得意魔法 風、固有魔法
その他 種族は獣人族でモデルはホッキョク狐。ジト目を




