第十八話 大神 雷
「な、んだ、と!?」
男の右腕から盛大に血飛沫が上がる。男は今何が起こったのかわからず絶句していた。男には雷が今行った動きが全く見えなかった。
「何故死にかけてた筈なのにこんな事が出来るのか、何故自分の攻撃が躱されカウンターを喰らったのか、テメェが今思ったのはそんな所か?」
「クッ!・・・フンッ!!おい、お前は何者だ?」
「何者?人に尋ねるより先に自分の名前を言えよ?小学生でも知ってる常識だぞ?なぁ?この真緑宇宙人」
男が肘から下が飛んで行った右腕に力を込めると、先程よりは幾分と細いが腕が再生された。まさに例の真緑宇宙人のように。
「俺の名前はゾーン!第9の傀儡だ!さぁ!質問に答えて貰おうか?さっきまでの奴とは明らかに違う!お前は誰だ!」
「勘がいい子供は嫌いだよ!あ、おっさんか。・・・俺の名前は大神雷、天下無双の引きこもりだ!さぁ!今度はどこがいい?足か?腹か?もう一回腕か?それとも首か?」
「どこも嫌だな。次はお前の番だ!」
そうゾーンが言うとさっきと同じように音速で殴り込んで来た。雷からしたらいきなり殴られるような感覚に陥るのだが、それは殴られた時の話だ。
ゾーンが気付いた時には雷はゾーンの左横に立っており、ゾーンの左足、左腕は無くなっていた。
「ガッ!!・・・クソが!俺の動きが見えるだと!?」
確かに超スーパースローのカメラで見ればゾーンの動きはただ単純な左ストレートだ。が、その左ストレートは常人には見ることも躱すこともできない。ましてやそこからの反撃などもってのほかである。
「マジウケる!!なんだお前?自分イコール最速って思ってるの?厨二病かよ!そんな事より!今度は左足左腕だったね〜!!次はそろそろ首かな?」
「舐めやがって!!」
雷はクルクルと器用に片手でローボを回す。それを横倒れになりながら睨みつけているゾーンは左足を再生させて立ち上がる。
「?あれ?左腕は?治さないの?待つよ?」
「遠慮する。今度は確実に殺す!!」
またゾーンは姿を消した。そして今度は殴るのではなく、下段蹴り。つまり雷の足を狙った蹴りを仕掛けて来た。それを雷は躱さずその右足をローボで串刺しにして強引に停止させた。
「よっ!・・・今度は右足だったね?さて、これで四肢は全て一回は斬ったかな?もう再生はできないね!なら、達磨作りをしようか!!」
「な!?知ってやがったのか!!ふざけやがって!!」
「あ?ウジウジうるせぇよ!サッサと俺に残りの四肢を寄越せ!テメェを達磨にして酒に漬けといてやるからよ!!」
達磨。大昔の中国、曰く清の時代の時の拷問、処刑方法の一つで、両手両足を切断し頭と胴体だけの状態にしたものである。また、その状態の人間を化膿止め、止血を行い食べ物を与えればその状態のまま何年も生きられると言うものである。
「まぁ、俺はそんな事はしない。達磨にして酒に漬けて写真でも撮っといてやるよ。それが終わったら斬首して終わり!」
「お前、本当に人間か?」
「あぁ。勿論人間だとも。なのに俺を見た奴らは口を揃えて『怪物』や『化け物』って言いやがる。まぁ、全員その口で喋れなくなったけどな?」
「そうかい。なら、俺もお前に一言言ってやるよ。お前は怪物で化け物だな!!」
「・・・・・・それが何になる?カッコ付けか?最後の悪足掻きか?毎回毎回お前らはグチグチ死ぬ間際になればそう言い張る!!なんだ?お前らには死ぬ前は何でもしていいって権利があるのか?あの時も!あの時も!お前らはそう言ってた!怪物?化け物?そんなしょうもない名前を付けるくらいなら黙って俺に殺されやがれ!」
「お、お前は一体何なんだ?・・・人を何人殺したんだ?何でお前は怒っているのに嬉しそうなんだ?」
ゾーンは恐怖を覚える。何人も殺してきたのはゾーンも同じである。あの集団に属してから何十という数の人間や亜人を殺して来た。だが、一回としてその事に喜びは感じなかった。
血まみれになろうが相手の死を間近で見ようが嬉しさは感じなかった。否、嬉しく思えなかった。
けれど、目の前にいる少年は怒りながらも嬉々としている。それに人を殺した事を怒っているわけではない。ただ純粋に相手の死に方が憎いだけだ。
「さぁな。何でもいいや。サッサとお前を達磨にしてやるから楽に死にやがれ!」
「そう簡単に死ぬか!俺だって鬼の一端だ、ニンゲンごときに何もせず負けるわけにはいかねぇな!」
「バカだな…」
ゾーンは一か八かで魔法で剣を作る。右足は雷によって消される。だから諦めて左足一本で立ち、右上から振り下ろす。が、雷は冷静だった。
雷はハクロウを取り出し剣にアンチ魔法弾を当て消滅させる。そして、唖然としているゾーンの四肢を斬り裂き、首を落とす。
「あー終わった!久々に体動かしたなー!ん?あ、しまった!体がもう持たねぇ!!」
伸びをしていると目眩がし、急に体の安定が悪くなる。フラフラっと足が千鳥足になりそのままバタンと倒れてしまった。
「『変われ』……」
雷はそれだけ言ってゆっくりと眠りについた。
ゾーンとの戦いで俺が眠ってからどれだけの時間が経っただろうか。最後の決着の所は俺は覚えていない。覚えているのはあの野郎の声が聞こえた所まで。
何か嫌な思い出がずっと頭の中で回っていたような感覚だったけれど、それがどんな思い出でなんて思ったのかは覚えていない。
今はどこか暗い場所にいる。あいつに任せたのだから死んではいないのだろうから地獄ではないのは確かだ。
もし、地獄であったとしてもそれは俺からしたらただの遊園地だ。鬼も閻魔もデフォルトで見ればただの可愛い子供だし、何とか地獄とか色々あるそうだけど精一杯楽しんでやる気だからである。
しかし、ここは地獄ではなさそうだ。鬼も閻魔もいない真っ暗な世界だけである。今思えば声も出せないし五感全てが感じない。何とも不自由な世界な事だ。これじゃあゲームの一つもできやしない。
なんだろう?何か聞こえる。けど、耳で聞いているわけではない。頭に直接話されている感じである。もしかして、とうとう俺テレパシーが使えてしまったのか?!
「バカだな」
!?誰だ?どこから聞こえた?さっきから聞こえている声ではない。どこか聞き慣れた声なのはわかっている。が、出てこない。
「悪いが今は誰かに起こされてるみたいなんだ。お前と話すのはまた次の機会にしてくれ!そん時はちゃんと話すからさ!」
俺はそう話した。声が出たのか、出てないのかはわからない。けれど、その相手から「わかった」と言う声が聞こえた気がしたから多分通じたのだろう。
俺はそう勝手に結論付けてこの暗闇を照らす光の方へ歩き出した。




