第十五話 聖神
イワン・アテア・ヘリオスという人間を言葉で表すと『完璧』である。
彼は僅か十二歳という若さで騎士団に入団が許された。初陣では新入りとは思えない強さ、行動力で武功を挙げた。容姿、武道、勉学全てにおいて完璧と他者から評価されていた。しかし、彼の人生は完璧ではなかった。
彼の家系は剣のみの家系であり、現騎士団団長を除けば代々騎士団団長はアテア・ヘリオス家が受け継いでいた。現当主のアレス・ディアナはヘリオス家の親戚の家系である。現ヘリオス家の当主は病弱な為凌ぎとしてアレス・ディアナは団長を務めている。
つまりイワン・アテア・ヘリオスは剣を振る為の人生で剣のみでしか生きてはいけない。故に彼には魔力自体が存在しない。代が変わるごとに魔力の量は減って行き彼の代でゼロになってしまった。
結論から言うと彼は自分の人生を選ぶ権利が無かったと言える。趣味、好きな事などで普通ならば枝分かれして行く分岐点が無くただ一直線に一本だけ線が引かれている。
ライのように造られた人間であり、多種多様な力を持っているわけではない。剣という一本の道を歩いているだけである。
決められた人生。それは一見幸せに見えるが決められた方からしたら唯の地獄である。
「・・・・君が僕の相手のようだね」
「ギャハハ!!これは珍しい!あの聖神が相手じゃねぇか!?旦那には感謝しなくちゃな!!」
「その呼び方は辞めてもらおうか。僕には重い評価だからね」
「は?テメェみたいな完璧人間が何を言っている?俺は羨ましいけどなーそんな呼名。ギャハハ!!!やっぱいいや。なんか俺が聖神とか似合わないや」
「だろうね。君がそう呼ばれていたら少し嫌悪感を覚えるよ」
「おいおいそれは褒めてんのか?・・・まぁいいや。テメェ何をそんなに怒っている?俺が憎いのか?」
「あぁ憎い。君は母さんを殺した奴だからね。仇は討つ!それにこれ以上僕の大切な人を殺されたら辛いからね」
「母さん?あぁ!あん時の女か!あれは鬱陶しかったなぁ。教えてやるよ、あの時の俺の本来の標的はお前だ!けど、女が邪魔したせいでしくじっちまった。いい迷惑だぜ」
「そうか…。なら、ここで確実に殺しておかないとな。僕が僕である内に…。始めようタバール!」
イワンは背中に下げている剣を抜き構える。相手は武器を出さない。ポケットに手を突っ込んだまま何の素振りも見せずただ傍観している。
隙だと判断しイワンは飛び込んだ。タバールは未だ動こうとはしない。イワンの剣はそのままタバールを斬ろうと加速する。そして、剣先が当たる瞬間、タバールは後ろに下がり剣先が少し掠って終わった。
「何のつもりだ?舐めてるのかい?」
「いやいや、こうでもしないと俺の能力が発動しないんで。あー痛い!けど、最高だ!」
タバールは傷の場所に手を突っ込み、出血させる。地面に服にボタボタと血が落ちて行く。するとその血は生きているかのように動き出した。
「!?な、君は何者だ!人間ではなさそうだが」
「ギャハハ!俺は普通の人間だぜ?ただ傀儡として能力を得ただけだ」
「自分の血を操る能力か。それは大層気分が悪いね。死んでも得たくない能力だよ」
「死に顔が見ものだな!さぁ!サッサと死にやがれ!」
タバールの血は一回彼の右手に集まりそれから三本の剣の形へと変化した。タバールの剣は空中に浮いて彼の周りを回っている。そして、タバールはイワン目掛け二本投げつけて来た。
イワンはその剣を一本は避け、二本目は剣で弾いた。が、避けたはずの一本目の剣が彼の背中を斬りつけた。
「クッ!これは大変だな」
「ギャハハハ!!あの聖神様が無様に膝をつきやがった!これは見ものだぜ!」
イワンはタバールの対策を考える。二本目の突きを右に転がって避ける。が、避けた先には一本目の剣が待っており上段から振られるがそれを何とか剣で防ぐ。相手は血なのに硬度があり火花が散る。
奴を傷つければ相手の武器を増やすだけ、だからと言って躱しているだけではジリ貧である。
「なら、一発で決めるだけだ。」
そう一発で仕留めると宣言しイワンは立ち上がった。左右から振られた剣をしゃがんで躱す。
イワンは剣を構え、全速力で走り出した。タバールは浮いている剣を握り走り出す。ガキン!っと音がし鍔迫り合いになる。
タバールは鍔迫り合いになると同時に右手を動かし二本の剣を変形させ一本の大斧に変化させ、イワンの背中を狙って操った。
「死ねーー!!!聖神!!」
「君ならそうすると思ったよ」
イワンは鍔迫り合いを一歩下がり終了させタバールの右を走り抜けた。タバールは目の前の男が何を言っているのか理解できなかった。が、イワンが退くことによって前方が見えるようになり意味を理解した。
大斧は止まることはなくタバールの体を斬り裂いた。鮮血が飛び散り地面が真っ赤に染まる。
「ガフッ!?」
「これで終わりだ!母さんを殺した罪、死んで償え!」
後ろから剣を横一線で振った。首が飛びさっきの倍以上の血が噴水のように飛び出た。イワンは納刀しシャロの所に行こうとした。
後ろから何十本もの剣で刺されるまで。吐血し倒れる。一瞬もう一人の男が加勢しに来たのかと判断したがライの雄叫びが聞こえるのでそれは無いと判断する。
ならば、さっき首が飛んだタバールがやったというのか?地雷のようなものか?
恐る恐る後ろを振り返るとそこには自分の首を抱えた首なしのタバールが立っていた。
「やっぱり首はここが落ち着くな。勝ったと思ったか聖神さん?残念だったな!俺はデュラハンなんだよ!」
「チッ!ふざけやがって!」
「ギャハハ!その顔!母親と一緒だな!あの夜もお前の母親は俺の首を落とした。けど、俺が復活した姿を見て絶望してたよ!今のお前と同じ顔でな!」
イワンはフラフラと立ち上がり突き刺さっている剣を抜き投げ捨てた。抜刀し構えをとった。
「フン!」
「オラァ!」
ガキン!ガキン!と紫色の大斧と刀がぶつかると同時に甲高い音が鳴り響く。
ライが先手必勝で斬りかかってからずっとこの調子である。お互いに斬り合っているが剣で防がれるか躱されて一向に拉致があかない。
ライがハクロウを取り出し乱射するが魔石の効果によりダメージを受けない。すると、男の左腕に魔法陣が展開され紫色の靄が出現する。
「『我が闇は 漆黒の鱗片 全てを吸収する』」
「チッ!」
ライは危険を察知し勢いよく後ろに飛び退く。すると、紫色の靄は二人の間に飛んで行きその周囲全体を囲んだ。
「なんのつもりだ?逃がさないつもりか?」
「さぁな。これから思い知るがいい」
すると男はこの空間から出て行った。中は微妙に明るく見渡すことはできる。
「チッ!なんのつもりだ!○解のつもりか?!」
俺がそう叫ぶと壁が動き出し四方八方から剣、斧、槍、シューティングスター、鎌など数えるのもうんざりするほどの武器が飛んで来た。
「クソが!!」
武器を見ると魔法で造られた偽物ではなく、紛いもない本物であった。俺は大玉を放ち武器を熱で溶かした。そしてアンチ魔法の球でこの空間全体に乱射して打ち消した。
「!?」
「テメェらだけが使えると思ったか?」
「そうか。一ヶ月前に王都に襲撃に行った集団が
負けたと聞いたがお前だったのか」
「まぁ、半分以上はウチの姫さんがやったけど。一番偉い奴は俺が片付けた。」
「なら、お前はプリヘニトをやったのか?」
「あ、誰だそれ?」
プリヘニトか。聞いたことのあるような名前なんだが顔がわからない。あーこれは出てこない奴だな。
「あの時の集団はイリス・トルエノを狙ったものだ。そしてお前はそいつを姫さんと呼んだな。なら、お前はプリヘニトと戦ったはずなんだが?」
「あー思い出した。あのクソ野郎かソトーカーしてる変態だろ?短剣使いの」
「あぁ。やはりお前だったのか。なら、温情は無いが仇は討たせてもらう!」
「勝手にやっとけ!俺はこの戦争を止めに来ただけだからな」
俺は走り出し横一線で斬りつけるが防がれる。そして、その勢いのまま右足で相手の腹を蹴り飛ばす。
「クッ!」
今の蹴りで男は数メートル先まで飛んで行った。
そこでようやく男のハードが外れた。
「・・・テメェ、鬼か」
「それがわかって何になる?」
「テメェへの怒りが数倍増しただけだ。気にすんな」
俺はもう一度男に襲いかかった。




