第十四話 頼りない侵入者
「ぎ、銀髪の獣耳女の子とか……異世界最高じゃねぇか!!」
異世界に来たからには会いたいと思っていた獣耳女の子に会ってしまうとは正に最高である。
「ライ君!鼻の下伸ばしている場合じゃありません!!敵ですよ!?」
「ライ!しっかりしろ!ここは戦場だ!命取りになるぞ!!」
「うるせーホモ野郎!!ふぅ…。名前はなんて言うの?」
「・・・・・・いきなり下心全開で人を見るとは最低ですね。」
そう言い放つと銀髪の少女は両手に魔法陣を展開する。魔法陣からは無数の赤い線が現れ周囲の壁と繋がって行く。
「破滅の線よ 我に答えよ 敵は全て斬り刻む」
「おいおい…。赤外線レーザーとか聞いてないぜ…流石に触れたらアウトは鬼畜過ぎんだろ!」
「私の魔法は何でも細切りにするよ。早めに逃げたら?逃がさないけど。」
「逃がさないなら言うなよ!希望持たして無くすとか卑劣か!!」
「え?この赤い線ってそんなに危険なの?」
「シャロ!絶対触るな!触ったら指無くなるから!」
「それ程までに強力とは!どうする?絶対絶命だぞ?」
「俺に聞く!?俺に聞きますか?お前一番隊の隊長さんだろ!なんか無いのかよ!」
ここに来て最大の難所かよ。赤外線レーザーってマジかよ。勝てるわけねぇ。コンピューターとライフルが必要だな。まぁ、線が見えるだけマシだな。
彼女自身は自分の魔法を無効化できるらしい。さっきから当たっているけど一向に体が消える雰囲気は無い。
「けど、まぁ見えてるんなら問題無いな。」
ライは少女を目掛けて弾を撃つ。しかし少女は咄嗟の判断で右に飛んで躱す。前転し、止まったところで今度は壁ではなくライ自身を狙い魔法を発動した。
ライはギリギリのタイミングでその攻撃を避ける。しかしこのまま行けば逃げ場は無くなり体を微塵切りにされてお終いである。
「チッ、可愛い顔してどんだけ凶悪なんだよ。しゃあねぇ、あいつら以外には使いたくなかったんだが…節約して死んだら意味ないしな。」
ライはポケットから今度は今までの黒色の弾丸とは違って真っ白の弾丸を取り出した。それをセットし少女ではなくレーザーが当たっている壁に狙いを定めた。
赤い線が当たっている所に白色の光弾は命中する。すると、赤い線が一本、また一本と消滅していった。
「アンチ魔法弾。どっかのクソ集団が使用していた鉱石をパチって来て組み込んでやった。多分こいつはどんな魔法でも封殺する。まぁ、魔力の消費がアホほど多いから乱射はできないけど。」
半分、いやそれ以上のチート能力だろう。この魔法と剣の世界でまさかのアンチ魔法に銃ってチーターもいい所だ。異世界ならではの事だけど。
少女はあっけらかんと言った表情をしている。それはシャロやイワンも同じで三人とも今何があったのか理解していない様子だ。
このアンチ魔法?みたいなのは俺がこの世界にやって来た初日、イリスが傀儡どもに襲われている時その集団の頭が持っていたモノだ。
何とか大会の時に帰る前に押収した。本当にアンチ魔法の力があるのかは知らなかったが、弾に加工して魔法に撃ってみたらその力は本当だった。
「まぁ、これはそのクソ集団戦の時以外使いたくなかったんだけどな。使わなかったら俺死んでたし。それは嬢ちゃんが誇っていいと思うぜ?」
「・・・・・。私は元々あなた達を殺す気は無かったよ。あなた達の力を知りたかっただけ。」
「どの口が殺す気は無いだ、完全に死んでたわ!それで?態々そんな事を確認してこいって言われたのか?」
「違う。私が独断で動いてる。この戦争は傀儡の奴らが仕切ってる。だからそれを防いで欲しい。あと、族長達を殺さないで欲しいそのお願いに来た。」
「シャロ、お前その族長達と交渉できるか?」
「え、ライ君信じるんですか!?」
「当たり前だろ。この戦争が誰かに操られてるのは事実だしな。それがあのクソどもなら俺が殺す。」
「え?僕は?!」
「あ?お前はこの子の護衛だよ。俺はこの子をトルエノ家へに招待するからな!」
「その返事は置いといて、敵は二人。二人で挑んだ方がいいと思う。」
「え?マジで?それならシャロ!よろしくー!」
「了解しました…。手伝ってもらうからね!」
この子の名前は後で聞くとして今は早く傀儡二人を見つけなければいけない。もう俺らが攻め込んでるのは承知だろう。強いのだろうか、あのストーカー男と同じかそれ以下なら余裕なんだが。
「それじゃあ、役割分担も終わったみたいだから行こうか。その傀儡達はどこにいるかわかるかい?」
「展望台」
「ライ、どうする?」
「出たとこ勝負で」
「り、了解。なら、サッサと行こうか!」
今の俺は全身全霊で殺気を出している。異世界来たから散々トラブルだらけになった原因は絶対あの傀儡のせいだ。
異世界で飲食店とか出したり『万屋ライちゃん』とか出したかったのに!そして、異世界ハーレム人生を楽しみたかったのに!
俺達四人は紐なしバンジーで大きな穴に飛び降りた。
「「「うわぁぁああああ!!!」」」
「フゥゥゥウウウーー!!」
悲鳴をあげているのは俺とイワンとシャロである。一番年下がこの紐なしバンジーを楽しんでいた。
自分でもそこまで長い穴にした覚えはないのだが、体感では70メートルぐらい落下している。着地は無理だな、足無くなる。
「あ、地面だ。・・・誰か!何とかして!」
「ライ君クッション弾とか無いの?」
「あるわけねぇだろ!俺のポケットは4次元じゃねぇんだよ!」
「・・・お兄さん達よくここまで来れたね。」
少女が呆れ果てて俺達に言った。それはもう綺麗な正論で年上のはずの三人は黙ってしまっている状態だった。
「仕方ない。『風よ 我が体を包め』」
少女の詠唱と同時に俺達四人の体はふわりと浮いた。そして、柔らかく包まれ減速しゆっくりと着地した。
「さすが魔法!あの落下でもノーダメージって凄すぎだろ!」
「いちいちお兄さん騒がしくない?」
「そういう人だからね。仕方がないんだよ。」
「シャロ!それフォロウになってないから!」
「まぁ、そういう人間もいるってことだよ。これで少し賢くなったね。」
「イワンテメェ!帰ったらホモって言いふらしてやる!!」
「早く行くよ。・・・って囲まれてるし」
俺達の周りを全亜人族が囲んでいる状態である。すると、鬼化してツノを出したシャロと少女が俺とイワンの前に出た。
「あんた達そこを退きなさい!!」
「どいて!今からこの人たちがホントの敵を倒すから!」
「「知らねぇよ!!俺らの敵は人類だ!」」
シャロ達の話を全く聞かず亜人族は反論する。すると、話し合いは通じないと判断したシャロが鎌を召喚した。
「シャロ、お前は交渉だ。殺し合いじゃない。」
「・・・・わかった。」
「よし、じゃあ行くか。多分あの建物が言ってた展望台だろ」
「そうみたいだね。人が二人、コッチを見てる」
「高みの見物とはいいご身分なことで!」
俺達二人は包囲を突破するべく立ち上がる。一人の亜人が魔法を放ち襲ってくる。すると、シャロが鎌で魔法をぶった斬る。
「誰が攻撃しても良いと?」
「この裏切り者め!」
「裏切り者じゃない、これは操られてるみんなを助けるための戦い。あなた達は傀儡の奴らに操られてる。」
「そこの奴も傀儡じゃねぇか!!」
「あ?なら、証明してやるよ!本当の傀儡を倒してな!!」
俺は地面を蹴り壁を走って包囲を突破する。そして、展望台目掛け野球ボール程の弾を撃つ。
「降りてこいや!このクズども!」
俺がそう言い放つと二人は右と左で別れて攻撃を避けた。左はハードを被っていて顔は見えないがガタイはしっかりしている。右は比べると細いがハードを被っておらず黒髪がたなびいている。
「ライ。僕は右をやる、少し面識があるからね。」
「まぁ、こんなタイミングでビビる奴ではないな。闇落ちしたクズを立ち直らせてやれ!」
「あぁ。ライもな!武運を祈る」
「おう!」
二人は後ろの亜人を無視し、走っていった。
「よう。完全に作戦が潰された気分はどうだ?」
「そうだな。あえて言うならお前は俺らの同志か?」
「同志ね…。そんなのまっぴらごめんだな!!」
俺はそう言い張ると抜刀し地面を蹴った。




