第六話 おかしな騎士団
「・・・・・・・・・」
「どうした?ライ?具合でも悪いのかい?」
イワンが心配している中、ライは目が点になり、口があんぐり空いた状態でフリーズしている。
「おーい!ライ?大丈夫??」
「・・・・!あ、あー!えっと、大丈夫だよ。オッケー座る座る!」
俺がここまでアホに驚いているのは、
「さて、ロイテから話は聞いている。文書を見せてくれ。」
このゴツい体のおっさんの声が、思っていたのより物凄くハスキーだったからだ。
これさ、絶対言っちゃダメだよね!ダメだ。文書渡してから何か言ってるけど全然頭に入らねー!この人ホントに男なの?女じゃね?もしくはオカマだな。これホント理不尽極まりないやつじゃん!なんでイワンは何ともないんだよ!!
「では、ライ君。少し君から説明してもらおうか。いいかな?」
「は、ひゃい!」
噛んじまったー!もう駄目じゃん!オワコンじゃん!あぁ、何が顔を覚えてもらうだよ…悪い意味でしか覚えられないじゃんか…。こんな初見殺し聞いたことないし…。奴隷出のガキが団長とあって爆笑してたとかって噂が流されるんだろうな。
勘弁してくれよ。
「え、えっとですね。お、私達の唯の勘なんですが、少し今回の戦争に対し疑問がありまして。」
「疑問とは一体何なのかな?」
「は、はい。えっと、今回の戦争の引き金となった殺人事件なんですが、まだ犯人は見つかってないんですよね?」
「あぁ。その通りだ。現在も捜索しているが、何も掴めていないのが現状だ。」
「そこが何かおかしくないですか?犯人は一般人な筈なのに一つも証拠らしきものが見つからない。」
「つまり、犯人は殺しの手練れであると君は言いたいのか?」
「えぇ。犯人は殺し屋、もしくはこの国の上の立場の人間か。隠蔽するのは簡単ですからね。」
「そして、君は殺し屋の方を疑ったのか。」
「はい。他にも色々とありますが置いておきます。そして、それらの情報とロイテによる付近の国の観察を照らし合わせるとゴラド王国が浮いて出てきたということです。」
「ならば、ライ君にはそちらを対応してもらおう。隊長は君だ。」
「え、えっとそれならば人数は少数で手配できますか?俺の希望では一人か二人でいいんですが…。」
「な、君はその人数だけで一つの国を取ろうとしているのか!?」
「あ、はい。何か問題でも?」
「相手は国だ!どこかの小隊ではなく国なんだぞ!?」
「国王一人を暗殺するだけなんで大丈夫です。王様の頭を取れば少しの間は混乱するので、その間に亜人と和平して終了させればあっちの国の国王だけの犠牲で済みますから。」
「悪いが我々は亜人と和平する気はない!!そろそろあの見下した目を辞めさせなければならない!これはこの国の意思だ!!」
「・・・・・。一応言っときますが、兵は駒じゃないですからね。戦いが終わったら全員生き返ったりしませんからね?それが俺からの忠告です。済まさせん。出過ぎた真似でした。では。」
俺は怒気を出しながら部屋から出て行った。後ろでイワンがアワアワとしているが放っておく。そのまま足を止めずシャロが居そうな場所に歩いて行った。
「おかえりー!ライ君!!どうだったー?」
「マジ声高すぎて途中で死にかけた。あんなの聞いてない!初見殺しもほどほどにしろっての!」
「声?あー、なるほどね。アレはしょうがないよシャロも初めて会ったときは同じ感じだったし。」
「だよな?よくイワンとか普通にしてられるよ。あいつ頭おかしくなったんじゃない?」
「そんな事はないさ。ただ慣れただけだよ。」
「やっぱり誰でもそうだよな。うんうん。・・・ええええ!なんでお前いんの? てか、何普通に話の輪に入ってんの!?怖いんだけど!!」
「さすがにあのまま放って置くにはいかないだろ?だから追いかけて来たんだよ。」
「俺をそんなラブコメみたいなセリフで堕とそうなんてしても堕ちるかよ!俺は女の子オンリーだから!」
「ライ君それはないでしょ?流石にそんな趣味をイワン様が持っていたらおかしいじゃないですか?」
「そうだよライ。僕にそんな趣味はないよ。さて、そんな話は置いといてライはこの後どうするんだい?」
「あ?どうするも何も今日は一旦帰るとするよ。あ、けど先にコンラートの爺さんとこに行くかな。」
「そうか。わかった。では僕はここで。」
「やっぱり誘ってません?イワン様。ねぇ、ライ君?」
「それは俺も思った。ホント騎士の人怖い。」
イワンが去って行ったところで、井戸端会議を始める。
ま、いくらあいつにそんな趣味があろうと俺は屈しないがな。そんな腐女子ハッピーな話はまた別の所でお読みくださいだ。態々異世界まで来たのにBLエンドは腑に落ちねぇ。俺は女の子がいい!
「絶対俺は屈しないからな!他人の好みなんてクソ喰らえだ!よし、行こうぜシャロ。安全お爺ちゃん地帯に避難しなきゃな。」
「はい!早くこの気持ち悪い所から逃げましょう!シャロもう吐きそうです。」
「まぁ、そうなるだろうな…異世界の女の子にBL耐性はついてないよな。」
「ライ君にそんな趣味があった時はシャロが拷問しますからね!」
「さりげに怖いこと言うなよ!そんな事も望んでねぇよ!!・・・残念そうな顔すんな!お前どっちの味方だ!」
「もちろんライ君の味方です!だから、少しぐらい・・・・ねぇ?」
「少しが少しじゃなくなりそうなんですけど!?鬼の拷問プレイとかマジの地獄じゃん!!」
「ぶー、ケチライ君。」
今の会話が実現しないよう祈りながら、ライたちは本部から出る。本部と王宮は一本道に繋がっているため相変わらずの賑わいだ。これより奥に進むと貧民街が広がっているため一気に人の気配が消えてしまう。
「確か爺さんの鍛冶屋はこの通りから二本出た所だよな。ここは京都みたいな感じだよな。」
「ライ君の地元の街もこの碁盤のような作りなんですか?」
「ん?あぁいや、俺の地元ではないんだけど綺麗な街があってなそこの街と少し似てるんだ。」
「へぇー。そうなんだー。シャロもその『きょうと』という街に行ってみたーい!」
「ダメだな。お前が京都に来てしまったらキモオタどもが湧いて出てくる。綺麗な景色を見る前にさっきより気持ち悪くなるぞ?」
「え・・・。それは嫌。本当に嫌。」
俺もシャロやイリス達を日本に連れて行きたいとは思うんだが、多分俺は帰れないだろう。てか、帰りたくない。今頃俺は行方不明扱いだろうし、なにせ一ヶ月も姿がないのだからあの屑どもが、どこの奴らが俺を手に入れたのか警察より血眼になって探している頃だろう。そんな所に帰ってもつまらない。
「まぁ、この世界にクリア設定はなさそうだし大丈夫だろうな。」
「ん?何か言った?」
「いや、お前の武器も爺さんに作って貰えるかなって。」
「んー。今はいいかな。あの鎌気に入ってるし。」
「そっか、ならいいんだ。」
「あ、着いたね。・・・相変わらずの店だよねー。」
「あぁ。ホントに剣を作ってくれるのか心配になる所な。」
「おい!人の店の前で文句言うんじゃねぇぞ!お得意さんしか来なくなったのに、そのお得意さんすら来なくなったらお主らの所為だからな!」
「気にすんなって爺さん。俺は最後までこの店を愛用するから!」
「そうか。それで?今回は何のようじゃ?」
「ん?あぁ。明後日からこの店で文明開化してやろうと思ってそれの報告だ。」
「何を言うとんじゃお主?・・・文明開化なぞ魔法の所為で起きやしねぇよ。」
「まぁ見とけって、ちゃんと本読んで来たから大体の構造は頭の中で出来ている。あとはそれを実現させるだけだ。」
「まぁ、いいわい。ところでお主の剣は使えておるか?」
「この刀最高だぜ全く!魔獣も豆腐みたいに斬れるし、血を吸収して勝手に硬くなっていくから折れる事もない。魔剣だよコレ!」
「斬れ味や硬さなら魔剣並みじゃろ。儂が打ったんだからな!血には鉄が含まれているからのう。」
「そう。だからもう最高!」
「そうかそうか、なら良かった。」
「ホント爺さんには感謝するよ。これからもメンテとかよろしくな!」
「任せておれ!この国一番の鍛冶屋が世話してやる!!」
「ありがとな!それじゃ俺らは行くわ、明後日からよろしくな!」
「へいへい!お待ちしておるよ。」
明後日の報告ができたので、今日はここで帰ることにする。荷物等はいつの間にかシャロが届けていたらしく中にあるとの事だ。
「さて、それじゃあ久しぶりにあの部屋に帰るとしようかな。あ、そうだ。明日どっか行きたいとこあるか?」
「え?」
「今回はイリスと一緒に来てないから王宮の手伝いしなくても大丈夫だろ?だから、明日暇だろ?どっか行こうかなって。」
「あ、うん!行くよ!どこにしようかな…。」
「今考えなくても大丈夫だから、明日のお楽しみって事で。部屋とかで考えといてくれ。」
「わかりました!楽しい所にお連れしますね!」
「おう!期待してる!」
途中でタクシー馬車(仮)に乗り王宮を目指す。王宮に着いてからカルロスにイリスが来ていない事がバレ、散々怒られる羽目になるがそれは別の話である。




