第二話 不穏な動き
「お…い。その話は本当なのか?」
ライは倒れ込んだヘリスを抱き起す。ヘリスはこんな状態で冗談を言うような奴ではないとわかっているのだが、それでも疑ってしまう。
「えぇ。この話は後でしましょう。全員が揃っているところで。」
「シャロにも話すのか?」
「仕方がありません。そのお話は知らないで済まされるものではないので。」
「そうか…。わかった。夕食前に話すよ。」
「わかりました。みなさんにもそう報告しておきます。」
「大丈夫か?なんなら仕事は俺が変わるぞ?無理しなくて・・・・」
「いえ、大丈夫です。ラー君は武器などの整理などをしておいて下さい。呼びに行きますんで。」
彼女はそう言ってゆっくりと歩き始めた。
「過去か…。ホント厄介なヤツだよ。見境なく人を傷つけていく。」
昔、シャロを中心として何かしら問題があったのであろう。そして、その問題にヘリスが関わっている。下手すれば俺以外の屋敷の連中全員が関わっている事かもしれない。
「詮索はしない。俺自身が入れる立場じゃないからな。本人自身が俺に言って来れば別だけど。」
ライは頭を掻きながら、ゆっくりと自室へと戻った。部屋に着くなりベッドに飛び込む。
ライ自身がわかっている。過去がどれだけ自分を苦しめるかを。17年経っても、過去はタチの悪いストーカーのように追ってくる。
「過去を振り返るな、なんて口が裂けても言えねぇよ。人間は忘れることが上手い?巫山戯んな。そんな簡単に忘れれるんなら苦労はしねぇよ。」
ライの意識はそのまま底なし沼へと沈んで行った。
こんな事になるなら、何故俺は生まれて来たんだよ・・・・。
今の俺は唯の殺人鬼だ。
目の前には今まで大神 雷として殺した人間の亡骸が、山のように積もっている。
手は肌色ではなく、深紅の色で染まっていた。
亡骸の中から一人、いや一体の人間が俺の方にやって来る。目の前まで来てその亡骸は俺に言ってきた。
「ハハハ!これが君の本性なんだよ!!君は人を殺しても何も思わなくなった!新しい人間がどんどん死界にやって来る!」
「うるせぇよ!!俺は!!俺は!」
「俺はなんだい?図星なんだろ?何も思わなかったんだろ?認めろよ!君は唯の死神だ!生きる死神だよ!」
「な、何も思わないわけがない!俺はお前らみたいなクズじゃない!」
「・・・。君は本当に頑固だね。早く気づいた方がいいんじゃない?」
亡骸の後ろで、新たな亡骸3体が上から落ちて来る。その亡骸の顔はイリス、シャロ、ヘリスだった。
「あ・・・・。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!」
「君はいつも傲慢だ。自分の事だけしか考えていない。この子達は君が初めて仲良くなった人達かな?けど、ここに来たって事はこの子達も殺したんだね?」
「俺は!そんな事は絶対にしない!!もうアイツとの縁は切った!俺はもう!自分の手で大事な人を殺しはしない!」
「ふぅーん。縁を切ったねぇ〜。また、自分を騙す。縁が切れてない事も気づいてるんだろ?それに・・・・。…もう終わりみたいだね。じゃあねー!」
そう言って亡骸はぼやけて消えていく。俺を取り巻く環境も同時に消える。
ライ、ライと呼ばれている気がする。俺には彼女達と一緒にいていい権利があるのだろうか。
その疑問が消えないまま意識は目覚める。
「ん…。夢か…。」
「ライ!大丈夫!!探しに来たら凄く魘されてたわよ。・・・心配かけないでよね。」
「悪い。心配掛けちまった。・・・。あぁ。お前らに説明しなくちゃな。」
「それなら準備できてるわよ。あとはあんただけ。」
「わかった。行こうか。」
俺は体を起こし部屋の外へ出た。
イリスはその後を付いて来るようにして出て来た。
いつもの部屋に入るとみんな揃って俺とイリスを待っていた。ヘリスは少し浮かない顔で、シャロはいつもと変わらずニコニコしている。ロイテは何かあったのかと眉間に眉を寄せている。
「俺が遅れちまって悪い。俺は来週、王都に行くことになった。」
「その理由は・・・・。戦争が始まるから騎士団全員集合、だそうだ。」
元からそうだったヘリス以外の三人の顔が一気に青ざめる。
「ライ?その戦争ってどこの国との戦争なの?」
「東?北?南?どこ?」
「俺もお前らのように思ったんだが、相手は違うみたいなんだ。」
「じゃあどこなのよ?傀儡の奴ら?」
「・・・亜人族。」
俺の発した言葉はヘリスの顔を余計に悪くさせ、イリスを戸惑わせ、ロイテに難しい顔をさせ、シャロを絶望へと追いやった。
「・・・ライ殿。その戦いでの勝率はどれくらいなのですか?」
「それは、まだわかってない。まだ、相手の数もわかってないからな。」
「なら、質問を変えます。ライ殿。その戦いには騎士団全員が参加するのですか?」
「多分な。三分の一ぐらいは王都に残すと思うが、俺やイワンは戦場行きだろうな。」
「ね、ねぇ。その相手国に鬼族はいたりするの?ハハハ。友達がいるからさ、心配で…。」
「多分いるだろうな。ケイルの話だと亜人族全てが参戦する可能性があるとの事だ。」
「そ、そうなんだ。いなかったらいいのにね。」
部屋の空気がシャロの話で地獄に変貌する。全員が知ってるんだろう。シャロが鬼族のハーフだという事を。
「ごめんね。なんだか、気分が悪くなって来たから部屋で休んで来るよ。」
「あぁ。何かあったら言ってくれ。」
シャロはゆっくりと歩き出し、自室へと向かう。
俺は彼女を除いた全員にしっかりと話をしようと思ったが、イリスに先を越された。
「ねぇライ。あんたはシャロの事知ってるの?」
「あぁ知っている。ヘリスから聞いた。まぁ、深くは聞いてないがな。」
「そう…。どこまで知ってるの?」
「シャロが鬼族との子供だという事。いつもは人間の方の血が優っているから何もないが、何かの拍子にそのバランスが崩れたら暴走するって事までかな。」
「そう。なら、私達が話せるのはそこまでね。」
「そうだろうな。俺もこれ以上はお前らに追求はしない。報告はこんだけだ。集まってもらって悪かったな。」
ここで解散と俺は言ったが誰一人として動く気配がない。俺が部屋から出ようとすると、ロイテに声をかけられた。
「ライ殿。少し話があります。今夜大丈夫ですかな?」
「・・・。あぁ。大丈夫だ。」
「では、用事が済み次第私の部屋まで来て頂きたい。」
「わかった。」
俺はそれだけ言って去った。
ロイテとの話も終わり、自室に帰ってみると部屋の中には額にツノを生やした人間が立っていた。




