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結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第七章 真実と嘘でできた世界
208/213

第四十話 少年は再びこの地に立つ

「━━━━━━」



 目が覚めた。

 否、感覚が戻った。生きている時と同じ感覚が。バカみたいな量の情報が大量に流れ込んで来る。薄暗い洞窟、ポタポタと落ちる水滴の音、岩の匂い、そして少女のすすり泣く声。


 ここは地獄か?いや違う。ここは地下洞窟。俺が死んだ場所だ。

 ならばなぜ俺は生きている。

 思考が全く追いつかない。俺は今どこで何をしている?なぜこの場に立つ権利がある?



「……ぁあ。頭がフラつく」



 頭を回すと頭痛がし、視界がチカチカと点滅する。しかし考えを止めることは許さない。この場のこの現状は一体何がどうなってこうなったのか。それを見つけなければ━━━━━



「誰だァ!なぜ奴の体に乗り移れないッ!!このオレに!この改変者にその座を譲れ!」



 叫ぶ男の声が広間に響いた。その男の体はボロボロで片腕はもう無い。声から察するに、奴はキッドその人だ。

 俺に乗り移り、元ある魂だけを退けて俺を殺す。肉体を操り、仲間を殺し世界を取ろうって話だろう。今になってようやく奴の成すことがわかった。


 考えた。必死に考えた。俺が生きている理由を。俺が死ねない理由を。


 だから不敵に笑い、声を上げる━━━━━━



「━━━━━俺の座に座ろうなんざ、100年早ぇ!悪いが俺の体はもう先客で一杯なんだ」


「お、オオガミライ……だと!!」



 理由は全くもってわからない。今更主人公補正とか嘆くのなら、そんな設定を作った奴は死んでどうぞ。誰かが裏で働き、俺を救ってくれた。もう、それで十分だ。

 俺を生かした奴が望むのは、自分が誰かを当ててもらうのではなく、目の前の敵を倒すこと。なら、サッサとあり得ぬ出来事に腰抜かしてる野郎を倒すべきだろ。


 キッドは体の傷を抑えながら立ち上がる。まだ立ち上がる。まだ止まらない。

 あの時の俺は何が言いたかった?周り全てが敵に見え、自分自身を嫌悪感で潰し、その状態で何が見えた?



「結局、俺とお前は一緒らしい━━━━━」



 地面に落ちる『ネ・グローボ』を握る。

 真っ黒の刀身に松明の光が当たり、綺麗な黒が薄く光った。一歩、また一歩と距離を詰めてローボを腕の高さまで上げる。

 俺とコイツに違いはない。あるとすれば『出会えたか否か』と言うだけのこと。俺はイリス・トルエノという少女に出会えたから、こうしてここに立てている。無論、彼女だけではない。シャロもヘリスも、イワンもミツも、全てみんなのおかげだ。他人は嫌いだと迫害しときながら、最後は嫌いだと離した他人に頼る。全くの屑だ。

 けれど、それで十分だ。俺が屑でカスなのはあの日あの時で知っている。そんな屑でカスな俺を愛し、救いの手を差し伸べた彼女らは本物の過保護なんだろう。



「運の話だ。俺は何億って人間の中から、最高の人選が降りてきたってだけ。もし違うかったらこの場にはいない。どこかで殺されていたろうよ。それが俺とお前の違いだ」



 なぁ、夢の中で語った俺よ。

 お前は言ったよな?それでいいのか、と。あの時は曖昧な返事で悪かった。今ここで、その問いに答えよう。


 ━━━━━━━━否だ。


 俺はこの掌で救えるのなら全員を救う。もし手が足りないのなら誰かの手を借りよう。俺の手だけでは信用に値しない。ならば誰かに頼るしかあるまい。なぜなら俺は人間としての価値は低いから。みんながみんなを救う、そんな平和もあってはいいと思う。が、無理なことに願いを込めるのは七月の夕で十分だ。

 最後の一歩まで近づいた。あとは振り下ろし、その首を斬首し、魂を安らかに送るのみ。



「……言い残すことは?」


「特にねぇな。死ねとだけ言おうか」


「そうか━━━━━━」



 刃は心の臓を貫き、地面に刺さる。奴の体が死んだ事により、体から吐き出されたキッドの魂は荒れ狂い爆散する。

 辺りに赤い鮮やかな光の粒子が舞い上がり、薄く小さく消えて行った。それが奴の、改変者キッドの最後である。




 ーー



 体に流れる血は未だドクドクと音を立てて流れている。今までずっと当たり前だと思っていたその現状に、なぜか不思議と安らぎを覚えた。

 もう俺の自分との戦いは終わったのだ。あの不信との、嫌悪感との戦いは。キッドは寧ろ俺のドッペルゲンガーのようだ。アレは俺が踏み外した道の先にいる俺。今いる自分とは違う。



「……それもまた一興、なんだろうな。なぁ、イリス?」



 俺は声をかける。先ほどまで泣いていた少女に。後ろを振り向くと、涙で顔をくしゃくしゃにした彼女の泣き顔がそこにはある。

 いつもの、いや、初めてあった時のような凛々しい顔はどこにもない。

 イリスはそんな顔のまま無言で、涙だけを流しながら立ち上がり俺の胸へと飛び込んだ。



「し、死んだかと思ったぁぁあああ!!」


「俺も死んだと思ったよ。まぁ、残念なことに生きてるみたいだが」



 そう遠くを見ながら苦笑を浮かべる俺に、彼女は気づいていない。ずっと泣きながら俺の体を強く抱きしめている。

 ここは何か声をかけるべきなのだろうか?否、言葉が浮かばないので黙っておくべきだろう。

 だから代用としてはアレだが、彼女と同じように強くイリスの体を抱きしめた。



 あと残るは上で暴れる帝をどうするか。

 それでこの戦いは終わる。やっと、やっと終わるのだ。キッドの頃から続く争いが。

 俺はその為にここに来たのだの、不意に思った。











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