表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第七章 真実と嘘でできた世界
202/213

第三十四話 獣の王と吸血鬼

 四方八方で戦火と雄叫びが聞こえてくる。爆発音、悲鳴、肉が斬れる音。ここが地獄だと言われてもなにも思わないだろう。

 それほどまでにここは腐っている。


 少女は一人、大量の獣を前にして立つ。二本足で立つ肉食動物達を前に、彼女が怯える仕草はない。



「小娘、ここが誰の島かわかってんのか?」



 一体の象のような獣が問いかけた。警告だ。彼より後ろにお前が立つ場所はない、と。


 ━━━━━笑わせてくれる。


 少女が獰猛な笑みを浮かべたと同時に、先ほどの象を模した獣の首はボトッと落ちた。鮮やかな切り口から多量の鮮血が溢れ出る。



「……私が誰かわかってるのか?」



 少女は右手から垂れる血を振り払い、真っ正面に向かって指を指す。

 まだうら若い少女?誰がそう思うものか。彼ら獣の前に立つ生物は、獣と人間の両方を兼ね備えた生物━━━━━━吸血鬼である。

 一片たりとも油断はならない。もしも油断などしてしまえば━━━━━━。



「その血の一滴足りとも残しはしない。さぁ、狩られろ畜生共ッ!!」



 鹿の獣が無残に四肢を引き千切られ、隣に立つ猿の獣が恐怖に染まる。全身の毛を逆立て本能のまま威嚇した。

 だが弱者が強者を威嚇した所で、それは威嚇とは言えない。ただの吠える餌だ。

 一振りの拳で顔に穴が空き、その体は力無く倒れた。赤に染まる床を踏み、少女は声を大にして叫んだ。



「サッサと出て来いよ、獣帝ッ!!」



 吠える声に辺りは静まり返る。しかし何かが出て来る気配はない。

 待ちきれなくなったラミは正面の鉄の扉を殴り破壊する。構いなしに進むラミに、周りを囲んでいた獣達が黙って見ているわけがない。

 同胞の仇、自分達の国を守る為、戦争に勝つ為、その武器を振りかざし襲いかかる。


 なんと勇敢なのだろうか。

 なんと素晴らしい精神なのだろうか。

 と、ラミは馬鹿にした。


 振りかざされた武器が下される事はなく、前へと進んだ足がそれ以上先に進む事もなく、多種多様な獣達は赤い線により心臓を撃ち抜かれ逝った。

 即死だ。先ほどまでの勇ましさや、意志などを嘲笑するかのように、ラシエルが放った魔法は彼らを殺した。



「綺麗な亡骸だね。胸の血痕さえ抜き取れば病死でも通じるかも」


「━━━━━━━お前が殺した死体は見るも無残な姿だな」



 声がした。野太い声だ。例えるとするなら、まるで獣の咆哮のような声だ。

 獣もただの獣ではなく、百獣の王。獣の頂点に立つ者だ。

 豪勢な毛並みが風で靡き、背中に担ぐその大剣は人二人分にも勝る大きさだろう。



「血帝だな、お前。俺はファン・リンネ。外では獣帝と呼ばれる者だ」


「そ。じゃあ私達はお前を止める。覚悟ができたら来な」


「止める?止めるだと?笑わせてくれるッ!!殺す気で来い!俺も貴様を殺す気で相手してやろう」



 大剣を背中から抜き、王者の風格を露わにする。地面を踏むたびに伝わって来る覇気に、周りの獣は恐れをなす。

 刹那、赤い光がファンの横を通り抜け、後ろの犬型の獣の心臓を穿つ。余りにも高速、正確なその攻撃は、「そこから一歩も動くなよ」と言うメッセージとなった。



「ウチの可愛い女の子がキレたようだね。どうする?あの魔法はお前の体も貫くよ?」


「……バカ言え。もう敵の位置は把握した」



 ファンは手を前に出し、赤い光を生成する。ラミは危険を察知しファンの腕を蹴り飛ばそうと地面を蹴る。

 が、当たる寸前で光は放たれ、真っ直ぐにラシエルが居る堕帝の島へと向かい、爆ぜた。島一つが消し飛ぶ威力ではないにせよ、その爆発は空気を振動させ、下の町々を破壊する程だ。



「小細工はなしだ。真剣なサシだ━━━━」



 獣の王は吼え、対する吸血鬼は憤怒に焦がれた。




 ーー



 戦いが始まりだし、地中がグラグラと揺れ始めた。さっきまで休憩していた場所も、天井から石ころが落ちている。



「あとはこの道を抜けた先の階段を降りるだけだ」


「そうみたいね。」



 地図を見ながら、お互いに頷くと少し駆け足で進んだ。螺旋式の階段を下り終えると、そこには光が見えた。

 淡い炎の光。イリスはライの後ろに下がり、ライはハクロウを前に出す。

 中の様子を確認しようと、足を踏み出した途端。


 ぺちゃっと言う水溜りを踏んだような音がした。水、そんなものはここに来るまで一度も見たことはない。湧き水か、と思ったが光がそれを否定した。



 そこにあるのは━━━━━━真っ赤な血だった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ