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結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第七章 真実と嘘でできた世界
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第三十一話 少年の軌跡

「……なぁラミ、アレなんだと思う?」


「アレってなん……アルトさんアレなんですか?」


「ミツが知ってんじゃね?」


「と、見せかけてライが知ってて解説してくれるって終わりですよね?」



 つまり誰も知らない。アレは龍でもなければ精霊でもなく、ましてや改変で生み出せるレベルの怪物じゃない。

 正真正銘の『化け物』だ。


 化け物は雲を足場とし空を飛ぶ。その巨体はあの魔帝すらも凌駕する大きさであり、その獣の如き動きは鬼も吸血鬼も諸共しない。

 目指す先は天使の集団。あの見た目からは想像もできない筋力で大弓を引き、慈悲の心など一切なく矢を放つ。

 矢は真っ直ぐに怪物の体を穿ち、まるで針山の如く突き刺すが、その矢は二秒と保たず貫通した。

 そう、矢が貫通したのだ。まるで銃弾のようにアッサリと。



「アレが天使の弓なのか……?」


「いや、それにしてはおかしい。あの怪物弱った気がしねぇ」



 アルトが言うように、怪物の体からは血の一滴も溢れていない。そして逆に滾っている。怪物は今まで犬型だった体を変形させ、二足歩行の人間紛いに豹変した。



「非実態、か?」


「つか、誰だよあんな怪物出したの」


「アルトの仲間じゃないの?」


「ウチに召喚士はいねぇよ」



 走りながらに考えても、全く良い考察ができる気がしない。それに今この状況はラッキーと言えるだろう。向こうのターゲットは全部あの怪物へと向いている。

 なら、この場はできるだけの距離を取って姿を隠すのが一番の良策だ。



「アイツの考察は後だ。今はサッサと退散するぞ」


「けど、どこまで逃げるの?」


「イリスの所でいいんじゃない?ほら、なんかマスターとイチャイチャしてたし」


「おい、ラミ」


「お熱いなぁ、おい!戦闘中だぜ?」



 あのクソ吸血鬼。コイツらの前では無かったことにしようと思ってたのに。

 ほら、「お前ら結婚するんだろ?」的な死亡フラグ立てられたらたまったもんじゃない。

 あれ?今俺自分で立てた?



「ンなことはどうでもいい!サッサと行くぞ」


「はいはい」



 俺は地面を蹴る。空高くで聞こえる怪物の咆哮や、四方八方で聞こえてくる剣戟の音。それら全てを無視し、俺達は走る。

 走り終えた後に何が見えるのか、そんな物知らないし興味もない。ただ走り続ける事のみが今の俺達にある役目だ。


 ━━━━━━それが役目なのだと信じて。



 ーー


 俺が暴れた場所から、数メートル先の建物の中にイリス達は身を隠していた。イワンやミールの姿は見えない。多分どこかの加勢にでも行ったのだろう。

 ロイテの姿はどこにも見当たらない。まぁ、あの爺さんの事だ。どっかで生きているのだろう。


 それよりも、だ━━━━━━━



「なんでお前らがここにいる」


「僕に聞くなよ。来たくて来たんじゃないし。先ず原因は君だろ?」


「お前はお前でなんで機嫌悪いんだよ……」


「この状況で機嫌が悪くないとか、どこの野蛮人ですか?戦闘民族ですか?」



 うん、コイツにも色々あったんだろう。とても不機嫌そうな顔でリリィの方を睨んでるし。無理矢理連れて来られたってのが事実っぽい。



「それでさー、聞いてよ。アンタん所の騎士様みたいな奴がいきなり現れてさ、こう言ったのよ。『全員俺に殺されろ』ってね。もうホント男ってダメって思ったわ」


「その頃コッチじゃ、その駄目男が暴れ回ってたんですよ。最後は子供みたいに泣いてたし」


「……お前泣いたの?」


「お前ら全員黙ってろッ!!」



 ったく。気が抜け過ぎだろ。今目の前に敵がいる状態だぞ。もっとこう……なんかねぇのかよ。

 駄目だ。俺も気が抜けてる。



「で?お前らはなんでここにいんだよ?まさかこっち側に付いたとか?」


「そのまさかだよ。ホント、迷惑な客人だ」


「堕帝が味方か。悪くねぇんじゃねぇの?数としては全然足らんが」



 まぁ、二人だし。そのうち一人はただのお嬢さんだし。元神だけど。

 リリィはため息を吐きながら、サッサと本題に入れと口を開いた。



「今の状況を説明すると、キッドは逃走。敵は神、魔、機、獣帝の四人。どっかにドワーフがいるかもしれないが、帝となる石帝はいない」


「一方コチラ側は、俺とミツとラミ、あとはお前と改変者のライ。帝の数は一緒だが、兵士の数で言えば完敗に近い。差は歴然としてる」


「んで、今この状況を保ててるのは僕達が放り出したあの犬のお陰ってわけか。まぁ、アレは初見殺しだしね」



 つまりあの怪物はコイツらが召喚した怪物ってわけか。言い方的にコイツらは他にもカードを持ってそうだな。どう有効活用してするか。



「イリスちゃん、とりあえずこの頭の固い阿保をど突いて?」


「えっ俺?」


「はーい!」


「ちょっ待tt……」



 殴られた、と言うより殺されかけた。腹に雷纏った拳でグーパンチは聞いてない。ど突いてって言われて本気でど突くとか馬鹿なんじゃないの?

 つか、なんで?俺何かした?



「阿呆、私達はアンタの仲間って言ってるの。まだ人を信じらへんとか言うんか?なら、今度はそこの血帝に殴ってもらうで?」


「・・・・・」


「そう言う事。僕達はちゃんと戦いに来てる。確かに、まだ君達に言ってない武器もあるのは事実だ。大丈夫、君達を裏切ることはない」



 あぁ……クソ。なんでこうも俺は馬鹿なんだ。そりゃあイリスには殺す気で殴られるわな。まだグダグダしてんのかって。

 これが今まで他人を信じて来なかった罰なら、サッサと免罪符でも取りに行こう。償う?罰を受ける?アホらしい。

 罰には罰を受けなければならない。が、今のこの状況で俺にそんな暇があるわけがない。逆に俺を裁いてくれる人間すらいねぇってんだ。



「あぁ、悪い。こんな俺で悪いが、力を貸してくれ。もう、誰も失いたくない━━━━━」



 そして少年は悔いる。自分の軌跡を。






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