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結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第七章 真実と嘘でできた世界
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第二十三話 少年と少女

 少女が見たのは果たして夢か幻か。

 どちらにせよ、彼女は『くだらない』と感じた。

 彼女が見たものは、ラミが見た物語とオオガミライがここに来るまでの物語だ。

 確かに悲しいし、苦しそうだったし、同情もあった。けれどそんな物、彼の隣に理解者がいなかった故に起きた悲劇。彼の力も、存在も、何も悪いことはない。


 確かに、あの日よりは断然彼の方が酷な目に遭っていると言えよう。何度も誘拐され、家族は変な恨みを買った人に無残に殺された。同じ十八年間生きてきた人間だが、あそこまで鬼畜な人生を歩んで来た人間はそう多くないハズだ。

 しかし、彼女はくだらないと思った。


 なぜなら、彼女━━━━━イリスにはそんな彼の昔話など関係ない。彼女が知る大神雷は『オオガミライ』であり、『大神雷』ではない。向こうで何があったとか、どんな事を思ったとか、そんな物関係ない。

 それは彼の過去であって、イリスが関わる事ではない。



「だって、あんたの過去に私は居ないもの。居るのは一年前から。それ以上前の話は私には関係ない。……これで、よろしくて?」



 金髪をなびかせ、その碧眼でしっかりと彼の目を見つめる。

 後付けの理由を付け加えるとすれば、


 ━━━━━━━彼女が彼を好きだから。


 ただのそれだけで十分だろう。

 だから彼女は武器を取り、彼を倒す。



「今のあんたは私が好いてるあんたじゃない。偽者は消えて。もう、守られるだけは御免だわ」



 もう今の彼女は、血で濡れた元王女ではない。元より気に入ってはいなかったが、今日でそれも完全撤廃だ。

 今の彼女は、一人の恋する乙女である。




 ーー


 体が痺れる。手と足が段々と痙攣し始めて来た。

 これはマズイ。このままだと、刀を握れない。攻撃手段がない。他人を殺せない。


 膝が地面に屈し、体が地に着く。

 それを好機と見た傀儡どもが一気に押し寄せるが、ラミの剛腕により全員吹き飛ばされた。

 首元に鎌が触れ、顔を持ち上げられる。眼に映るのは四人の少女。一人は金髪で、一人は赤髪で、一人は黄色い髪。


 何度目だ?ここまで追い詰められたのは。あぁ、中国のマフィアに目をつけられた時だな。かれこれ十年ぐらい前か。

 あの時はどうしたっけ?結局全員殺したんだっけな。



「なんだ。やる事は何も変わんねぇんじゃねぇか━━━━━━」



 手足のしびれ?ンなもん、気合いだ。痺れを超える痛みを与えれば痺れは取れる。

 鎌を強く握り締め、手から血が出るがそんなもの気にしてなんかいられない。一気に手前に引っ張り、シャロの服を掴んで遠くに投げ飛ばす。

 胸のポケットから落ちたハクロウを横目に、俺は詠唱する。



生成(Generation)



 手前に現れた一本の白刀を強引に抜き去り、居合の動きでヘリスへと斬りつける。

 彼女はギリギリでそれを受け止めるが、それも初撃。二撃目で後ろに吹き飛んだ。

 ラシエルが魔法を発動させ、レーザーで俺を牽制しその間にイリスが下がる。

 赤い線が目の前に引かれるのを目で捉えると、俺の体は自然にラシエルへ白刀を投げ付けた。



「まずはお前だイリス。俺を狂わした元凶ッ!!」


「ハッ!!何が狂わしたよ。あんたは元々狂ってたわよ!」



 十本の雷線が彼女の指から現れる。

 それそれが生きているかの様に靡きながら、彼女と俺の間を回る。隣でラシエルが白刀を受け止めると、俺はラシエルの方へ魔石を投げた。

 白く光る魔石は、地面に落ちると同時に発光し世界を真っ白に包んだ。



「これで……死ねぇ!!」


「「━━━━━━起きろつってんだろうがァ!!」」



 深く一歩を踏み出し、眩むイリスの首筋を目掛け刀身は疾走する。

 しかし、怒声の咆哮と共に二人の少女の刃が牙を剥く。そちらに一瞬でも気を取られれば、その一瞬で彼女はラミにより救出され、俺の刃は空を切り、逆に少女らの刃が俺の体を斬りつける。

 大剣が右脇腹を、大鎌が胸を、大きく斬り裂く。鮮血が溢れて足元が血溜まりができる。


 体が燃える様に熱い。まるで熱した鉄板を当てられているかのようだ。

 けれどまだ、復讐は!俺の気は!終わってねぇ!!



「憎き人間を!この世界を!殺せ!!まだ俺の復讐は終わってない!━━━━━━事実改変(Alteration)



 ハクロウを自分に向け放ち、自分に起きた事実を改変する。

 傷が癒え、手足の痺れが完全になくなり、体の疲れも残っていない。完璧なコンディションの状態に早変わりした。



「気分……最高!」



 地面を蹴り、驚く二人の少女へローボを横に一閃する。何とか反応し武器を盾として構えるが、そんな遅い動作で防げるわけがない。

 二人の前で足を止め、勢いよくジャンプする。軽々と彼女らの頭の上を越し、空中で一回転しながら二人の背中を斬りつけた。

 赤い血が溢れ出て、黒刀が深紅に染まる。



「マスターッ!!」



 怒るラミが、四肢を使い一発当たれば即死の拳や蹴りを放つ。躱すごとに俺の周りで空気が揺れ振動する。今まで見た中で最も強く重い一撃だろう。

 だが故に遅い。



「……ッ!?」



 伸ばされた腕を肘で斬り落とし、次に腹、首の順番で斬り飛ばして行く。

 バカみたいな血の量が噴水の様に噴き出し、少女は悲痛な顔をする。そして首を斬り落とした瞬間、彼女の行動は一時的に停止した。


 残るは金髪の少女のみ。



「さぁ、最後だ」


「そうみたいね。まぁ、ラミが負けた時点で私に勝ち目はないわ」


「・・・・・」


「けど、私もそんな簡単に死ぬ女じゃないし。最後の悪あがきぐらいは認めなさい?」



 金髪の少女は、真っ直ぐにこちらを向いて歩く。一歩、また一歩。そして俺の射程距離に入った途端、ローボを豪快に振るう。

 が、その一撃はラシエルのレーザーにより手を焼かれ外れる。

 何メートル先だ?いや、これは一キロ先か?あの少女がどこにいるか視認できない。


 俺は彼女のニ射目を躱す為後ろへと跳ぼうとするが、彼女の手が俺を掴み自分の胸元へと押し付けた。



「━━━━━あんたが欲しいのは血でも、殺しでもない。あんたはただ他人を信頼できる何かが欲しかった。……ごめんね、気づけなくて。これが私の最大の信頼」



 そしてイリスは俺を抱きしめた。


 どこか体の中でパキンッと何かが壊れる音がした。







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