第十一話 少年はいつも静かである。
燃え盛る火球は、業火を纏いながら一直線に向かってくる。
陽炎が揺れ、景色がユラユラとボヤけると同時に耳元で声が聞こえた。
「イリス様ッ!!」
ヘリスに押され、イリスの体は奥のタンスへ飛ばされる。
時の進みは時が刻むと共に遅く遅く━━━━━、
「━━━━━━この程度の火花で、我が主人の家を燃やせる気か、ニンゲン?」
ふと、少女の声が聞こえた。
その声はとても怒りに満ちていて、とても歓喜に満ちていて。まるで獣のように、まるで人間のように、その少女は笑みを浮かべた。
「ラ……ミ……!」
「んー?あ、イリス!ここ危ないよー!早くどっかに逃げてね。これ以上はもう━━━━━血が欲しいッ!!」
瞬間、開けた窓から見えた彼女は人間でもなければ、獣ですらない。
今宵、彼女は吸血鬼と再化した。
ーー
少年は一人、ゆっくりと豪邸の中へと入った。部屋の中は冷んやりとしていて、夜の月が綺麗な灯りとなっている。
その静かな廊下は、少年の一歩がこの屋敷の全ての音となっている。
「これが貴族の屋敷、か」
ポツリと呟いてそう感慨に浸っていると、先程少年が入った扉から少年より幼い子供が顔を出した。
「ヘクール。これがお前の主人の屋敷か?」
少年は手短に目の前の扉を開け、中の様子を確認しながら後から入って来る子供に問うた。
「はい。貴族らしい大きさ、建物の構造。一流の建築士が作った物だと聞いてます」
「違ぇ。俺が聞きたいのは『その貴族の屋敷はこんなに静かなのか?』」
少年は再度問う。
その問いにヘクールは、顔を青白くさせながら答えた。
「いえ。違います。本来ならこの家に五十人もの人間が住んでいました」
「五十……見せしめに殺すには数が惜しい、か」
「ッ!!も、もう殺されたんですか?!」
「俺が奴らの立場なら足りないと見る。それだけだ」
酷く残酷に、冷徹に少年は質問に答える。
扉から入る隙間風が、この静けさを少しずつ恐怖の道へと誘い込む。
「地下室はあるか?それか脱出用経路」
「地下室ならあります」
「じゃあ多分そこだろうな」
未熟かながらも天賦の才を持つ少年は、隣で鋭く言う青年に恐怖の念を覚えた。
『なぜこんなにも、この人は静かなんだろう』と。
ーー
二人はそのまま屋敷の奥へと向かい、階段を降りて地下室へと辿り着いた。
誰にも会うことは無ければ、静けさは入って来た時と一切変わらない。
地下室は明かりは愚か、月光すら入って来ない真っ暗な部屋だった。静まり返るその部屋に、一歩ずつゆっくりと歩いて向かって行く。
コツコツと靴音を反響させながら歩いていると、ある所から靴音がならずペチャペチャと水を踏む音へと変わった。
「地下水か?」
「地下水なんてこの近くに流れてませんよ?」
少年は懐から銃を出し、シリンダーを二回回す。そのまま慣れた手つきで銃を構え、まっすぐ前に向かって発砲した。
甲高い銃声が当たり一杯に音を鳴らし、弾丸が壁に当たり軽い爆発を起こす。
床が燃え、壁が燃え、真っ暗だった地下室が火の光により明るさを保ち始める。
そしてそこに映るのは━━━━━━━━━
「やぁ、大神雷君。僕は君をずっと待っていたよ」
一人の少女が、目を光らせながら俺の名を呼んだ。
次回日取りより謝辞を先に。
今回、またあの地獄のテスト週間がやってまいりました。
つまりですね。勉強しないとまた同じ勉強を受けることになるので、今回は二週間ぐらい更新ができないかもしれません。
ですが、もしかすると投稿するのでお楽しみに!




