第三話 時には立ち止まって考える事も大事
「つーわけで、事件が解決するまで王都に留まる事になりました。ここ重要……っと。よし、終わったぁぁ!」
異世界産羽ペンで、便覧に手紙を書き終えた。送り先はトルエノ邸、内容は現状とこの先の俺の行動だ。
貴族騎士の身分なので基本は貴族の元から離れてはいけないのだが、今回だけは特別に許可を貰えた。
「ライ、今いいかい?」
コンコンと音と共に、爽やか美青年っと安易に想像がつくような透き通った声が聞こえて来た。
顔も完璧、スタイルも良い、そして声も良い。おい、神様。スペックおかしいだろ。何故そんなキャラのインフレを起こしたがるんだか。
「あぁ、入っていいぞ。ちょうどイリス達に宛てる手紙を書き終わったところだ」
「……ライってそう言うの結構マメなんだね」
「ホウレンソウはちゃんとしろって言われてたからな」
「ほ、ほうれんそう……?」
「そ。報告、連絡、相談。仕事とかでの常識だよ」
まぁ、向こうで仕事に就くことはなかったんだけどね!ヒャッフー!
「んで?何しに来たんだ?ま、まさか夜這い……!?」
「なんでだよ!!」
「だって、イワンって性癖そっちに傾いでるじゃん」
「ないよ!!」
ふーん。ないんだ。へぇーそう。
「……あんなに強く迫って来たのに♡」
「いや、誰だよ!したことないよ!」
「まぁ、まさかイワンが受けだとは俺もそう思ってなかったわー。これが俗に言うドMホモって奴か。世も末だな」
「だから誰の話をしてるんだよ!!」
まぁ冗談はここまでにしといて。あれ?冗談?冗談で済ましてよかったのか……?
「あーもう!そんなしょうもない話をしに来たんじゃないんだってば!」
「えっ?そうなの?最近会ってないから溜まってるからって思ってた」
「なんなの?!したいの!?」
「いや全く。勘弁して下さい。俺は女の子がいいです、はい」
したいの?とか言ってる時点で、コイツもうアウトだろ。完全な黒じゃねぇか。
いったい騎士団員の中でイワンの犠牲になった奴は何人いるんだろうか。弔いの会を行わないと……。
「班分け。アレス団長の指示で班分けが決まったよ」
「まーたボッチの会を設立しなきゃなんねぇのか。班とかマジやめて欲しい。あの声高団長、精神攻撃で俺を殺そうとしてんじゃねぇの?」
「えっと、ライの班はミールとシリウスだね」
「Fack!!」
ボッチの会どころか、アレス騎士団長抹殺計画進行会を開かないといけないな。
よりによって仲の悪いシリウスと、龍焉島で一悶着あったミールととか喧嘩売りに来てるとしか言いようがない。
いや、これはこれを機に仲良くしろよって言う天からのお定め……!?
まぁ、ないわな。キャラのインフレ起こしてるぐらい無能だし。
「つか、班分けとか言われても何するか全然わからんのですが?」
「えーっと、詳しい事はまだわかってないみたいだね。僕達の中に内通者がいるって事が分かってるから、これ以上情報の漏洩は避けたいって事だろうよ」
「……うーん、怪しい」
「?何がだい?」
エルの拷問は未だ継続中だが、もうエルから情報を引き出すのは無理だろう。昨日、あの後イワンと一緒に彼の様子を見に行ったが、生きているのか死んでいるのかわからないほど痛めつけられていた。
多分あれでは口を破るより死ぬ方が先だろう。
そう。そこだ。
仮にエルが「貴族騎士の中にまだ裏切り者がいる」と言ったとしよう。
それならなぜ他の情報も全て吐かない?
なぜそれだけ喋った?
現に今もまだアイツは情報を隠し持っている可能性がある。可能性がある、つまり持っているかわからない状況なのだ。アイツが三下Aだって可能性もないことはない。
しかし、わざわざ的を増やすような言い方はしない筈だ。エルだってバカではない。死にかけだろうとそれぐらいの脳は働く。
「……可能性は二つ。一つはエルがそう言ったと嘘を報告した奴がいる。二つ目は嘘なのは確かだが、裏切り者を炙り出す為の罠の二つだ」
「後者だった場合、その裏切り者がいるって情報はどこから得て来たのか、だね。エルから聞き出したのなら、あんな状況まで痛ぶる必要がないし、情報がそれだけなわけがない」
「………正面から猪突猛進する事が最善かもしれない、か」
今回は今までとは全く違う。
馬鹿のひとつ覚えみたいに、敵の存在が判明してただ戦うだけではない。
敵の数、その実態、誰から誰までが敵なのか一切わかっていない。
ふと、気がついたら刺されている、そんな事もないことはないだろう。
「謎解きか。俺の大っ嫌いな分野だな。なぜって、登場人物全員を疑っちまうから」
「ふふ、君らしい回答だ」
「まぁ、とりあえず件の黒幕を暴くとしようか!!」
やっぱり新年明けても去年と何一つ変わってない……。
まずは生活習慣を改める!!
そんなわけで次回は金曜日の夜9時です!お楽しみにー!




