第十四話 奴隷決闘大会 決勝戦
俺が最後に殴られて血を流したのはいつだったかな。一年?二年かな?まぁそれぐらい前だな。理由は確か街中を歩いていたら、黒服の男達に連れて行かれそうになって、抵抗したらいきなり殴られた。その時に唇を噛んじまって血が出たんだった。それが最後かなぁ…。
てことは今俺は一年か二年ぶりに自分の血を見たって事になるな。まさかあいつがあんな魔法を使えるなんて想像してなかった。残るはあいつただ一人。そろそろ本気ってヤツを見せつけてやるとしようかな。
俺は壁から体を起こし、ゆったりとして歩き出す。あいつの二発目のパンチが俺に当たりそうに
なると同時に体を少し跼めて、最大威力のパンチをあいつの腹に食らわせて吹き飛ばす。
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決勝戦が始まり、三人が勢いよく中央で戦闘を開始する。最初は近接戦。ガードとアタックの両方を満遍なく行わないと隙を突かれ負けてしまう。
長いラッシュが続いた後、二人が後ろに跳びのき、魔法を詠唱し発動させる。サルテは多弾の氷の槍、モーロンはイリスが珍しいと言っていた闇魔法の召喚魔法を使用して来た。俺は魔法は使えない体だから、離れられたら何もできない。そこで俺は距離を取り、相手の出方を伺う。
「闇に氷か…。面倒くさい相手だなコレ。」
俺の見立てではサルテの方が断然弱い。ここはあの召喚獣を利用してサルテを先に倒した方が効率が良い。
「さて、何が出てくるのかな?」
俺が呟き終わると同時に真っ黒な煙が四散する。
そこにいたのは魔獣でも、人間でもないモノが露わになっていた。俺自身も図鑑や絵本などでしか見たことのない生物。それは・・・恐竜。あの体だとティラノサウルスが近いだろう。あまり発達していない手に対し、体は俺の軽く5倍はある。歯はとても鋭く、尻尾も長い。王者の貫禄を見せる佇まいに俺とサルテは唖然としている。
「ッーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
もの凄い咆哮が会場全体に響き渡る。
俺は突っ立ったまま、サルテや観客、貴族の奴らは耳を抑えて震えている。まぁ普通ビビるわな、何せ目の前には古代の王者が君臨しているわけだし、そいつが動いているなんて想像しただけで震えが止まらない。
どう頑張ったってあの恐竜と自分を比べれば馬力も体格も恐怖感も違う。これはもう匙を投げるしかあるまい。立っている土俵が違うのだから。
「なーんて思っているんだろうな。こんなヤツ唯の鳥のご先祖様だろ?少し大きめの羽のない鳥だと思えば楽勝だろ。それに鯱と水中戦をやらされた俺からしたらこんなの余裕だな。」
俺はこいつらとは違う。こいつらが何を習ったりしてるのかは知らないが、少なくとも俺は今目の前にいる怪物を知っている。なら、こいつらには恐怖に見えるこの怪物も俺には博物館にあるあの骨に肉が付いただけ。別に怖がる事はない。
恐竜は俺とサルテを踏み潰さんと突進してくる。
幾ら恐怖を克服しても当たれば即死の無理ゲーは変わりない。ここは慎重に避けながらモーロンの横槍も気にしておく。俺は克服したがサルテは未だ恐怖で足がすくんでいる。僅かに避けようとはしたが間に合わず恐竜の足に当たり勢いよく飛んでいく。魔法が空中で消えたことから死んだか気絶したかのどっちかだと考え、サルテを敵から除外する。
「ほう。こいつを見ても驚かないとは肝が座っているな。初めて会った時から思っていたが面白いヤツだ。」
「そらどうも。なぁ一つ聞きたいんだがいいか?」
「なんだ?あいつの弱点とかは俺は知らないぞ。知ってても教えんがな!ハハハ」
「別にそんなの聞いてない。俺が知りたいのはあんたの出身地だ。それと、その魔法は誰かに教えてもらったのか?別にその誰とまでは聞かない。その二つだけ教えてくれ。」
「何を言いだすかと思えば、俺の出身地は自分でも知らない。物心付いた時には養護施設だった。もう一つの質問は内緒だ。テメェの想像に期待するよ!」
「そうか、なら俺はあのデカブツを殺しに行く。その次はお前だ!その首洗って覚悟しておけ!」
「ハハハ!やってみやがれ!こいつは古代の王者らしいぞ!テメェみたいなヤツに殺られるわけがねぇんだよ!」
俺は腰に下がっている剣を握り、抜刀術の構えをとる。恐竜は俺の存在に気付き、走り始める。
「ッーーーーーーーー!!!!」
「ギャアギャア五月蝿え!俺がその腸切り刻んでやるよ!」
恐竜は今度は尻尾での攻撃をしようと、ライの目の前でUターンする。その時に尻尾が回転しライに当た・・・・らなかった。
ライは恐竜がUターンする前の時点で恐竜の腹近くに飛び込み、剣を抜き恐竜の柔らかい部分である首、腹を一本の線のように切断する。
「ッーーーーーーーーー??!!!」
「邪魔だ!!引っ込んでろ!!ウォォリャァアア!!」
そしてまた頭の方へと戻り足をジャンプ台にしながら飛び、首を綺麗に切断する。
その後ライは地面に着地し、モーロンの方を見やる。少しは驚いているかと思ったがモーロンは薄笑いをしたままである。
「おい!テメェのペットぶった切ってやったぞ?なんか感想はないのか?」
「フフフ。感想か…。そうだね、お前はやっぱりあの方が言っていた通りだよ。本当に叩き切るなんてね。なら、次に行こうか。今度は俺直々に相手してやるよ!」
途中から何を言っているのかわからなかったが、次は自分から来ると言うのでそこで倒すまでだ。
油断はしない。それが連戦の勝負における1番の鉄則だ。
モーロンが詠唱を始める。
「闇よ天を狂わし 生命を食い尽くし 我は神の使い魔」
さっきは魔法陣の上で黒煙が四散したが、今度は自分の体が黒煙をまといだす。そして、一瞬その煙で体全体が見えなくなる。その後黒煙が奴の体に吸収され、姿が露わになったのは今までの人間の姿ではなく、顔が蛇で体には色々な模様や毛皮がついている。さっきは手に持っていなかったが今は三叉の槍も持っている。その姿はまるで、悪魔のような容姿だった。
「お、おい…。マジかよ。これじゃあ化け物じゃねぇかよ!」
「フハハハ!どおした!怯えたか?震えたか?これが俺とお前の違いだ!よく味わえこれが痛みだ!」
モーロンは音速並みのスピードでライとの距離を縮め、ライに蹴りを一発喰らわせ吹き飛ばす。
「ウグッッ!!」
ライは吹き飛び壁にひびを入れる。そして、今までを振り返っていた。口からは少し血が滴る。その血を袖で拭き取り、壁から降りる。
首や手の関節を鳴らし、ゆったりとジャンプをする。屈伸を2、3回してからモーロンを見据え、怒りを露わにしながら話しかける。
「モーロン、お前のバックにいるのはサマエルの一団か?俺があいつらの幹部を殺したから今度は俺を殺すと?そんな推理であってるか?」
「・・・よくわかったな!そうだよこの魔法とさっきの魔法を教えてくれたのはあの人達だ。そうかお前があの言ってた人を殺した人間なのか。
別に彼らは敵討ちをしたいんじゃないぜ。唯の似たような奴がいるのが嫌なんだ。」
「それは随分と勝手なことだな。こっちはあいつらのせいでこんな大会に出なきゃならなくなっちまったんだから。ホント勘弁して欲しいぜ。」
「それで?そんなことがわかっただけで俺に勝てるとでも息巻いてるのか?残念だけどそれは無理だぜ。ここでお前は俺と一緒に死ぬ!!」
「テメェと心中だけは絶対に嫌だな!!」
両者お互いに一気に距離を詰め、攻防が始まる。




