第二十三話 彼は彼女とは違う
緩い風が頰に当たり、秋の空気を肌で感じる。そう言えばミツと会ったのが夏頃だったなぁと回想しつつ、満月が輝く夜をボーッと見つめる。何をそんなに悠長にしてんのこのアホと罵倒されたら、先ずは目の前の光景を見てどうぞっと言ってやろう。
では、どうぞ。
俺の目の前に広がる景色は、日本で言えば地獄絵図。インドや中国系で言えば修羅場。イギリスなどの西洋系で言えばラグナロクとでも喩えられるだろう。これを単純明快、直截簡明に纏めると、見るに耐えない戦場だと言うわけだ。別段、グロくて目が当てられないと言うわけではない。どちらかと言えばグロいだとか、気色悪いだとかそう言った要素は皆無だ。
なら、なぜ物思いに耽るほど見たくないのかと言うと、奴がとっている行動がもうお手上げだからだ。
「○°+×々〜〆=○♪→^|〒<」
何を言っているのかすらわからない上に、自我は無くなっていてもう単なる血帝の操り人形状態だ。俺を殺す事に躍起になっていると、ある瞬間にまるで機械の電源が切れたようにプッツンし始めた。別にキレたわけではない。文字通り動かなくなったのだ。チャンスだと思った俺が奴の体にスターバース○・ストリームを叩き込もうとした瞬間、奴の体が眩く光り始めてセルの最後のようにブクブク膨らみ始めた結果今に至る。
「自爆オチ。一番面倒なタイプの終わり方だな。その上、自我が無いからいつ爆ぜるかもわからないと来た。お手上げだろ、これは。俺、瞬間移動も避雷針の術も使えねぇんだよ?どう対処しろってんだよ……」
そんな状態の俺が思いついた方法は三つ。
一つ目は改変で旧龍帝のように消し去るって言う方法。だが、これは魔法陣を奴の体の下に書かなければならない上に、発動は意識の裏を突かなければならない。こんな精神科へどうぞって誰もが言う奴の意識の裏なんて、スーパーコンピュータを使っても無理だろう。以上の理由から却下。
二つ目。今度はこいつを小さくしたり、凍らしたりして処理してもらうっと言うモノなのだが。生憎、改変じゃあそんな事はできないし刺激を与えれば爆発する危険もあるから却下。スモールライトがあれば簡単に解決できるのだけどな。
「結局、あの青タヌキに頼まなきゃなんないんじゃねぇか……」
そんな悪態を吐きながらも、いや吐いていられるのは余裕があるからだ。俺だってバカじゃないので、根性論だとか「あいつはそんな事で終わる奴じゃねぇ!!」的な残念な発想に行き着いてはいない。ちゃんとした明確なビジョンがある。しかし、それは余りにも見苦しい策だった。
「眷属の効果で収める……いやぁ、根性論の次ぐらいにヒデェ案だとは思う」
「は?何言ってんだ、このクソ野郎は」って思うのも無理はないし、俺がコレを聞いたらアホかって一蹴するのがオチだろう。だがしかし、いざ目の前でこんな事態に陥ってしまえばコレ以外に何をしろと言えるのか。他力本願の安直な策だと言われ、自力で何とかするのが英雄って者だろ!っと説教されるだろう。
「だからと言って他の策が練れるか、って聞かれても何もないのが現実なんだよなぁ……あー現実逃避してぇ」
とまぁ、現実逃避するのはヤメにして真面目に考えないとマズイ。ここでイリスの所に行っても邪険扱いされるし、彼女がやるって言ったんだ。あまり手は出したくない。
「あぁぁぁぁあああもう!!スモールライトが欲しいッ!!!なんならガリバートンネルでもいいから欲しいッ!!」
叶わない願いだが、それがあればこの危機から脱却できるのだ。叶わないとしても叫ばずにはいられない。一寸帽子でもいいし、細胞縮小機でもいい。最後のはドラちゃんの道具じゃないってツッコミは後にしてね!
「ハッ!これならイケる!!時よ止まれ!『世界』ッ!!!!」
最終手段だ。時間を遅延させて、できる限り爆発までの時間を稼ぐしか方法がない。ポーズを決めてカッコつけたポーズを取る。が、御察しの通り何も起こらない。二回ぐらい繰り返したが、一秒たりとも止まらなかった。そらそうだろう。俺、スタンド持ってねぇもん。
「あ、ならこれなら。改変《Alteration 》固有結界ッ!!」
影が揺らぎ、陽炎が立ち上がる。グワッと揺れた空間がゆっくりと物を吸収し始め、奴の体が少しずつ引っ張られ始める。先ずは左手、そして半身、頭が全て入ると足が中へと侵入する。最後の左足も横にデカイ体も全て中へと入った。ふと、辺りを見回してみるとついさっきまで建ち並んでいた家々は姿を消し、平らに整地された地面へと変貌していた。
何も無い空間。
存在が許されているのは、俺と奴の二人のみ。それ以外の生物は呼吸することも、生きることも許されない。何本もの剣が地面に刺さっているのなら、それはそれで興があったかもしれない。だが、あるのはただフラットな世界のみだった。
「・・・・・・・」
「……戻ったのか。面倒だな」
奴の姿を確認する。今の今までは力士よりも横に広く、人の二倍ほどまで膨らみ続けた風船。けれど、今目の前にいるのは一番初めに会った時の奴の姿だった。
「記憶は鮮明に覚えている。お前さんに負けたのも、その後血帝の奴隷となったのも」
「そうか。なら話が早い。もう一度お前を殺す。今度はちゃんと三途の川を渡れよ」
「お生憎様だな。その川を渡ることになるのは、俺じゃなくてお前さんの方だッ!」
奴は地面の砂を取り、魔法で爆弾へと変化させ俺目掛けて投げつける。物自体が小さいから威力は低い。だが、それ以上に手数が多い。防ぐ事はもちろん、躱すことも儘ならない。
「ただの爆弾が百になろうと千になろうと変わんねぇよ!!俺を殺りたきゃ、原子爆弾の一つは持って来やがれ!!」
砂つぶは投げた場所から、散り散りに飛んでくる。その中で自分に当たるものはほんの少しのみだ。それ以外は全て地面に落ち、そこで爆散する。だから俺は何も考えずに突進した。
「なっ!?」
飛んで来る砂は精々百かそれ以下。なら、わざわざ後ろに逃げて遠距離戦をやるより、奴とは近距離で戦った方が断然いい。残りの左手さえ斬り落とせば、奴は石も砂も投げる事はできなくなる。緩いん風の魔法で、砂を左右に散らして道を作り、そこを真正面から直進する。
「チッ!」
奴は腰から一本のナイフを抜いて、応戦しよつとするがそれだけでは二刀は防げない。ブランで左腕を斬り落とし、ローボで斜め下から斬りあげる。鮮血が迸り、体に吸血鬼の血入りの血が付着する。気持ち悪っと心で悪態を吐きながら、ブランを上段で構えた。
「名は」
「第六の傀儡 イゾン。お前さんには感謝と警告しかねぇな。じゃあ、自我を戻してくれてありがとう」
「礼には及ばねぇよ」
俺はブランを振り下ろし、イゾンの首筋を絶った。銀でできた刀で斬られた事により、吸血鬼としての能力は消えて復活することなく死んで行った。同時にブランも無理に使った所為でパリンッと砕け始める。
「よく眠れよ。二人とも━━━」
俺はそれだけを言ってこの世界から外へと抜け出した。彼と二人目の相棒をそこに残して。
轟音が聞こえる。イリスはまだ戦っているのだろう。彼女は強い人間だ。誰かを守ろうとする為に、ここへとやって来たのだから。俺なんかとは裏表だ。
人を殺す事に何の感情を持たない俺とは。
はい!どうも!■です!
前半ふざけ過ぎました。が、自重はしません。番外編でハッチャケます!
では!また!




