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結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第五章 贋造の英雄
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第十五話 悲劇は重なり続ける

ライが異世界へと転移する約十年前。まだグレーン大陸に王国が百ほどあった時の話。当時七歳の彼女に歴史にも残る悲壮な事件は起きた。



ーー十年前 クリマ王国



その日は真冬の一日だった。昨日から降り続いた雪が地面を白く染め、窓から見る景色は一面銀世界へと姿を変えている。クリマ王国の王宮では父のイーテが寒そうに暖炉の前で縮こまり、母のミルスは毛布を膝にかけ編み物をしていた。



「お母様!今日も雪が凄いわ!」


「えぇ、そうね。外でお父さんと遊んでくる?」


「うん!!」


「や、や、ヤメローーー!!!俺は暖かい暖炉の前にいたいんだーー!!!」


「い!く!よ!」



金髪碧眼の少女━━━イリスはイーテの襟首を掴みながら、強引に暖炉の前から引っ張り出す。イーテは涙目になりながら愛娘と共に暖かい部屋から冷たい廊下に足を出した。



「寒ッ!」


「あ、着替えないと。私も着替えてくる!お父様、絶対に来てよ!」


「わーってる!」



イリスとイーテは着替えるために、場所を王宮の正門前と指定して別れた。イリスは急いで自室に戻り、お気に入りの白いロングコートと藍色のニット帽にパッパと着替え、約束の場所へともう一度走り始めた。



ーー



「おっそーい!!」


「ごめんごめん。コートが見つからなくてさ」


「嘘はダメ!魔法、体に使ってるでしょ!」


「ウッ……えっとそれは......」


「それは?」


「はい、すみません。……イリスにもほら、わけてあげるから」


「ホントにもう!」



イーテは魔法陣を展開させ、イリスのコートのポケットや裏側に火傷しない程度の炎魔法を生成してじんわりと温める。温まっていく体をポンポンと触りながら、彼女は嬉しそうに駆け出した。



「ありがとう、お父様!じゃあ行ってくる!」


「気をつけろよ〜」



彼女は雪の絨毯にダイブし、初めての雪を堪能する。雪だるまを作ったり、イーテと雪合戦をしたりなどをして遊び倒した。そんな中、ふとイーテが動きを止めて辺りを警戒し始める。



「お父様?」


「イリス、君は王宮に戻れ!お母さんと一緒にいるんだ!僕はちょっと街に出てくる」


「?ん、わかった」


「━━━━こんな時にッ!!」



彼はそれだけを残して街へと駆け出した。イリスはただ、黙ってこれから起こる惨劇を見続けるしかなかった。



ーー



「お母様?……あれ?いない」



イリスは父に言われた通り、ミルスを探した。出かける時にいた団欒室に行っても、そこはもぬけの殻で、自室へと行くがそこには誰もいなかった。彼女の元へ段々と恐怖と不安が押し寄せてくる。


母はいない。

使用人もいない。

父も街へ行ったまま帰ってこない。

叔父のロイテも旅から帰ってこない。


━━━━私はどうすればいいの?なんで私は置いていかれたの?ねぇ、なんで?



突如、窓が割れて外から人が入って来る。見たこともない格好。けれど、わかる。この人達は敵だ。私の家族を汚す敵だ。



「敵を確認。子供のイリス・トルエノだと見る。殺しますか?」


『あぁ。殺せ。この国は我々が強奪する』



淡々と語る敵は魔法で誰かと話す。刹那、自分の体が、心が恐怖で押し潰されそうになる。けれど、それと同時に体の中で何かが熱く燃え始める。



「悪いな嬢ちゃん。ここで死んでくれ!」


「……死ぬのは貴方。私じゃない」



魔法陣が構築され、イルスの周りを取り囲む。が、その魔法が放たれることはなかった。一瞬の電撃が走り襲撃に来た敵の心臓、脳、肺が丸々焼け焦げる。彼らはその不可視の攻撃を受け、眼球が溢れ落ち、脳が電気に耐えられず破裂して真っ赤な血と脳みそが周りに飛び散った。


しかし、彼女はそれには目もくれず王宮内を徘徊する。真っ白なコートを血の色で染めた少女は、新たな惨劇を見た。場所は一回の広場。中央の銅像を中心として


━━━━━死体の山が築かれていた。



「あ...あぁ......お母様ぁぁあああああああ!!!!!!!」



中央の銅像はもちろんのこと、大きな広場でさせ血で真っ赤に染まっていた。母も使用人も全員、見るに耐えない姿へと変貌している。


一人は丸焦げで元の顔すら見えない。


一人は窒息死で死体は綺麗だが、目はどこか遠くの方を見ていた。


一人は泡を白眼で、口から泡を出しながら死んでいた。


一人は四肢と首が切断されており、もう誰かもわからない。


そして、ミルスが一番酷い殺し方だった。ミルスの首は銅像の上に飾られ、四肢も千切られて同じように飾られていた。そして何より酷いのが、彼女の両手両足の傷は癒えているのだ。痛みに耐えながら生きる母を見て彼らは笑っていたのだろう。何度も、何度も傷つけては癒し、傷つけては癒しと繰り返しながら。



彼女の小さくて脆い心はズタズタに、ボロボロに砕かれて斬り刻まれた。そして、これからが悲劇の始まりとなる。恐怖と怒りで自我が崩壊したイリスはそのまま王宮の外へと出た。外は戦争の真っ只中。一人の幼気な少女がうろつくにはあまりにも危険すぎる。が、暴走したイリスを止められる者は誰もいなかった。





ーー




僅か数時間で戦争は終結し、クリマ王国の敗戦が決まった。名もないこの戦争の戦死者は過去の戦争をモノともしない十万と登りつめたのだった。クリマ王国の国民は殆どが戦死、だがそれでも七万ちょっと。残りの三万はイリスと自衛の為に殺された兵士達だ。


そう。自我を失い、暴走状態となった彼女は魔法を押さえつけられず荒れ狂う雷神となった。後のアルトはこう言っていた。



「俺があの国を助けに行った時には……もう地獄だった。人として原型を留めている敵兵はいなくて、あるのは肉の塊。吐きそうにもなったよ。酷すぎてな」



脳が潰れ、肺が焼け焦げ、心臓も破裂する。即死だ。何をどうやっても助からない。街の全部で死臭が漂い、どこもかしこも死体と血の海で一杯だった。そして、彼女は━━━イリス・トルエノは一人、死体の山の上で佇んでいた。この惨劇を聞きつけたロイテが全速力で戻って、彼女の崩壊した精神を戻すまで約二日かかったと言う。




ーー現在



「これが、私が『血染めの王女』と呼ばれる原因。どうだった?」



俺は彼女の話を聞いて何も言えなかった。









はい!どうも!■です!


グロくは………なかったですか?まぁ、その話は置いといて。


次回は明日の夜九時です!お楽しみに〜!


それでは!また!

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