第十二話 勧誘
「今度は何の用だ?今までの行いの謝罪にでも来たのか?」
「ハッ!笑わせるな。まぁ、邪魔者の処理をしてからゆっくり話そうじゃねぇか」
「えっ………」
黒髪の男は身近にあった岩を鷲掴みする。そして、男は問答無用でその岩をバギナーめがけて投げた。ライは反射的にバギナーの体を掴んで横に投げ飛ばす。
「うわぁ!?」
岩はそのまま真っ直ぐに飛んで行き、幹にぶつかる。が、ぶつかった瞬間に岩は爆ぜた。木は当たった所に穴が空き、ミシミシと音を立てながら倒れ始めた。
「ウザい能力だな」
「ひ、ひぃ!!」
「おいおい?そいつはお前さんを罠に嵌めた張本人だぜ?なんで生かすんだよ?」
「まだ俺を騙したツケを払ってないからな。死ぬのなら俺に尽くしてからだ」
「結局僕は使われるんだ......」
ライはバギナーを馬車の裏に隠し、黒髪黒瞳の男と相対する。男はケラケラと嘲笑しながらこちらを見ていた。
「お前さん、何人殺した?」
「それは答えなきゃいけないのか?悪いがこの後用事が少し入ってるから、サッサと終わらしてもらうぞ!」
ライは地面を勢い良く蹴る。一歩目で抜刀、抜き取って、二歩目で攻撃態勢に入る。三歩目で攻撃を開始する。男の後ろの木を目掛けて一発、男を狙った弾を一発。計二発を撃ち、第三撃としてローボを上段で構える。
「残念、そこは俺の領土だ」
一発目はそのまま木に当たり魔法陣を展開させるが、木が自ら爆発し魔法陣は消え去る。二発目は男に届く前に地面が爆ぜ土の塊によって防がれた。ライは地雷を警戒し、後ろに退避する。
「爆発系の魔法。面倒なのはこの上ないな」
「まぁそう言うなや。俺は結構気に入ってるんだぜ、この魔法?」
「知るかよ。俺からしたらウザくて仕方ねぇ魔法だ」
「お前さん、中々面白いな。仲間なら結構気に入ってたぞ?」
「今度は勧誘か。ふざけんなよ?俺はテメェらのせいで散々迷惑かけられてんだ。これ以上余計な事したら皆殺しだ」
ライは一層怒気と殺気を纏わせ、男を威圧する。が、男はその様子を見て何かを確信したかのように拍手した。
「お前さん、出世も何も見つからないが地元で何かしてたのか?例えば殺し屋、とか?」
「悪いな、俺の地元じゃ人を殺したら即座に死刑なんだわ。そう簡単にできねぇよ」
「そりゃあ面白いな。いかにバレないように殺るか、興味がそそられるねぇ。けどお前さん、そんな中でも軽く二十人は殺っただろ?」
「それ以上、お前の推論は聞きたくねぇ。今すぐ黙らしてやるよ!」
ライは男の奥の奥にある左右の木に弾を撃ち、雷の線を二本引く。レボルバーを回し、男目掛けて一発鉛弾を撃つ。弾丸は高速でハクロウから飛び出る。そしてそのまま男の体を穿とうとするが、すんでの所で鉛玉ごと爆散した。
「残念ながら俺に射撃は効かねぇぞ?それより、サッサと答えてくれよ。何人殺した?」
「聞いて何になる?例え俺が何人殺そうがテメェには関係ねぇだろ」
「いやいや、ただの入団試験のようなものさ」
「改めて言おう。俺はテメェらの集団に入る気は断じてねぇ!!俺はイリス・トルエノの騎士だ!それ以外の俺の居場所は存在いらねぇ!!!」
先ずは目の前に無数に広がった地雷の処理だ。これを退かさなければ一歩も動かすことができない。現代兵器の最先端のトラップの兵器である地雷。その脅威は恐ろしく、もし足が触れてしまえば両足はもちろんの事、命すらも奪うほどの威力を誇る。現代では金属探知機で探し回るしか見つけ出す手段はない。が、そんな物は異世界には存在しない。もしあったとしても持っていない。ならばどうするか。現代兵器には『現代』に無いもので対処するしかない。
「例えば魔法とか」
俺はレボルバーを回し、銃口を俺と奴の真ん中ほどの地面に向けて引き金を引く。放たれた弾丸はそのまま真っ直ぐ飛んで行き、地面に触れる。瞬間、雷の魔法が辺りに広がる。
Q 地雷の場所に電気が通るとどうなるでしょう?
A 爆発する。
一つが爆発すれば近くの地雷も連鎖的に爆発する。例えそれが誰かの足ではなくても、だ。
地雷は連鎖的に爆発し、地面はおろか周りに生えている木々にある地雷も爆発する。ライはその隙を見てバギナーの周りに防御壁を張り、安全な場所を見て突撃する。爆炎に紛れながら、男の元まで進みローボを振り下ろす。男は類い稀な反射で背中の剣を抜き、ギリギリでライの剣を防いだ。
「流石改変者、というわけか。一筋縄ではいかねぇな。そうそう、俺達『サマエルの傀儡』はお前さんを殺すことに決めた。これが最後の勧誘だ。心は変わったか?」
勧誘と言う言葉は俺は嫌いだ。多くの人は勧誘をされたら嬉しいものである。なぜならそれは、自分が、自分の言動が認められた証拠だから。どんな人には必ず承認欲がある。誰かに認められたい、意識して欲しいと言う欲が。けれど、それはただの欺瞞に過ぎない。勧誘とはそれを満たす為の上部だけのモノである。認められたら喜び、感動し、仕事や活動に熱が入る。そして、その後慢性になる。つまり、勧誘とは単なるシンデレラの魔法と同じだ。誰かの元で時間の拘束にあいながら生きる。そんな物が欲しい為に俺は生きて来たんじゃねぇ。
「━━━━変わるわけねぇだろ。俺をテメェらの物差しで測るんじゃねぇよ!」
右手に力を入れながら、左手のハクロウを奴の腹の前に当てる。使い回しだから威力は落ちるが貫通はするだろう。そう思いながら俺は無心で引き金を引いた。
「改変《Alteration》」
数分前の電磁投射砲で使用した電線を使い、もう一度電磁投射砲を放つ。ゼロ距離からの射撃により鉛玉は男もろとも貫通した。赤く暖かい内臓が猛烈な音を立てながら千切れるのが一瞬だけ聞こえた。
「終わったか。おい、バギナー。サッサと出てこい。帰るぞ」
「は、はい!………ヒィ!?」
彼は腹に穴が開いた黒髪の男を見て小さく悲鳴をあげるが、目を固く瞑って俺に付いて来た。俺達二人は樹海林の中で知り合った木こりの馬車に乗せてもらって街へと帰った。




