恋人(仮)
「えーと……。」
突然現れた王様。
しかし王様は状態異常:ぎっくり腰。そんな王様が這い寄ってきたという光景に誰かの口から戸惑いの声が漏れた。
その気持ち、よーく分かる。
「あ、えっと、こ、これにて謁見を終了とし、勇者様方は部屋で休んで下さい。シャルティア、彼等を案内して差し上げて。」
「あ、はい。分かりました、お兄様。それでは勇者様方。こちらに。」
姫様に促されて俺達は謁見の間を後にする。
なんか、後ろの方で「おい、まだ話は終わってないぞクロード!」とか言ってる声が聞こえるが無視だ無視。
療養中の身(ぎっくり腰)でありながら勇者を迎えようとするという姿勢は好感が持てるが。
話も何も、謁見がグダグダになったのはあなたのせいです。
◇
王様のせいでグダグダになった謁見を終え、姫様に部屋へと案内された俺は早速部屋の中を観察していた。
いや、観察はちょっと違うな。
調査をしていた。
俺が案内された部屋は調度品やベッドなどが一目で高価だと分かり、どう考えても貴族とか国賓とかが泊まる部屋だと分かる。
しかし、国賓は国賓でも俺達は勇者なわけで、勇者に関する情報を集める為に監視用や盗聴用のマジックアイテムがあったとしてもおかしくない。
俺はこの国を信用したわけじゃないから調査くらい普通だ。
なんの疑いもなく平然で暮らせるほどお気楽じゃない。
そんなのは田中に任せる。
ちなみに、その田中は現在充てがわれた部屋の前で待ちぼうけだったりする。
勇者の数が予想より多いようで部屋の準備が間に合わず、何人かは未だ部屋に入れてない。
俺は勇者スキル持ちという事で準備が終わった部屋だけど。
そこは勇者スキル持ちって名乗り出て良かった点だな。
それから10分。
部屋の中をくまなく調べてみたが怪しいものは見つからなかった。
まあ、どんなものがマジックアイテムとか知らないからただ単に分からなかっただけかもしれないけど。
本当は屋根とかも小突き回したかったんだけどね。
ほら、天井裏に忍者とか密偵とかの国の暗部が潜んでるってよくあるじゃん。
まあ、何もない事は一応分かった事だし、とりあえず次はステータスについて検証でもするか。
…………そういえば、勇者には定番の鑑定系スキルは無かったな。
なんでだろうか。
クラス単位での召喚だからそれ系のスキルは誰か他の人が持ってるのかもな。
そうなると、中田委員長なんかは怪しいな。
メガネな優等生というテンプレな委員長だし。
あーあ。
もしも鑑定系のスキルがあればマジックアイテムがあるかどうかも分かったのに。
「………鑑定。」
ーーポンッ
…………………なんか出たよ。
諦めきれず、物は試しと思って言ってみたら、なんか、AR表示みたいなのが出たよ。
えーと、何々……壁。
うん。
まんまだね。
ターゲットとか考えずに鑑定って言っちゃったから目線の先にあった壁が鑑定された。
というか、なんで出来ちゃったの!?
俺鑑定スキルなんて持ってねぇよ!?
……………考えられるとしたら、異世界人は必ず出来るか、勇者スキルが複合スキルでその中に含まれてる、か。
1番可能性が高いのは勇者スキルか。
「ステータスオープン! からの鑑定!」
ー勇者LV10ー
勇者に与えられるスキル。
勇者とは国を救い、人々に笑顔をもたらすものであり世界を救う希望の光である。
このスキルは聖剣、鑑定、身体強化、取得経験値増加、取得スキル経験値増加からなる複合スキルでスキル所有者に光属性の魔法適性を与える。
原因はこれだね。
というか、身体強化とかダブってんだけど。
え、ダブりとか意味あんの?
無駄スキルじゃね?
………ま、いいや。
考えても仕方ない。
それよりも、こっちが重要。
鑑定が使えるというのなら、もう一度部屋の中を調べよう。
そうすれば今度こそマジックアイテムがあるかどうか分かるはずだ。
それから更に10分。
出るわ出るわ。
マジックアイテムの山。
空調に防犯に照明に状態保存に防汚に防音にetc
……………………メチャクチャホワイトでした。
疑いまくってた自分が恥ずかしいよ。
ベッドに腰掛け、罪悪感で頭を抱えているとドアがノックされた。
誰だろう?
あ、こういう時の定番である専属メイドかな?
オラ、ワクワクすっぞ!
ごめん嘘です。
確かにワクワクはするけど罪悪感で申し訳なく思ってしまう。
「はーい。今開けまーす。」
ドアを開けるとそこには何故か久遠先生がいた。
「久遠先生? えと、どうしたんですか?」
「少し、相談がある。」
「? まあ、立ち話もなんですから、どうぞ中へ。」
「失礼する。」
相談ね。
多分今後のことについてだろう。
「どうぞ、そのソファーに座ってください。」
「ああ。」
家具付き家電なしのワンルームですが、見てください。
このソファー。
天然物の皮を使った高級品。
こんな高級品がついていてお値段なんとたったの0円!
………ふざけてる場合じゃないな。
でも察してほしい。
みんなの頼れる久遠先生がすごく神妙な顔をしていて空気が悪いんだ。
この空気感は耐えられない!
「………………相談というのだが……」
「あ、はい!」
「まずはこれを見てほしい。ステータスフルオープン。」
久遠明日香
種族 人族
LV1
HP30/30
MP30/30
STR18
VIT16
INT12
MEN10
AGI21
魔法
風
スキル
投擲LV1
教師LV2
指導LV1
統率LV1
酒精耐性LV3
見取り稽古
????
称号
異世界人
巻き込まれた人
星条学園のお姉様
犯罪歴
無
色々と気になるな。
「氷川のステータスが普通の人の10倍ということは普通の人は平均10程度ということだよな? なら、私のこれは一体なんなんだ? それに、巻き込まれた人って、どう考えても勇者でもなんでもなくただの人じゃないか! なあ、私は一体どうすればいいんだ? こんなの、どうしようもないじゃないか………」
「えーと、久遠先生ってお姉様って呼ばれてたんですね。」
「気にするところはそこなのか!?」
「いや、だってお姉様なんて漫画の中でしか見たことないですし。」
「それは気にしないでくれ……」
ふむ。
とりあえず、この????を鑑定してみるか。
ー????ー
未覚醒スキル。
条件が達成されていないために発現していないスキル。
何にもわからないな。
次はこれかな。
ー見取り稽古ー
あらゆる技能を観察し記憶することで習得することができる。
但し、種族固有スキルなどの物理的に不可能なものは除く。
うっわ!
強奪とかコピー程ではないけど、結構チートくせースキルだな、こりゃ。
一騎打ちとかしてもこっちが技とか技術を何度も披露すればその技を盗まれるってことだろ?
なかなか強スキルじゃん。
ステータスが低いのが救いだけど、色々な技術を会得して組み合わされたら厄介かも。
「そういえば、なんで俺のところに来たんですか? 他にも相談すべき人がいると思うんですけど。氷川とか。」
「氷川のところには多くの女子が行ってそうだからな。」
それって、氷川は人気者だけど俺は人気者じゃないって事だよね。
教師にまで言われるなんて……襲われてーのかこの野郎!
「後はまあ、なんだ。お前は、ライトノベル? だっけか? そういうのを読んでいるのを見てたからな。こういう時は氷川よりも東藤の方が頼りになると思ったんだ。」
襲うとか考えてごめんなさい!
でも、美人に頼られるとそれはそれでそういう事を考えてしまうのは男子高校生故か。
「なあ。私はこれからどうしたらいいんだ?」
「ちょっと、考える時間をください。」
「あ、ああ。分かった。」
まず考えるべきは、この人をどうするか。
俺がここで放り出した場合、恐らく氷川の所に行くだろう。
まあ、それはたいした問題じゃない。
問題なのはその後。
この後ステータスを伝えることになるかもだし、そこで伝えなかったとしても、訓練やらなんやらをしていくうちに久遠先生が弱く巻き込まれた人だという事はバレるだろう。
そうなればどうなるか。
最良の結果としては、国が巻き込んでしまって申し訳ないと、客として扱い生徒全員が助ける事。
最悪の結果は弱いということがバレて、暗殺やらなんやらでいつの間にか居なくなってたり、クラスのモテない奴らが暴走して性奴隷のように扱ったり、兵士達の慰み者になってたり、か。
それは、後味悪すぎるな。
うん。
放り出すのは無しだな。
何より、氷川に頼るというのはなんか腹立つ。
よし、決めた。
俺は久遠先生を助ける!
助けると決めたはいいが、どうしたものか。
久遠先生に足りないのはなんだろう………強さだな。
いや、その強さがなくて困ってるんだって。
みんなに言う?
それで安全が確保できる保証なんてない。
現実的で、手を出したらヤバイと思わせられる何か………あ、俺だわ。
この世界で一番かは分からないが、かなり強いからな。
公開しているステータスではそこそこだけど、それでも勇者という肩書き(スキルだけど。)は伊達ではない。
つまり俺に関係していると知らしめれば国は手を出しにくいし、モテない奴らが手を出そうとしても防げる筈だ。
こういう時って大抵、「おうおう、俺の女に手を出そうなんていい度胸じゃねぇか!」みたいなセリフを吐くよね。
つまりそういう関係になればいいのか。
それにあわよくば……。
「俺の女になれ!」
「……………………………………………………………………………………………………………は?」
………間が長い。
これ、あかん奴やん。
い、急いで弁解しなくては!
「い、いや、そういう事がしたいとかじゃなくて、いや、したいんですけど、無理やりはしたくないっていうか、何言ってんだ俺。じゃなくて! その、なんらかの後ろ盾があった方がいいって思って、俺は勇者ですから、後ろ盾としては最高じゃないですか。だからそういう関係だと周りに教えれば身の安全を確保できると思ったんです。それにあわよくば実際にそういうこと出来るかもとか考えてました!」
こういう時は包み隠さず話した方がいいとなんかで見た気がする。
「……………そうか。」
ゆらりと立ち上がる先生。
あ、死んだ。
社会的に死んだわ、これ。
きっとこれから、全て周りに知られて権力を傘に関係を迫る下衆な奴として名が通ることになるのだろう。
さよなら、これまでの俺。
はじめまして、下衆な俺。
「あ、あの………久遠せ……ふむっ!」
「ぷはっ! これでいいか?」
「え、あ、あの……?」
「これでお前との契約をしたと言っている。今日からお前と私は仮とはいえ恋人だ。いいな。」
「え、あ、はい。」
「東ど……いや、雅樹にも色々とあるだろうから今はこれで帰らせてもらう。」
「あ、わかりました。」
そしてドアを開けて帰ろうとしていた久遠先生だったが、何を思ったのか開きかけのドアの前でこちらを振り向き口を開いた。
「また後でな、雅樹。」
ーーバタン
また後でってどういう事!?
まさか、まさか……あんなことやこんな事……いやいや、流石にそれはないよねー。
でも期待しちゃうよ?
俺だって若いしあんな美人にキスなんてされようものなら意識するなっていう方が無理だよ。
「久遠先生の唇………柔らかかったな……。」
〜明日香視点〜
ふぅ。
あれで良かったのだろうか?
主導権を握られるとなし崩し的にそういうことになってしまうからこちらから動いたが………お、思い出すだけでも、恥ずかしいものだな……。
よくよく考えればあれは私のファー……あ、あんなものは蚊に刺されたようなものだ。
深く考えるな。
私が考えるべきはこれからどうすべきかだ。
こんな訳のわからない所で死んでたまるか。