1話 出会い
「梵、この学園のシステムは聞いているな」
「はい、確かこの学園には『ランク』という物が存在していると聞いています」
担任となる先生と共に教室へと向かう琉斗は、学園に存在するシステムについての説明を受けていた。
シリウス騎士学園には、生徒それぞれの実力に応じたランクが存在している。最低のEからD、C、B、Aと続いており、そして最強クラスの実力者が集う学園最高ランクSへと続いている。ランクの変動は主に月一回行われるランキング戦の結果に応じて行われ、ランクが上がるほど学園生活における様々な待遇が良くなり、Bランク以上になると魔物討伐遠征に出ることが可能になるのである。
「最初は誰しもEランクからのスタートだ。まぁ、頑張る事だな」
「はいっ!」
入学当初は誰しも例外なくEランクからのスタートとなる事を先生から告げられ、琉斗は威勢良く返事を返す。
「着いたぞ、ここがお前のクラスだ」
いくつかの説明を受けている間に、琉斗はこれから学ぶ事になる教室へとたどり着いた。
「お~い、皆席に着け~、今から転入生を紹介するぞ」
まずは、先生が1人で教室に入る。先生が入ったことで、談笑していた生徒達が一斉に自分の席へと戻る。
「今日からこのクラスに転入することになった、梵 琉斗だ。皆、仲良くしてやってくれ」
「梵 琉斗です。よろしくお願いします!」
先生が喋り終えたのを合図に琉斗は教室に入り、自分の名前を黒板に書き、自己紹介を行った。そして、クラスの生徒に一礼をする。
「席は・・・ちょうどいい、あそこが開いているな」
先生が開いている席を指さすと、琉斗はその席へと向かい、腰を掛けた。
「よ、転入生。俺はDランクの『芝崎 誠也』だ。ま、仲良くしていこうぜ」
「私は『倉橋 有里栖』、同じくDランクよ。これからよろしくね」
「あぁ、こちらこそよろしく」
席に着いた琉斗に話しかけるのは、隣の席に座るピンク髪ショートヘアが特徴的な少女有里栖と、前の席に座るツンツンと逆立てた茶髪の少年誠也の2人であった。
「それじゃ、早速だが授業を始めるぞ」
そして、この日の授業が始まるのであった。
--------------------------------------------------------
時刻は昼時・・・
「琉斗、今暇か。何なら、これから学園内を案内しようか」
「あぁ、よろしく頼むよ」
昼休みとなり、誠也と有里栖は琉斗に校内の案内をすると申し出てきた。琉斗はこれを快く受け入れた。そして、誠也と有里栖は琉斗と共に、職員室、体育館、特訓場、生徒会室等を紹介しながら校内を案内した。そして、最後に・・・
「そして、ここが中庭だ。生徒の何人かはここでよく自主練しているんだ」
「ここで自主練か。確かにここは広いから自主練には打ってつけの場所だな」
校内の中庭にやってきた3人。開放感にあふれた広い中庭を見渡すと昼食を取ったり友達と談笑している生徒もいれば、誠也の紹介通り自主練をしている生徒達もいた。
「さ、これで案内は終わりね。ちょうどいいからここでお昼にしましょ」
そう言って、3人が昼食を取ろうとしたその時・・・。
「なんだとっ!ナメてんのかこのアマっ!」
どこからか、男子生徒の声と思われる怒号が聞こえてきた。
「な、なんだっ!?」
「向こうからだな。行ってみよう」
聞こえてきた怒号に琉斗達だけでなく、他の生徒達も驚いた様子で声がした方を向いた。琉斗達は、急いで声がした方に向かう。すると、そこには・・・。
「だ、だから・・・そっちからぶつかってきたじゃないですか・・・」
「俺の進路上にいたお前が悪いんだろっ!!あぁん?」
「ひぃっ!」
大柄で体格の良い黒髪スポーツ刈りの少年が、小柄で金髪ツインテールが特徴的な少女に対し、まるで脅しをかけているかのように怒鳴り続けていた。
「あ~あ、またあいつか。」
「よくやるわねぇ、あいつも・・・」
少年の言動に、誠也も有里栖も呆れかえっていた。
「誰だ、あいつ・・・。」
「あいつは、Cランクの『黒沢 伊蔵』。素行の悪い学園の問題児だよ」
「自分よりランクの低い相手に対して、ああやって威圧して威張り散らしているのよ」
体格の良い少年伊蔵は粗暴な性格で自己中心的な言動が多く、更には自分よりもランクの低い相手に対し高圧的な態度を取るためか、生徒達からの評判は悪いようだ。
「おいアマ、文句があんならこれで決着付けようや。」
そう言うと、伊蔵は自らの魔力で巨大な斧を具現化させ、少女に向けて構えた。
「あいつ、デュエルをする気だわ!」
「自分に歯向かえないようにする気かよ・・・」
デュエルとは生徒同士による練習試合の事であり、主に腕試しや意見が対立した場合に行われる。伊蔵にデュエルを挑まれ、怯える少女。すると・・・
「お、おい琉斗?」
琉斗が真剣な面持ちで伊蔵と少女の元へと歩み寄った。そして・・・。
「待て。そのデュエル、俺が彼女の代わりに受けてやる!」
琉斗が伊蔵と少女の間に入り、少女に変わって自らがデュエルを受けると伊蔵に言い放つ。
「ああん?なんだお前は」
「俺は梵 琉斗、Eランクだ」
伊蔵は間に入った琉斗に対し、高圧的な態度で睨みつけた。琉斗は動じず自己紹介を行う。
「く・・・だっははははっ!!Eランクのお前がCランクであるこの俺にデュエルだぁ!?笑わせてくれるぜっ!」
琉斗がEランクだと知るや、伊蔵は高笑いの声を上げて琉斗を見下した。
「な、なんだ・・・」「デュエルか、こりゃ見ものだな」
そうしている内に、騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってきた。
「正気かよあいつ。2ランク上の奴とデュエルなんて・・・」
「大丈夫なのかしら・・・」
琉斗がデュエルを受けたことで、誠也も有里栖も心配そうに見つめていた。
「ま、可哀想だからハンデくらいはやるよ。俺に一撃でも攻撃を喰らわせることが出来たらお前の勝ちでいいぜ」
「そりゃどーも」
伊蔵は琉斗を馬鹿にしたような態度で、お情けでハンデを付けると言い放つ。それを受けて琉斗は不服そうに答え、魔力で剣を具現化させて構えた。
「さぁ、始めようぜ。デュエル開始だっ!」
そして、琉斗と伊蔵のデュエルが開始された。
「だあああぁぁっ!!」
デュエル開始早々、伊蔵の巨大な斧が琉斗目掛けて振り下ろされる。
「よっと」
ドオォォォォンッ!!
琉斗は後ろに飛び退き、これを避ける。斧が振り下ろされたその先の地面はえぐれ、振動による衝撃が周囲に響き渡る。
「おらああぁっ!!」
ブォンッ!!
「くっ・・・」
間髪入れずに斧を横に振り回す伊蔵。琉斗はこれを間一髪避ける。
「おいおい、逃げてばかりかよ。つまんねぇな。ちっとは攻めてこいよっ!」
ガキィンッ!ガキィンッ!!
伊蔵は余裕そうな表情のまま防戦一方の琉斗を嘲笑い、斧を振り回しながら攻め立てる。琉斗は剣を盾に使う事で、何とか攻撃を受け流すのが精一杯な状態であった。
「おいおい、攻められてばっかりじゃねぇか」
「やっぱり、EランクがCランク相手に敵うはずがないのよ・・・」
攻められてばかりの琉斗を心配そうに見守る誠也と有里栖。やはり、EランクがCランクの相手に勝つのは無理なのか、2人にはそんな感情が芽生えていた。
(一撃が重い・・・それに体を大きく使う事で相手を威圧している。確かにこれでは並の相手では戦意喪失するレベルだ。だが・・・)
一方の琉斗も振り回される伊蔵の斧を剣で弾き返しながら、伊蔵が放つ一撃の重さをその身で感じ取っていたようだ。だが、琉斗の目は諦めていなかった。琉斗は伊蔵の斧を受け止めた後飛び退き、伊蔵との距離を取った。
「へ、怖気づいたか・・・。たかがEランクの小僧が、Cランクの俺にかなうはずがないのさっ!さぁ、とどめだ!」
伊蔵は斧を頭上で振り回して勢いをつけ、 飛びかかって振り下ろした。
「ここだ!」
「なっ・・・」
その瞬間、琉斗は剣を構えて伊蔵の懐に入った。突然の琉斗の行動に驚く伊蔵。そして・・・
スパアアァァンッ!!
「がはぁっ!」
琉斗の剣の一撃が決まり、伊蔵は地面に倒れるように崩れ落ちた。
「な・・・何が起こった・・・」
それは、正に一瞬の出来事であった。伊蔵だけでなく、デュエルを観戦していた周囲も硬直する。
「い、今・・・琉斗の攻撃が・・・」
「という事は・・・琉斗の勝ちだわっ!」
伊蔵に一撃を入れたことで、琉斗の勝利が決まった。その瞬間、時が戻ったかのように周囲が大歓声の声を上げる。
「凄いな琉斗。まさかCランク相手に勝てるなんて」
「えぇ、本当に驚いたわ」
誠也と有里栖は祝福の言葉を掛けつつ琉斗の元へと駆け寄った。
「あいつは、豪快な動きで体を大きく見せることで相手を威圧しながら攻撃していた。だが、あれだけ大きな動きをすれば、その分隙がでかくなる。俺はそこをついただけだ」
琉斗は伊蔵のラッシュを受け続けるうちに攻撃パターンや動作を見抜き、一撃入れる機会を狙っていたようだ。そしてそれは見事に決まったのである。
「あ、あの・・・助けてくれてありが・・・」
「おい小僧っ!」
「ひっ!!」
伊蔵に絡まれていた少女が琉斗に歩み寄ろうとした瞬間、伊蔵が立ち上がり琉斗に対して怒号を上げた。少女は驚き、思わずうずくまってしまう。
「Eランクの分際でCランクの俺に逆らいやがって・・・いい気になってんじゃねぇぞごらぁっ!」
琉斗に負けたことで逆切れした伊蔵が、琉斗に対し因縁を付けてきたのである。
「な、何よ、逆恨みっ!?」
「大体、ハンデを提示したのはそっちの方だろ!」
「黙れっ!今度は手加減なしだ・・・もう一度勝負しろ小僧っ!!」
伊蔵の態度に反発する誠也と有里栖。だが、伊蔵は聞く耳持たずもう一度琉斗にデュエルを申し込んできた。その時・・・。
「見苦しいぞっ!黒沢!」
デュエルを見ていたと思われる野次馬の中から、4人の生徒が伊蔵の元へ歩み寄ってきた。
「あ・・・あんた達は・・・生徒会っ!?」
伊蔵はその4人を見て恐れおののいていた。そう、彼らはシリウス騎士学園が誇る生徒会メンバーであった。
「相手の力量も図れないとは、全く浅はかだな」
「無様ね。自分から挑んでおいて負けるなんて」
「ふん、情けない奴だ」
生徒会のメンバー達は、負けを認めない伊蔵に対し厳しい言葉を浴びせかけた。
「こ、今回は俺がハンデを付けたからだ。本気でやればあんな奴・・・」
「見ていた限り、お前が本気でやっても彼には勝てない、と俺は思うがな」
伊蔵は何とか反論するが、簡単に論破されてしまう。
「くっ・・・覚えてろよ小僧っ!」
生徒会に屈服され、伊蔵は琉斗に対し捨て台詞を吐いて立ち去って行った。
「さっきのデュエル、見させてもらったわ。あなた、なかなかの実力の持ち主ね」
そう言って、生徒会メンバーは琉斗に歩み寄った。
「えっと、あんた達は・・・」
「私は『聖沢 円華』。この学園の生徒会長よ。よろしくね」
「俺は『烏丸 大河』。生徒会副会長だ。ま、覚えといてくれ」
「あたしは『和泉 睦月』。生徒会書記よ。よろしく」
「『金石 典人』。生徒会会計を務めている」
生徒会メンバーはそれぞれ琉斗に対し自己紹介を行う。背が高く金髪ストレートロングヘアが特徴的な少女は生徒会長円華、長身で黒髪ツンツンヘアーが特徴的な少年は副会長の大河、小柄で緑髪右サイドテールが特徴的な眼鏡を掛けた少女は書記の睦月、黒い角刈りの大柄な少年は会計の典人である。
「俺はEランクの梵 琉斗。それで、あんた達は強いのか」
生徒会の自己紹介を受け、琉斗も自己紹介を行う。
「バカっ!何言ってんだ琉斗!」
「この人達は学園最強を誇るSランクの人たちなのよっ!」
琉斗の最後に放った言葉を聞いて、誠也と有里栖は慌てた様子で琉斗に教える。そう、この4人の生徒会メンバーは学園最強クラスの実力者が集うSランクに所属する実力者なのである。
「それはちょっと買いかぶりすぎよ。この世界には、私たちなんかよりも強い人はいっぱいいるんだから。そうね・・・1年前に消息を絶ったあなたの兄さん、『梵 流星』とかね」
自分達よりも強い相手はこの世界に沢山いると、自分の実力を過小評価する円華。そして、その中で円華は琉斗の兄である流星の名前を上げた。
「あ、兄を知っているのかっ!」
「えぇ、彼の事はよく憶えてるわ。この学園最強の剣士で、私の憧れの人だった。あなたはどうかしらね」
琉斗の兄流星は、学園最強と謳われる剣士であり、円華の憧れの人物であったようだ。円華はそんな彼の弟である琉斗の実力についても楽しみにしている様子であった。
「じゃあね、あなたが私たちの元まで上がってくるのを、楽しみに待っているわ」
そう言うと、生徒会メンバーは校舎内に戻っていった。
「あの人達が・・・学園最強のSランク・・・」
「あぁ、全員この学園を代表する実力者だ。」
「一筋縄ではいかないわよ」
学園最強と謳われるSランクの実力者たちを目の当たりにし、立ち尽くす琉斗達。そして・・・。
「面白れぇ、すぐにSランクまで上がってやるぜ。そしたら、全員に挑戦だ!」
「ま、そう言うと思ってたぜ」
「頑張ってね。私達、応援してるから」
実力者たちを前にした事で、琉斗はやる気満々な様子を見せた。その様子を見て、誠也も有里酢も笑みを浮かべていた。と、その時・・・。
キーンコーン・・・
「あ、チャイム・・・」
「・・・しまった!昼食べ損ねた!」
「ていうか、遅刻遅刻~!!」
学園のチャイムが鳴り始めた。色々な事が起こり、昼食を食べ損ねた琉斗達は、慌てて校舎内に戻っていくのであった。
「あっ・・・」
その後ろで、残された少女は一人立ち尽くすのであった。
--------------------------------------------------------
そして、時刻は過ぎて放課後となった・・・
「着いたぜ、ここが学生寮だ」
誠也達に学生寮に案内された琉斗。この学園では全寮制であり、全生徒が寮生活を義務付けられているのである。一応、週末や長期休暇中等は帰宅が認められているようだ。
「それじゃ、俺達の部屋は向こうだから、ここで解散だな。」
「また明日ね、琉斗」
「あぁ、またな」
寮内の案内を受けた後、琉斗は誠也、有里栖と別れ、これから自分が使う事になる寮部屋の鍵のナンバーを見て、部屋を探し始める。
「俺の部屋は確か・・・ここだな」
琉斗は鍵のナンバーと部屋のナンバーが一致する部屋の扉の前に立ち、ナンバーを確認後部屋の扉を開けた。すると・・・。
「ふぇっ?」
「なっ!」
中では、一人の少女が着替えを行っていた。少女の上半身は制服をすでに脱いでいたため下着姿であり、スカートを脱いでいた最中であった。お互いに驚きを隠せない2人。そして・・・。
「いやあああああっ!!」
「うわあぁぁ!ご、ごめんっ!部屋を間違えたみた・・・」
少女は赤面で悲鳴を上げ、服で体を隠しながらその場にうずくまった。琉斗も慌てて謝罪しながら扉を閉めた。部屋のナンバーを間違えたと思い、琉斗は鍵と部屋のナンバーを今一度確認する。が・・・
「あれ・・・確かに部屋番号はここだ・・・」
確かに、琉斗が持つ鍵と部屋のナンバーは一致していた。
「あ、あの・・・もう少しで着替え終わりますから」
「あ、あぁ・・・」
少女の弱弱しい声が部屋の中から琉斗の耳に入る。琉斗は大人しく部屋の前で座り込んだ。
「あの・・・もう大丈夫ですよ」
「あぁ・・・」
それから暫くして、着替えが終わったのか少女が入室許可を出した。それを聞いて琉斗は部屋の扉を開けて中に入る。
「君は、昼休みの時絡まれていた・・・」
「その、あの時は・・・助けてくれてありがとうございました」
中にいたのは小柄で金髪ツインテールが特徴的な少女であった。琉斗はこの少女に見覚えがあった。そう、この少女は昼休みの時に伊蔵に絡まれていた張本人なのである。少女は琉斗に助けてくれたことに対し、礼を言う。
「私、Eランクの『雨宮 光希』っていいます。よろしくお願いします」
「俺は梵 琉斗。よろしくな。」
2人は互いに自己紹介をし、握手を交わそうとしたその時・・・。
ぐぅ~~~・・・
突如、琉斗の腹の虫が鳴る。
「そういえば、昼食べ損ねてお腹減りっぱなしだったんだっけ・・・」
そう、昼食を食べ損ねた琉斗はそれ以来何も食べていないのである。
「あ、それじゃ私何か作りますね。助けてくれたお礼も兼ねて。少し待っててください」
「あ、あぁ、よろしく頼むよ」
琉斗の様子を見て、光希は部屋の台所へと向かった。寮内は台所、風呂場、トイレ等の一通りの設備は整っており、生徒それぞれが好きなように自分用の料理を自炊できる環境にあるようだ。
(それにしても・・・こんな大人しそうな子がどうしてこの学園に・・・)
台所で料理をする光希の後姿を見て、琉斗は不思議に感じていた。小柄で華奢な体で、どう見ても戦いに向いていなさそうに見える少女が何故この学園に来ているのかを・・・。[newpage]
「美味いっ!光希って、料理上手いんだな」
「えへへ、私料理得意なんです」
美味しそうに出された料理を頬張る琉斗。料理を褒められた事で、思わず恥ずかしそうに顔を赤らめる光希。
「琉斗さんは、どうしてこの学園に入ったんですか?」
「俺か、そうだな・・・兄のように強い剣士になるため・・・かな」
光希にこの学園に入った理由を聞かれた琉斗は、兄流星のような強い剣士になるために、ここに入ったと答えた。
「そういう光希は、どうしてこの学園に入ったんだ?」
「私、変わりたいって思ったんです。私、弱虫だからいつもいじめられてばかりで・・・それで、ここに来れば弱虫な私を変えることが出来るかもって思ったんです。でも・・・」
琉斗は光希にこの学園に入った理由を聞いた。ここに来る前、光希は周囲からいじめを受けており、何もできない弱虫な自分を変えるためにここに来たのだという。だが、ここでも弱気な性格が災いし成績が振るわず、最低のEランクから全く上がらないため周囲から劣等生の烙印を押されてしまっているのである。
「やっぱり私、変わることなんて出来ないのかな・・・」
変わることなんて出来ないのか、顔を俯かせて落ち込む光希。すると・・・。
「変われるさ」
「え・・・?」
そう琉斗はつぶやいた。それを聞いて光希は顔を上げた。
「変わりたいって思ったんなら、きっと変われる。努力ってのは、人を裏切らないんだぜ」
「琉斗さん・・・」
琉斗は光希を元気づけるかのように言葉を掛けた。琉斗に励まされた事で、光希の表情も明るくなっていく。
「光希、俺と一緒に強くなろうぜ」
「はいっ!」
琉斗は光希に手を差し出した。その手を握ろうと光希が手を差し出した、その時だった・・・。
ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
「っ!?」
「な、なんだっ!?」
突如聞こえてきたサイレンに琉斗や光希だけでなく、他の寮内で過ごす生徒達、中庭で自主練をしていた生徒達誰もが音がする方を一斉に向いた。
『緊急警報、緊急警報!この学園内に魔物が侵入しました!』
「ま、魔物が侵入・・・だとっ!?」
サイレンに続き、緊急アナウンスが流れた。それは、市街地に魔物が侵入したという内容であった。魔物の侵入を聞いて驚きを隠せない琉斗、そしてその傍らで光希は怯えていた。
--------------------------------------------------------
とある洞窟内にて・・・
「さぁ、僕の可愛い魔物達。思う存分大暴れしちゃえ~!」
洞窟内の岩場に座り込み、魔力で生成したモニターで学園内に侵入した魔物の様子を不気味に微笑みながら見つめる、ゴスロリ衣装を身に纏う一人の少女の姿があった。