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トマトカレーを脱却せねばならぬ

 トマトが好きである。

 生トマトやサラダの話をしているのではない。あくまでもカレーの話だ。

 特に夏カレーにはトマトの酸っぱさは欠かせない。カレーにツンとした酸味が加わることで、爽やかさと辛さの相乗効果でエジプト越えのふざけた暑さも乗り切れようというものである。

 ゆえに、私の作るカレーには当然のようにトマトが大量に入っている。時によっては、そうやって作ったカレーの上に、更に熱したミニトマトをトッピングすることもある。これがまた、たまらぬ。

 そもそもの話だが、もちろんカレー粉と水と塩だけでは思うような味は出せない。こういったシンプルカレーもまた悪いものではないのだろうが、しかし、やはりここは独自の味を研究したいところである。トマトとは、そうした味の追求に欠かせない素材なのだ。

 つまり、今回はスープの話ということだ。

 私のカレーに入れるスープは、次のような構成で作ることが多い。というか、考えるのが面倒なときはほとんど機械的にこのレシピで作っている。


 ・カットトマト缶詰(400cc):1缶

 ・鶏がらスープ(冷凍1cm角):4ブロック

 ・赤ワイン:50cc

 ・コーヒー:200cc

 ・ギー(インド発酵バター):大さじ2

 ・マンゴチャツネ:小さじ1

 ・にんにく(大1/2、みじん切り)

 ・すりおろし生姜(小さじ1)


 見ての通り、カットトマト缶詰の占めている割合が圧倒的に多い。

 次にコーヒー、赤ワインとくるわけだが、基本的にはトマトスープなのである。

 ちなみに、トマト缶詰は常に同じメーカーの同じブランドを買うことを薦める。メーカーによって酸っぱさや味がガラリと変わってしまうのがその理由だ。

 ともかく、肉→野菜と炒めた後にはこのスープを投入、そしてカレー粉を入れるのだが、これで作るカレーは常にツンとしたトマトの酸っぱさをベースにしており、私個人としてはこの味をいたく気に入っている。

 気に入っているのなら何も問題ないじゃないか、というのも道理ではあるが、そういうわけにもいかぬ。

 まだ私の知らないカレーがあるはずなのだ。

 たとえば、ココイチのカレーも基本的には塩系カレーで、酸味系ではない。

 ほっともっとや松屋のカレーは酸味もあるがそれ以上に甘みが強く、あれもあれで好きなカレーのひとつだ。

 そもそもの目的であるジョティーのほうれん草カレーなどは、トマトの気配などまったく感じさせない。

 そう、ほうれん草カレーを完成させるのだ。そのためには、トマトカレーを脱却せねばならぬ。


 実験1。トマトの量を半分、200ccにする。

 うむ。悪くない。しかし、トマトカレーである。


 実験2。トマトの量を1/4、100ccにする。

 うむ。悪くない。しかし、トマトカレーである。


 ここに至り、ついに開眼した。悟りの境地に達したのだ。

 つまり、トマトを入れるからトマトカレーになるのだ。

 何を言ってるのかわからねーと思われるかも知れぬが、しかし私にとっては衝撃的な発見である。

 大切なことだから、もう一度言おう。

 トマトを入れるからトマトカレーになるのだ。これは真理である。

 あるいは「ニャギ茶はカレーを食べ過ぎて頭がおかしくなったのではないか」と疑われるやも知れぬ。だが、残念ながらまったくもって正気である。

 私にとって「カレーにトマトを入れる」というのは、あまりにも当たり前すぎる行為になっていて、そもそも「トマトを入れない」という選択肢が頭にまったくこれっぽっちも浮かばなかったのだ。

 もしかしたら、無意識化においてトマトという概念を「カレー粉の一部」と認識していたのかも知れぬ。


 しかし、果たしてトマトを使わずしてカレーが完成するのか?

 トマトなしでカレーを作るというのには、いささかの勇気が必要である。

 しかし、考えてみたら以前に作ったカシミールカレーのヤクニもどきにもトマトは入れなかったではないか。にも関わらず、思いのほか普通のカレーになってしまっていた。

 そういうわけで、ほうれん草カレーを作る際にトマトを完全に抜いてみるという暴挙に出たのである。いや、暴挙でも何でもないかも知れないが、私にとって、これはそれほどのチャレンジなのだ。


 以前にほうれん草カレーを作った際には、ほうれん草を5束ミキサーでペーストにして、これにトマトを200cc程度加えるというスープ構成だった。

 カーチャンに言わせれば「ほうれん草は煮込むと超縮むから、もっとドバっと入れなさい」とのことである。

 よって、今回は2把。2束ではなく2把、束で言うと16~7本である。

 これを水で馴染ませつつミキサーでペーストにすると、約500ccになった。いつものトマト400ccの代わりとしては適量といえよう。

 あと、ジョティーのほうれん草カレーには、隠し味にイカスミが入っていると勝手に確信しているため、最近手に入って冷凍で1cm角ブロックにしておいたスペイン産のイカスミを2ブロックほど入れる。

 それ以外は概ねいつもと同じ構成で行くことにする。


 まあ、例によって細かいレシピや作り方などはブログに書いちまってるので割愛、興味があったら「ニャギ茶房 印度への道」でググっていただきたい次第である。

 さて、これによって出来たほうれん草カレー、色と香りはすでにジョティーに限りなく迫っていると言える。

 味の方はどうかというと、丸い。超丸い。

 いつものツンとした酸味はなく、いやトマトを入れてないのだから当たり前っちゃ当たり前かもしれぬが、とてつもなくまろやかで、どっちかというとお子様にオススメできちゃうんじゃないかと思えるくらいにふんわりと味が丸い。

 なるほど。トマトを抜くとふんわりカレーになるのか。これは大きな進歩である。

 しかし、いくらなんでもふんわりすぎる。味に引き締めが欲しい。今度はトマトを30ccだけ入れてみるというのはどうだろうか。

 トマトをスープのメインにするのではなく、隠し味として使うというわけだ。

 よし、次のほうれん草カレーの方針が見えてきた。


 だが、今のままでは足りぬ。

 何が足りぬって、トマト抜きカレーの味には納得したものの、しかし、今の状態では、トマトの代わりにほうれん草を入れただけなのだ。

 このままでは、トマトカレーかほうれん草カレーの二択しか選べないではないか。

 ほうれん草に代わる、しかし同じくらいに味をふんわりとさせ、かつクセのない食材を探さねばならぬのだ。

 いや、多少のクセがあっても良い。うまければ正義なのだ。

 しかし困った。見当もつかぬ。

 こんな次第で、最近の近所のスーパーでは、野菜売り場で目をギラギラさせながらうろつき回るニャギ茶の姿が目撃されるのであった。


 ジョティーまではあと一歩まで近づいた実感がある。

 だが、その一歩が遠いのだ。


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