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ワインとコーヒーに関する考察

 下戸というレベルではない。

 酒というものの味がわからぬ。


 昔からそうであったが、交通事故で肝臓が真っ二つになるという洒落にならない人生最大のピンチから生還して以来、本格的に酒を受け付けなくなった。

 ビールを飲んでも最初の一口だけ「喉がシュワシュワひんやりで気持ちいい」と感じるのみ、あとはひたすら苦さと気持ち悪さしか存在しない。

 わからぬ。酒の味がわからぬのだ。

 ラオウだったら涙を流しながら訴えているところだろう。

 ゆえに、私にとって酒とはすなわち食材に他ならぬ。

 さて、カレーに使うワインはなにか? 赤ワインが順当であろう。

 それも、赤ワインの中でも出来るだけ渋く、味が濃く、酸っぱい、そして安価なものが良い。個人的には、もうこの時点で「このワインを酒として飲む奴はどうかしている」と思うレベルなのだが、しかしカレーにはよく合うから不思議である。

 さて、ここまで条件を列挙した以上、ワインに造詣の深い人ならば、「カベルネ・ソービニョン」の名が挙がることは容易に想像できよう。

 主にチリやオセアニアで作られている、いわゆるニューワールドワインに属するものだが、今のところこれがすべての条件を満たす最も手頃なものだと思っている。

 ちなみに西友はウォルマートの系列店になってからはワインがステータス表示されるようになっていて、選ぶ際に非常に助かる。安いし。


 こんな理由で、私のワインセラー……もとい冷蔵庫の最下段にはカベルネ・ソービニョンが常に一本は鎮座しているわけだが、これは思ったよりも重宝する。

 カレーに限らず「肉の生臭さを消したい」と思ったときには迷わずこれである。ボウルの中に肉ドバー、ワインドバー、パウダーにしたタイム&オレガノ&パセリ&ローレルをドバー。それを多少揉み込んでラップかけて2時間ばかり放置するだけで良い。

 2時間経ったら、使用済み赤ワインは捨てる。もったいないが、心を鬼にして捨てるのだ。

 一度だけ、この「勿体なさ」に耐え切れず、牛肉を漬け込んだ赤ワインごと圧力鍋にかけ、そのままカレーにぶち込んだことがある。

 普段はカレーの基本材料の一つとして50cc(6人前基準)を入れるようにしているが、この時は軽く200ccは越えていたように思う。

 こうなったらもう隠し味もへったくれもない。全然隠せていないというか、カレーであるかどうかさえ怪しいものが出来上がった。

 一口ごとにムワムワと赤ワインの風味が口に広がり、これはもうカレーというよりも「牛肉の赤ワイン煮込みぶっかけご飯」である。

 いや、決して不味いというわけではない。「これは牛肉の赤ワイン煮だ」と思って食べれば、なんだか高級感さえ感じられるというものだ。気のせいだとは思うが。

 しかし、不思議なこともあるものである。赤ワイン臭さに閉口しながら食べていたところ、いつの間にかまったく赤ワインのクドさを感じなくなっていたのである。

 いや、不思議でもなんでもない。単に口の中がアルコールで麻痺しただけだった。カレーの味がわからないほどには麻痺はしなかったから良かったようなものの、食べてる途中で味が変わる、なんとも不思議なカレーを体験することとなった。

 ともあれ、美味いのか不味いのか、なんとも釈然としない気分で食したものである。

 いや、私にとって「美味い/不味い」の基準は「狙った味になったか」で決定されているため、そういう意味で、この赤ワインカレーは失敗と言うべきであろう。


 こういう次第で、牛肉の生臭さを飛ばしたあとのワインは、心を鬼にして捨てる以外にないのだ。

 許せ、赤ワインよ。


――――


 さて、次はカレー調味料としてのコーヒーについて語ろう。

 苦味というものは不思議なものである。

 カレーの隠し味といえばなにか? かなりの割合で「コーヒー」と答える人がいるのではないだろうか。

 なぜ、コーヒーが隠し味として有効なのか?

 私が考えるに、それこそが苦味の効果なのだ。

 試行錯誤の中で悟ったことだが、プリミティブ素材にこだわってスパイスカレーを作ると、どうしても「後味があっさり」「飲み込んだら、すぐに味が消える」という現象に悩まされるのである。

 これを解決するためにこそ、私はコーヒーを投入している。

 なにしろ焙煎機を自作するくらいだ。コーヒーなら売るほどある。シナモンローストからフレンチローストまでなんでもござれだ。

 人間が感じる味覚の中で、最も後を引く味の一つが「苦味」である……というのは、どこぞのサイトの受け売りだが、まあ、きっと、そう言う人がいるのだからそうなのだろう。

 コーヒーを混入させることによって、カレーの味がコーヒーの苦味に乗って、舌の奥にいつまでも残る……。これがコーヒーを混ぜることによって味わいが深くなる原理なのではないかと勝手に想像しているわけだが、実際のところがどうなのかは知らぬ。美味ければ正義なのである。

 苦味についての不思議はそれだけではない。

 普通、甘みや酸味などは、塩を効かせることで何倍にも増幅するものだが、コーヒーの苦味に関してはまったく増幅されずに、後を引く味わいとして残るのみである。不思議というかなんというか、都合の良い素材があったものだ。


 こういう次第で、私がカレーに入れる目的で焙煎するコーヒーは常に苦味優先の深煎りとなっている。

 豆に関しては、とりあえず目の前にあるのでブラジルの農園指定モノを使っているが、実際にはどんな豆が合うだろうか。

 ケニアやタンザニアなどのいわゆるキリマンジャロ系みたいな酸味が売り物の豆はあまり向いていないように思われるが……。いや、それはそれで味に広がりが出るかも知れぬ。

 苦味を優先するならば、今やモカの原産国となったエチオピアあたりが現実的か。(モカ・マタリの元祖であるイエメンは、砂漠化と紛争激化のためコーヒーどころではないそうだ)

 ちなみに、これまでは飲む目的でしかコーヒー豆を買ったことがなく、かつ苦すぎるのも好きではないため、独特の苦味に定評があるマンデリンは試したことがない。

 カレーに入れる選択肢としては良いのかも知れぬ。今度まとめて注文するときに少しばかり考えてみるとしよう。


 ……まあ、ぶっちゃけた話、カレーに混ざってしまったら、コーヒーの種類がどれほど味に影響するかは怪しいものだ。少なくとも、私には食べ比べても違いがまったく判別できない自信がある。

 だが、これでいいのだ。すべては「それっぽさ」のためである。

 例えば、そう、「カレーの苦味にまでこだわってマンデリンを焙煎する」……こう書いただけで、実にそれっぽい響きを醸し出し、カレー通の気分を味わえるではないか。


 だが、マンデリンの前に、まだ大量に余っているブラジルとタンザニアの生豆をどうにかせねばならない。

 これから暑くなるので、アイスコーヒー用の豆を大量に焼くのもいい。

 ブラジル(農園指定)を深煎りで8割、酸味用にタンザニアを中煎りで2割。これで淹れるアイスコーヒーは至高と言わざるを得まい。

 焙煎の季節である。


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