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ジョティーへの日々

 申し訳ないが、あまり面白可笑しいことは書けない。ごく普通のカレーエッセイである(いや、元々そのつもりなのだが)。

 というのも、「金曜日の夜にカレーを作って日曜日の夜と月曜日の朝に食べる」というサイクルをイギリス海軍の如く繰り返してきた結果、自分で言うのもアレだが、順調に腕が上がってしまっているのである。

 とりあえず、この三ヶ月ほどの成長期間に起きたことをダラダラと書いてみるとしよう。


 アメタマを覚えた。

 アメタマを使うとどうなるのか。玉葱を狂ったように炒め続けると、超甘くなる。それをぶち込むと、一口目を口に入れた瞬間の「あ、美味い」が「ウホッ、美味い」に変化する。(ゴリラの語彙能力ではこれくらいが限界である)

 アメタマに目覚めたのはいいが、何十分もフライパンをかき回すのは御免こうむりたい。よって、ネットで見かけた手抜き術を総動員。

 玉葱みじん切りをジップロックに入れて冷凍→使うときに800ワット3分で解凍、汁を絞る(汁はあとで味付けに使う)→塩を振ってから炒め開始。これで10分くらいまで短縮可能となった。素晴らしい。

 ちなみに玉葱のみじん切りは「ゆっくりと、丁寧に」やるほど綺麗に細かく、そして速く出来ることを覚えた。料理漫画の真似をして「タタタタタタ」などと音を立てても、結局は倍以上の時間がかかってしまう上に、綺麗なみじん切りにならぬ。下手をしたら流血沙汰である。


 テンパリングという技術の存在を知った。

 テンパリングとはなにか。スタータースパイスと呼ばれる複数のスパイスであらかじめ油にスパイスの香りを付けておく技術である。確かに香りはぐんと良くなる。鍋の蓋を開けた時のふんわりとした香りが「お、いい香り」が「ウホッ、いい香り」に変化する。(ゴリラの語彙能力にあまり期待しないで欲しい)

 テンパリングをやたらに重要視する人もいるようだ。なんでもテンパリングに使うスパイスだけで、カレー全体の方向性が決まるとかナントカ。

 多少は傾向もあるのだろうが、ゴリラ的にはそこまで気にせんでも充分美味いと感じる。でもまあ、「美味い」の基準は人それぞれ。テンパリングを極めたら新たな地平が見えてくるのかも知れぬ。


 赤ワインの使い方を覚えた。

 主に牛肉の臭い消しとカレーの酸味用である。

 使うようになってみれば、使うのが当たり前すぎて驚きも何もない。


 コーヒーを入れることを覚えた。

 色々と理屈はあるのだが、苦味を混ぜることで、すべての味が後を引くようになる。人体の不思議という奴だ。

 コーヒーをカレーに混ぜるのはわりと定番らしく、しばしば「コクが出る」と言われるが、この「コク」という言葉が漠然としていてよくわからん。まあ、とにかく美味しくなればなんでもいい。

 赤ワインとコーヒーについては、ここで語りだすと止まらないので、そのうち取り上げてみよう。


 マンゴチャツネを入れることを覚えた。

 主に甘み&酸味用である。

 これがプリミティブ材料と呼べるかどうか、ものすごく悩んだ。

 だが逆にこれを外すと「じゃあ、バターも加工品だからアウトだよね?」と言わざるを得なくなる。というか、これは普通にインドの山奥にもある食材ではないのか? インドの山奥事情はよくわからぬが、とにかくカレーの基本食材として外すに外せない。負けた。入れる。


 インド醗酵バターの「ギー」を入れることを覚えた。

 油系の食材は強い。これ自体もバター的な意味で味、香りともに優れた食材なのだが、更に油食材には「他の食材の味を統合させる」という強力な効果がある。これが噂に聞くカップリング効果という奴か。

 ラードの代わりにならないかと何度か試したが、ちょっと無理。ラードにはラードの旨さがあると悟るに至った。

 あと、最初にテンパリングする食用油(私はオリーブオイルを使用)の代わりにならないかとこれも試したが、やっぱり無理。鉄鍋だとどうしても焦げ付いてしまう。食用油の代用としては難しいようだ。

 ちなみにギーは大津屋という店が作っているものが比較的安価だが、食用油50パーセントなのがちょっと気になる。だが、直輸入の100パーセントギーは値段が三倍するのであった。負けた。


 寝かせは一日では足りないことに気づいた。

 というか、三日目のほうがはるかに美味い。二日目に食うのはもったいない。

 だが、二日寝かせると、ジャガイモが跡形もなくなる。メイクイーンでもまったく同じ結果になった。こればかりはどうしようもない。仕方なく、ジャガイモは完全にとろみ付け専用と割り切ることにした。

 ジャガイモのホクホク感の代用品として、ガルバンゾ(ひよこ豆)を採用。とても使いやすい。西友で水煮缶詰が100グラム100円程度で売ってるのも良い。エリンギと並んでお気に入り食材となった。


 この頃から、普通の鍋では小さくて使いにくいことが気になり始めた。

 リバーライトの「極Roots」という鉄フライパンが使いやすいので、同じシリーズの28センチの炒め鍋を探すが、こんな時に限ってどこぞの雑誌かなにかでリバーライトが紹介されたのか、ネット通販サイトが軒並み売り切れている。

 仕方なく似たようなものを買ったら中国製だった。数回くらいの使用で穴が開いてゴミと化す。死ね。ゴリラの怒りを受けよ。


 一ヶ月ほどのち、改めてリバーライトを探したら入荷してたので、今度こそ極Rootsを購入した。

 うむ、実に使いやすい。鉄鍋にはロマンがある。


 父親が「寝かせると確かに美味しくなるが、なんというかこう、口の中にスカーッとくるスパイス感が薄くならぬか」などと言い始めた。

 なんということだ。確かにその通りである。カレーは熟成させ、素材同士を馴染ませるほどに美味しくはなるのだが、その代わりにスパイスのとんがった風味も馴染んでしまうのだ。人間関係ならそれくらいでいいのだろうが、これはカレーである。

 確実に味はジョティーに近づいているものの、これでは「ただのカレー」だ。舌から脳天まで突き抜けるような心地よい刺激が激減してしまっている。

 いや、こんなときには初心に帰れというではないか。私にとっての初心とは……そう、「アナンのカレーブック」である。あれだ。「仕上げスパイス」だ。

 あの仕上げスパイスには「購入者をなんとなくその気にさせる」というインチキ効果だけではなく、「スパイス感を高める」という効果があったのだ。

 あれと同じことをしよう。40グラムのカレー粉を二回に分けて投入するのだ。

 メインスパイスを入れてから二日間熟成させ、食べる直前に仕上げスパイスを投入。これで勝てる。

 だが、どれくらいの配分にするべきか?

 これもまた一週間ごとに「メイン10:仕上げ30」→「メイン20:仕上げ20」などと試していったわけだが、結局のところ、「メイン30:仕上げ10」くらいが一番良いという結論に落ち着いた。

 これで父親も納得である。


 ……とまあ、こんな感じでちょっとずつ勉強しては進化を繰り返し、


 ・カレー粉(40グラム)

 ・塩(16グラム+微調整)


 以前はこれだけだったのが、今では、


 ・カレー粉(メイン30グラム、仕上げ10グラム)

 ・塩(16グラム+微調整)

 ・スタータースパイス(ローレル、クローブ、コリアンダー、オールスパイス)

 ・アメタマ(1個分)

 ・赤ワイン(50cc)

 ・コーヒー(200cc)

 ・ギー(大さじ1)

 ・マンゴチャツネ(小さじ1)


 このあたりがデフォルトになって安定している様子である。

 ちなみに分量は3人前x2食分=6人前、作るカレーに合わせて多少は増えたり減ったりするが、概ねこんなところである。

 肝心の味についてだが……あまり多くは言うまい。ここで「超美味い」というのは簡単だが、それではただの自画自賛だ。

 ここは「少なくとも不味くはない。だが、まだまだ足りぬ」、このくらいの表現に留めておくのが求道者として望ましい姿勢であろう。


 四回目にして、ようやく「美味しいカレーの作り方」っぽい話になってきた気がする。良かった良かった。


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