花柄の便箋
拝啓 東城幸来様
私は今、とても緊張しています。
死ぬ気なんて、さらさらありませんし、勝つ気でいます。
だけど、落ち着かないんです。何かしていないと、不安で不安で仕方ないんです。だから、手紙を書きます。
私が、真相に至った経緯を。
木埜讃良。
彼女の事を私が疑い始めたのはずっと前、讃良がC隊に入隊して来た頃まで遡ります。疑った、というのは語弊がありますね。
確信でした。
会った瞬間、この子はいつか、何か大きな過ちを犯すであろうという漠然とした不安が、私の中に芽生えたのです。
根拠なんかありません。
けれど、彼女が戦う姿、仲間と話す様子を見るうちに、それはどんどんと濃く、密度を高めていきました。
そして、思ったのです。
近い将来、讃良が間違いを犯した時、止められるのは私しかいないのではないかと。
そんな時、東城がC隊に入りました。貴方と話す時の讃良は、何故かいつもより少し、落ち着いて見えました。もしかしたら、東城は讃良を留める抑止力になるかもしれない。そんな事を考えた時期もありました。
貴方が入隊してから半年が経ち、連続殺人が起こりました。
讃良がやったのか、そうではないのか、この時はまだ、判断が付けられませんでした。
だから私は、彼女を境会に残しました。もし彼女が犯人なら、人数が減った境会で、発覚する危険性を顧みず、殺しは行わないだろうと、そう考えたからです。
そして多分心の何処かで、彼女が犯人でない事を、望んでいたのです。私の杞憂であればいいと、そう思いました。
けれど、私は甘かったのです。
ツァラトゥストラの森から帰り目が覚めると、そこには讃良がいました。 彼女はにっこりと笑って、言いました。
「お話しに来ました、隊長」
と。
私は悟りました。
自分の考えが正しかった事を。
彼女が狂っている事を。
その時の私は、肉体的にも精神的にもとても弱く、つい、こう言ってしまったのです。
今はやめて欲しい。
せめて、この思いを彼に伝えてからにして欲しい。
みっともない、と思いました。この時私は、自分が本当に弱い存在で、皆が称える様な立派な人間ではないことを、骨の髄まで思い知らされたのです。
彼女は言いました。
「今の貴女と、わたしも戦いたいとは思いません。そうですね……一度だけ。一度だけ彼と幸せな日を過ごしたら、その日の終わりに貴女を殺しに行く、っていうのはどうでしょう?仲間を連れて待ち構えたりしないで下さいね? もしそんな事をしたら……貴女ではなく、東城君を殺します。いいですね?」
私は承諾しました。礼の言葉すら口にしました。
どうです? とっても格好悪いでしょう?
あの日、思いが通じ合って、あんなにも切望していた貴方との一日が今目の前にあります。
でも、今日だけで終わらせたくない。
この先もずっと貴方と過ごす幸せな、幸せな毎日を掴み取るために……負けません。
私の力の全てを賭けて、勝ってみせます。
……だけど、この手紙が貴方の手元に渡ったという事は。
私は、死んだのですね。
優しい貴方の事です。
私が死んだら、自分を責めるでしょう。
ダメですよ?
落ち込んで部屋から出なくなったり、復讐をしようなんて考えたら。
私が死んだぐらいで、貴方の人生を無駄にしないで下さい。
東城、貴方にはまだまだ沢山の出会いが待っていて、その度に抱えきれない程のやるべき事が出てくるのです。
いいですか?
私の事なんて忘れて、強く、前だけを向いて生きて行って下さい。
そして、私の分まで、幸せになって下さい。




