錬金術でいろいろやってみる
僕は10歳になり、錬金術を勉強していて基本的な魔法薬や生活魔法道具、修理や保全の技術を覚えてきたが、ふと気がついたことがある。
「あんまり科学知識を使った発明とかしてなかったよな。」
兄に自重するように言っているぶん、自分がそれを破るのも問題だと思ったし、ある程度錬金術の基礎を身に付けるまで地球の知識を使うのは控えていた。
「でも、やっぱりこの知識を使って何かしらしたいよなぁ。」
シンプルで役に立つ物がいいだろう。
「そうだ。三輪自転車とかどうだろう。」
自分だけ使えるのでは意味がない。人の役に立つ物がいいよな。
錬金術士ギルドに入り受付のおばちゃんであるカーマさんに挨拶する。
「こんにちはカーマさん。今父はいますか?」
「あらこんにちはディル君。副長はいま自室にいるわよ。」
「ありがとうございます。失礼します。」
「はいどうも。あんまりお仕事の邪魔しちゃ駄目よ。」
‐副ギルド長室‐
コンコンと軽くノックをして中から「どうぞ」とへんじが返ってきたのでドアを開けた。
「失礼します。父さん。」
「あぁ。ディルか。何のようだ?」
「はい。僕はまだ10歳で正式なギルド会員ではありません。ですが、どうしても作りたい道具があって父さんに力を貸して欲しいのです。」
「作りたい道具?どんなものだ?ある程度の錬金術ができるお前ならちょっとした物なら作れるだろう?」
「はい。ぼくが考えているのはからくりで人の負担を減らした人力車です。一応始めは一人乗りを考えていて、ゆくゆくは荷台も引けるように考えています。」
「人力車か。確かにお前だけで作るには大きな物だな。設計図はあるのか?」
「はい。持ってきています。」
そして取り出したのは前日に書いておいた三輪自転車の設計図だ。正し、チェーンに関しては量産が難しいだろうと思い、革のベルトにギアに噛むような形のびょうを規則的に打ち込んだ物を考えている。ワイヤーブレーキも一品ものなら再現できるだろうが、シンプルにハンドルの下方にてこ状のブレーキパッドを押し合てる形に。タイヤはスポイル式ではなくよくプラスチックホイールにあるようなY字三点の非金属を想定してゴムチューブの代わりに丈夫な生物の腸に詰め物をしてかわで包むことを考えていた。
「おっ。意外としっかりした設計図だな。足でこぐ人力車とは珍しい。三輪なのは方向転換のしやすさからか。 …基本的には悪くないがこのタイヤ回りの強度と回転部分の効率化を考えないとお前の脚力ではこげないんじゃないか?」
僕は一瞬言葉を失った。金銭的な問題ではなく設計図の内容に口を出されるとは思わなかったのだ。
「…分かりました。もう少し考えてみます。」
「いや。発想は悪くないんだ。この設計図を持って馬車職人のガードン、道具鍛冶職人ウォレフ、素材錬金術士フィメリアにそれぞれ意見を聞いてきなさい。魔物素材が必要なら冒険者ギルドに依頼もしなきゃいけないからね。」
こうして僕の(錬金術でいろいろやってみよう計画)は始動したのだった。